【コラム】

後藤弘茂のWeekly海外ニュース

Microsoftが描く2000年のデスクトップ――クロームとGDI 2k



●DirectXをタグで扱えるクローム(Chrome)

 Internet Explorer(IE) 4.0はとうにリリースしているのに、次のIE 5.0について、Microsoftはいつまで経っても話し始めない。いつものMicrosoftなら、リリースの1年も前からどんな機能を盛り込むかを宣伝し始めるというのに……。もちろん、これはIEを巡る状況が裁判などで微妙になっていることと、IE 4.0のインテグレートが売り物のWindows 98が出る前という事情がある。まだ、出すに出せない状況ということなのだろう。もっとも、IE 5.0そのものではないが、その関連技術のひとつだけは積極的に売り込み始めた。それは、Windows上で3Dグラフィックスなどをより容易に扱えるようにする技術「Chrome(クローム)」だ。

 先週開催された「NETWORLD + INTEROP」では、Microsoftのジム・オルチン上級副社長(Personal and Business Systems Group)がキーノートスピーチでChromeを派手にデモしたらしい。まだ詳細は発表されていないが、ベンダーが独自にタグを拡張できるXMLを使い、タグでDirectX Media APIを直接利用できるようにしたものだ。ChromeのエンジンがタグをDirectX APIにトランスレートするわけで、HTMLのオーサリングの延長でDirectXを直接扱えるようになるという。


●クローム(Chrome)でWebの3D化を促進

 Chromeが最初に発表されたのは、今年3月末にフロリダ州オーランドで開催されたMicrosoftのハードウェア開発者向けカンファレンス「Windows Hardware Engineering Conference and Exhibition (WinHEC) 98」。この時はあまり目新しい技術の発表がなかったWinHEC 98の数少ない目玉のひとつとして、大きくフィーチャされた。

 WinHEC 98ではChromeのデモも行ない、アニメーションGIFと比べて、はるかに高速にダウンロードできることを強調していた。これは、タグで3Dオブジェクトを記述しDirect3Dを叩いてパソコン側でイメージの構成を行なうChromeの方が、3DグラフィックスデータそのものをダウンロードするアニメーションGIFよりもデータ量がずっと少ないためだ。アニメーションのフレームレートも高くなるので品質も良くなり、ユーザーの操作にインタラクティブに変化させることもできる。また、Chromeで叩けるAPIは、DirectXの広範なAPIに及んでいるようで、3Dだけでなくサウンドやビデオも扱えるようになる。

 WinHEC 98の時の発表では、ChromeはWindows 98とWindows NT 5.0のアドオンとして提供することになっている。実際には、これはHTMLレンダリングエンジンと連携するため、IE(Windowsのインターフェイス部分)のアドオンになるだろう。Chromeは、ベータテストの開始が今年半ばで、正式リリースは'99年前半とされているから、実質的にIE 5.0のためのテクノロジとなるだろう。


●2000年のWindowsのデスクトップ「GDI 2k」

 ChromeでMicrosoftが目指しているのは、3Dグラフィックスの一般化だ。3Dを含んだコンテンツの制作はこれまでよりずっと簡単になり、しかもWebからのダウンロードも容易になる。それによって、3Dグラフィックスが、ごく当たり前にWebページやDVD-ROMのコンテンツなどで使われるようになるというのがシナリオだろう。

 しかし、Microsoftの3Dへの傾斜はそこにとどまらない。次のフェイズでは、今度はWindowsのユーザーインターフェイス自体を3D化しようとしているのだ。それが、GDIとDirectXを統合する「GDI 2k」ということになる。

 WinHEC 98では、Chromeに続いてこのGDI 2kのプレビューも行なっているが、これが、なかなか興味深いシロモノだった。たとえば、GDI 2kではデスクトップのウィンドウの形が、これまでのように四角形に限定されなくなる。どういうことかと言うと、ウィンドウを傾斜させてパースペクティブを持たせたり、立方体にして、その立方体のそれぞれの面に異なるウィンドウを貼り付けたりといったことが可能になる。デモでは、立方体の各面に異なるシートを貼り付けたExcelを表示、立方体をちょっと傾けることで、側面にある別なウィンドウのグラフを見せるというデモを行なった。ちょっと見にくいかも知れないが、左が、その時のデモ画面の写真だ。

 また、あるウィンドウの上に、別なアプリケーションのウィンドウを半透過にして重ねるといったことも可能になる。そうすれば、上にのったウィンドウの表示を見ながら、下のウィンドウで編集をするといったことができるというわけだ。それから、ユーザーをアシストするエージェントは、3Dアニメーションのキャラクタになり、画面をちょこまかと動きまわる。


●GDIとDirectXの統合は必然?

 Microsoftのうたい文句によると、GDI 2kが実現するのは「2Dと3D、それに4D(時間)が融合する新しいデスクトップ」だ。こういうインターフェイスが好きか嫌いかは別として、デモ自体はなかなか刺激的だ。もっとも、技術的な概要は、GDI 2kがDirectDrawとDirect3D(IM)の上にそのほとんどが構築されることくらいしか、まだ明らかになっていない。Microsoftは、GDI 2kを2000年(以降)のWindowsのグラフィックスシステムと位置づけているので、登場するのはWindows 98のあとに出るWindows NTのコンシューマ版「Windows NT Consumer」かそれ以降のタイミングになるのではないだろうか。そして、その時のユーザーインターフェイスは、Chromeを統合したIEによるアクティブデスクトップだったりするわけだ。

 これまで、Windowsのグラフィックスシステムは、「GDI(Graphical Device Interface)」と、あとから追加されたDirectXの2本立てになってきた。これは、GDIだとテキストや単純な幾何学図形の描画は高速だが、高速ビット転送や動画、3D描画などはカバーできないためだ。だが、GDIとDirectXの二重構造は、開発者にとってはかなりやっかいなものになっていた。だから、GDIとDirectXを統合するGDI 2kは、Microsoftからすれば必然的な方向だとも言える。

 ただし、この統合に関しては、おそらく拒否感も強いだろう。ユーザーインターフェイス(UI)の安定性や軽快さが失われる可能性は高いし、そもそも多くのユーザーは最初はこんなデスクトップが必要だとは感じないのではないだろうか。快適に使えるハードウェアの要求だって、またワンランク高くなるのだから。

 しかし、そうは言っても、こうやってデスクトップレベルで3D化してしまわない限り、3Dは結局ゲームとベンチマークの域から脱しないのも確かだ。さて、ChromeとGDI 2kで、本当に3Dが当たり前のものになる時代が来るのだろうか。


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('98/5/13)

[Reported by 後藤 弘茂]


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