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Microsoft Gamestock '98 レポート その2

~Microsoft、ソフトウェア&ハードウェア制作の裏側~


gamestock logo 会場:Seattle Microsoft RedWest Campus

開催期間:2月17日~18日



 米Microsoftが今年一年間の間に発表するゲームソフト、およびジョイパッドなどのゲームデバイスを世界中のマスコミに発表する「Microsoft Gamestock '98」が、アメリカのMicorosoftで2月に開催された。前回のレポートでは午前中に発表された新作ゲームソフト、およびデバイスを紹介したが、今回は午後に行なわれたいろいろな制作現場の見学会を写真を交えながらレポートする。


●注目のゲームデバイス「Tilt」ができるまで

Tilt
新コンセプトデバイス「Tilt」
 ひとつのデバイスが発売までこじつけるまで、かなり多くのプロセスが存在する。今回見せて頂いたのは、上下左右に傾けるだけでゲーム内のキャラクターを操作できる新型ゲームデバイス「Tilt」の開発プロセスだ。

 まず最初に机上で、商品コンセプトを考慮しながら、どのようなデザインにするかラフスケッチをいくつも仕上げることから始まる(写真 1)。その中からいくつか選択し、モックアップを制作してみる(写真 2)。工業デザイン的な見地から手に馴染むかをじっくりテストした上で、3D上での設計に移ることになる。ここではもちろんCADを使い内部構造も考えた上で設計され、初期モデルから変更も加えられる。
 ここで再度モックアップを作成。前回のモックアップは形のテストだけだったが、今回はそのモデルの中に実際に必要なもの(基板やボタンなど)がすべて組み込めるかと言った現実的なレベルまで検討される。ここでのデザインが終了した時点で、初めて工業デザイナーのもとを離れ生産ラインに入るのだと言う。

 前述のテスト、すなわち「人間の手に馴染むのか?」「ボタンの最適な位置関係」などのテストをする現場も今回公開された(写真 3)。Microsoftではこのテストにモーションキャプチャー技術を応用している。テストする人間にモーションキャプチャーをセットし(写真 4)、4台のカメラで人間の動きを追う(写真 5)。これをコンピュータで記録し、データを詳細に記録、検討するのだそうだ。

 今回発表された「Tilt」は企画からこれらの工業デザインの検討、テストまで1年半以上かけているという。

写真 1ラフスケッチ群。完成品とはかなり違うデザインも含まれている。 写真 2モックアップ。簡単なデザインから入り、徐々に細部を詰めていく。 写真 3デバイスのテストルーム。
「Tilt」制作現場写真1
「Tilt」制作現場写真2
「Tilt」制作現場写真3
写真 4モーションキャプチャーをセットしてテストを行なっている現場写真。 写真 54台のカメラが、テスターの動きを捉えるためにまわりに設置。
「Tilt」制作現場写真4
「Tilt」制作現場写真5

 

●ワークステーションがズラッと並ぶ「3Dグラフィックスデパート」

3DCGデパート1
通称「3Dグラフィックスデパート」と呼ばれるグラフィック作成部署
 次は、ゲーム内の3DCG、音楽、効果音、販促用ビデオなどの制作スタジオを見学。UNIXやWindows NTなどのワークステーションがずらりと並び、床下には無数の接続ケーブルが這い回る、いかにもゲームを制作しているといった感じだ。

 ここでもいくつか興味深いものがあったのだが、そのひとつが「3Dグラフィックスデパート」と呼ばれるグラフィックス作成関連の部署だ。シリコングラフィックスなどの20台のワークステーションがところ狭しと設置されており、バッチレンダリングで作業する様は壮観ともいえる。
 ちょうど見学していたときに、離れた位置にあるモーションキャプチャー室で人の動作データを取り込み、リアルタイムでワークステーションのほうに転送し、その人の動きに合わせてワークステーション上のキャラクターを動かす作業を行なっていた(写真 7)。機械の調子が悪いようで、実験開始直後にプログラムがとんでしまったが、少しの間ではあったが、画面内のポリゴンキャラが実際の人の動きをなぞって動いていた。
 部屋の隅には見慣れない機械が数多くあったのだが、そのひとつがこれ(写真 8)。これは椅子に座った人間を丸ごと3Dデータ化する装置だそうで、椅子のまわりを囲っているわっかのところにカメラを設置すると、ぐるっと一周して真ん中に座っている人物のデータをそのまま3D化してくれるのだそうだ(写真 9)。

 そこに隣接する形で設置されていたのが音楽を作成するスタジオと効果音などを担当する部署だった。音楽の作成スタッフはすべてプロミュージシャンということで、かなり広いスペースの個室で作業を行なっていた(写真 10)。また、ひときわ大きなスタジオでは、現在制作中というDVDソフトの音声リミックスがまさに作業中といった状況だった。
 隣にあったのは効果音のサウンドラボ。ここは「Microsoft Golf 1998 Edition」の効果音作成の真っ只中(写真 11)。どのような作業かというと、実際にパソコンから聞こえてくるゲームの音声を聞きながら、音の位置関係などを調整しているところだという。「Microsoft Golf 1998 Edition」の効果音ではいくつか新しい試みがされており、ベースとなる環境音、たとえば草木のざわめきや小川のせせらぎといった音のほかに、画面内にある木などのオブジェクトに音を貼り付けたり、隠したりすることができるという。つまり、立体的に音を配置することができるということだ。さらに小鳥のさえずりなども一定間隔ではなく、ランダムに再生するようにプログラムしているという。
 今回の「Microsoft Golf 1998 Edition」では実現されるかどうかわからないが、プレイヤーの行動に音も連動するインタラクティブな設定も可能とのこと。ゴルフで例えるならば、プレイヤーの打ったゴルフボールが木にぶつかって小鳥が飛び立つなどの音の変化が再現できるというわけだ。

写真 7オンラインでデータを受け取りリアルタイムでキャラを動かす。 写真 8この風変わりな機械の真ん中に人間が座り、カメラでデータをとる。 写真 9作成データを表示したもの。
3DCGデパート2
3DCGデパート3
3DCGデパート4
写真 10個人の音楽作成スタジオ。かなりゆったりとしたスペースだ。 写真 11サウンドラボ。日夜、効果音の作成に明け暮れている。
音楽スタジオ
サウンドラボ

 

●マーケティングのためのデータ収集はどのように行なわれているのか?

 Microsoftはマーケティングがうまい。もちろん製品も優秀なのだろうが、製品をどう売ればいいのかを、かなり研究しているのではないだろうか。その一端を覗いたのが次の部屋だった。

 それほど広くない、殺風景な部屋にずらりとならべられたPCとジョイスティック。この部屋では日夜ゲームのテストプレイが行なわれているという。もちろん社内だけでなく、消費者にも体験してもらい、プレイした感想が収集されている。また、ここではプレイヤーに「どうして面白いか?」といった問いではなく、他社製品と比べて、ただ単純に「どちらが面白いか」だけをチェックするという(製品のユーザーアビリティなどは別の部屋でチェックする)。「Age of Empire」のときに行なわれた集計結果がこちら(写真 12)。このグラフでは、緑の線がMicrosoftの「Age of Empire」、赤の線がVirgin Interactiveの「Command & Conquer Red Alert」、青の線がBlizzard Entertainmentの「Warcraft」、黒の線がACTIVISIONの「DARK REIGN」の人気の変遷となっている。
 面白いのが、Microsoftのこのチェックシステムを作り上げたのが、もとNINTENDO OF AMERICAで同じシステムを作り上げた人だったという点。マーケティングに関して言えば任天堂もまたかなりのノウハウを持っているはずだ。そのノウハウをうまくMicrosoftに持ってきたといえるだろう(ちなみにすぐ近くにNINTENDO OF AMERICAの社屋があるのが面白い)。

 最後に見学したのは、ソフトのユーザーアビリティ(インターフェイスや操作系)をチェックする部屋だ。こちらの部屋もこじんまりとしたところなのだが、他の部屋と違うのはドアと反対の壁に大きな鏡があることだ。そう、この鏡はマジックミラーとなっていてそのむこうの部屋では、ソフトの制作者がユーザーがどのようにソフトを操作しているかをチェックしているわけだ(写真 13)。たとえば子供をひとりでこの部屋に連れてきて、隣の部屋から親がマイクを通じて指示をする。「恐竜を検索してごらん?」これに対して子供はどのような動作をとるのか。それらがすべてチェックできるという(ビデオカメラでもチェックしている)。もちろんチェック対象は子供とは限らない。パソコンを使いなれた人から初心者まで入念にチェックし、その結果を元にブレインストーミングが行なわれる。取材当日も隣の部屋ではチェックが行なわれていた。

写真 12競合他社製品と比べてどちらが優秀かをテストする。 写真 13ストロボで見えないが、このガラスの向こう側にテスターがいる。
競合製品とのチェック
マジックミラーの向こう側

 

●お・ま・け Microsoftを丸裸にする

本社
よく写真などで見かけるMicrosoft本社
 ついでにMicrosoftの社員の方のご厚意でいろいろ社内見学させて頂いたのでつれづれに書き綴ってみましょうか。
 アメリカにあるオフィスの多くは個室を持ってといる……のかどうかははよく知らないが、Microsoft社内は、日本人から見れば恵まれすぎていると言いたくなるほど広い。星型のビルが広大な土地に点在し、さらにこれから大型オフィスをいくつも増築中だ(ちなみにシアトルからはあまり自然を壊してはいけないと警告されているとか)(写真 15)。社内にはサッカー場にバスケットコート。さらに公園があり(写真 16)、滝まであるしまつ。
 仕事部屋は、役職などによって広さが違うとはいえ、一人、もしくは二人でひと部屋を与えられている。その部屋の中はもうセンス・オブ・ワンダー! アメリカではメジャーな炭酸飲料“7 UP”に埋もれそうになっている人、Microsoftのお人形ActiMates“Barney”写真 17)20体くらいに囲まれている人、バッドばつ丸の暖簾をかけている人……人それぞれ千差万別なのである。
 ただし、やはりそこはパソコン関連の仕事をしている人たち。日本人とあまり変わらないようだ。多くの人がカフェテリアから自分の個室に食事を持ち込み食べながら仕事をしていました。コンピュータ関連の人って食事の時間も惜しいっていうのは万国共通なのかも。おっと、食事の話が出たので関連する話をもうひとつ。Microsoftには各フロアに大きな業務用の冷蔵庫が設置されている。中にはジュースや牛乳が入っていて、社員は飲み放題! なのだ。ふとっぱらというか、ちょっとうらやましいかも。
 あと変わった所と言えば、フロアのあちこちにアーケードゲームが設置されていること。(写真 18)これがほとんどフリーで遊び放題。会社内を歩いているとあちこちにいきなりゲーセンが登場するのである。置いてあるのは、「Thunder Blade(それもアップライト筐体)」や「StreetFighter II'」など一昔前のゲーム機ばかりだけどね。ただし、RedWest Campusに一台だけ「Virtua Fighter3」が置いてありました。これが筐体に鈴木裕氏のサインが書いてあったりして、こんなところにもSEGAとMicrosoftのつながりがあったのか……とか思わせます。ところがこれが有料。ちゃっかりしてますね。

 一方、Microsoft社内には「Microsoft Company Store」(写真 19)というのがあり、社員は自社製品やここでしか売っていないMicrosoftグッズを購入することができる。ただしソフトは購入上限が設定されているようで、際限なく買えるというわけにはいかないようだ。その隣にはコンピュータの歴史をぎっしり詰め込んだ「Microsoft Museum」を設置(写真 20)。見学当日はテレビ撮影のほか、近所の小学生が学校の授業で大挙して見学に来ていた。中には貴重なコンピュータがギッシリ(写真 21)。たとえばALTAIR 8800 COMPUTER(写真 22)やAPPLE II(写真 23)が展示されていた。

写真 15
写真 16
写真 17
Microsoft探訪1
Microsoft探訪2
Microsoft探訪3
写真 18
写真 19
写真 20
Microsoft探訪4
Microsoft探訪5
Microsoft探訪6
写真 21
写真 22
写真 23
Microsoft探訪7
Microsoft探訪8
Microsoft探訪9

 
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 仕事を効率的にこなすために、いろいろな娯楽施設を内包するMicrosoft。各部屋からはバリバリと音が聞こえてくるように仕事が進んでいるようだったので、おそらく予定通りWindows 98も出荷され、Game環境も驚異的な進歩をとげサクサクっと楽しめるような時代がやってくるんですよ、ねぇ、Microsoftさん? 社内にはいたるところに「Windows 98のテストにご協力ください」なんてポスターが貼ってあったしさ!
 最後の最後にMicrosoft社内で見かけた、ちょっと秘密の写真を一枚公開しておこう。これってどこから持ってきたのでしょうねぇ?


□米Microsoftのホームページ
http://www.microsoft.com/
□米Microsoftのゲーム関連ページ
http://www.microsoft.com/games/

('98/2/24)


[Reported by funatsu@impress.co.jp]


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