●2000年元旦、全米の大都市は暴動に
2000年1月1日。その日、電気は停電し、電話は不通となり、列車は止まり、交通信号は消え、全世界の都市はその機能を停止する。そして、米国の主要都市は、日頃の鬱積を晴らそうと立ち上がった貧困層による暴動の火の手に包まれる。
米国では、この夏ごろからこんな話題でもちきりだ。それは、電気や交通、通信といった社会インフラを制御するコンピュータが2000年問題で狂い、その結果、都市機能が停止してしまうと言われ始めたからだ。なにせ、大都市では停電ですぐに暴動が起こる国柄、2000年問題で社会インフラが崩壊してしまえば、大暴動になるのではと、一般の人々が戦々恐々とし始めたというわけだ。
日本では、2000年問題と言えば、銀行のオンラインシステムなどの問題だと捉えられがちだが、米国では、社会インフラのトラブルを真剣に心配し始めている。ニュースを集めているとわかるのだが、夏少し前あたりから、一般新聞や一般ニュース雑誌で2000年問題を扱う量が急増している。専門家の中にも、社会インフラにトラブルが起きると指摘する人が結構いて、この問題をけっこう真剣に扱っている記事が少なからずある。専門家のなかでも最右翼は、コンピュータコンサルタントのエド・ヨーデン氏で、彼の書いた「Time Bomb 2000」という本ではさまざまな危機が予告され、2000年クライシスの決定版参考書として話題になっているようだ。(本人は、さっさと大都市ニューヨークを逃げ出し、ニューメキシコ州に引っ込んでしまった)
●飛行機が落ち、核ミサイルが飛ぶ!?
心配されているのは、都市機能の停止や暴動だけではない。たとえば、飛行機の墜落というのも、よく聞く話だ。実際、先々週にはKLMオランダ航空が、2000年1月1日のフライトが安全かどうかわからないと表明(「KLM: Bug may make Jan. 1, 2000flights unsafe」San Jose Mercury News,10/16による)したそうだ。同航空によると、各国の航空管制システムの中には、2000年問題対策が遅れているものがあるため、KLM自体は対策が万全でも、安全が保てない可能性があるのだという。航空会社自体がこんな不安をもらすのだから、なかなか事態は深刻だ。
また、この夏には、米国国防省が、ロシアの核ミサイル基地のコンピュータが2000年問題で狂って、パニックになった基地の指揮官がミサイルを発射してしまうという想定シナリオを発表したという。また、ロシアや中国の原子炉が、2000年問題で事故を起こすという可能性も、ニュースで流れた。他の国で、核ミサイルが発射されたり、原子炉がメルトダウンを起こしたりすれば、もし自分の国の対策が万全でも、どうしようもない。
それから、2000年問題は家電などの組み込みのプログラムでも発生する。そうすると、家庭の中で事故が起こったりする可能性もある。そこで、家庭の主婦のための2000年問題啓蒙サイト「Y2KWomen」なんてものも登場している。このサイトでは、非常事態に備えて、水や食料を備蓄したり、暴動に備えることも勧めている。いや、それどころか、2000年暴動に備えて、銃を持って自衛をしようと呼びかけるサイトまで登場する始末だ。
こうした状況を見ていると、なんだか全米がパニック状態にあるように見える。
●究極の2000年対策ツールが登場
しかし、この騒動も、もうすぐ静まるだろう。というのは、2000年問題を一発で解決できる強力なツールがどんどん登場しているからだ。この問題について、最先端のソリューションを提供するFBN associatesのサイトに行ってみれば、それがよくわかる。
FBN associatesは、2000年問題専門のソリューション会社で、次々に斬新な2000年問題対策製品を発表している。たとえば、「FBN Compiler 2000」は、ソースコードがあればその中から2000年バグを見つけて、自動的に修正してリコンパイルしてくれる。これがあれば、2000年問題は手作業なしで解決できる。また、「FBN Fixer2000」は、データベース管理システム(DBMS)の中から、すべての日付データタイプを見つけて自動変換してくれる。
だが、もっとも強力なツールは「NeuralNet 2000」だ。これは、コンピュータ用拡張カード製品で、これをコンピュータに装着すると、カード上のチップが、ランタイムですべての日付計算をインターラプト、適切な日付データに直してホストコンピュータのCPUに返してくれる。つまり、プログラムを一切修正することなく、2000年バグを解決できるというわけだ。カードに搭載するチップは、バイオシリコンの革新企業米TechniCloneの「CxBS」ニューラルネットワークチップセットを使うため、こうした超高速演算が可能になったようだ。
FBN associatesでは、このほか、組み込み機器に近づけるだけで、内蔵プログラムの2000年バグを超音波で探知して警告してくれる、腕時計型の「EZSounder 2000」というツールも発売している。また、興味深いのは、ゲーム仕立ての2000年問題シミュレーションソフト「FBN SIMCrisis」だ。このソフトは、ちょっと見た目にはSIMCityそっくりなので、親しみ易そうだ。ユーザーは都市の中で、2000年バグを持つハードウェアやソフトウェアを見つけて、バグを引き起こし、都市を破壊することで、2000年問題をシミュレートできる。たとえば、航空管制を狂わせて飛行機を墜落させたり、原子炉の制御を狂わせてメルトダウンさせたりできるのだ。 このほかにも同社では……いや、そろそろやめておこう(笑)。
もちろん、これらはすべてフェイク製品だ。こんな製品が、現実に作れるわけはないことは、コンピュータを少しでも知っていればすぐわかる。ところが、こんなあからさまなジョークに対して、真面目な問い合わせが企業の情報システム担当者(CIO)から次々に舞い込んだのだという。
どうやら、米国では、情報システム担当者もパニックになっているらしい。
('98年10月30日)
[Reported by 後藤 弘茂]