このCeleron 300Aも、クロックアップして安定動作させるには、コア電圧の昇圧が欠かせない。そうなると、CPUの発熱も多くなり、効率のよい冷却が必須になる。特に、規定の2.0Vを超えた電圧をかけると、極端に発熱量が増え、冷却がクロックアップの重要なポイントとなる。
発熱したCPUを冷却するには、一般的にCPUクーラーと呼ばれる製品を利用する。CPUクーラーはヒートシンクとそれを強制的に空気をあてて冷却するファンを組み合わせたものが多い。十分な大きさと熱容量のあるヒートシンクと、風量の多いファンというのが、冷却に適しているCPUクーラーの判断基準である。
さらに、一部のマニアの間では水冷システムを使って強烈なクロックアップの結果を残している。しかし、そのシステムには興味はあっても、なかなか手を出せない人が多いのではないだろうか。この水冷システムを一気に身近なものにしたのが、コムネット「POSEIDON」だ。今回は、このPOSEIDONのCeleron 300Aシステムでの使用レポートをお届けする。
POSEIDONは、冷媒として水道水を使用する。CPUの熱を水冷ヘッドと呼ばれるユニットで吸収。その熱を水で吸収して、放熱ユニットに送りこむことで、放熱するシステムとなっている。ちょうど、車のエンジンを冷やすラジエーターの働きと同じだ。さらに、POSEIDONではより効果的な冷却を行なうために、CPUに取りつけるユニット、放熱ユニットの両方でペルチェ素子を利用できるようになっているのが魅力だ。
ペルチェ素子とは、セラミックの板のような形状で、電圧をかけることで、その板の両面に温度差が生じる性質をもった素子。つまり、片方は冷たくなり、もう片方は熱をもつのだ。冷たくなるほうをCPUに付けて、熱を持つほうを効率よく放熱することで、強制的にCPUを冷やすことができる。
今回実際に使用したのは、Socket 7 CPU用のPOSEIDON SERIES model 7(36,800円)。これをCeleronに取りつけるためのリテンションキット(1,000円)を利用して、Celeron 300Aに取りつける。入手してまず最初に行なったのが、POSEIDONの各パーツのチェック。さすがに、自分のマシンが水浸しになるのは避けたい。しかし、その心配は実物を見ると消えてしまった。というのも、各ユニットは高精度な加工がなされており、非常に綺麗な仕上げになっていたからだ。これなら、ホースの取り回しさえ間違わなければ、水漏れのトラブルはないだろう。
とはいうものの、ワンタッチで気軽に取りつけられるといった製品ではない。部品点数が多く、CPUへの取りつけや、放熱ユニットの組み立ては手間が必要だ。さらに、放熱ユニットに取りつけるファンや、ペルチェ素子、ペルチェ素子用の電源は、POSEIDONとは別に入手しなければならないため、どちらかというと半キットといった内容になっている。
CPUに取りつける水冷ヘッドは、Socket 7仕様のCPUソケットと同等の大きさで、中心部に水の取り入れ口、端に排出口が取りつけられている。水冷ヘッドの容量がさほど大きくなかったので心配したが、実際に使ってみるとCPUを冷却するには十分であった。しかも、ペルチェ素子を使って発熱量が増えた場合でも、きちんと吸熱を行なってくれる。その吸熱性能の割には大きさや重量は抑えられており、一般的なBaby ATやATXサイズのマザーボードであれば、ほとんどの機種に取りつけることができるだろう。
CPUに取りつける水冷ヘッド。中心部に水の取り入れ口、左上端に排出口が取り付けられている。 | 水冷ヘッドとTE素子取付板に挟まれたペルチェ素子。 | CPUに熱交換器を装着するとこんな形になる。水冷ユニットとしてはコンパクトにまとまっている。 |
水冷ヘッドから送られてきた水の熱を受け取る放熱器は大きめで、増設冷却板と呼ばれる熱容量の大きな金属板とペアで使用する。ここでも、送られてきた水から熱を奪いとるために、ペルチェ素子を利用することが可能だ。増設冷却板の横幅は、Socket 7のCPUソケットの約4倍の大きさがあり、Socket 7 CPU用のクーラーなどを使って冷却を行なう仕組みになっている。
廃熱側熱交換器。ここで温まった水を冷却する。 | 増設冷却板と廃熱側熱交換器にペルチェ素子を挟み、冷却効率をあげている。 | 廃熱側ユニット完成。一番下からSocket 7 CPU用のクーラー、増設冷却板、、ペルチェ素子、廃熱側熱交換器が重なっている。 |
この水冷ヘッドと放熱器の間を、ポンプユニットによって水を循環させる。ポンプユニットは、水を入れた付属の水タンクに沈め、ポンプユニットから吸い上げられた水がホース経由で、各ユニットに送られる。水タンクといっても、ポンプユニットをおさめるのに丁度いい大きさのタッパーウェアが使われている。
早速組みあげて、Windows 98マシンに組み込んでみた。今回使用したマザーボードは、Abit BX6だ。現在、人気のあるマザーボードAbit BH6よりも前に発売されたマザーボードである。最初は、コア電圧2.0Vにして、FSB 66MHzの4.5倍で定格の300MHz動作を行ない様子を見た。ペルチェ素子には控え目に5Vをかけたが、ちょっと冷えすぎて結露が見えてきたので、コア電圧2.2VでFSB 100MHz 4.5倍の450MHz動作にクロックアップした。この状態では結露はなくなり、CPUは十二分に冷却されている。さらにコア電圧を2.3Vにし、FSB 112MHzにして、504MHzに設定しても、十分な冷却がなされ、極めて安定して動作した。
一般に販売されているCPUクーラーでは、504MHz動作の場合に不安定になったが、このPOSEIDONを使ったシステムでは安定動作することができた。これまで以上に、Celeronの冷却の必要性を再確認する結果となった。
ただ、Windows 98を操作せずに放置してPCが省電力モードに入ってしまうと、CPUの発熱量が減り、たちまち結露が起こってしまう。これは、POSEIDONに限った話ではなく、ペルチェ素子を利用した冷却システムでは必ずつきまとう問題で、この現象に関しては、ペルチェ素子に与える電圧をCPUの温度によりコントロールするか、CPU全体を外気に触れないようにうまく密閉するなどの対処が必要だ。ペルチェ素子のコントロールであれば、田川アルミのペルコンなどを利用するのが手軽だ。
とはいうものの、POSEIDONは仕掛けが大掛かりなために、自分のPCが水冷だという自己満足感は大きい。今まで以上に、自分のPCに対して愛着がわくかもしれない。PCに手間をかけたいとか、他人とはちょっと違ったことをやってみたいという方にはピッタリな製品だといえる。なかなか実用に持っていくには時間がかかりそうだが、それを楽しむのも、PCの楽しみ方の一つではないだろうか。
ただ、POSEIDONの品質の高さという点では信頼しているのだが、やはり水を使って冷却するという心情的な不安感は残る。このような仕掛けは、個人的にも嫌いなほうではないので、もうしばらくはペルチェ素子の扱いを試行錯誤してみて、なんとかお気楽に連続運用できる環境にしようと考えている。
筆者にとっては、PCはさまざまなことが実現できる実用的なツールでもあり、最も楽しめるホビーでもある。手間や凝った仕組みも無条件に楽しむことができる。これからは、ただ単純にお手軽で便利なだけではない、POSEIDONのような手間のかかる凝った製品がもっと登場してくることを期待したい。
[Text by 一ヶ谷兼乃]
・CPUのメーカー規定周波数以上の動作(クロックアップ)は、CPUや関連機器を破損したり、寿命を縮める可能性があります。その損害について、筆者およびPC Watch編集部、またCPUメーカー、購入したショップもその責を負いません。クロックアップは自己の責任において行なってください。 ・この記事中の内容は筆者の環境でテストした結果であり、記事中の結果を筆者およびPC Watch編集部が保証するものではありません。 ・筆者およびPC Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。 |