●Intelがデスクトップロードマップを大幅刷新
今年に入って、Intelは、大幅に製品ロードマップを書き換えた。いや、正確には書き換え続けている。Intelにとってコントロール不能な事態により、当初の戦略の変更を迫られているからだ。その“事態”とは、Intelが次世代DRAMとしてプッシュする「Direct Rambus DRAM(RDRAM)」の不足だ。
昨年末まで、Intelは、OEMメーカーに対して今年の第2四半期の終わりには、CPUのフロントサイドバス(FSB)を現在の100MHzから133MHzに引き上げると伝えていた。具体的な製品としては、0.25ミクロン版のPentium III(Katmai) 533MHz(4倍速)を、第2四半期の終わりに出すはずだった。さらに、533MHzのあとも、第3四半期に 0.18ミクロン版のPentium III(Coppermine) 600MHz(4.5倍速)、第4四半期にPentium III(Coppermine) 667MHz(5倍速)、2000年の第1四半期にPentium III(Coppermine) 733MHz(5.5倍速)と、四半期ごとに133MHz FSB版CPUを繰り出す予定になっていた。その一方で、100MHz FSB版CPUはPentium III 500MHzで終わり、メインストリームデスクトップは、完全に100MHz FSBから133MHz FSBに置き換わる計画だったのだ。
ところが、今年になって刷新されたロードマップでは、これらの133MHz FSB CPUラインと平行して、100MHz FSB版の新CPUが登場した。第3四半期にPentium III(Katmai) 550MHz、第4四半期にPentium III(Coppermine) 650MHz、2000年の第1四半期にPentium III(Coppermine) 700MHzが加わったのだ。つまり、Intelは100MHz→133MHzシフト路線をやめて、来年前半までは、133MHzと100MHzを併存させる計画に変えたのだ。
それだけではない。業界筋からの情報では、さらにIntelは計画を変更、第2四半期の133MHz FSBの立ち上げをあきらめ、Pentium III 533MHzの代わりに第2四半期に550MHzを繰り上げて出すという話も伝わってきている。このニュースは、米国のニュースサイトでも、すでに取り上げているところがある。これが本当だとすると、133MHz FSBはスタート自体も、1四半期後ろへずれ込み、0.18ミクロン版になってから133MHz製品が始まることになる。
Intelは、CPU性能のボトルネックとなっているFSBやメモリ性能を改善したいと、以前から強調していた。それなのに、100MHz FSBを延命することになってしまったのは、Intelが133MHz FSB化を他の技術革新とリンクさせていたからだ。
Intelは、CPUの133MHz FSB移行にともないチップセットも「Intel 820(Camino)」へと代替わりさせる。このIntel 820は、133MHz FSBだけでなく、AGP 4XモードとDirect RDRAM、ATA66をサポートすると言われている。つまり、Intelは、133MHz FSBとAGP 4XとDirect RDRAMをセットで変革しようとしていたのだ。「CPU、チップセット、グラフィックスチップ、メモリのすべてを一度に世代交代させる計画。ひとつでもうまく行かないとだめ。ひじょうにリスキーだ」とあるOEMメーカーは語る。そして、実際に、ひとつの要素がつまずいたために、戦略がゆらぎ始めたのだ。
●Direct RDRAMが必要量の半分しか供給されない
つまづいたのは、冒頭で述べたとおりDirect RDRAMだ。Direct RDRAMは、現在DRAMベンダーからサンプルが出荷されている。しかし、メモリ業界関係者によると、供給量が圧倒的に不足する見通しで、当初のIntelの計画で必要とされる量に対して、'99年中は半分程度しか供給されないという。Intelは、'99年中に、パフォーマンスデスクトップの大半をDirect RDRAMに替えてしまう計画だったが、これではその計画は不可能だ。不足状態になった原因は、「Direct RDRAMの製造が思った以上に難しく、なかなか歩留まりが上がらないため」(メモリ業界関係者)だという。また、コストも問題で、「Direct RDRAMはダイサイズ(半導体本体の面積)がSDRAMより大きく、さらにヒートスプレッダなどの部品コストがかかる。当初は、SDRAMに比べてコストは2倍程度に上がってしまう」とメモリ関係者は言う。高コストからDirect RDRAMは市場への浸透が遅れるのではという懸念が広がり、それがまた、メモリメーカーの足を鈍らせる原因となっているという。
こうした事情から、日本のDRAMメーカーは、現在の64Mビット世代DRAMではなく、次の128Mビット世代DRAMからDirect RDRAMを本格化するように、後ろへ予定をずらしたと言われる。そのため、「第2四半期に間に合う64/72MビットDirect RDRAMは、韓国メーカーだけになる可能性がある。それでもある程度は出るので、一応体裁を整え、日本メーカーが128/144Mビット品で今年の後半に立ち上げたら、なんとか不足を埋めようという展開になりつつあるようだ」(メモリ業界関係者)という。
また、Direct RDRAMはフルスペックなら400MHzで、エッジの両端を使うことで800MHzでデータを転送する。ところが、このDirect RDRAM 800MHz品の歩留まりが特に悪いという。それは、インターフェイスが高速化したため、DRAMのセルのパフォーマンスが追いつかないケースが出てくるからだという。そのため、クロックを400(800)MHzから300(600)MHzに落としたDirect RDRAM 600MHzを、当初はかなり使わざるをえない。おそらく、Direct RDRAM 800MHzが本格的に主流になるのは、128/144Mビット世代の製造が本格化してからになるだろう。
●Direct RDRAMのつまづきで100MHz FSBをしぶしぶ延命
このように、Direct RDRAMの予定がゆらいだことが、Intelの100MHz FSB延命戦略の理由だ。それは、Direct RDRAM 800MHzでないと、133MHz FSBが実現できないためだ。
Intel 820の場合、Direct RDRAM 600MHzを使うと、FSBは100MHzになってしまうと業界では言われている。これは、Intel 820では、FSBとメモリインターフェイスのクロックの比率が固定されているためだと思われる。つまり、FSBのクロックの3倍(両エッジで6倍)でメモリインターフェイスを駆動するようになっているというわけだ。これを表にすると次のようになる。
FSB Direct RDRAMのクロック
100MHz 600(300)MHz
133MHz 800(400)MHz
また、Intel 820は、SDRAMはサポートしていないが、MTHと呼ばれるメモリインターフェイス変換チップを使うことで、PC-100 SDRAMを使えるようになる。これで、Intelは、600MHz品を使っても不足するDirect RDRAM危機を乗り切る構えだ。実際、マザーボードメーカーも、MTHをマザーボード上に載せるなど、対応策を計画している。しかし、この場合も、820のFSBはやはり100MHzになってしまうと言う関係者もいる。
さらに、IntelはIntel 820登場後も、Direct RDRAM不足のためSDRAMのサポートを強化しなければならないため、440BX/ZX(100MHz)の延命も図る。業界関係者によると、Intelは440BX/ZXは、第3四半期にも、依然としてメインストリームデスクトップのかなりの割合を占めるように、計画を変更したという。これは、440BX/ZXを急激にIntel 810へとシフトさせようとしていた当初の計画とはまったく違う。そして、440BX/ZXでも、やはり100MHz FSBとなる。
というわけで、Direct RDRAMが全体的に不足、さらにDirect RDRAMのなかでも高クロックが特に不足するため、Intelは100MHz FSB延命へと戦略を後退せざるをえなくなったという状況のようだ。
●Intel 815ではPC-133をサポートへ
こうした事情から、Intelはチップセット戦略も根本的に見直しを始めた。それを示すのが、「Intel 815」の登場だ。Intelは、'99年後半にはメインストリームデスクトップにIntel 820、バリューPC(ベーシックPCと呼ばれていた低価格カテゴリ)にグラフィックス機能を統合した「Intel 810(Whitney:ホイットニー)」を投入する予定だった。しかし、今年に入って予定を変更、メインストリームのローエンド向けに、グラフィックス機能を統合したIntel 815というチップセットを出すとOEMメーカーにアナウンスし始めた。これは、Intel 810をベースにグラフィックス機能を向上させたチップセットで、Intel 810が当面66MHzベースなのに対して、Intel 815は100MHzベースでPC-100 SDRAMをサポートするという。さらに、来年には133MHz FSBのサポートも行なうという。
Intel 815の意味するのは、100MHz FSB延命でこの位置のチップセットが必要になったということと、さらにSDRAMベースで133MHz FSBという、もしもの時のための手も打ち始めたことだと思われる。また、メモリメーカーは、Intelがこの815で、結局PC-133のサポートを行なわなくてはならなくなると見ている。
ただし、Direct RDRAMの将来が、これで根本からゆらぐという見方は少ない。まず、メモリの世代が交代して集積度が高まっていくと、Direct RDRAMと他のDRAMアーキテクチャとのダイサイズの差など、コストアップの要因は縮まっていく可能性が高い。また、PCの搭載メモリが大きくなればなるほど、帯域のアップが必要なのは確かだ。Direct RDRAMは高速インターフェイスでの互換性の確保に非常に注意を払っているが、これもパソコン用DRAMとして必要とされるポイントだ。それに、なんと言ってもIntelが、まだDirect RDRAMを強力にバックアップしている。例えば、Intelは、韓Samsungに、Direct RDRAMの製造・組立・テストの設備投資のために、1億ドルの出資をすると発表した。おそらく、Direct RDRAM移行は、当初の予定よりかなり遅れるだろうが、来年には本格化してくるのではないだろうか。
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('99年2月15日)
[Reported by 後藤 弘茂]