●Microsoftが新OSをいよいよ発表
Microsoftはいよいよ4番目のWindowsを、今日(フランス時間の火曜日)、発表する。スマートカード(クレジットカードサイズのインテリジェントICカード)用のOS「Smart Cards for Windows」だ。発表を行なうのは、パリで開催されているスマートカード業界のイベント「Cartes 98」で、このメールが届くころ(またはこの記事がWebにアップされるころ)にはすでに発表されているはずだ。これで“Windows”がつくOSは、Windows 9x、Windows NT、Windows CEに続いて4つ目になる。
もちろん、気の早い米国のニュースサイトでは、「Microsoft Has Plans to Unveil Smart-Card Operating System」(The Wall Street Journal,10/26、有料、 http://www.wsj.com/ から検索)や「Microsoft to unveil smart-card OS Tuesday」(InfoWorld,10/26)などのように、1日早くこのニュースを報じている。また、Microsoftのサイトでも、リリースが「Microsoft Announces Smart Cards for Windows」にアップされるようだ。
これらの記事によると、Smart Cards for Windowsは、Windows CEのカーネルではなく、まったく新しい、さらに小さなカーネルを持っているようだ。もっとも、スマートカードの小さなメモリとプロセッサパワーに押し込むとなれば、それも当然だろう。Microsoftは、この新OSで、そのアグレッシブなどこでもWindows戦略を、カードへの組み込みという領域にまで広げることになる。カードという点は、ちょっと驚きかも知れないが、これまでのいきさつを知っている人なら、この展開を意外とは感じないだろう。それは、これが新たな対Java戦線だということだ。
Sun MicrosystemsのJavaSoftは、すでにスマートカード向けの「Java Card」を先行して推進している。Microsoftにとって非PCエリアでの最大のライバルはJava。そのJavaにすべてのフィールドで角突き合わせるには、スマートカード用OSが必要と判断するのは、ごく自然ななりゆきだろう。
●COMDEXのステージ裏ではIntelのMPUが一挙公開
さて、いよいよPC業界最大のイベント「COMDEX Fall」が、今年も近づいてきた。各ニュースサイトにも、COMDEX関連のニュースがちらほら出始めている。その中で目を引いたのは、IntelやPCベンダーが、'99年に投入する予定のプロセッサやそれを搭載したシステムを、招待した顧客に公開するつもりだと報じる「Intel to forge PC systems path for 1999」(InfoWorld,10/26)だ。たとえば、366MHzのCeleronやモバイル版Celeronなどが、バックステージでは公開されるという。また、サーバーメーカーの中には、いよいよIntelのハイエンドチップセット「Profusion(プロフュージョン:コード名)」を使った8ウェイ(8個のマルチプロセッサ構成)のPentium II Xeon 450MHzシステムのデモを行なうところも出てくるという。
ところで、Intelは来年早期に、256KBの2次キャッシュをプロセッサコアとひとつのチップに統合した「Dixon(ディクソン:コード名)」を投入するが、この記事では、Dixonに関して、ちょっと面白い新情報を伝えている。Dixonは266/300/333/366MHzの4つの動作速度で提供されるが、現行のMobile Pentium IIと同じ動作周波数の266MHz版と300MHz版には、名前のあとに「PE(Performance Enhanced)」がつくという。はたして「Mobile Pentium II PE」なのか「Mobile Pentium II 266MHz PE」なのかはまだわからない。しかし、製品系列が入り組んでしまった結果、Intelが名前のつけように苦労していることだけはわかる。
●IntelはKatmaiキャンペーンを秘密裏にスタート
また、Intelネタでは「Intel seeks Katmai support in covert campaign」(InfoWorld,10/26)も面白い。同社は、次期デスクトップ向けプロセッサ「Katmai(カトマイ:コード名)」の来年頭の発売に向けて、ソフトベンダー各社にKatmai対応アプリケーションを開発してもらうよう、かなり強力なキャンペーンを始めているという。これ自体は、別に目新しい情報ではないのだが、この記事によると、Intelはこの件をできるかぎり内密にしたがっているという。それは、クリスマス商戦を控えて、Katmai待ちの買い控えが起きることを恐れているからだという。だとすれば、COMDEXで次世代プロセッサ群を裏ステージだけに止めるという、前の記事の内容も納得がゆく。
●IntelのMicron出資でSLDRAMはどうなる?
Intelネタではもうひとつ、大手DRAMベンダーのMicron Technologyに対する5億ドルの大規模投資が注目を集めた。Intelのプロセッサに見合う高速DRAM開発を促進するためだという。この取り引きが注目されるのはMicronが、Intelの推進する次世代高速DRAM「Direct RDRAM」に対抗する高速DRAM規格「SLDRAM」の最大のサポーターであるからだ。では、これでSLDRAMの命運は尽きたかというと、そうでもないようだ。「Why Intel put money into Micron」(Electronic Buyer's News)によると、Intelは、同社がMicronの次世代DRAM開発に影響を及ぼすという見方を必死に否定しているらしい。というのも、背後に、FTC(米連邦取引委員会:Federal TradeCommission)による行政審判が控えているからだという。Intelは、Microsoftのように正面きって政府機関と戦おうとはせず、できる限り穏便にかわそうと務めているように見えるので、この話は説得力がある。そのため、MicronはSLDRAMの開発を今後も続け、Direct RDRAMが最初は届かない領域(たとえばサーバー)向けに提供してゆくだろうという。しかし、Direct RDRAMという選択肢が堅固になったMicronにとって、なんとしてもSLDRAMを推進しなければ、という動機が薄くなったのも確かだろう。
●スタートから白熱--Microsoft反トラスト法裁判
ところで、米国ワシントンでは、先週からMicrosoftの反トラスト法裁判が始まった。しかし、関係者は始まったとたんに、うんざりしてしまったことだろう。というのも、司法省側の証人の1番バッターとして立ったNetscape Communicationsのバークスデール社長兼CEOに対するMicrosoftの反対尋問が激しく、なかなか前に進まないからだ。
各ニュースサイトの記事をもとに、簡単に先週のおさらいをすると、19日に司法省と20州側による冒頭陳述が、20日午前にはMicrosoft側によるそれに対する反論の冒頭陳述が行なわれたが、ここまでは、軽いジャブ程度でまだ激しい応酬はなかったようだ。
それが一転したのは、20日の午後にバークスデール氏が登場してから。とくに、21日にはMicrosoft側がNetscape会長ジム・クラーク氏の、これまで未公開だった電子メールをバークスデール氏に突きつけたことで波乱となったらしい。というのも、そのメールでクラーク氏は、Microsoftに、Netscapeへの出資を求めていたからだ。このいきさつは「seattletimes.com: Netscape's Clark sought investment from Microsoft, documents show」(The Seattle Times,10/22、リンクはすでに消失)など、ほとんどのニュースサイトが詳細に取り上げている。
さらにMicrosoft側は、22日も引き続きバークスデール氏を攻め立て、問題となっているMicrosoftとNetscapeの'95年のミーティング(MicrosoftがNetscapeにWebブラウザの分割を提案したとされる)に及んだ。「Netscape's Barksdale Details 1995 Meeting With Microsoft」(The Wall Street Journal,10/23、有料、 http://www.wsj.com/ から検索)などによると、Microsoft側は、Netscape側が主張するMicrosoftによるWebブラウザ市場分割の提案は、Netscapeのマーク・アンドリーセン氏の創作ではないかと、バークスデール氏に詰め寄ったという。
こうして単純化してしまうと、Microsoftがひたすら攻め立てたように見えるが、これはMicrosoftの反対尋問、つまり、Microsoftの攻撃イニングであり、しかも相手は今回の最大の争点となっているNetscapeなのだから、Microsoft側が激しく攻めるのも当然だ。それに対して、バークスデール氏も、今までのところは、決定的な言質は与えず、ふんばって来ている。しかし、スコアボードをつけるなら、この序盤戦は、司法省側にとってそれほど有利には進んでいないと言えるのではないだろうか。というのは、司法省の方がこの裁判でのハードルが高いからだ。
何度か、このコラムでも取り上げたが、まず、Microsoftはこの連邦地方裁判所で負けても構わない。ここで負けても、控訴裁判所でひっくり返せる可能性が高いからだ。そのため、Microsoftは控訴審で争点になる部分を、控訴裁判所ならMicrosoft有利に判断されるような形で立証すればいい。今回で言うなら、Netscapeの主張の信憑性に、クエスチョンをつけられれば、控訴審で有利に働く可能性があるわけだ。たとえば、「The Balancing Act of Netscape's CEO」(The Washington Post,10/24)を見ると、Microsoft側が、NetscapeがMicrosoftによって被害を受けたという主張を崩そうとあの手この手で攻めている様がわかる。それに対して、司法省側は、控訴審でもひっくり返されないような、完璧な勝利を得なければ、勝ったとは言えない。今のところ、まだ司法省側には、それだけの勝利が見えていない。
('98年10月27日)
[Reported by 後藤 弘茂]