1ヶ月半前に開催されたハードウェア技術者向けカンファレンス「Spring '99 Intel Developer Forum(IDF)」で、IntelはIEEE-1394インターフェイスをチップセットに(当面は)統合しない方針を明らかにした。その代わり、PCの外部の周辺機器を結ぶインターフェイスとしてIntelが打ち出して来たのは「USB 2.0」だった。1年前のIDFで、将来PCの内外の機器を接続するインターフェイスになるとIntelが位置づけていたIEEE-1394は、PCとデジタル家電を結ぶ「デジタルコンバージェンスパイプ」へと位置づけが変わった。そのため、先週開催されたMicrosoftのハードウェア開発者向けカンファレンス「Windows Hardware Engineering Conference and Exhibition 99(WinHEC 99)」では、MicrosoftがIEEE-1394とUSB 2.0をどう扱うかが注目されていた。
結論から先に言うと、Microsoftは、引き続きIEEE-1394へのサポートを強化する一方、USB 2.0のサポートも明らかにした。つまり、どちらも支持し、静観する姿勢を示したわけだ。
まず、IEEE-1394に関しては、Windows 98 Second EditionとWindows 2000でSBP(Serial Bus Protocol)-2をサポートすると説明した。これにより、1394ベースのハードディスクやCD/DVD-ROMドライブなど、ストレージ製品のサポートが原理的には可能になる。また、IEEE-1394の800Mbpsもサポートされる。さらに、Windows 2000からは、プリンタやスキャナもサポートされ、IEEE-1394デバイスからのブートも可能になるという。
一方、USB 2.0に関しては、策定を進めているIntelと協力、USB 2.0のホストコントローラやHUBを将来のWindowsでサポートするとした。また、USBデバイスに関しては、Windows 2000とWindows 98 Second Editionからデバイスベイコントローラやフォースフィードバックゲームコントローラなどのデバイスクラスのサポートが加わる。また、Windows 2000では、さらにストレージ、プリンタ、UPSがサポートされるという。
●パテント料は1ポート25セントに落ち着く
というわけで、Microsoftは中立なわけだが、IntelがIEEE-1394をチップセットに統合しない限り、すべてのPCにIEEE-1394が載る可能性は少ない。となると、PCとデジタル家電のシームレスな統合というヴィジョンの達成はなかなか難しい。そこで、WinHEC 99で、1394 Trade Associationは、1394をこれまでになく積極的にアピールした。技術セッションでは1394のロードマップを説明、IEEE-1394への支持と期待が高くサポートが広がっていることを強調、また、Q&Aを中心としたセミナーも開いた。
その中で、1394 TAは問題となっていたIEEE-1394の特許料プールが1ユニットあたり25セントに落ち着いたことを明かした。これは、当初Apple Computerが主張していたと言われる1ポート1ドルよりも低料金で、紛糾していた特許料問題はこれで落ち着いた模様だ。Intelは、このパテントの問題がきっかけで、IEEE-1394の非サポートとUSB 2.0の開発の方向を打ち出してきたと言われている。
ところが、複数の業界関係者によると、じつはこのパテント料の問題はIDFの開催されていた週には解決のメドが立っていた、あるいは内々にはもう解決していたと言う。つまり、IDFでIntelの幹部がIEEE-1394を当面はサポートしないと語った時には、金銭面での問題は、すでに決着が見えていたことになる。となると、パテント問題は、むしろきっかけに過ぎず、IntelがIEEE-1394のサポートに消極的になったのには別な理由があるということになる。
実際、Intelの幹部は、チップセットへの統合は、ライセンス料だけでなくコストや必要性を総合的に見て判断していると、IDFで語っている。Intelが主張するように、IEEE-1394を搭載したデジタルビデオカメラが普及し始めた日本と比べ、米国ではIEEE-1394の存在感は確かに薄い。しかも、PCの周辺機器では、IEEE-1394化は、順調に進んでいるとは言い難いのが現状だ。また、IntelがIEEE-1394のサポートに冷たくなったのは、一昨年に、DVD-ROMドライブをIEEE-1394につなげることが、知的所有権保護のために簡単にはできないとわかった時からだという声もある。
お詫びと訂正
WinHEC 99で発表されたIEEE-1394のパテントプールについて「1ポートあたり25セント」とレポートしたのは間違いで、これは「最終製品1ユニットにつき25セント」で、ポート数には関係がありません。お詫びして訂正いたします。
●吹っ飛んでしまったデバイスベイ
では、このままPCはIEEE-1394が標準とならず、デジタル家電はIEEE-1394化が進み、両社は交わることがないまま進んでしまうのだろうか。これはまだわからない。そもそも、USB 2.0は練りに練って出してきたという雰囲気ではなく、交渉のためのカードである可能性もあるからだ。もっとも、IntelはUSBを開発している時にUSBより高速なインターフェイスも平行して開発していた。だから、1年半もあればUSB 2.0を開発して実装することは可能だろう。だが、現在の段階では、まだ方向転換する可能性も残されている。
また、デジタル家電では、IEEE-1394を標準にしようという流れがまだまだ強い。とくにデジタルTVやデジタルCATVでは標準的な装備になる方向へ向かっている。こうした機器と、IEEE-1394ベースのホームネットワークで結ぶといったニーズが出てくれば、それはIntelに対して圧力になる。このあたりは、どう展開するのか、まだ予断を許さない状況は続いている。
ところで、IEEE-1394のこの騒ぎのなかでふっとんでしまったものがひとつある。それはデバイスベイ(Device Bay)だ。WinHEC 97で登場したデバイスベイは、周辺機器をモジュールに収め、差し込むだけで手軽にパソコンに装着できるようにする構想で、'97年には、Microsoftはこれが将来の拡張手段になると強力にアピールした。ところが、USBとIEEE-1394で接続するデバイスベイは、IEEE-1394がPCの標準にならないまま2年が過ぎ、そのあいだにPCへの低価格化の圧力はどんどん高まった。その結果、(高速デバイスでは)IEEE-1394を使い、しかもコスト高を招くデバイスベイはどんどん隅へ押しやられ、もはやMicrosoftも積極的に推進するという雰囲気ではない。
●デジタルTVだけはデバイスベイで
もっとも、今回のWinHEC 99で、Microsoftはあるセッションでだけ、デバイスベイを大きくフィーチャした。それは、デジタルTVのセッションだ。ここで、Microsoftは、デジタルTVに対する新しいアプローチとして「PCアーキテクチャTVアプライアンス」の構想を明らかにした。これはどういうものかというと、デバイスベイを10基ほど備えたシロモノで、そのベイに、デジタル地上波チューナーやデジタルCATVレシーバーなどのモジュールを次々に加えることで、さまざまな新しいTV放送に対応できるようになるという。
Microsoftは、WinHEC 97で、「PCでデジタルTVをサポートする」「とても高価な(デジタル)TVが登場するのを待たなくても、何千万台ものパソコンですぐに(デジタルTVを)見られる」とぶちあげた。しかし、デジタルTVをきっかけとしたPCのリビングルームへの進出は、これまでのところ成功していない。
そこでMicrosoftは、今回、もうすこしアプローチを変えた。Microsoftは、地上波デジタルTV、デジタルCATV、DVD、デジタルレコーダといった、これからのデジタルAV機器をすべて揃えていったら、機能はダブるし配線は面倒だしコストもかかると主張する。しかし、PCアーキテクチャTVアプライアンスで、デバイスベイに必要なレシーバーモジュールやドライブを格納、デコードなどはCPUで処理してしまえば、ずっとすっきりとするという。
米国では、TVまわりにやたらと金をかける層は確実にいて、巨大なTVシアターがちゃんと売れている。実際、現在、始まったばかりのデジタル地上波放送対応のHDTVを買っているのは、そうした層だとも言われている。Microsoftの今回のアプローチは、明らかにその層を狙った戦術で、高くても便利なら売れるという展開を考えているようだ。この戦術は確かに“アリ”なのだが、すべてのPCをデジタルTVレディに、と言っていた2年前と較べると、大きな後退の感がある。もっとも、MicrosoftにはWindows CEという持ち札もあるわけで、デジタルTV/CATV市場でのMicrosoftの展開はまだどうなるかわからない。現在は水面下にもぐってしまっているWindows CEでのデジタルTV/CATVへのアプローチは、もう少し先にならないと見えて来ないようだ。
('99年4月16日)
[Reported by 後藤 弘茂]