●Internet WorldでJavaSoftがJDK1.2のβ版を発表か
ニュース枯れというのは、COMDEXあとのPC業界のこの静けさを形容するのにぴったりの言葉だ。しかし、今週はインターネット業界とCATV業界の2つのイベントのおかげで、ようやく業界ニュースに困らない週になりそうだ。
まず、インターネット業界のショウ「Internet World」に関しては、かなりの数の記事が上がっている。たとえば、MicrosoftがBackOfficeサーバースィーツをバージョンアップするというニュースが「Microsoft To Announce New Version Of BackOffice Server Suite」(InformationWeek,12/4)で報じられている。一方、MicrosoftのライバルSun Microsystems旗下のJavaSoftが「Java for the Enterprise」イニシアチブや「Java Development Kit (JDK) 1.2」のβ版などを正式発表するというニュースも流れている。「Sun to push Java for the enterprise at Internet World」(InfoWorld,12/5)。このほかにもEコマース関連やエンタープライズ向け製品などで新発表がかなりありそうで、インターネット業界はあわただしくなりそうだ。
●共通仕様のケーブルモデムがCATV業界ショウで一挙に登場
今週のもうひとつの目玉は、10~12日にかけてカリフォルニア州アナハイムで開催されるケーブルTV業界のイベント「Western Cable Show」だ。CATV関連ショーが、なぜ注目かというと、これがケーブルモデム同士の相互接続を確立するための標準仕様Multimedia Cable Network System(MCNS)/Data Over Cable Service Interface Specification (DOCSIS)に準拠したケーブルモデムの、事実上のお披露目の場になるからだ。このスペックは、米国の大手ケーブルテレビ事業者が中心となって推進しているもので、11月中旬にこの仕様の認定プログラムが発表されたことで、正式に対応モデムを発表できるようになった。COMDEXレポートで伝えたように、米3COM社はそれに合わせて「U.S. Robotics Cable Modem VSP/VSP Plus」を発表したが、「Samsung enters cable modems」(NEWS.COM,12/1)によると韓Samsung Electronics社も発表するようだし、米Bay Networks社や米Com21社なども出展するらしい。MCNS/DCSISはまだ完成していない部分があるが、それも遠からず確定する予定で、計画通り98年中盤には共通化されたケーブルモデムがいよいよ販売されることになりそうだ。
●Intelもセットトップボックスに進出か
また、「The set-top computer is the future」(NEWS.COM,12/5)によると、このWestern Cable Showでは、Intelも放送業者やケーブルTV業者との提携を発表するという。これは、Intel製MPUベースのセットトップボックス型コンピュータ「set-top computer」に関するものになるらしい。Intelは、先週軽量クライアント構想「Lean Client」を発表して、PC以外の世界へ拡大する意欲を明らかにした。セットトップボックスというのは、その点ではうってつけの市場なわけで、おおいにあり得る話だろう。しかし、これはWebTVをCATV用セットトップボックスに売り込もうとしているMicrosoftと、戦略的にかみ合わない点が出てくる可能性がある。というか、Lean Clientという構想自体が、MicrosoftのライバルであるNC (Network Computer)陣営とも手を結ぶことを意味しているわけだ。
そんなわけで、「Is Intel's Tie To Microsoft Loosening?」(The Washington Post,12/4)のように、Wintelの結びつきはほどけつつあるのか、というテーマの記事も登場することになる。この記事自体は、それほど内容があるわけではないのだけれど、誰が見てもそう見えるというところが、今回のIntelの大戦略転換のポイントだろう。もちろん、Intelの狙いはPC依存を脱却して、より広い市場を獲得することで、記事中の米Intel社のパトリック・P・ゲルシンガー氏(副社長兼Business Platform Group General Manager、COMDEX後に管轄グループが変わった)の「Here we're saying, `Boy, this is a new market」というコメントが、生々しい。
●ディジタルTVでIntelとMicrosoftの間に亀裂?
IntelとMicrosoftの歩調の乱れは、これだけではない。先週は、ディジタルTVに関しても、両社のほころびが見え始めた。今年4月頭、米国ラスベガスで開催された放送業界の展示会「National Association of Broadcasters Convention (NAB) 97」で、IntelはMicrosoft、米Compaq Computer社とともに、米国の次世代地上波ディジタルTV放送に関して、PC業界からの提案を行った。これは、ノンインタレースで段階的に解像度を上げるというPCと融合しやすい仕様で、基本的にはディジタルTV時代の受信機器はPCにしようという案だった。そして、その仕様を推進するために「Digital TV Team(DTVチーム)」と呼ぶコンソーシアムを結成したのだ。ところが、放送業界は、この仕様に難色を示し、高解像度でインタレースの仕様で進めようとしていた。そんなわけで、今年の春以来、PC業界とTV業界の間で、綱引きが行われていたらしいのだが、今回、IntelはPC業界案を諦める決断をしたらしい。これを報じているのは「TV-PC picture clears up Intel declares truce on developing computer-friendly digital television」(San Jose Mercury News,12/4)で、それによると同社は放送業界仕様のディジタルTV信号をコンピュータ用に変換するアダプタのプロトタイプをデモしたという。「Intel Supports Broadcasters Over Microsoft, Compaq」(The Wall Street Journal,12/5、有料サイト http://www.wsj.com/ から検索)の中では、Intelの幹部が最初の提案は失敗だったと語っており、Intelが路線を変更したのはかなり確実な話らしい。
●Microsoft対司法省、第1ラウンドは大したファイトなし
ところで、先週はMicrosoft対司法省の裁判の第1ラウンドも行われた。しかし、初回の公判では、どうやら大きな進展はなかったようだ。結構わからないことだらけの今回の裁判で、最初のポイントのひとつは、決着がつくまでにどれだけかかるかだ。司法省の方は明らかに短期決戦を狙っているし、Microsoftの方は態勢を整えるためか、時間を稼ごうとしているという。しかし、「Microsoft, Justice Square Off, But Hearing Ends Without Ruling」(The Wall Street Journal,12/8、有料サイト http://www.wsj.com/ から検索)によると、初公判ではその点に関してもあまり明確にならなかったらしい。ほとんど、両者が意見を述べるだけにとどまったようだ。しかし、Wall Street Journalでは、司法省側に追加の証拠の提出が求められなかったことは、司法省側のささやかな勝利だと見ている。また、記事を読むと、論点は、やはりInternet ExplorerとWindows 95が別々な製品か、それとも統合された製品なのかという点にも及んだらしい。
●MicrosoftがJava関連イベントを直前キャンセル
Microsoftの裁判というと米Sun Microsystems社とのJava訴訟があるが、こちらは裁判自体はあまり動きがない。しかし、ちょっと面白い動きがあったようなので紹介しよう。「Microsoft cancels Java developer confab」(InfoWorld,12/3)によると、同社は12月5日と6日に開催する予定だったJava関連セミナー「Java Summit」を直前になってキャンセルしたという。このイベントは、Microsoftにとって、Java訴訟に関する自社の立場を明らかにするチャンスだったわけで、一体何が起きたのか、たとえばMicrosoftの方向転回の前兆なのかと、憶測を呼んでいる。いずれにせよ、開催2~3日前のキャンセルというのは、尋常ではなく、Microsoftの内部にも混乱があるのは確かだろう。
●CompaqがAMDのK6を採用か
米Advanced Micro Devices(AMD)社にとって、98年はさい先のよいスタートを切ることになりそうだ。というのは、「Analyst Says Compaq Will Start Selling PCs With an AMD Chip」(The Wall Street Journal,12/3、有料サイト http://www.wsj.com/ から検索)など複数の記事が、米Compaq Computer社が1月からK6搭載マシンを売り始めるというニュースを伝えているからだ。Compaqが大々的に採用するというのは、実質的にK6が売れるというだけでなく、K6がもう量を確保できるという証拠を示すことになるわけで、K6の歩留まり問題の不安をうち消すという効果も期待できる。AMDは1月が待ち遠しいだろう。
●CompaqはCyrixのMediaGXをノートにも採用か
ところで、Compaqはサブ1,000ドルPCのローエンドモデルにはCyrixの統合型MPU「MediaGX」を採用してきた。どうやら、同社は、その戦略をノートパソコンにも広げようとしているようだ。「Compaq to market MediaGX-based notebooks and desktops, say sources」(Computer Retail Week,12/2)によると、CompaqはMediaGXのMMX版を2,000ドル以下の低価格ノートパソコンに採用するという。もともと、MediaGXはマザーボードサイズもシステム全体の消費電力も小さくできるので、ノートパソコンには向いている。しかし、マザーボードの供給を受けることができるデスクトップとは異なり、ゼロから設計しなければならないノートパソコンでは、なかなかMediaGXを採用するという度胸のあるメーカーはいなかった。Compaqがもしこれに踏み切れば、MediaGXの認知度がまたひとつ上がることは間違いがないだろう。
[Reported by 後藤 弘茂]