元麻布春男の週刊PCホットライン

同時進行連載:リビングルームPCが欲しい・その10
ATI-TV Wonderで、ATIがAMCを捨てたのはなぜか



■ATI-TV Wonderは動画データ転送にAMCを捨て、PCIバスに

ATI-TV Wonder
独自のビデオポートAMCを廃し、PCIバスを用いて動画データを転送する仕様になっている
 前々回、このコーナーでATI TechnologiesのRAGE Furyを取り上げた。その際、同社独自のビデオポートであるAMCを、RAGE Furyのみがサポートし、廉価版であるXPERT 128ではサポートされていないと記した。AMCを利用したオプションは、事実上TVチューナーカードであるATI-TVのみなのだが、XPERT 128で利用できないことは間違いない。これではXPERT 128シリーズでTVチューナー機能が欲しければ、サードパーティ製のものを購入するしかない。

 もちろん、このようなシナリオをATI Technologiesが用意しているハズがない。同社は、こと動画関連に関しては、Microsoftの開発パートナーであり、All-In Wonder ProはWebTV for Windows(日本語版は存在しない)の標準プラットフォームに選ばれたほどである。ATI-TVに代わるTVチューナーオプションとして、ATI Technologiesが用意したのが、今回取り上げるATI-TV Wonderだ。ここで紹介するカードは、WinHECの折に筆者が現地で購入したものである(日本での発売予定は不明)。

 ATI-TV Wonderの最大の特徴は、動画データの転送にAMCではなく、PCIバスを選んだことにある(実際にはさらにAGPバスを経由するわけだが)。独自のAMCを捨て、PCIバスを用いることで、ATI-TV Wonderは他社のグラフィックスカードと組み合わせることが可能になった。マニュアルにも、同社製グラフィックスカードに加え、NVIDIA(RIVA 128およびRIVA TNT)、3Dfx(Voodoo Banshee)、S3(VirgeDX/VX、Savage3D)といった他社製グラフィックスチップを用いたカードとの互換性がうたわれている。

 しかし、AMCを止めたことで、失われたものもある。ATI-TVは、電源をISAコネクタ(スロット)に依存するものの、データ転送はすべてAMCを利用していた。これは、単にTVを見るだけなら動画データをPCIバスに流さずに済む、ということでもあり、純正オプションならではのアドバンテージにもなっていた。ATI-TV Wonderは、他社製カードとの互換性を得た反面、サードパーティ製チューナーカードとの差がほとんど無くなってしまったのも、また事実なのである。



■なぜATIはAMCを止めたか

 では、なぜAMCを止めてしまったのか。現在、グラフィックスチップ分野でトップシェアを誇る同社が、他社製グラフィックスチップとの互換性を重視した、というのはあまり考えられないことだ。ひょっとするとその理由は、Microsoftの方針かもしれない。今回のWinHECでMicrosoftは、VIPやAMCといったフィーチャーコネクタの流れをくむビデオ用のサイドバンドの使用を止めるよう求めた。確かにサイドバンドを用いることで、PCIバスの負荷は下がるが、逆にシステムにとって不都合なことも生じる。

 たとえば、電源だけをISAバスからとるATI-TVの場合、ATI-TVがインストールされたかどうかをシステム(OS)側が知る方法がない。それを知ることができるのは、ユーザーを除けばATIのプロダクツ(グラフィックスカード、あるいはそのドライバ)だけなのである。これは、Plug and Playの観点から望ましいことではない。また、今後IEEE-1394など、ビデオのデジタル出力をサポートしたインターフェイスが普及した場合、ATI-TVのような「閉じた」オプションでは、TV画像をIEEE-1394にリダイレクトする、といったことはATI製のプロダクツに頼らない限り困難だ。OSが提供する標準的な手続き(Windowsの場合はDirectShow)を利用していれば、動画データをサードパーティ製のIEEE-1394インターフェイスにリダイレクトするといった機能についても、OSが面倒を見てくれるハズである。

 ただし、残念ながら単にTVを見るという以上の付加価値は、現在すぐに得られるものではない。あくまでも将来に向けたプラン、あるいは予定であり、現実のATI-TV Wonderという「商品」が、こうした付加価値を持つかどうかは不明だ。だが、Microsoftとの関係からいって、OSの方向性にそぐわないプロダクツは出せない、というのが実情なのではないかと思われる。そういう意味で、4月末から出荷開始される予定のAll-In Wonder 128(RAGE Pro TurboベースのAll-In Wonder Proの後継となるRAGE 128GLベースのグラフィックスカード/TVチューナー一体型製品)が、どのような形でグラフィックスカード機能とTVチューナー機能を統合してくるのか、非常に興味深い。



■ATI-TV Wonderを実際に使ってみて

 最後になったが、ATI-TV Wonderを実際に使ってみての印象について述べよう。まず注意が必要なのは、RAGE 128 GL/VRベースのグラフィックスカードと本製品を組み合わせるには、ATIのWebサイトからベータ版のドライバ(ATI-TV Wonder Beta Driver、ただし実体はRAGE 128用のドライバであり、ATI-TV Wonderのドライバやアプリケーションではない)をダウンロードせねばならない、ということだ。現在出荷されているRAGE 128用のドライバ(Build 6060)や、Release Candidateドライバ(同6076)では、どうやら必要な機能(おそらくオーバーレイサーフェイスに関するものだろう)のサポートが欠けているようだ(ATI-TV Wonder側の問題ではなく、グラフィックスカード側の問題)。

 ATI-TV WonderでTVを表示するためのプログラムは、ATI Video Playerと呼ばれるアプリケーションだ。ATI-TV用のものと、特に変わったところはないようだが、ATI-TV Wonder用は最初のリリースから日本のチャンネル設定が用意されている点は嬉しい(ATI-TVが日本のチャンネルをサポートしたのはかなり後になってからのことだった)。画質の点でもATI-TVと大きくは違わないように思う。ただ、やはりPCIバスを利用するせいか、他のアプリケーションの影響を若干受けやすくなっている気がする(TV表示中に他のアプリケーションを起動するとフレームが落ちるなど)が、これは最初からわかっていたことだ。

 逆に、改善可能な不具合(それほど大きなものではないが)としては、ATI-TV Wonder用のATI Video Playerは、なぜかデスクトップ上の表示位置を覚えてくれないことを挙げておこう。ATI-TV用のアプリケーション(ATI Player)は、終了時にデスクトップ上の表示位置、表示サイズを覚えてくれるのだが、ATI Video Playerが覚えてくれるのは表示サイズのみ。画面の特定位置にアプリケーションを表示させること(スナップ)は可能だが、できればATI Player同様、自由サイズで自由位置に表示し、その設定を覚えて欲しい。

□ATI-TV Wonder製品情報
http://www.atitech.com/ca_us/products/pc/tv_wonder/index.html

[Text by 元麻布春男]


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