用いたドライブは、前回使った東芝「SD-M1202」(フェーズ1)とCreative「PC-DVD 5x」(フェーズ2)の2台である。DVDプレーヤーには、地域コード設定の変更が可能な「Software Cinemaster 98」を用いた。
表1は、ドライブ側に地域コードを持たないフェーズ1ドライブでDVD-Videoを再生した場合の、プレーヤーの地域コード設定と、タイトルの地域コードの関係をまとめたものだ。見ればわかる通り、プレーヤーの地域コードに合致しないタイトルの再生はできない。また、プレーヤーがどの地域コード設定であっても、地域コードALLのタイトル(地域コードによるプロテクションのないタイトル)の再生は可能だ。
Starship Troopers (地域コード1) | Jumanji (地域コード2) | スイスの鉄道 (地域コードALL) |
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DVD-ROMドライブ | DVDプレーヤー | |||
地域コードなし | 地域コード1 | 再生可 | 再生不可 | 再生可 |
地域コードなし | 地域コード2 | 再生不可 | 再生可 | 再生可 |
これにドライブの地域コードが入るとどう変るかをまとめたのが表2である。ドライブに地域コードを設定しない限り(工場出荷状態のままでは)、地域コードにより保護されたタイトルの再生は一切できないことがわかる。また、ドライブに地域コードを設定すると、ドライブ、デコーダー(DVDプレーヤー)、タイトルが合致しない限り、再生できない。注目して欲しいのは地域コードALLの項で、ドライブの地域コード2、DVDプレーヤーの地域コード1という食い違った状態を含め、すべての条件下で再生が可能であった。どうやら地域コードは、保護されたタイトルの再生時以外は、参照されないようだ。
Starship Troopers (地域コード1) | Jumanji (地域コード2) | スイスの鉄道 (地域コードALL) |
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地域コード設定なし | 地域コード1 | 再生不可 | 再生不可 | 再生可 |
地域コード設定なし | 地域コード2 | 再生不可 | 再生不可 | 再生可 |
地域コード2 | 地域コード1 | 再生不可 | 再生不可 | 再生可 |
地域コード2 | 地域コード2 | 再生不可 | 再生可 | 再生可 |
DVD-ROMドライブに地域コードを持たせる意味は、おそらく地域コード設定のユニバーサル化を防ぐ、ということにある。たとえばフェーズ1ドライブにソフトウェアDVDプレーヤーを組合せた場合、DVDプレーヤーが地域コードの変更をサポートしていれば、たとえ変更回数に上限が設けられていたとしても、容易にユニバーサルプレーヤーができてしまう。今回用いたSoftware Cinemaster 98は、地域コードの変更は5回までしかできないが、そのカウンタはハードディスク上にある。FDISKして、Windows 9xごと再インストールしてしまえばカウンタはゼロに戻る。そんな面倒なことをしなくても、ブートマネージャーなどを用いて、地域コードの異なる複数のWindows 9xをインストールしてしまえば、簡単にPCがユニバーサルプレーヤーになる。フェーズ2ドライブは、このような事態を防ぐ措置と考えられる。
と、こう書くと、ユニバーサル化が容易なフェーズ1ドライブの流通在庫がある今のうちに、1台入手した方が良いように思うかもしれない。完全にそれを否定するつもりはないが、フェーズ2であろうと任意の地域コードの設定が可能(固定的だが)であり、地域コードの異なる複数台のドライブをインストールが可能であることまで考えれば、あわてて買うほどのことはないことがわかるだろう。また逆に、DVD-ROMドライブは今後も性能や機能の拡張が進むはずだ。たとえば、現在出まわっている第3世代ドライブは4~6倍速だが、CD-ROMドライブのことを考えれば明らかなように、まだまだ転送速度は改善されるだろう。
機能という点でも、Creative PC-DVD 5x/松下SR-8583は、DVD-RAMの読み取りが可能な初のドライブである(メディアをケースから取り出し可能なType IIの片面2.6GBメディアのみ)。DVD-RAMが書き換え可能なDVDの本命になるかどうかは別にして、この機能を持つフェーズ1ドライブは、筆者の知る限り存在しない(書き換え可能なDVDには、他にもDVD-RWやDVD+RWがあり、DVD+RWを推すソニーが、フェーズ2であろうと何であろうと、自社のドライブでDVD-RAMをサポートするとは当面考えられないが)。DVD-RAMとの互換性が必要なら、フェーズ2ドライブを買うしかない。また、おそらく2~3年後には、IEEE-1394に対応したDVD-ROMドライブも登場するだろうが、それがフェーズ1であるハズがない。つまり、いずれはフェーズ2に移行しなければならないのは間違いないことである。
そもそもDVDというメディアの本質は、コピープロテクション可能な大容量メディアということに尽きる。技術的には1層で4.7GBが記録可能な大容量ということがDVD最大の特徴かもしれないが、論理的にはコピープロテクション可能なメディアであることこそ本質である。Video CDというフォーマットが登場してきたとき、一瞬だけハリウッド製のコンテンツ(映画)が登場したものの、アッという間に撤退してしまったのは、CDというメディアにコピープロテクションのスキームがないため、ちょうどタイミング良く(?)登場してきたCD-Rドライブにより簡単に複製が作られてしまうことがわかったからだ。
もちろん、ユーザー/消費者としては、コピープロテクションされたメディアより、そうでないメディアの方が自由度が高く望ましい(少なくとも、まだ私的複製は認められているハズだ)。だが、コンテンツを保護したい提供者と、使用に制限を受けたくない消費者が対立し、タイトルが提供されない、というのは不毛なことだ。筆者は、コピープロテクションを受け入れる代償として、複製の心配がない以上DVDを安価に提供して欲しいと考える。実際、米国ではそのような状況になりつつあり、DVDの映画の平均実売価格(筆者の個人的な感覚だが)は、20ドル程度に過ぎない。
ところが、国内ではDVD、LD、VHSが同じ価格であったり、米国で20ドルで売られているタイトルが、国内版になったとたん1万円になったり、ということがすでに生じている。こうした高価格政策、あるいは内外価格差は、プレーヤーなどの並行輸入を生み、せっかくのDVDのコピープロテクションスキームに、ある意味で穴を開ける結果しか生まない。かつてPCも、内外価格差が大きく、個人輸入も含めた並行輸入が非常にポピュラーだった。それが、現在ほとんどなくなったのは、ソフトウェア、ハードウェアともに、内外価格差が縮小したからである。興行権の保護のためには地域コードによるプロテクションは必要かもしれないが、それを逆手にとった高価格政策は、必ずしっぺ返しを受けるだろう。
[Text by 元麻布春男]