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暴露されたIntel MPUの価格予定表


●Mobile Pentium II 366MHzが登場?

 まずは、「Intel Insider: Sneak peek at Intel's confidential MPU pricing」(Electronic Buyers' News,10/2)を開いて欲しい。ここにあるのは、IntelのKatmai(コード名:カトマイ)/Tanner(コード名:タナー)、それにMobile Pentium IIプロセッサ333/366MHz発表までのMPU価格表だ。Intelの場合、PCメーカーやマザーボードメーカーに、かなり早い段階から発注を入れさせる。そのため、こうした価格表が事前に極秘に配られるわけだが、ここにポストされている内容は、まさにその価格表そのものに見える。電子デバイス購入者向け専門誌という媒体の性格からも、この情報は、かなり確度が高く、しかもフレッシュな情報であると思われる。

 もっとも、KatmaiやTannerの価格は、じつはこれまでにも何回か暴露されている。このリストの価格も、これまでの報道とほとんど変わらない。興味深いのは、その下のモバイル向けMPUのロードマップと価格だ。これを見ると、IntelのモバイルMPUロードマップは、9月中旬に開催されたIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」からわずか2週間で、大きく変わったことがわかる。

 最大のポイントは、来年前半に登場する予定のMobile Pentium II 333MHzに加えて、366MHzが同時発表の予定に入ってきたことだ。これらは、いずれも256KBの2次キャッシュをMPUのコアと統合したタイプ(コード名Dixon:ディクソン)だ。Intelは、自ら決めたモバイルのパワーガイドラインで、モバイル向けMPUの消費電力はMPUコアと2次キャッシュ合わせて9.5ワット以下にすると言っている。ということは、366MHzで駆動しても、その消費電力に抑えるメドが立ったということになる。電圧を、現在のMobile Pentium IIの1.6ボルト(300MHz版の登場時から233/266/300MHzのすべてのバージョンが1.6ボルトに下がっている)からさらに下げたのか、それともダイ(半導体本体)サイズをこれまで以上に縮小したのだろうか。ちなみに、Mobile Pentium II 366MHzに関しては、「Intel mobile chips strike a new pose -- Latest CPU packaging options blend form with function」(Electronic Buyers News,9/21)でも報道されている。

 また、Electronic Buyers' Newsの価格表では、Mobile Pentium II 266/300MHzでも、256KBの2次キャッシュ統合版が出されることになっている。当初は、現在の512KBの2次キャッシュSRAMを外付けするタイプ以外と平行して販売されるらしいが、おそらく入れ替わっていくのだろう。Intelは、どうやらモバイル市場ではデスクトップPCよりも一足先に、2次キャッシュ統合で攻めることにしたらしい。

 ちなみに、これらの2次キャッシュ統合版は、BGA(ボールグリッドアレイ)版も登場するとなっている。つまり、「モバイルモジュール(MM)」と呼ばれるチップセットも搭載したモジュールや「ミニカートリッジ」と呼ばれる小型モジュール以外に、BGA版が出るというわけだ。Intelは、これまでもモバイルでは新たに複数のパッケージを提供すると言っていたので、これも不思議はない。2次キャッシュSRAMが不要なら、ノートPCでは、実装面積が小さくてすむBGAの方がありがたいのは当然の話だ。


●モバイル向けCeleronは300MHz?

 ところで、Intelは、モバイル向けにもCeleronプロセッサを投入する予定だが、業界情報では、これまでその動作周波数は233/266MHzだと言われていた。ところが、この表では、それに300MHz版が加わっている。128KBの2次キャッシュしか統合しないCeleronでは、Mobile Pentium IIより消費電力が小さいため、9.5ワットのワク内で動作周波数を上げやすい。そのため、当初、266MHzまでと制限していたのは、機能的な問題ではなく、マーケティング上の問題だった可能性が高い。つまり、Mobile Pentium IIの266MHz以上に動作周波数を上げると市場の競合が起きることを懸念していたわけだ。

 それなのに、Celeron 300MHzを出すとすれば、その理由は何か? それはもちろん、AMDのモバイル版「AMD K6-2」対策だ。Intelは、もともとモバイル系MPUでは、デスクトップ系と比べてかなり高い価格をつけている。そこへ、300MHzのK6-2を投入されると、かなり手痛い。しかも、ノートパソコンの場合、デスクトップと違ってシリーズごとにカスタム度の高い設計なので、いったんAMDに合わせて設計されてしまうと、そのシリーズは、ずっとAMDのMPUを使い続けることになってしまう。Intelが圧倒的な優位を保っているモバイル市場だけに、x86互換メーカーの浸透を阻止したいところだろう。

 また、「Inside Notebooks -- Times are changing for notebooks. But the big news is the adoption of BTO strategies, as major tech developments are not likely for another year」(Electronic Buyers News,9/23)によると、Intelはモバイル版Celeronに合わせて「Banister(コード名:バニスター)」というチップセットも投入するという。これは、ソフトモデムやオーディオをサポートし、Celeronとの組み合わせで、1,500ドル以下のノートPCを実現するものだという。

 それから、価格表には、ウワサになっているMMX Pentium 300MHzもラインナップに入っている。これに関してはTCP(テープキャリアパッケージ)だけの提供で、扱いやすいPPGAパッケージがないということは、ミニノートやサブノート専用ということだろう。

 というわけで、'99年に向けて、Intelはこれまで以上にノートPCに本気を入れ始める。ユーザーとしてみれば、安くなって、パフォーマンスも向上、しかも薄型軽量ノートPCの性能向上も期待できるといいことづくめとなるかも知れない。


●Mercedに関する記事が続々登場

 Intelに関しては、このほか、Mercedに関する記事が電子技術専門誌「Electronic Engineering Times」にあった。専門的でマニアックな記事だが、けっこう面白い。まず、「Merced deals in speculation」(Electronic Engineering Times,9/22)によると、Mercedは「rotating registers」を使って、小さなループ処理を高速化することができるという。また、ひとつのレジスタに対して複数の書き込みを同時にできるようにもなっているのでは、と言っている。

 同じ著者の「Merced makes memory move」(Electronic Engineering Times,9/29)では、Mercedが、ロードやストアの際に、データをキャッシュに入れるか入れないか、どの階層のキャッシュに入れるかなどを、コンパイラが指定できると言っている。これと同じような技術は、Katmaiでもサポートされる。また、この記事では、Mercedは「the equals (EQ)モデル」をサポート、必要とされる時まで、レジスタに値を入れないで、レジスタを開けておくことができると解説している。

 このほか「TI preps Merced-compliant power supply controller」(Electronic Engineering Times,10/1、リンクはすでに消失)では、Texas Instrumentsが発表する予定の、Merced用のパワーサプライコントローラを取り上げ、Mercedのマザーボードの仕様を予測している。

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('98年10月6日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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