元麻布春男の週刊PCホットライン

Windows 98、アップグレード版は要らないと思う理由


OSアップグレードに潜むリスク

 日本語版のWindows 98がリリースされてから半月近くが経った。米国同様、予想していたよりは売れ行きが好調なのはご同慶の至りではある。もちろん、Windows 98に待っただけの甲斐はあったのか、コストに見合う価値はあるのか、あるいはどんなユーザーならWindows 98へ移行するメリットがあるのか、といったことに関する議論も多い。特に、アップグレードの失敗でシステムが稼動しなくなるリスクを犯してまで、アップグレードする必然性があるか、というのは微妙なところだろう。

 というのも、Microsoftがどれだけ社内テストとベータテストを行なおうと、しょせん100%の成功を保証することなどできないからだ。こう言うとMicrosoftに同情的なように思われるかもしれないが、それともちょっと違う。世の中には非常に多くのハードウェアがあり、その順列組合せは、誰がどんなにテストしようと、すべて網羅できるはずがない。しかも、不幸なことにこうしたハードウェアに添付されているデバイスドライバやINFファイルが正しい保証はない。というより、筆者の経験ではロクにUninstallできないデバイスドライバなどザラにあるのが現実である。Uninstallできないということは、たとえばアップデートされたOSのインストーラが、コンフリクトする可能性のあるデバイスドライバを見つけた場合、あるいはOSに付属するより新しいデバイスドライバで置き換えようとした場合、古いドライバを安全に除去する方法がないことを意味する。果たしてこれで、アップグレードが無事に行なわれるだろうか。

 また、OSのシステムファイルが無防備で、アプリケーションやデバイスドライバに より書き換え放題なのも、問題を引き起こす可能性がある。

 おそらく多くの人が、Internet Explorerをインストールすることで、システムファイルまで更新される事実を知っているハズだ。同様に、Windows 9xでOpenGLアクセラレーションをサポートするグラフィックスカードの中に、Windows 9x標準のOPENGL32.DLLを書き換えてしまうものがあることをご存知の方も多いだろう。
 もちろん、OPENGL32.DLLが書きかえられるくらいなら、QUAKE IIが出来なくなる程度で大した問題ではない。問題なのは、WindowsディレクトリやWindowsのSystemディレクトリにあるファイルが書き換えられていないことを保証する手段が何もない、ということだ(Windows 98では、Windowsディレクトリが丸見えではなくなったが、これはユーザーの誤操作を防げても、アプリケーションやデバイスドライバのインストーラには無力である)。

 OSの一部が、OSベンダの知らないところで、サードパーティにより書きかえられている可能性があるのに、アップグレードの際に100%の成功を保証することなど誰ができよう。

 加えて、Windows 98にはBIOSがらみの新機能としてACPIがある。新機能というのは、初めてインプリメントされたということであり、すでに市場に出回っているハードウェアは、正式リリースのOSではテストされていない、ということである。おのずとBIOSの更新が必要になるケースが出てくるが、BIOSの更新は最もトラブルの多いオペレーションの1つである。こんなところにも、OSのアップグレードに伴うリスクは潜んでいる。

 アップグレードが厄介なのは、今まで使っていた(言いかえれば、それまではちゃんと動いていた)システムに手を加えなければならない、ということだ。もしこれが、使っていなかった、あるいはまだ使っていないシステムであれば、仮に問題が発生したとしても、ダメージはない。心ゆくまで実験し、問題が生じないことを確認した上で、ハードウェアごと新しいプラットホームに移行すれば良いのである。

 もちろん、大容量のテープデバイスやリムーバブルディスクを持っているのなら、フルバックアップして、アップグレードを行なうという手もある。だが、システムは使えば使うほど、新しいハードウェアの組み込み、新しいアプリケーションのインストール、WebブラウザへのPlug-Inの組み込みなどで、Systemディレクトリにゴミファイルが蓄積し、レジストリデータベースに無効なエントリが増えていく。2~3年に1度のOSのアップデートにタイミングを合わせて、こうしたゴミを一掃する方が良いように思う。

 そもそも、古いハードウェアに新しいOSをインストールしても、新しいOSのすべての機能は利用できない。特に今回のWindows 98へのアップグレードのように、APIやユーザーインターフェイスという部分が変わらず、変更点が主にデバイスサポートの強化のような場合、古いハードウェアではあまり恩恵はない(逆にいうと、Windows3.1からWindows 95の時のように、ユーザーインターフェイスやAPIの変更を伴う場合、望まなくてもアップグレードせざるを得ないこともあるだろうが)。

 実は、筆者はもう長い間、OSのアップグレードという行為を行なったことがない(新しいバージョンのDirectXのインストールがOSのアップグレードに該当するのなら、行なったことになるが)。新しいOSがリリースされたら、まず実験マシンで試してみて使う気になったら、仕事に使っているマシンとは別のPCに、新しいOSをゼロからクリーンインストールすることにしている。結局、この方法が一番トラブルが少ないというのが筆者の結論だ。もしマシンが1台しかない場合、システムのフルバックアップをした上でクリーンインストールを行ない、後にバックアップからユーザーデータだけを復元する、という手順になるだろう。何にせよ、古いOSの上に新しいOSを上乗せするのは避けたい。

Windows 98アップグレード版CD-ROM Windows 98製品版CD-ROM

ブートできないアップグレード版より製品版の優待販売を

 さて、筆者がこのようなポリシーを持つ以上、Windows 98で買うべきパッケージは、どれだろう。もちろん、アップグレード対象であるWindows 95のライセンスは持っているから、アップグレードパッケージを購入する権利はある。だが、このアップグレードパッケージ、筆者のようにフォーマットもしていないハードディスクにゼロからOSをインストールしようという人間には極めて都合が悪い。確かに手元にあるソフトウェア(OS)を総動員すれば、まっさらのハードディスクにWindows 98をインストールすることはできる。だが、それはディスクの出し入れが多く、非常に時間のかかる作業である。

 というわけで、結局筆者はアップグレードではないパッケージ(通称? 製品版)を購入するハメになる。筆者にとってアップグレード版と製品版の最大の違いは、インストールに古いOSのメディアを要求されるか否かなどではなく、ゼロからインストールするためのブートフロッピーがついてくる(製品版)か、ついてこないか(アップグレード版)なのである。

もうひとつのWindows 98、OEM版。CD-ROMからブートできるのはコレだけ
 だが、Windows 98はこの2種類だけではない。世の中には、新規購入システムのバンドル用であるOEM版なるものが存在する。このOEM版の最大の長所は、CD-ROMから起動し、OSのセットアップを行なえる(まるでWindows NTのように)ことだ。

 今回、ためしに製品版とアップグレード版も試してみたが、CD-ROMからシステムを起動できるのは、やはりOEM版のみであった。なぜ、製品版やアップグレード版は、CD-ROMからの起動ができないのか(Windows NTはアップグレード版でもCD-ROMからの起動が可能)。もしこれがアップグレード版で可能なら、筆者はわざわざ高い製品版を買わなくても済むのである。
 こんなことなら、アップグレード版なぞ要らないから、製品版(できればOEM版)の既存ユーザーに対する優待販売に変えて欲しいと思うのは、筆者だけだろうか。


[Text by 元麻布春男]


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