後藤弘茂のWeekly海外ニュース

ショウダウンMicrosoft対司法省



●いよいよ両者が法廷で直接対決

 延期に延期を重ねたMicrosoft対司法省(と20州)の反トラスト法違反裁判の公判が、ついに、今日(米国月曜)から始まる。米国の反トラスト法史上でも、まちがいなく最大級の重大裁判だ。実際、米国の一般誌/紙系ニュースサイトのテクノロジニュースは、みな判で押したように「historic(歴史的)」という形容を使っている。

 しかし、肝心の裁判の中身はというと、両者の入り組んだ裁判戦術のおかげで、限りなくわかりにくいものとなってしまっている。なにが裁判の争点なのか、両者の言い分にはどういう意味があるのか、どちらが優位に立っているのか、こうしたポイントはいずれもぼやけている。そのためか、米国の新聞の記事では、ゼロからていねいに説明しているものが目立つ。

 現状で、もっともわかりやすいのは、おそらくUSA TODAYの特集「The DOJ/Microsoft showdown」(USA TODAY,10/16)だ。内容的には、目新しいことはないが、簡潔に整理してまとめてくれているとありがたい。とくに、両者の証人とその証人たちの想定証言の一覧は秀抜だ。この記事は、オンライン版よりも、実際の新聞の方がレイアウトが凝っていて、Microsoftと司法省をうまく対比させていてわかりやすかった。


●豪華な政府側証人

 わかりにくい裁判は、Microsoftにとっては有利だ。Microsoftは、おそらくあくびの出そうな技術論に持ち込んで、世間の関心を冷まそうと考えているからだ。対する司法省は、この裁判を、派手で、世間の注目を集めるものにしようと腐心している。USA TODAYの記事で、両者の証人の一覧を見れば、この意図がよく見える。

 ともかく、豪華なのは、司法省側の証人。コンピュータ業界関係のおもな証人を挙げると下のようになる。

 Microsoftにうらみのありそうなメンツのトップリストから選ぶとこうなった、というような顔ぶれだ。

 Webブラウザで対立するNetscapeと、Javaで対立するSunは言うまでもない。注目は、Wintelと呼ばれ、Microsoftのパートナーと見られてきたIntelだ。同社は、ストリーミングソフトの開発やJavaのサポートについて、Microsoftから圧力を受けたことを明かすと言われている。また、ちょっと前にさかのぼるが、IntelがMPUパワーでマルチメディア処理を実現しようとしたNSP構想も、Microsoftによって断念させられたと報じられており、この件についても証言が出てくる可能性がある。

 Apple Computerは、QuickTimeのWindows版のプロモートについて、Microsoftから警告を受けたことを証言すると言われている。この件も、米国のニュースサイトではすでに盛んに報じられた。また、かつてMicrosoftから買収を持ちかけられたと報道されているAOLは、AOLのクライアントソフトにIEをバンドルすることになったMicrosoftとの取り引きについて明かすと見られている。Quickenで米国の財務会計ソフト市場トップに立つIntuitも、同様にIEとQuickenのバンドル契約について話すと報道されている。IBMも、MicrosoftにWebブラウザのバンドルについて圧力を受けたことを証言すると言われている。

 このあたりの証人の証言が出てくると、裁判に関する報道はずいぶんにぎやかなものになりそうだ。業界の裏側とも言うべき部分がむきだしになるわけで、コンピュータ系メディアでも、きっと大きく取り上げることになるだろう。司法省側も、そうした効果を狙っているのだと思われる。

 一方、Microsoft側の証人は、ほとんどがMicrosoftの幹部。前回のWindows 95に関する裁判の時と同じように、込み入った技術論に持ち込んで、Windows 98とInternet Explorer(IE)が単一製品かどうかというところに焦点を絞ろうという意図がよく見える。つまり、Microsoftのさまざまな活動について証言を広く集めて、世間の注目を集めたい司法省と、技術論争に限定してしまいたいMicrosoftという構図がはっきりしたわけだ。

 というわけで、どちらが勝つかを論ずるのは、まだ早そうだが、司法省がヤジウマを楽しませてくれることだけは間違いがなさそうだ。


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('98年10月19日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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