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本機の概要を簡単に説明すると、QV-10サイズのボディーに、QV-700の主だった機能を凝縮し、さらに簡易動画記録とパノラマ再生機能まで盛り込んだ、内蔵メモリー専用のVGAモデルといえる。このところ新製品というと高画素モデルが話題の中心だったが、久々に登場したVGAらしさを備えたモデルとして注目される。
注:この記事に掲載している写真は、QV-770本体の写真を除いて全てQV-770で撮影したサンプル画像です。また、この製品の詳細については関連記事をご覧ください。(編集部)
●充実した基本機能
まず、本機を手にしてみると「やっぱり、これが“QV”だよなあ~」という感じがする。高画素 高機能化されるたびに、初代モデルが備えていたコンパクトさが失われていったのが、これまでの歴代QVだったが、ようやくこの「QV-770」になって、機能とサイズのバランスが取れた感じ。往年のQVユーザーなら、このサイズとデザインに、懐かしさすら感じるかもしれない(といっても、ほんの2-3年前なのだが )。
最初に機能面で見てゆくと、前記の通り、ほとんど「QV-700」のものを踏襲したものになっている。CCDは1/4インチの原色系35万画素タイプ。もちろん、QVシリーズはQV-200以前はすべて補色系CCDだったため、本機はQVシリーズとしては2機種目の原色系CCD採用機となるわけだ。
レンズは単焦点タイプで、QV-700と同等。ピントも従来通りのマニュアルフォーカスで、パンフォーカスとマクロの手動切り替え式となっている。個人的にはVGAクラスは無理にオートフォーカス化することはないと思っているが、パンフォーカスモードとマクロとの設定距離の差が大きすぎ、30cm~1mあたりでのフォーカスが怪しくなるのが残念。できれば風景撮影用の遠景モード、人物撮影用の近景モード、接写用のマクロモードの3ポジションくらいにして欲しいところだ。
絞りは、QV-700と同じく自動切り替え式となっている。といっても、F2とF8を明るさに応じて切り替えているだけなので、明暗比の高いシーンでは、ときおり、カメラが絞りを迷うこともある。また、F2(絞り開放)でのレンズ性能の低下も気になるところ。もちろん、これを避けるためには、マニュアルで絞り値を切り替える機能を利用する手もあるが、それ以前に、レンズ性能を向上させることが先決だろう。
さらに今回は、コンパクトなボディーにも関わらず、ストロボもきちんと内蔵されている。しかも、レンズ部と一体化されているので、レンズ回転時でも安心して使える点は便利だ。もっとも、これだけストロボの発光部がレンズに近いと、ストロボ使用時に人物や動物の目が赤く写る赤目現象が起きる心配がある。今回、短期間の実写では起きなかったが、白人などは赤目が起きやすいこともあるので、コンパクトカメラでは常識となっている赤目軽減モードくらいは搭載するべきだろう。
●意外に便利なIrDA 驚くほど持つ電池寿命
メモリーだけはQV-700と違って、4MBの内蔵メモリー専用となっている。まあ、VGAモデルなので、4MBあれば、日常的な撮影なら、枚数的な不満はさほど感じないケースも多いが、やはり交換可能なメモリを採用した機種に比べると、やや見劣りがする点は否めない。
しかし、本機の場合、PCへの画像転送方法として、従来のシリアル転送に加えて、赤外線転送であるIrDAを搭載しており、静止画転送の標準仕様となっている「IrTran-P」にも対応している点は便利だ。なにしろ、コードレスで転送できるため、IrDA対応のノートPCさえあれば、どこでも気軽に転送できる。
今回は「SONY VAIO 505EX」といっしょに持ち歩いたが、最近のサブノートではRS-232C用ポートが拡張アダプターと併用でないと利用できないモデルが多いこともあって、外出先でのシリアル転送はあまり現実的ではなかった。だが、IrDAでの転送なら、喫茶店でもノートPCとカメラを並べるだけで転送できるので、実に便利。しかも、意外なほど電池の消耗が少なく、今回も撮影も含めて200枚以上はIrDAによる転送をおこなったが、電池交換するどころか、まだ液晶上のバッテリー残量マークはフルになっているから驚きだ。
しかし、ベースになったQV-700と比べると、液晶のサイズやカードの有無があるにせよ、これだけのボディーサイズの違いは不思議でならない。正直にいって、「QV-700って、なんだったんだろう?」と思ってしまった。
●リファインされた操作性
操作性は今回、従来機よりもかなり変更されている。といっても、基本的なレイアウトはさほど大きく変わっているように見えず、モード関係の操作ボタンの位置が上部から液晶下に移動したように見えるかもしれない。しかし、実際には、機能が大幅に増えた分、従来カメラ上部にあったボタンだけでは足りなくなったこともあって、それらがシャッター周辺と液晶下に分散した形になっている。
操作感としては、当初、若干の違和感があったが、少し使っているうちに慣れてきて、従来タイプよりも使いやすくリファインされたという印象を受けるようになった。
もっとも、気になる点もある。それは誤操作を避けるため、DEL(削除)ボタンがなくなり、メニューのなかから呼び出すタイプに変わったことだ。確かに初心者には必要な配慮かもしれないが、従来からのQVユーザーの場合、不要になったコマを気軽に消せるというデジタルカメラならではの機能を活用していた人が意外に多いこともあって、この点は個人的に感心しない。
むしろ、これだけ機能が増え、ボタンの数が増えた分、いずれかのボタンに、自分が頻繁に利用する機能を割り当てられるカスタム機能くらい搭載して欲しいところだ。
●軽快な超高速記録と美しい液晶表示
実際に撮影してみると、これが実に軽快! とにかく、画像の記録時間が1秒未満で、記録による待ち時間をほとんど感じないレベルになっている点が好ましい。実際にメーカー発表では、0.7秒間隔での連写ができるというだけあって、ごく普通に撮影している分にはまったく不満を感じないレベルだ。
さらに好感が持てるのが、今回初めて採用された.HAST(Hyper Amorphous Siliconの略。ハイパーアモルファスシリコン) TFTと呼ばれる、高密度液晶モニター。いっけん、低温ポリシリコンTFTと見間違うほどクリアで、しかもMIM式のような解像度の高さを備えた感じの見え味を実現。さらに、斜め方向からの視認性も良好。これなら、コストの高い低温ポリシリコンTFTを無理に採用しなくても、このHAST式で十分だなあ~という印象だ。もちろん、液晶表示のレスポンスも実用十分なレベル。
光学式ファインダーはないが、日中の炎天下でも液晶の角度を自由に変えられるメリットを生かして、液晶に直射日光が当たらないようにすれば、画像の確認も十分できる。そのうえ、電池の消耗も驚くほど少ないので、光学ファインダーの必要性はほとんど感じなかった。
●とにかく楽しい! 簡易動画記録
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まず、簡易動画記録は、昨秋発売された「ソニー Cyber-Shot DSC-F3」が一足先に採用したもので、ようは、高速連写した画像を高速連続再生することで動画として見せるというもの。本機の場合、VGA画面を1/16分割して、秒間10コマの高速連写をVAG2コマ分(32フレーム)記録し、それを1フレームづつ液晶上で再生することで、3.2秒間の簡易動画を実現している。
もちろん、秒間10コマなので、ビデオに比べると動きが若干粗く感じるし、画像も1/16VGAなので解像度も不足気味ではある。しかし、実際にこの画像を、QVの液晶上で見てみると、これが実に楽しく、新鮮! もちろん、我が子や家族にも好評で、おそらく楽しさという面では、最近のモデルで一番”ウケた”モデルであることだけは確実だ。
もちろん、記録時間も3.2秒と短め(実際はこれで十分なシーンもある)だし、絵も粗いが、これだけ小さなカメラで、気軽に動画が記録できるという点では、ビデオカメラとは違った軽快さがある。
実際に使ってゆくと、将来、もう少し記録時間が延び(30秒~1分程度?)、画質が向上し、音声記録までできるようになると、動画を撮るためにわざわざビデオカメラを購入したり、持ち出したりしなくても、ポケッタブルなデジタルスチルカメラで日常的な動画記録ができる時代が来るような気がしてならない。本機は、先陣を切った「Cyber-Shot DSC-F3」よりも記録時間が長くなったぶん、デジタルカメラの新しい楽しさをより身近に感じさせるものに仕上がっている。
【アニメーションの記録例】 |
このアプリケーションを利用すれば、分割撮影した画像をもとに、簡単に動画ファイルが生成でき、しかも、「QuickTime VR」「QuickTimeムービー」「AVI」「アニメーションGIF」などポピュラーな動画対応フォーマットでの保存ができる。そのため、ホームページやE-MAILなどにも利用することができる点が実に便利だ。
アニメーションGIF【456KB】 | QuickTime【206KB】 | AVI【206KB】 |
●動画実写例2 電車
アニメーションGIF【451KB】 | QuickTime【205KB】 | AVI【205KB】 |
●動画/パノラマのカメラ本体での再生
QV-770本体での再生のもようをCyber Shotで撮影しアニメーションGIFにしてあります
【174KB】 | 【269KB】 | 【184KB】 |
●360度のパノラマ撮影
【Quiktime VR 546KB】 |
パノラマモードで撮影すると、1枚目を撮影したあと、画面の一番右側の画像の一部が半透明になって、液晶の左側に表示される。そのため、それを参考にして、それと重なるように次のコマを撮影すれば、簡単に大まかなパノラマ撮影ができるわけだ。
そして、再生時には、カメラ内で自動的にパノラマ画像を簡易合成(最大9コマまで。約360度の撮影が可能)。液晶上に横長画面として表示するばかりでなく、はみ出す分も、自動的に横方向にスクロールして再生してくれる点が実にユニークだ(今回掲載したアニメGIFはCyber-Shot DSC-F3で撮影した本機の液晶表示ものを掲載したが、記録時間が短いため、ほんのわずかしかスクロールしないように見えるが、実際には最大で約360度のスクロール再生ができる)。
もちろん、パノラマ記録時はVGAでの撮影になり、PCへの転送時には個別のファイルとして転送される。そのためこちらも、PC上でパノラマ化するには「QV-LINK」付属の「Spin Panorama」を使って合成する必要がある。今回付属されるものは、最新のパノラマソフトのような自動合成機能はなく、手動で接合箇所を指定する必要があり、操作が面倒な点が気になる。だが、操作しだいでは自動合成よりも正確な合成が可能になるというメリットもある。
【オリジナル 4,611×459ドット 170KB】 |
【修正後 4,611×459ドット 177KB】 |
●見栄えがよくなった実用レベルの画質
正直なところ、先代の「QV-700」は、同社初の原色系CCD採用機ということもあって、画質面では原色系CCDを使いこなすレベルにまでに至っておらず、不満の残るものだった。しかし今回は、原色系CCD採用機らしい、きれいな絵作りを実現している。
まず、従来の補色系モデルに比べると、明らかに色再現性が向上しており、渋い感じの色調から一転して、材度の高い、見栄えのするものとなっている。個人的には若干、再度を高めすぎているような感じもあるが、さほど嫌味な感じはなく、十分許容範囲。むしろ、パッと見たときの印象や一般ユーザーのウケを考えると、これくらいの彩度のほうが好まれる可能性も高い。また、明暗の再現域も従来機よりも広がっており、コントラストが高めのシーンでも実用十分な写りを実現している。
先代のQV-700で気になった、オートホワイトバランスの設定も本機では違和感のないレベルまで向上しており、画像の輪郭部に見られるジャギもやや軽減されている。さらに、暗いシーンにも強くなっており、初代QV-10のように夜景がストロボなしで写るようになった点は高く評価したい。
ただ、今回撮影したベータ版モデルでは、ややコントラストが低めに感じられるシーンも多かった。これも転送ソフトである「QV-LINK」側で自動補正すれば、比較的ヌケのいいきれいな画像になるが、今回は「QV-LINK」インストール時の標準設定である「補正なし」の状態で、同ソフトでJPEGに変換したファイルを掲載した。
解像度は若干の不満が残る。まあ、VGAモデルだけに、高解像度はさほど期待できないが、本機の場合、レンズ性能による画像に滲みが見られる点が気になる。もっとも、日中は絞りがF8側に絞られるので気にならないが、夕方や屋内撮影など絞りが開く(F2)になるシーンでは、レンズ性能の低下が顕著に見られたのが残念。もっとも、製品版では改良される可能性もあるので、この点はいずれ製品版でチェックしたいと思う。
ストロボ撮影時の調光レベルは比較的良好。とくに、屋内撮影では、その場の光とのミックス光になるケースが多く、このようなシーンでの調光バランスもいい。もっとも、マクロ撮影時には若干オーバーになる傾向が見受けられるのが残念だ。
●実写例
●デジタルの”楽しさ”をアピールしたエンターテイメント系モデル
現在のパーソナル向けデジタルカメラ時代のきっかけを作ったカシオ。そして、初代の「QV-10」は,液晶モニターを採用することで、撮ったものがその場で楽しめる点や、レンズが回転することでアングルが自由になり自分撮りも容易にできるという、デジタルカメラならではの楽しさを多くの人に知らせた歴史的なモデルといえる。その後、数々のモデルが登場したわけだが、残念ながら、初代「QV-10」のような方向性を明確に打ち出したモデルは無かった。
その意味で今回の「QV-770」は、いい意味で「QV-10」のハートを受け継いだモデルのように感じられる。以前、CESのレポートでも紹介したように、この「QV-770」はデジタルならではの楽しさをベースに、現在の技術で作り上げた「QV-10」の'98年 モデルといえる。
今年は多くのメーカーが高画素化に向かい、VGAが不作の年になりそうだ。しかし、PC上で扱うならば、VGAクラスの方がハンドリングも軽快で扱いやすい点も事実といえる。さらに、データ量の重さは、記録時間の長さにも繋がるため、カメラの軽快感を損ねるケースも少なくない。
その意味で本機は、VGAならではの軽快感と、デジタルカメラらしい楽しさをうまくバランスさせたモデルといえる。なかでも、簡易動画記録は一度使ってみるととにかく楽しく、将来性もありそうだ。
ある意味で本機は「QV-10」系列の完成型であり、デジタルカメラらしいデジタルカメラといえる。また、動画やパノラマ再生といった新たな楽しさへのチャレンジも大いに注目される。
だが問題は、QVのバックボーンを知っている人には、このスタイルや基本機能などがある程度理解できるが、すべての点で最新モデルに引けを取らないわけではない。しかも、価格が53,000円と他のVGAモデルよりやや高めで、しかも必ず、転送ソフトやケーブルを購入する必要がある点では、割高感がある点も否めない。そのため、動画やパノラマといった魅力はあるにせよ、これから新たにデジタルカメラを購入しようという人にとって、本機がどれだけ魅力的なものとして映るのかという点では、やや疑問が残る。本機はカシオにとって、ひとつの分岐点になるモデルのような気がしてならないだけに、機能以外に大きなインパクトがない点が市場でどのように受け取られるのだろうか? なかなか、興味のあるところだ。
■注意■
('97/3/5)
[Reported by 山田 久美夫 ]