【コラム】


スタパ齋藤

MDに楽勝で文字入力!!
ソニーのMDデッキ MDS-PC1



■便利さを取る拙者

 どんな録音機材を使ってもオーケストラの生の音には及ばないという結論を出してはいるものの、オーディオ機器が大好きかつ本が一冊書けるほどのこだわりを持ち、カセットテープやMDから得られる音像に対して“音楽ではない”と酷評し、CDよりもむしろアナログレコードを愛聴し、アンプの基本は“Wire with Gain”なのだと頑固一徹を通し、年収を遙かに上回るスピーカーを設置するために極太のコンクリート柱を地中に埋め込み、その生涯をオーディオに捧げるような人では全然ない俺は、去年、MDにハマった。

 きっかけは、かつて俺がレコードを録音した古いカセットテープ。久々に昔のカセットを聴いてみたら、コレがけっこうイイ感じであったと同時に、この良い感じの情報を記憶しているメディアは伸びたり切れたりする可能性があることを危惧したからだ。つまり、カセットテープというメディアの寿命を心配し、テープ内の情報を音楽用光ディスクすなわちMDにコピーしたのだ。

 で、数十本のテープをMDにダビングして驚いたのは、MD登場当初よりもかなり音質が良くなっていたこと。古いテープをダビングする程度の目的なら、十分イイ音だと感じた。それから、ディスクメディアならではのメリット。テープメディアでは絶対にできない並べ替えや部分削除などがサクサクできてすこぶる快適!! 俺はMDが非常にコンピュータ的なメディアに思えて、非常に気に入った。

 まあもちろん、CDをMDにコピーして、CDとMDを聴き比べれば、う~んやっぱり非可逆圧縮の残念さ、すなわちMDの音は不利だと思う。でも、それは、耳を澄ませてじーっくり聴き比べた時の話。なーんとなく音楽を聴いているような俺には、その些細な差はいつもだいたい聞こえてこないのだ。逆に、テープの融通の利かなさや、CDの頑固さというか読み出しのみの不便さに比べたら、MDはまったく夢のようなメディアだと思い、MDにハマった。



■くぅ~っ、かったりい!!

 話は戻って、愛蔵のカセットテープをMDにダビングした時のこと。テープの本数があったので、ダビング自体もタイヘンだったが、それよりもタイヘンに感じたのは、MDへのデータ入力。

 ご存じのように、MDには曲名やディスク名を入力できる。入力した文字データは、MDデッキのディスプレイなどに表示されるので、曲名を確認したりするのに便利だ。が、MDに文字データを書き込むという作業はすげえかったりい。

 MDへ書き込む文字データは、リモコンや、デッキ前面のボタンを使って、曲名などをポチポチやる。携帯電話への名前&電話番号登録みたいな感じなのだが、曲名とゆーのはけっこう長かったりするし、1枚のMDに10曲、ともすれば20曲も入っちゃう場合があったりするので、この作業をMD数十枚分やるのは、凄まじいタイヘンさなのである。

 で、結局俺は、2~3枚のMDにはデータを入れたものの、あとは面倒臭くなってやめてしまった。MDラベルに手で書いた方が早いということで、手書きのラベルをディスクにベタベタ貼り、古いカセットテープの整理を終えたのであった。

ソニーRM-D10P(標準価格7,500円)
MDカタカナ入力専用リモートコマンダー。MDへのデータ入力を非常に快適なものにしてくれる装置らしいのだが、俺は結局入手できなかった。
 でもせっかくのMDの機能、ぜひ文字を入力したい、ということで、何か手っ取り早い方法はないのかといろいろ探した。いろいろ調べてみると、やはりデータ入力の面倒さに悩む人が多いのか、いくつかのメーカーからデータ入力向きのリモコンが出ていることがわかった。例えば、ソニーからは“MDカタカナ入力専用リモートコマンダーRM-D10P”というキーボード型リモコンが出ていた。他にも、確か、ケンウッドあたりから出ていた、という記憶がある。

 もちろん俺は速攻でそういう製品を見つけた瞬間速攻で注文したのだが、返ってくるのはいつも
「メーカーさんにも在庫がなくて、次の生産までしばらく待たないと入ってこない」
とか
「カタログには載っているが、生産中止になったみたいですよ」
とかいう、限りなく残念な返答だった。みんなーッ!! それでいいのかーッ!! チマチマポチポチであの長い曲名を入力して肩が凝って目がシバシバしても、それでいいのかーッ!! 俺はもっと手っ取り早く曲名を入力したいんだよそうなんだよアニキっ曲名なんだよブラザー!!



■おおっ!! これだッ!!

シャープMD-X8PC-S (標準価格112,000円)
ネットワークMDコンポと名付けられた斬新なオーディオシステム。インターネット上の音楽を録音できたり、MIDIデータを再生・録音できたりする。
 思い出すごとにそーゆー“手っ取り早くMDにデータを書き込める製品”を探したが、なかなか見つからなくて、なかば諦めていた頃に、シャープのかなり気になるコンポを発見した。

 その名は、ネットワークMDコンポMD-X8PC-S。PCMCIAのサウンドカード経由でWindowsマシンに接続できて、コンピュータからMDにデータを書き込めるというシロモノ。ヒッジョーに欲しくなった。

 だが、このコンポのウリは、Webサイト等のMIDIデータをコンピュータで再生し、その音をMDにダイレクトに録音できるということなど。要するに、主眼がWeb上のサウンドの録音だった。パソコンからのMDコントロールは、使ったことがないので詳しくは知らないが、“パソコンからMDの操作『も』できる”というような雰囲気だったし、サウンドカードとか新たなコンポとかにはいまひとつ金を払えない気分だった。

 でも、こういう目の付け所が計算機なオーディオ製品があるとわかった俺は、他にもこーゆーのないかナ~と思っていろんなトコロでコンピュータ野郎向けMDオーディオを探した。
 そしたらおもむろに発見できた。ソニーのMDデッキ、MDS-PC1だ。



■凄まじいぞMDS-PC1

パソコン対応MDデッキ MDS-PC1
(標準価格54,000円)
 MDS-PC1は、“コンピュータとつないでディスク編集や漢字・ひらがなタイトル入力ができる新世代MDデッキ”という謳い文句の製品で、俺のかったるさを完全解消してくれるような製品であると思えたので、発見直後に購入した。ていうか'98年2月に購入したのだが、なんかコレって、'97年末に発売されていたということで、我ながらけっこう時代遅れ的衝動買いをしてしまったと感じた。

 まあそんなことはどーでもよく、凄まじいのはこのMDデッキの機能だ。コンピュータと接続できて、コンピュータからコントロールできて、コンピュータであの糞忌々しく面倒でかったりいMDへのデータ入力ができるから、核戦争が起きて電子機器が全部イカレちまった未来においてもこのデッキだけはイカレないんだぜブラザーという気分になりがちなほど、凄まじく素敵だ。え? その程度のことで核戦争後の地球を引き合いに出すなって!?
 くわッ!! 俺にとってはMDに楽勝で文字が入力できれば核戦争だろうがメルトダウンだろうが何でも来いって感じなんだよアニキわかってくれよブラザー!!

 MDS-PC1は、もちろん普通のMDデッキとして使えるのだが、付属のソフトウェア(Windows 95版とMacintosh版をHybridCD-ROMで同梱)とケーブル(コントロールA1接続コード、シリアル変換アダプタ、Mac用コネクタ、98用コネクタのセット)を使うと、Windowsマシン(AT機および98)とMacintoshのどちらにでも接続することができる。

 コンピュータとMDS-PC1をサクッとつなげて、同梱のMD Editorというソフトウェアを起動すると、コンピュータからMDデッキのほとんどの機能を制御できるようになる。例えば、電源のON・OFF、MDの再生、早送り、曲飛ばし、一時停止、停止、録音などのデッキ基本操作や、曲名やディスク名の編集=NAME、曲順変更=MOVE、曲の分割=DIVIDE、曲同士の接続=COMBINE、曲の部分削除=A-B Erase、曲の削除=ERASEなどMDの編集操作ができる。

 どの操作も、お世辞にも使いやすいとは言えない各種MDデッキに比べれば、まったく使いやすい。特に、NAME機能すなわちMDへの曲名データ入力やディスク名入力は、自分のコンピュータとキーボードで行なえるので、目が覚めるほど快適だ。


横幅28cm、高さ9cmの、コンポサイズ。ソニーの新型デスクトップM300シリーズと組み合わせるとジャストフィットするサイズだ。 MDS-PC1付属のリモコン。やや大きめのリモコンを使って、デッキの操作や、MDへのデータ書き込みができる。英数カナのみ入力可能。 MDS-PC1をコンピュータにシリアル接続するためのケーブル類(付属品)。Windows95マシン、Macintoshのどちらにもつなげられる。


■MDS-PC1制御用ソフトMD Editor

 具体的にMDS-PC1をどんな感じでコンピュータに制御するのかというと、まずコンピュータに制御用ソフトMD Editorをインストールし、付属のケーブルでコンピュータとMDS-PC1を接続する。この状態でMD Editorを起動すると、MDS-PC1の制御は自動的にほぼ全てコンピュータに委ねられる。この状態で、デッキに対して“手動”で行なえることは、ディスクの排出や電源のOFFなどわずかの操作だけとなる。他の操作は全部コンピュータから行なうのだ。

MD Editor  さて、コンピュータにデッキを接続した状態でMD Editorを起動し、MDを挿入すると、MD EditorにMDのTOC(Table Of Contents)の情報が読み込まれる。TOCとは、MD上の曲名や曲の時間などが記録されたテーブルで、コンピュータ用データディスクのFATのようなもの。このテーブルがあるからこそ、MDでは曲を簡単に並べ替えたり曲名を編集したりすることができるわけだ。

 TOCを読んだMD Editorは、ウィンドウ上に曲番号と(書かれていれば)曲名と演奏時間を表示する。あとは適宜ボタンをクリックすれば再生や録音や編集を始められる。ちなみに、編集などをした場合は、普通のMDデッキがそうするように、ディスク排出時にTOCへ最新の情報を書き込んでいるようだ。

 で、肝心の“曲名等の入力や編集”だが、まあその簡単さと楽勝さと快適さと痛快さはナイスだとして、おもしろいのが、MDへ漢字の情報が書き込めるということ。

 通常、音楽用MDデッキでは、英文字や数字や記号やカナしか入力・表示できない。コンピュータで言うところの1バイト文字だけしか扱えないわけだ。が、MD Editorを使うと、漢字つまり2バイト文字を扱えるようになる。例えば、MD Editorを使えばひとつの曲にいわゆる半角文字の曲名などを付けられ、これとは別に、いわゆる全角文字の曲名なども付けられる。要するにMD Editorでは、MD上に半角文字データのカテゴリと、全角文字データのカテゴリを持っているということになる。なお、MDEditorで書き込んだ各データ(曲名等)は、しっかりTOCに記録されて残る。ただし、全角文字のデータを書き込んだMDを一般のMDデッキに入れた場合、全角文字は表示されない(半角文字は表示される)。

 それから、MD Editorには意外に便利な機能がある。MDラベル印刷機能だ。これは、MDに入力した曲名などを、キレイに並べて、MDに貼れるサイズで印刷してくれる機能。ちょっとしたオマケ機能のようだが、実際使ってみると非常に便利で、MDをキレイに整理したいと思っている俺にはチリバツな機能だ。なお、印刷される内容は、前述の、“半角文字データのカテゴリ”と“全角文字データのカテゴリ”から選べる。また、長い曲名は強制的に途中までの印刷になる(例えば、VOLCANIC DRUMBEATSならVOLCANIC DRU...みたいに)。でも手で書くより4096倍楽だ。

 あと、MD Editorで行なう文字入力以外のMD編集も快適だ。一般的なデッキだと、例えばMD上の無駄な空白部分を除去するために、けっこうタイミング勝負な感じでボタンを押していた。耳を澄ませ、ここだッ、という部分にさしかかったら、くわッ、と反射神経を総動員してタイミングよくボタンを押して編集するのだ。

 が、MD Editorを使うと、こんな苦労は不要になる。DIVIDEやA-B Eraseなどを行なう場合は、編集ポイントを微調整できるダイアログが表示され、小刻みにポイントを動かせる。また、設定したポイントを確認できるように、そのポイントを基準にして自動的に音をリプレイしてくれる。まあ、ビデオ編集ソフトのように、時間軸でわかりやすく編集対象を表示してくれるわけではないのだが、音の編集に“微調整”と“目安”を与えてもらえるメリットは大きい。

 なんだかちょっとわかりにくい説明になってしまったが、要するにMDS-PC1とMDEditorを使うと、MDへの文字入力をコンピュータからできて、しかも今までのデッキでは使えなかった漢字も使えるようになるし、編集も楽になるヨと、そういうことである。


MDエディター(カナ/漢字表示モード)
MDエディター上では、英数カナ(1バイト文字)以外に、漢字(2バイト文字)の表示が可能。漢字はMDS-PC1や他のMDデッキでは表示できない
MDエディター(漢字表示モード)
MDエディターで漢字のみを表示した状態。
MDエディター(カナ表示モード)
MDエディターで英数カナ文字のみを表示した状態。一般のMDデッキではこれらの内容が表示される。


■コントロールA1

 ともあれこのデッキを得た俺は、手持ちのMDに曲名を入力しまくりだし編集しまくりな感じで、ヒッジョーに痛快にオーディオコンピューティングしているわけだが、この素敵なコンピュータ&オーディオのシンクロを実現しているのが、ソニー独自のオーディオ機器接続規格ことコントロールA1だ。

 いろいろな手段を使ってコントロールA1について調べた俺なのだが、結局いまいち細かいことがわからなかったので、おおよそわかったことだけ書くと、コントロールA1は、コンピュータのSCSIっぽいイメージの接続(通信)規格で、オーディオ機器を最大10台まで数珠繋ぎできるというもの。MDS-PC1とコンピュータの接続を実現しているのもこのコントロールA1なのだが、さらにここに、別のコントロールA1対応機器をつなぐと、快適度がもっと高まる。例えば、MDS-PC1とコンピュータの連結に、コントロールA1対応CDプレイヤーのCDP-CE515をつなぐと、前述のMD Editorを使って、CD → MDへのコピーをコンピュータ上から操作できるようになる。なお、現在のところ、コントロールA1に対応したCDプレーヤーは、CDP-CX200FCDP-CE515のみのようだ。

ソニーCDP-CE515 (標準価格36,000円)
コントロールA1規格対応CDプレイヤー。5枚のCDをルーレット方式で収納できるCDチェンジャー機能を持つ。
ソニーCDP-CX200F (標準価格59,000円)
コントロールA1規格対応CDプレイヤー。200枚のCDを収納できるCDチェンジャー機能を持つ。

 俺としては、将来的には、コントロールA1によってソニーのオーディオ機器は全部コンピュータ経由でコントロールできるようになって、忌々しい多数のサイズも機能も使い勝手も違うリモコンの群れからオサラバできて、オーディオもまたコンピュータの周辺機器として扱えるようになって、すなわちコンピュータ野郎垂涎時代がやって来るような気がしなくもない。でも、ソニーのカタログを見る限りでは、まだまだコントロールA1対応の機種はわずかなので、ぜひ今後のソニー製オーディオに期待したい。ていうか力強くこのコントロールA1を展開して、コンピュータとオーディオの通信規格のデファクトスタンダードとなっていただきたいと思う。ていうか別にコントロールA1じゃなくてUSBとかでもいいのだが、とにかくまだまだ非常に疎遠なコンピュータとオーディオをもっともっと近づけ、最終的には融合させちまって欲しい。ていうかオーディオだけじゃなくて全装置類とコンピュータが融合しちゃう未来を望む俺だ。

[Text by スタパ齋藤]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp