次のバルク品というのは、上のリテール品から、化粧箱、保証書等を抜いた形で販売される商品を指す。何も書かれていない白い箱に収められて売られることが多いせいか、白箱と呼ばれることもある。また、リテール品にバンドルされているサードパーティ製ソフトウェアが、バルク品には添付されていないことも珍しくない。そして何より、保証書がないことでも分かるように、基本的にメーカーの保証がない。その代わり価格が安いのである。
本来、バルク品というのは、OEM供給先が自社ブランド品として販売することを前提に、メーカーの方で不要なバンドル品を取り除いた形で大量に納品したものを指していた。バルク(Bulk)の語源は、ここにある。すなわち、ビデオカードメーカーのA社が、PCメーカーB社のPCに組込むことを前提に、ビデオカードを何千枚という単位で納品するもののことである。そうである以上、このビデオカードにA社の保証書は要らない。というより、PCを構成するコンポーネントごとに保証書が別だったりしたら、サポートを受ける際に面倒でしょうがない。PCとして販売したB社が一括で面倒を見たほうが、はるかに好ましい。
ところが、何時のころからか、本来B社へ収めたはずのビデオカードが、市場に出回るようになってしまった。たとえばB社の資金繰りが苦しくなった、ビデオカードが旧世代製品になってしまいB社にとって価値がなくなった、あるいは大量に仕入れすぎて過剰となったといった理由で、B社がこっそり市場に放出したのである。こうして市場に出た商品には、当然のことながらA社の箱や保証書があるわけがない。A社は、B社がサポートを引き受ける前提でリテール品よりも安くB社に商品を卸した以上、当然のことながらこうした商品を保証しない。B社も、こっそり市場に出した以上、そんな商品のことは知らないことになっている。まぁ、これがバルク品パターン1とでも呼ぶべきものである。
OEMの供給を受けた側が放出することがあるように、同じようなことをOEM供給元が行なうことだってある。たとえば、B社にOEM供給するつもりで用意したものの、B社からの発注量が減ってしまった、あるいはB社同様、C社にも供給する予定だったのがキャンセルになってしまった、といった理由でA社が抱えた在庫を、市場に流す場合などだ。このOEM崩れともいえそうなメーカーが放出するパターンを、バルク品パターン2と呼ぼう。
また、本来はリテール品として販売する予定だった商品が、思惑より売れず、在庫として残ってしまうこともある。これをリテール品のまま安売りしては、リテール品全体の価格が崩れるので、一部をバルクとして、箱やソフトを抜いて安価に販売する、といったことも起こり得る。これをバルク品パターン3とする。
以上の3パターンは、比較的古くから良くあるいわば古典的なバルク品のパターンである。しかし、最近のバルク品の中には、明らかにこうした古典的なバルク品とは異なるものが含まれているようだ。たとえば、発売されたばかりのチップを採用したバルク品の拡張カードというのは、古典的なパターンではなかなか説明が難しい。在庫というのは、ある程度の時間が経過したからこそ処分すべき在庫なのであって、新製品であればこれからいくらでも売る機会はある。それほど急いで処分する必要はない。
チップのスペックとしては決して悪くないものの、機能を詰め込み過ぎて、歩留まりが悪くなることもある。歩留まりの良し悪しで、完成したCPUに400MHz、350MHz、300MHzといった一種のランク付けが生じるように、CPU以外のチップにも当然歩留まりの良し悪しが生じうる。たとえば、本来は100MHzで動作すべきチップなのに、1枚のシリコンウエハーからとれるチップのうち、50%は100MHzで動作するものの、30%は90MHzで、残る20%は80MHzでしか動作しない、というのは起こり得る話だ。こうした場合、100MHzでちゃんと動作するチップは、当然リテール製品として最も高い値段(最も厚い利益)がつけられる。が、残る半分のチップを捨ててしまっては、チップの単価は2倍に跳ね上がり、カード価格にも反映させざるを得なくなる。
これを防ぐために、最初から90MHz版のチップや80MHz版のチップを使うことを前提に、バルク品のカードを企画することがある(場合によっては100MHzをリテール、90MHzを本当にOEMへ出荷するOEM版に、80MHzをバルク品に、といったこともあり得る)。
こうしたバルク品は、当然リテール品より性能が劣るが、一般のユーザーは同じカードは1枚しか持たないのが普通。リテール品とバルク品で性能を比較などしない。雑誌やインターネットで紹介されているベンチマークデータと自分の持っているカードのデータが異なったとしても、性能差を生む要因は、カード以外にも山ほどある。通常は気づかれないで済むのである。こうした歩留まりによる意図的なバルク品をパターン5としよう。このパターン5の応用編?として、初期段階のサンプルチップを使ったカードをバルク品として流す、という手もあるが、仕様的に劣るハードウェアを無保証、無サポート条件で売るという点ではパターン5と同じのため、区別しないことにする。
バルク品のもう1つのパターンは、事実上リテール品が元々存在しない商品だ。たとえば最も普通の2モードフロッピーディスクドライブは、そもそもメーカー(ティアック、ミツミ、ソニーといった製造メーカー)によるリテール製品が存在しない。これをOEMして保証をつけて売るサプライヤも、現在では事実上存在しなくなってしまった。価格が2,000円程度で、用途のハッキリ決まった商品では、1年間の保証やユーザーサポートはほとんど要らない。消費者にとって、リテール品である必然性がほとんどないのである。理由はともかく、こうした元々リテール品の存在しないものを、バルク品パターン6とすることにする。
筆者が購入したリテール版のViper V550 AGP ブラケット部のコネクタは上がVGA、下がTV出力(S端子のみ。RCAピンジャックへの変換 ケーブル添付)。一番下はTV入力用と思われるが、このオプションを備えた製品は発表さ れていない
バルク版のViper V550 AGP | 現在店頭で販売されているのはこちらのバルク版。NLXに対応している |
一見、パターン1や2も安全そうだが、OEM版とリテール版は仕様が違うこともありうる。たとえば、写真は米国で販売されているダイヤモンドマルチメディアのViper V550のAGP版だが、現在国内で流通しているバルク版のViper V550 AGPとは明らかに基板が異なる。前者がATXフォームファクタでTV出力をサポートしているのに対し、後者はNLXフォームファクタでTV出力をサポートしていない。使われているメモリも前者がサイクルタイム7nsのSDRAM、後者はサイクルタイム8nsのSDRAMである(ただし、現在出荷されているRIVA TNTが90MHz品であることを考えれば、おそらくメモリの違いによる性能差はない。また、バルク版のViper V550が上の特定のパターンに該当するとここで断定しているわけではなく、あくまでもバルク品とリテール品が「もの」として異なる場合があることを示すための事例として用いただけであり、他意はない。実際、筆者はバルク版のViper V550を持っているわけではないので比較できない)。というわけで、パターン1や2も、リスクは高くないものの、100%安心とは言えない。
パターン5については、かなりのリスクがあることは言うまでもない。特に、バルク品をパッケージを簡素化した廉価版と単純に思いこんで買っているのであれば、止めたほうが良いだろう。仮に購入後に気づいても、バルク品はメーカー保証がないため、何を言っても無駄である。残るパターン6は、リテール品が存在しない以上、欲しいのなら購入もやむを得ない。
購入する側にとって、バルク品の真の問題は、特定の商品がどんな理由でバルク販売されるに至ったかの経緯がわからない(上のどのパターンか分からない)ことだ。パターン3や6だと信じるに足る十分な理由があればともかく、あまりバルク品には手を出さないほうが良いだろう。筆者も、わざわざViper V550 AGPの米国リテール版を持っていることでも分かるように、めったにバルク品には手を出さない(まぁ、これには商売上、実測したベンチマークデータ等を発表する際、仕様の保証されないバルク品では、データの測定条件を明記できないという事情が絡んでいるのだが)。特に、スペックにこだわるようなユーザーは、バルク品にはスペックに関する保証もないことを良く覚えておくべきだ。バルク品にある保証は、販売店による動作保証だけと覚悟しておいた方が良い。この販売店による動作保証すらなくなった商品こそ、商品3分類の残る1つ、ジャンク品と呼ばれるものなのである。
[Text by 元麻布春男]