【新連載】

第2回:いまどきのPDA選び(後編)



 細かな部分にこだわるのは日本人の悪癖なのかもしれない。先週、この春発売のPDAを個人的に購入したと述べたが、実は1台ではなくて2台をゲットしてしまった。あぁ、これって齋藤さん状態かも……などと自己嫌悪に陥りつつ、そのうちの片割れであるザウルス・アイゲッティを米国にまで持ち込んでみた。

 早速、シアトル在住の友人(日本人)に見せびらかしてみたのだが、どうも反応が悪い。だって、スケジューラはこんなに使いやすくて、その上スクリーンの解像度も細かくて4階調。CFカードスロット“もどき”もついて、WorkPadよりも安いんだよ、なんて言っても意に介さない。

 たったの2年で米国人化(?)してしまった彼は、PCの情報を切り取って持ち歩ければ、それだけでいいんじゃないの? という。外出先でメールをチェックしたり、Webを見なければならないことなんてそれこそPCを使えばいいのさ、という彼にとって、多機能は操作性や運用性を阻害する要素でしかないようだ。



■ コストパフォーマンス抜群だがPCとの連携に問題が残るアイゲッティ

シャープ ZAURUS アイゲッティ
38,000円。従来ユーザーよりも若い層にターゲットし、機能はインターネットをPIMに絞った
 先日発売されたばかりのザウルス・アイゲッティが、なかなか好調な滑り出しをしているようだ。価格の安さと十字カーソルにボタンという親しみやすいインターフェイスを取り入れたアイゲッティは、コストパフォーマンスで言えば、間違いなくWorkPadやPalm-size PCを凌いでいる。

 従来のザウルスシリーズと比較して、辞書機能やインクワープロ、表計算、NIFTY SERVEアクセス機能などが省かれていることを嘆く向きは多いが、アイゲッティは同じザウルスの名前をもつ製品の中でも、ちょっと特殊な位置付けにあると考えたほうがいいと思う。

 高機能なPIMツールであるザウルスに通信機能とインターネット機能を付加したものが現在のザウルスMIシリーズならば、アイゲッティはインターネット中心のPDAとして新しく企画したものと捕らえるべきだ。そのテイストは、ザウルスよりもコミュニケーション・パルの方に近い。

 アイゲッティは、そうしたことを踏まえて割り切って使うことが重要だ。割り切りさえできれば、他の製品よりもはるかに基本機能の使い勝手はいい。スケジューラで空き時間をグラフ表示できないのは難点だが、実に効率よく情報を表示してくれる。また、アドレス帳も会社別分類が可能だ。細かなようだが、これが意外に海外産のPDAが不得手としている機能である。

 ただ、あくまでも専用機的な制限があるのは残念だ。たとえば冒頭で“CFもどき”という言葉を使ったが、ザウルスのカードスロットは本来のコンパクトフラッシュとは少々異なる。まず、ホットスワップができず、カードをレバーでロックしないと利用できない(レバーは裏面にあるためオプションの手帳型ケース利用時には著しく不便)。しかも特定機器に絞った仕様らしく、利用できるカードが限定されている。

 たとえば手元にあるパルディオ611Sは、同じシャープ製であるにもかかわらず、611Sをバージョンアップして64Kbps対応にしただけで使えなくなってしまった。この対策のためには、アイゲッティを一度サービスセンターに持ち込んでファームウェアを書き換えてもらう必要があるようだ。

 また、オプションのクレードルに付属するPCとの連携ソフトも、ザウルスの特殊文字とWindows上の文字の変換を行なってくれないため、一部の文字を正しく表示できない場合がある。連携先のOutlookとはフィールドの使い方も異なるため、そのあたりも意識した運用が必要だろう。たとえばOutlookの予定などに入力してあるメモを、ザウルス側で表示することはできない。

 なお、アイゲッティの特徴には簡単なインターネットプロバイダー入会と、「シャープスペースタウン」との連携もある。スペースタウンはシャープが3月20日より開始したインターネット経由の情報提供サービスで、ポータルサイトのexciteと共同で「インターネット番組表」を提供しているほか、有料で就職情報やチケット情報などを入手できる。シャープはアイゲッティを「若者向け」としているが、わざわざユーザー層を限定するのが正しいのか。私のようなオジさんにとっても、3万円で買えるPDAは魅力的なのだが。



■ とにかく楽しく、手軽にいくならWorkPadでキマリ

日本IBM WorkPad
オープンプライス。機能を絞り、軽快な動作が特長
ノキア NM207
DoCoMoのデジタル800MHz用携帯端末。赤外線ポートを備え、ノートPCやWindows CE機などと接続可能。首都圏などでは販売されていないため、東北新幹線で買いにいくマニアもいるとか
 さて、もうひとつ思わず買ってしまったのが、やはりというかなんというか、日本IBMのWorkPad。このWorkPad、ハッキリ言って値段がハードウェアスペック以上に高い。しかも、価格が高い割には安っぽく、とても5万円近い値段がするものだとは思えない。たかだか4Mバイトのメモリに、今となっては古臭く遅いプロセッサを搭載し、液晶の解像度も低い。ハードウェアスペック上、好ましいのは軽いことと明るい液晶だけだろう。<

 しかし、実際に使用してみるとそうしたスペック上のチープさは、頭の中から吹き飛んでしまうはずだ。手のひらの上で使うことだけを考えて作られたWorkPadは、たとえばアプリケーションの登録されたボタンを複数回押すことで、画面の表示モードが変化するなど、実に心憎い機能を持つ。また非常にシンプルなOSで動作しているため、プロセッサのスペックからは考えられないほど操作レスポンスがいい。

 WorkPad標準のアドレス帳やスケジューラは、個人でちょっと使うには十分な機能を持っているが、仕事で本格的に利用し始めると問題が出てくる。たとえば検索のしやすさや、会社名での分類などだ。スケジューラに関しては、Datebk3日本語版などシェアウェアで非常に優秀な機能置き換えソフトがあるため、それを利用すれば問題はほとんど解決する。

 ただ、道具として使える状態に持ち込むために、いくつものシェアウェアが必要になるのは、なんとも残念なことだ。最初からコツコツとPalmシリーズを使いつづけてきた人ならばそれほど追加出費はないかもしれないが、新規購入後いきなりシェアウェアをひととおり揃え、その料金を支払うと、かなりの金額になってしまう。

 前述のスケジューラだけではない。イマイチ機能的ではないPalm Desktopn以外のソフトとデータの同期を行なおうと思えば、InteliSyncなどの優秀だが有料のソフトウェアが必要になる。メールもパソコンのメールを同期して持ち歩くのではなく、WorkPad単体で通信しようと思うと別途、PHSや携帯電話接続用のアダプタを購入するだけではなく、POPメール受信のためやWebブラウズ用のシェアウェアを導入する必要がある(中にはフリーのものもあるが)。

 このように、思い通りの環境にしていくのは、お金も手間もかかるのがWorkPadだと思うが、それでも買ってしまったのは、WorkPad自身に大きな魅力があるからに他ならない。その魅力は人それぞれに異なると思うが、僕的には昔のパソコンが持っていた、ユーザーによる手作りな環境と(仕事として捉えると本末転倒だが)情報を集めて環境を整えていく過程が楽しめるからだ。

 また、WorkPadには優秀なゲームも数多く、我が家ではほとんど高価なゲームボーイ状態になっている。手軽に使えてソフトやハードでシステムアップすれば、さらに使い道が広がる。そんなところが楽しいのかもしれない。

 ところで、最後にIrCOM対応の携帯電話について話をしておきたい。IrCOMは赤外線でシリアル通信を行なうためのプロトコルなのだが、これに対応したドライバがPalmシリーズ用にシェアウェアでリリースされている。このドライバを使うと、ノキアのIrCOM対応携帯電話「NM207」と組み合わせてワイヤレス通信を行なうことができるようになる。今のところ、2月に東北と北海道で発売されただけで他地域での販売は行なわれていないが、通信販売などによる入手が可能という話もある。通信経路の確保はWorkPad最大の悩みだけに、携帯電話派は検討してみてはいかがだろうか(なおノキアが正式にWorkPadに対応しているわけではない点に注意)。



■ なぜPalm-size PCではなかったのか

コンパック PRESARIO 213
オープンプライス。反射型TFT液晶を搭載したPalm-size PC
 3種類の候補があって、なぜPalm-size PCだけは購入しなかったのか。最大の理由は「遅くて高価」なことだ。正確には、自分のほしいPalm-size PCが遅いという表現のほうが正しいだろう。タスクの状況やメモリ利用状況により、なぜか極端に動きが鈍くなることがある。

 そもそも、Palm-size PCには非常に高速なプロセッサが使われている。たとえばモノクロのカシオE-55でもMIPS R4000アーキテクチャの69MHz、カラーのE-500に至っては131MHzだ。少し前のパソコンクラスの潜在能力を備えていると言っていい。今回試用したコンパックのPRESARIO 213も、E-500よりは遅いがそれでも70MHzのプロセッサを使っている。

 ちなみにアイゲッティはカラーポケットザウルスと同等と聞いているから、おそらく60MHz程度のSH-3だと思われる。なんだ、変わらないじゃないかと思うだろうが、アイゲッティは、ほとんど遅いと感じる場面がない。それに対して、E-55やPRESARIO 213は確実に遅いと感じる場面がいくつかある。ポケットに入れて常に使う道具の場合、この差はとても大きい。

 これがE-500ぐらいになると、パフォーマンス的な不満はほとんどなくなる。しかし、逆に今度はバッテリ消費が気になってくる。実際に計測したわけではないが、E-500のバッテリ持続時間はかなり短いようだ。しかも液晶が透過型のため、屋外でとても見にくい。手のひらサイズ端末という視点で考えると、これだけでイマイチな印象を受けてしまう。

 つまり、僕はPalm-size PCを買うのなら、プロセッサ速度はそこそこで、反射型液晶を採用した機種にしたかったということだ。ところが、反射型液晶パネルを使う製品は一様に操作レスポンスが悪い。プロセッサの速度を上げたところで、消費電力が増えてしまえばバッテリ駆動時間が短くなる。結論として、Palm-size PCは時期尚早と判断したわけだ(もちろん、数カ月後には状況が変わっている可能性もある)。

 ただ、Outlookとの連携を含めPCとの親和性は非常に高い。たとえば、クレードルに入れている間、常に同期を取り続けることも可能だ。同期を行なうボタンを押してから持ち出す必要はない。持ち出すとき、常に同期は完了している。電子メール機能も、3機種中もっとも高機能だ。デスクトップとの同期条件も細かく設定可能で実に使いやすい。

 これでスケジューラやアドレス帳が使いやすければ文句ナシだが、残念なことにいずれも機能面で完璧ではない。たとえば、アドレス帳には50音のタブがないし、週間スケジュールの時間グラフには予定の内容が表示されない。

 これらのことを考慮した上でPalm-size PCが欲しい人は、おそらくPalm-size PCでも困ることはない。欠点から書き始めてしまったが、操作レスポンス以外の点(もしくはE-500の場合はバッテリと液晶)は、決して受け入れがたいというほどのものではない。単に僕の好みではなかっただけだ。

 僕が敢えてPalm-size PCを選ぶとすれば、E-55かPRESARIO 213を選ぶが、一方でなんでもできるPDAを目指すのならばE-500を選ぶべきだという意見もある。今回紹介した3つのPDAの中で、メーカーと機種をユーザーが選択できるのはPalm-size PCだけだ。もう少し参入メーカーが増えれば、自分にフィットする製品を見つけやすくなるだろう。

□ザウルス アイゲッティ製品情報(シャープ)
http://www.sharp.co.jp/sc/eihon/mip1/text/index.html
□PRESARIO 213製品情報(コンパック)
http://www.compaq.co.jp/products/p/index.html
□WorkPad製品情報(日本IBM)
http://www.ibm.co.jp/pc/workpad/index.html
□DoCoMoの端末NM207製品情報(ノキア)
http://www.nokia.co.jp/products/nm207/index.html


[Text by 本田雅一]


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