元麻布春男の週刊PCホットライン

同時進行連載:リビングルームPCが欲しい・その3
人柱用? XPERT 128バルク版をチェック



■リビングルームPC用ビデオカード

 リビングルームPCを組むゾ、と心に決めた時、いくつかのパーツについては「これで決まり」と思っていたものがある。そのうちの1つが、ビデオカードだ。TV出力の品質と調整の容易さ、動画の再生やオーバーレイの機能などから、ATI TechnologiesのXPERT@Play 98にしようと決めていたのである。もちろんこの決断には、筆者がリビングルームPCにゲームマシンとしての機能を求めなかったことが影響しているのは間違いない。XPERT@Play 98が採用するRAGE PRO TURBOは、お世辞にも3Dグラフィックス性能に優れたチップではないからだ。

 おそらくそれはATI Technologies自身も分かっていたハズで、昨年の8月末、128bitメモリインターフェイスを備えた新しいビデオチップであるRAGE 128 GLを発表した(同時発表のRAGE 128 VRは、メモリインターフェイスを64bitに制限することで、マザーボードへの搭載を狙ったもの)。発表時の予定では、RAGE 128 GLを搭載したビデオカードは、11月にもリリースされることになっていた。が、その後12月にスライドし、さらに1月になっても発売されない、という事態になってしまった。筆者は、この発売遅延の裏には、AppleによるRAGE 128の採用があると睨んでいる。1月初旬のMac World Expoに間に合わせるため、エンジニアを優先的に割り当てるのは大いにありがちなシナリオだろう。



■人柱用? XPERT 128バルク版をチェック

ATI XPERT 128
秋葉原で2月5日に購入した、バルク扱い品。正規輸入版ではなく、ドライバの完成度が低い「人柱用」
 いったいPC向けのカード製品はどうなったのだろうか、と思っていたら、2月に入ってようやく登場してきた。突然、秋葉原でバルク扱いのXPERT 128が売られ始めたのである。しかも、ドライバの完成度が低く、「人柱用」という恐ろしげな「いわく」つきだという。このバルク扱いのXPERT 128が編集部から筆者の元に届けられたので、今回はこれについて取り上げることにした。

 RAGE 128 GLを採用したビデオカードは、発表当初3種類が予定されていた。32MBのフレームバッファ(SDRAM)を持ちビデオ出力を備えるRAGE Fury(間に合えばリビングルームPC用ビデオカードの最右翼だったのだが)、RAGE Furyからビデオ出力機能を除いたRAGE Magnum(ただしOEM専用)、そして現在バルク品が発売されているXPERT 128だ。XPERT 128は、ビデオ出力を持たない上、フレームバッファ容量も16MBに抑えられた廉価版である。これに加えて最近、TVチューナーやビデオ入力機能を統合したAll-In Wonderシリーズにも、RAGE 128 GLの搭載モデル(All-In Wonder 128)が設定された。先行して発売される16MB版は、現在のXPERT@Play 98やAll-In Wonder Pro(RAGE PRO TURBOベース)と同じビデオエンコーダ(自社製のImpacTV2)を使うのに対し、遅れて登場する32MB版は同社が新たに開発したRAGE Theaterが使われることになっている(ひょっとすると、RAGE Furyのビデオエンコーダも、同じタイミングでRAGE Theaterへの切り替えが行なわれるのかもしれない)。RAGE Theaterは、ビデオエンコーダ機能に加え、ビデオデコーダ機能(ビデオキャプチャ機能)も備える。

 現在販売されているXPERT 128だが、写真を見れば分かる通り、カードの形状は基本的にはNLXフォームファクタ。ビデオエンコーダチップ用の空きパターン、さらにはビデオ出力コネクタのドーターカード取り付け用コネクタの空きパターンがあるせいで、若干大きめである。ちょっと驚いたのは、カード上部のAMCコネクタのうち、12ピン分(通常のVESAフィーチャーコネクタあるいはVESA Video Interface Portに対するATI独自の拡張部)が空きパターンとなっており、コネクタが実装されていないことだ。以前、別の機会に試用したRAGE Furyのサンプルカードでは、すべてのピンが実装されており、AMC対応オプションであるATI-TVとの互換性もうたわれていたことを思うと、果たしてこの措置がバルク品だけのものなのか、リテールパッケージでも同様な省略が行なわれるのか(ある意味での差別化が行われるのか)、判断に悩むところである。

 もう1つ意外だったのは、搭載されているSDRAMに最大動作周波数125MHzのもの(チップの型番末尾に-8がつくもの)が使われていることだ。昨年の発表時点では、RAGE 128 GLのメモリクロックは125MHzであった。通常、125MHz動作には、マージンをみて1つ上の143MHz品(末尾-7)が使われることを考えると、このRAGE 128 GLのメモリクロックは125MHzではない可能性が高い。グラフィックスコアの動作クロックも、発表時のスペックである100MHzではないかもしれない。こうした措置が、今回のバルク品のみに該当するものなのか、スペック自体が改訂されてしまったのか(RIVA TNTのように)、正確なところは判断できかねる(一説では、製品版はメモリインターフェイス115MHz、コアクロック105MHzであるという)。ちなみに、32MB版が64Mbit SDRAMチップ4個を搭載するのに対し、この16MB版は16Mbit SDRAMチップ8個を用いており、メモリ容量が少ないにもかかわらず、逆に部品点数が多い。



■実際動かしてみた結果

 さて、今回のバルク品は、ドライバの完成度がまだ低いというふれこみなのだが、本当にそうなのか、実際に動かして確認することにした。少なくとも添付のドライバCDのバージョンは600で、製品版といわれてもおかしくない番号だし、日本語対応ドライバまで含まれている(図1)。ひょっとしたら、何の問題もないのではと期待したのだが、残念ながらそうは行かなかった。真っ先に気づいたのは図2のような表示の乱れだ。これだけなら、大きな実害はないのだが、どうやらそれだけではないようだ。たとえばRAGE PRO TURBOのMotion Compensationに対応したSoftware Cinemaster 98も、今回のXPERT 128では動作しない(Software Cinemaster 98はATIが提供するATI DVD Playerのベースになったものなのだが。このATI DVD Playerも、今回は添付されていなかった)。その一方で、CyberlinkのPowerDVD(ATIのMotion Compensation非サポート)は動作するといった具合で、どうも安定しない。他にも動画関連の問題はまだ残っているようだ。

 
図1:日本語化されたディスプレイドライバ   図2:現行ドライバで頻発する表示の乱れ。スクロールバーを動かすことで、簡単に解消するのだが……

 それでは性能はどうだろう。テストとして、下表のようなシステムで、Future Markの3DMark 99を実行してみた。比較のためにDiamond MultimediaのViper V550の結果も示しておく(Viper V550に用いたドライバはnVIDIAのリファレンスドライバVersion 048)。なお、XPERT 128には、画面のフリップをVSYNCH信号に同期させるかどうかを設定するユーティリティが添付されているが、ここでは無効(ティアリングを防止するため、画面のフリップとVSYNCH信号が同期した状態)に設定している。

3DMark 99結果Viper V550XPERT 128
3DMarks(16bit色)1,4941,364
3DMarks(32bit色) 1,0871,071
FillRate77.7 MT/秒76.2 MT/秒
同 MultiTexture142.1 MT/秒98.2 MT/秒
テストに用いたシステム
CPUPentium II 450MHz
マザーボードIntel SE440BX
メモリ128MB
ネットワークIntel EtherExpress 100+
サウンドヤマハ WaveForce 192XG
HDDMaxtor DiamondMax Pulsar 3.3
CD/DVD-ROMCreative PC-DVD 5x
FDDLKR-F934 (ATAPI SuperDisk)
解像度1,024×768ドット
リフレッシュ75Hz

 その結果だが、同じ16MBのフレームバッファを搭載したViper V550に対し若干及ばない、ということになった。とはいえ、スコアを見れば分かる通り、トータルでの両者の差はわずかで、RAGE 128 GLの性能は現状のドライバ、現状の動作クロックでもほぼRIVA TNT並み、といえる。あとは、今後ドライバの完成度を高めること、あるいはメモリインターフェイスやグラフィックスコアの動作クロックを引き上げることで、どれくらい上乗せができるか、というところである。また、どちらかというと32bitカラーモードの方が得意なようだ。

 両者で最も顕著な差が出たのはマルチテクスチャ(1つのポリゴンに2つのテクスチャをマップする)のサポートで、Viper V550がマルチテクスチャ時にほぼ2倍の性能を叩き出す(つまり、2本のレンダリングパイプラインがほとんど完全に独立している)のに対し、XPERT 128の性能向上の割合が小さい。どうやらRAGE 128 GLは、マルチテクスチャをサポートしているものの、3Dパイプラインの独立性はあまり高くないようだ。だが、RIVA TNTの完全に独立した3Dパイプラインというアーキテクチャで、nVIDIAが3Dfxに特許侵害で訴えられたということを考えれば、RAGE 128 GLは明らかにその心配のないアーキテクチャといえるのかもしれない。

 ATIの強みと思われる動画関連の性能は、上述したように、ドライバの完成度がイマイチであまりテストすることができなかった。ただ、32bit色モードにおいても、動画のオーバーレイサーフェイスが設定可能(RIVA TNTは不可能)なことなど、その片鱗はうかがえる。過去の実績、TVチューナー搭載モデルもなることなどから考えて、動画関連の機能や性能が劣ることは考えられない。あとは、現在の不調がディスプレイドライバの問題で、チップの問題ではないことを祈るのみだ。

 XPERT 128というよりRAGE 128 GLは、RAGE PRO TURBOの弱点であった3Dグラフィックス性能を引き上げた、正当な後継チップである。ただ、引き上げられた「量」は、他社の追随を許さないレベルとはいかないようだ(可能性として、今後リリースされるドライバでRIVA TNTを抜くことはあり得るが、大差をつけるほどではないものと思われる)。現行のドライバは、使っていて致命的な問題はないようだが、業務に使うには不安がある(だからこそ、バルク版のみの販売で、リテールパッケージの販売がないのであろう)。もう少し待った方がよい、というのが正直なところだが、そのうちIntelやS3を始めとする他社からも新しいビデオチップが登場してくるのは間違いない。購入に際しては、ドライバの完成度を確認すると同時に、他社製品との比較を忘れずに行なうべきだろう。

□ATI Technologiesのホームページ(英文)
http://www.atitech.com/ca_us/ca_us_index.html
□ATI EXPERT 128製品情報(英文)
http://www.atitech.com/ca_us/products/pc/xpert128/index.html

[Text by 元麻布春男]


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