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Intel、新モバイルCPUの正体



●DixonとDixon-128Kの違い

 333MHzから600MHzへ。
 これは、今年のノートPCの動作クロックの推移だ。今年後半には600MHzへと、つまり、180%というこれまでにないクロックの上昇が、この1年で果たされる見込みだ。デスクトップとモバイルのギャップは、今年後半に大幅に縮小されることになるだろう。

 そして、今週、Intelはその第1歩となる新モバイルPentium IIプロセッサとモバイルCeleronプロセッサを発表した。モバイルPentium IIは256KBの2次キャッシュを、モバイルCeleronは128KBの2次キャッシュをそれぞれオンダイ(Die:半導体本体)に統合、つまりCPUとワンチップ化している。外付けのSRAMチップが不要になったため、パッケージでもコンパクトなBGA版が登場している。

 Intelの新製品の発表概要については、PC Watchのニュースでも取り上げているので、概要はここでは触れない。ただ、ちょっと訂正しておくと、以前このコラムで、今回のモバイルPentium IIのコード名を「Dixon(ディクソン)」、モバイルCeleronのコード名を「モバイル版Mendocino(メンドシノ)」と書いたが、これは間違いだった。Dixonは正しいのだが、モバイルCeleronは「Dixon-128K」あるいはたんに「Dixon」というコード名で呼ばれていたという。その理由は両製品の内容を見てみればよくわかる。モバイルCeleronは、デスクトップ版のCeleron(Mendocino)と同様に128KBの2次キャッシュSRAMを統合しているが、設計はMendocinoとは全く異なっており、Dixonと同一だからだ。

 今回の新モバイルPentium IIとモバイルCeleronのダイ(半導体本体)サイズはどちらも222平方mm(10.36×17.36mm)。2次キャッシュサイズが異なるのになぜサイズが同じかというと、それはモバイルCeleronにも256KBが入っているからだ。256KBのうち、半分の128KBを使えなくしたのがCeleronで、だから、Dixon-128Kだったというわけだ。2次キャッシュの半分を殺したのは、技術的な理由ではなく、両製品ラインの差別化のためだ。Intelとしては、128KBを統合したCPUをDixonとは別に設計して量産するより、Dixonコアを量産して、その中から低クロック品を選別して2次キャッシュを殺した方が経済的だと判断したということだろう。

 ここで注目すべきなのは、IntelがノートPC用に新しいコアを設計したということだ。これまでIntelは、デスクトップ用とノートPC用でも、CPUのダイは変えないのが通例だった。例えば、これまでのモバイルPentium IIはPentium IIと同じDeschutesコアだった。つまり、モバイル用として特殊なCPUを作っていたのではなく、同じウエーハからデスクトップ版とモバイル版を選別することが多かったのだ。それを今回変えてきたのは、Intelがモバイル市場に本気になっている証拠だ。実際、このDixonコアは、比較的短命で終わる可能性が高いが、Intelはあえて新設計する道を選んだ。


●Pentium IIとCeleronがオーバーラップ

 今回の発表で面白かったのは、まず価格だ。Intelの各新MPUのBGA版の、米国での1,000個時ロットの単価は以下の通りだ。

□モバイルPentium II
366MHz   696ドル
333MHz   465ドル
300PE MHz 321ドル
266PE MHz 187ドル

□モバイルCeleron
300MHz   187ドル
266MHz   106ドル

 これを、1月13日にAMDが発表した「Mobile AMD-K6-2プロセッサ」と比較してみよう。

□Mobile AMD-K6-2
333MHz   299ドル
300MHz   187ドル
266MHz   106ドル

 そう、300MHzと266MHzに関しては価格はぴったり同じだ。一見、Intelが価格を合わせたように見えるが、Intelの価格は、じつは昨年11月頃からOEMメーカーには知れ渡っていたので、そうとも言えない。K6-2はオフィシャルの価格で同一である上に、2次キャッシュも外付けになるので、少なくとも価格面では競争力は低い。当然、この時点でAMDは価格を引き下げてくるだろうが、それにしても昨年中盤のデスクトップ市場のように有利にことを進めるのは難しそうだ。

 次に、Intelの今回の価格を、以前、デスクトップ版の価格を分析した際の価格表に合わせて見よう。

           Pentium II   Celeron
【8】(800ドル前後)
【7】(600ドル前後) 366MHz
【6】(450ドル前後) 333MHz
【5】(350ドル前後) 300PE MHz
【4】(250ドル前後)
【3】(180ドル前後) 266PE MHz  300MHz
【2】(130ドル前後)
【1】(100ドル前後)          266MHz

 IntelのCPU価格は、比較的きれいな階層になることが多いと以前説明したが、今回 もある程度そうなっている。ノートPCの場合は、製品ラインナップも薄いこともあり、この法則には当てはまらないことが多いが、今回は300PE MHzから上はクロックが1グレード上がると価格もおよそ1グレードづつ上がっている。また、デスクトップでは200ドルをボーダーにして上がPentium IIで下がCeleronとなっていたが、モバイルでもCeleronは200ドル以下になっている。これは、これまでMMX Pentiumが占めていた価格帯で、CeleronがMMX Pentiumの代わりにローエンドノートPCに入ってくることを意味している。

 また、デスクトップではPentium IIとCeleronが同一クロックなら、Pentium IIの方が価格が1グレード上だったが、モバイルでも2グレード差ながらも、この法則は守られている。ただし、デスクトップではPentium IIとCeleronでは、フロントサイドバスとメモリインターフェイスが100MHzか66MHzかという違いがあったがこちらにはない。理論上、その分Pentium IIとCeleronの性能差は小さくなる。

 また、デスクトップでは、Pentium IIとCeleronはオーバーラップしなかったが、モバイルではみごとにオーバーラップしてしまっている。ただし、モバイルCeleronはBGAとモバイルモジュールの2パッケージだが、モバイルPentium IIはミニカートリッジでも提供するため、当面は棲み分けることができる。しかし、PCメーカーに不評だったミニカートリッジは、BGA版が登場したことで、事実上死に体になったと見ていいだろう。インテルとしても、ミニカートリッジはもう推奨しないと言っている。


●幻のモバイルCeleron 233MHz

 さて、上の表で気がつくのは、穴が開いていることだ。これはどういうことだろう。実は、これは当初のラインナップから1つCPUが抜けてしまったから穴が生じているのだ。昨年秋のIntelのプランには、今回発表されなかったモバイルCeleron 233MHzというCPUがあった。その時点での価格予定はおよそ次のようなものだ。

           Pentium II   Celeron
【8】(800ドル前後)
【7】(600ドル前後) 366MHz
【6】(450ドル前後) 333MHz
【5】(350ドル前後) 300PE MHz
【4】(250ドル前後) 266PE MHz 300MHz
【3】(180ドル前後)         266MHz
【2】(130ドル前後)
【1】(100ドル前後)         233MHz

 ここから233MHzが抜け、その分Celeronは下へ価格がずり落ち、Pentium II 266PEMHzも引きずられて価格が落ちたということだろう。IntelがCeleronを266MHzからとしたのは、互換MPUが266MHz以上をターゲットとしていることと無関係ではないだろう。


●Celeronの高クロック化と低電圧化を進めるIntel

 では、この先はどうなるのか。じつは、Intelはさらにアグレッシブに進める。Celeronでは、第2四半期に333MHzを、第3四半期には366MHzを投入すると言われている。昨年11月頃に流れた情報では、今年の第2四半期のラインナップは下のようになることになっている。

           Pentium II   Celeron
【8】(800ドル前後)
【7】(600ドル前後)
【6】(450ドル前後) 366MHz
【5】(350ドル前後) 333MHz
【4】(250ドル前後) 低電圧版266MHz
【3】(180ドル前後) 300PE MHz  333MHz
【2】(130ドル前後)          低電圧版266MHz
【1】(100ドル前後)          300MHz

 つまり、Intelは、デスクトップと同様にモバイルCeleronをアグレッシブに高クロック化、それに応じてモバイルPentium IIのローエンドも1グレードづつスライドさせてくると。ただし、デスクトップとは異なり、低消費電力=低電圧の付加価値をつけたバージョンも用意すると。この低消費電力版の内容はわからないが、現行のPentium II 266PEが1.6Vで7.0Wだから、計算上は1.5Vに下げれば6.1W程度にできる(電圧は消費電力に対して二乗で効いてくるから)はずだ。これが出れば、MMXPentiumが最後に残るミニノートをP6ファミリに置き換えることもできるだろう。ちなみに、Intelはノースブリッジとサウスブリッジをワンチップに統合したチップセット「Banister(バニスタ)」を、モバイルCeleron用に計画している。Banisterもミニノートにはうってつけだろう。

 ただし、Intelは今年1月に入って、デスクトップCPUとモバイルCPUのロードマップを大幅に塗り替えているようなので、ここに示した通りになるかどうかはわからない。というより、大幅に違ってくる可能性の方が高い。それは、0.18ミクロンの設計ルールでの製造を前倒しして、第2四半期中に0.18ミクロン版のモバイルCPUを出すことにしたからだ。

 0.18ミクロンと600MHz版の次世代モバイルCPU、それに対モバイル版Sharptoothの話は、来週のこのコラムで突っ込んでみたい。


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('99年1月29日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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