元麻布春男の週刊PCホットライン

エプソンダイレクト組立工場見学


■IBM PC/ATの構成そのものが、BTOの原点

 筆者が最初のPC/AT互換機を購入したのは、もう10年以上前のことになる。米国のPC雑誌に広告を掲載していた某販売店(すでに存在しない)から、80286ベースのPCシステムを購入したのがそもそもの始まりだ。当時、日本と米国の間には、しかるべき価格差があり、日本のPCは米国に比べて非常に高かった。筆者は、広告にうたわれていた999ドルという価格にひかれて、個人輸入に踏み切る決断をしたのである。

 だが、この999ドルという価格は、すべてのオプションを含んだものではなかった。プロセッサ、マザーボード、マルチI/Oカード、ケース、キーボードは含まれているものの、メモリ、ハードディスク、ビデオカード、ディスプレイがオプション扱いのベアボーン価格だったのである(そうでなければ、10年前にすでに1000ドルPCが誕生していたことになる)。オプション扱いのデバイスをどうするかは筆者の判断に委ねられており、512KBのメモリ(DIPパッケージの256Kbit DRAM 18個(パリティ分含む)。後に秋葉原で18個買い足して1MBフル実装にした)、30MBのハードディスク(Maxtorに買収されたMiniScribeの30Mbytes RLLドライブ)、GenoaのスーパーEGAカード(EGAに独自高解像度モードを追加したもの。通常、添付の英語版Lotus 1-2-3用ドライバで高解像度を利用する。すでにVGAは登場していたものの、VGA互換カードは高価な上、本家IBM製との互換性が議論されている状態だった)、そしてSamsung製の15インチマルチスキャンディスプレイ(VGAへの移行が見えていたので、EGAがサポートするデジタルRGBとVGAやPC-9801シリーズのアナログRGBの両方に対応したものを選んだ。これが後にEGAベースのAXマシンを購入した際にも役に立った)を選び出した。今を去ること10年以上前の話だ。

 こんな昔話をしたのは、BTO(Build To Order)は決して最近始まった「ブーム」ではない、ということを示したかったからだ。米国で販売されるPC全体に占める店頭販売の割合が著しく低下し、通信販売、それも顧客の要望にしたがった構成のPCを販売するBTOの比率が劇的に高まったのはここ数年のことだが、BTOというアイデア自体は決して新しいものではない。そもそも、マザーボード上のI/Oデバイス類を極力排し、拡張スロット上の拡張カードでI/Oデバイスを実装するという初代IBM PC~IBM PC/ATの構成こそ、BTOの原点ではないかと思えるのである。



■エプソンダイレクト組立工場見学

エプソン工場見学
エプソン工場見学
エプソン工場見学
 BTOがすっかりおなじみとなった今、BTOに取り組んでいるのは米国のPCベンダに限らない。わが国でも、PC市場トップシェアの日本電気から、秋葉原のPCショップに至るまで、何らかの形でBTOに取り組んでいる。今回、PC Watch編集部に誘われて、工場取材に同行したエプソンダイレクトは、国内のPCベンダとしては比較的早期から直販によるBTOに取り組んできたベンダの1つである。BTOとは古い付き合い? の筆者も、その現場を訪れるのは初めてのことであった。

 では、実際に訪れてみて、何か驚くようなことがあったかというと、別にそういうことはない。顧客の発注にしたがった仕様のPCが、黙々と組み立てられ、検査された後に出荷されるというプロセスが、たんたんと繰り広げられていた。PCを構成するパーツが標準化されている以上(そして多くのユーザーがそれを支持する以上)、1社が独自に驚くような工夫をすることは、もはや不可能というのが実際のところかもしれない。

 もちろん、PCベンダとしての工夫が全くないわけではない。たとえば、各パーツにつけられたバーコードでシリアルナンバーを管理し、それをユーザーIDと結びつけてデータベース化する、というアイデアは、ある程度の規模を持つベンダならではだろう。こうすることで、たとえばハードディスクにロット不良が生じたような場合(最近はあまり聞かないが、少し前までは、スピンドルに使うグリースを間違えて、1ロット分のハードディスクが全滅、みたいなことが時折起こったものである)、どのユーザーに該当するハードディスクが渡ってしまったか、ということを直ちに把握することができるという。こうした体制の確立は、ショップで組み立てられて販売されるPCでは、少し難しいかもしれない。

 また、実際のアセンブリラインで気づいたのは、扱う周辺機器の種類の多さだ。メインストリームのビデオカードだけでも5種類、他にも高価なOpenGLアクセラレータが6種類ラインナップされている(Proシリーズの場合)。BTOである以上、顧客の求めに応じて扱い数の少ない周辺機器を組み込むことは、納期の問題さえクリアすれば、それほど難しいことではなく、通常は1週間程度で製品として出荷が可能だそうである。だが、それらに対するサポートまで考えると、なかなか踏み切れないのが普通である。しかし同社では、OpenGLアクセラレータやノンリニアビデオ編集用の拡張カードなど、ニッチな周辺機器をもラインナップしている。しかし、これらの「在庫」は持っていない。

 こうしたニッチ向けの周辺機器は、顧客のオーダーがあってから発注するそうであるが、通常なら3日から4日で納品されるため、2週間程度で製品として出荷が可能だそうである。このように、在庫リスクの低減にも工夫をしているのであった。

 こうしたニッチ向けの周辺機器を搭載したPCを販売し、サポートすることは、エプソンダイレクトの強みである。しかし、直販BTOで世界的に大きなシェアを持つデルやGatewayは、こうしたニッチ向け周辺機器を、通常のPCルートでは販売しない(ワークステーション等ではまた話が異なる)。ビデオカードのバリエーションも、エプソンダイレクトほど多くはない。だが、だからこそ(PCの構成のバリエーションが小さいからこそ)24時間の電話サポートやオンサイトサービスといったサービスが可能になるのである。エプソンダイレクトとしても、こうしたニッチ向け製品も含む製品のサポート時間の延長が今後の課題となろう。

 規模の点で、こうした外資系ベンダに比べて不利なエプソンダイレクトではあるが、国内アセンブリを武器に彼らが手がけないような周辺機器を手がける小回りを特徴にするというのは、確かに有効な手段の1つではあろう。だが、こうした小回りを維持する限り、成長の限界もつきまとう。今のままの規模で地道な商売を続ける道を歩み続けるのか、それとも規模の拡大を余儀なくされるのか、その時にどうビジネスモデルを変えるのか。同社が事業を拡大していく上でこの問題に直面する日がそう遠くないのではないかと、思わないでもない

□エプソンダイレクトのホームページ
http://www.epsondirect.co.jp/

[Text by 元麻布春男]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当pc-watch-info@impress.co.jp