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AGP 4xをターゲットに新グラフィックスチップが続々



●インテルの新チップセットがきっかけに

 AGP 4xモードをサポートするIntelの次世代チップセット登場を前に、グラフィックスベンダー各社が新チップを相次いで発表し始めた。次世代チップセットは「Camino(カミーノ)」というコード名で知られていた製品で、「Intel 820」という名称で6月頃に登場すると言われている。Intel自身も、AGP 4xモードをサポートする新グラフィックスチップ「Portola(ポルトラ、正式名はIntel 752になると言われている)」を投入する見込みで、今年もグラフィックスチップは新製品ラッシュとなりそうだ。そこで、各社のグラフィックス製品戦略を、簡単にまとめてみた。


●S3はSavage4の次に統合チップと高性能チップを計画

 S3は、先週米国で次世代チップ「Savage4」を発表、AGP 4xレースに名乗りを上げた。S3は、Intelと10年間のクロスライセンス契約を結び、AGP 4Xのバリデーションパートナーとなり,AGP 4Xの情報に早期にアクセスできるようになった。そのIntelとの親密な関係をSavage4でアピールした格好だ。Savage4は、これまで「Savage2+」という名でウワサされていた製品で、Savage3Dの後継になる。

 S3は、3Dグラフィックスレースでやや遅れを取り、とくに昨年はシェアを失った。そこでS3は、ボードベンダーに受けが悪かった昨年のSavage3Dと、レジスタ互換を保ったままエンジンを大幅改良したSavage2を開発。そのSavage2をベースにしたAGP 4xチップとしてSavage4を開発してきた。

 また、同社の社長兼CEOに昨年10月に就任したKen Potashner氏は、さらに「今年の前半(1H)の終わり頃には、ハイエンドのメインストリームPC向け製品としてGX4という製品を発表する。これは、0.18ミクロンで製造する」という。GX4は、ジオメトリエンジンも取り込んだ製品で、これでジオメトリ/セットアップ/レンダリングと3Dグラフィックスパイプラインの全てが、一応、ハードウェアに取り込まれることになる。また、最初のGX4は、0.22ミクロンと0.18ミクロンが混在したプロセスで製造されるが、'99年後半には銅配線技術を使った完全な0.18ミクロンのプロセスに移行して、価格を落とすという。

 また、同社はIntelとの契約により、Intelのチップセット技術にアクセスできるようになった。そこで、Savage4をベースにチップセットとグラフィックスチップを統合した製品を、今年後半に製品化していくという。最初の製品は、現在「SavageNB」と呼ばれるもので、ノースブリッジチップとSavage4を統合したものになる。このSavageNBは、Potashner氏によると、現在のところ0.25ミクロンで計画しているという。また、SavageNBのあとも、サウスブリッジの統合も含めて、さらに統合化を模索していくという。

 ノースブリッジとの統合では、メモリボトルネックとなる可能性が高い。そもそも現状のチップセットは、メモリインターフェイスが64ビット幅で、SDRAMを100MHzで駆動している。それに対して今のグラフィックスチップは128ビット幅で、66~150MHzで駆動している。これを統合してメモリ共有をする場合、メモリインターフェイスを通常のチップセットと同じ64ビット幅100MHzにすると、帯域が足りなくなり、メモリが性能のボトルネックになってしまう。

 そのため、S3の統合チップでは、「パフォーマンスが向上するオプションも用意する。コストを重視するならそこそこの性能で使えるが、パフォーマンスを重視するなら、コストを少しかけることで性能を上げることができるようにする」という。これは、メモリ帯域を広げることができるオプションだと見られるが、内容はまだわからない。


●NVIDIAはTNT2/Vantaでクロックアップ

 昨年、TNTで旋風を巻き起こした米NVIDIAは、AGP 4x戦線には、TNTのコアを改良した「TNT2」を出す。製造プロセスをTNTの0.35ミクロンから0.25ミクロンへとシュリンク、TNTでは90MHz止まりだったクロックを125MHz(メモリインターフェイスは150MHz)に向上させる。性能的にはTNTより約35%アップする見込みで、デジタルパネルインターフェイスも取り込む。また、NVIDIAではオンマザーボード用に「Vanta(バンタ)」という新ファミリも出す。TNT2とエンジンは同一だが、メモリインターフェイスが半分の64ビット、クロックは100MHz/125MHzとなる。一方、TNTは製造プロセスを0.35ミクロンから0.3ミクロンに移行、発熱を抑えてマザーボードに載せやすくする。

 また、NVIDIAは、新エンジンを搭載した次世代グラフィックスチップ「NV10」を、今年後半の投入を目指して開発していると見られる。パフォーマンスレンジはTNT2の倍以上で、'99年の秋頃に登場の見込みだ。NVIDIAは、MicrosoftとともにDirectX 7の定義を行なっており、DirectX 7でサポートする新機能が取り込まれてくる可能性がある。


●ATIは2チーム態勢で開発サイクルを加速

 「RAGE 128」をリテールにも出し始めた加ATI Technologiesは、RAGE 128ファミリでAGP 4x対応をする予定だ。RAGE 128は、すでに内容が詳しく報じられているので、ここでは詳細は省く。

 同社は、さらにAGP 4xとデジタルフラットパネルサポートのRAGE 128 Proと、次々世代の「RAGE 5」までを年内に発表する見込みだ。ちなみに、ATIは昨年グラフィックスベンダーのTseng Labsを買収しており、RAGE 5は、このTseng Labsのチームが担当している。Tseng Labsチームは、エンジニアが離散せずにそのまま残っていたため、開発能力が高いという。今後、同社は2チーム態勢による開発サイクルの速さが武器になっていくかもしれない。


●3Dfxはスピードキングを狙う

 米3Dfx Interactiveは、「VooDoo3」でAGP対応バージョンを出す。ただし、ボードメーカーによると、スケジュール的にはライバルと比べてやや遅れる可能性があるという。また、3Dfxは、昨年12月にグラフィックスボードメーカーの米STB Systemsを買収した。そのため、基本的には、VooDoo3からあとの世代のチップを搭載したボードは、STBだけから提供されるようになる見込みだ。もっとも、このあたりは流動性の高いグラフィックス業界のこと、どう流れるかわからないが、今のところ、少なくとも大手ボードベンダーからの発売はなくなりそうだ。

 STBはリテールよりOEM提供に強いメーカーで、この買収により3DfxはさらにOEM重視の姿勢を強めると見られている。VooDoo3は、クロックが非常に高く(VooDoo3 3000が内部/外部とも183MHzを予定)、フレームレートではスピードキングをねらえそうだ。しかし、現状では最大メモリは16MBで、32ビットカラーレンダリングもサポートしていないなど、欠けている機能がある。3Dfxによると、性能を重視するため重要でない機能は省いたというが、この選択がOEMメーカーにどう受け止められるか、まだわからない。


●製品数が一気に増えるIntelのグラフィックスチップ

 IntelのPortola以外のチップの内容はわかっていない。AGP 4xバージョンと2xバージョンがあると言われているので、Intel 820発表以前に登場する可能性がある。Intelは、このほかハイエンド向けに「Calderon」と呼ばれるさらに高い層を狙ったハイパフォーマンスチップやPortola後継チップ「Escondido」を開発していると言われている。いずれも詳細はわからないが、この製品数の多さからすると、Intelがグラフィックスに本気になっていることだけは確かだ。

 また、IntelはバリューPC(旧ベーシックPC)と呼ぶローエンド市場向けには、Portolaコアとノースブリッジチップを統合したチップセット「Intel 810(コード名Whitney)」を投入する。さらに、グラフィックスコアを高速化した「Intel 815」と呼ばれる製品もメインストリームPC向けに出してくる。こうした統合チップでは、Intelも性能のボトルネックとなるメモリ帯域に対して何らかの手を打ってくる可能性は高い。また、Intelは810/815の先に、さらに統合化を進めたチップを構想しているというウワサもある。


●ファウンダリの代理戦争となっているグラフィックスチップ戦争

 '99年前半に登場してくる各社の新グラフィックスチップは、いずれも0.25ミクロンで製造される。そして、今年後半からはいよいよ0.18ミクロンのチップが出てくる予定になっている。プロセスを縮小すれば、より高クロック化が可能になり、発熱を低く抑えることでマザーボードにも載せやすくなる。また、長期的に見れば製造コストを引き下げることもできる。しかし、新しいプロセスの立ち上げ時は、歩留まりが悪いので、チップベンダーはリスクを抱え込むことにもなる。

 ここでちょっと面白いのは、このプロセス縮小競争が、台湾の最大手のファウンダリ(半導体製造メーカー)2社の“代理戦争”になっていることだ。0.25ミクロンでは、3Dfx、ATI、NVIDIAの3社が台湾のファウンダリTaiwan Semiconductor Manufacturing Company (TSMC)に製造を委託している。それに対して、S3は台湾のファウンダリUnited Microelectronics(UMC)の技術を使っている。S3は、UMC、そしてファブレスメーカー米Alliance SemiconductorとともにジョイントベンチャーUSCを設立して、USCの生産能力の一部を所有、そこで新チップを製造しているのだ。

 さて、このTSMCとUMCは、台湾を代表する大ファウンダリで、最近では最先端のプロセス技術の導入にも熱心だという。S3が今年中盤に0.18ミクロンのGX4を出すと言っているのは、当然、UMCのスケジュールで可能になったからだ。S3によると、UMCの方がTSMCより最新プロセスの導入が少し早いのでアドバンテージがあるという。その例として、同社は、昨年後半、他社がまだ0.35ミクロンに止まって時点で、0.25ミクロンのSavage3Dを量産できていたことを挙げる。0.18ミクロンと銅配線に関しても、UMCの方が早いという。

 ハイパフォーマンスが要求されるグラフィックスチップは、今では最先端プロセスで作られるようになった。グラフィックスチップは、ファウンダリにとっても自社の能力を見せる格好の舞台となっているのかも知れない。ちなみに、Intelも現状では最先端プロセスはCPU製造に回しているので、グラフィックスチップは1世代古いプロセスで製造しており、条件はさほど変わらない。ただし、Intelは、すでに減価償却が終わっただろうラインで製造するため、アグレッシブな価格攻勢をかけられることが利点だ。


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('99年2月10日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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