非同期通信レポート 第22回

「COMDEX/Fall'97」 Telecomレポート Part.1

TEXT:法林岳之


COMDEX/Fall'97で見つけた注目の通信関連機器

 '97年11月16日~22日までラスベガスで開催されていたCOMDEX/Fall'97。筆者も11月15日から取材に出かけ、いろいろな情報を仕入れてきた。すでに数多くのレポートがPC Watchにも掲載されているが、遅ればせながら、例によって通信関連機器のレポートをお送りしよう。

 海外レポートは'97年6月に開催されたComputex/Taipei'97以来だが、OEM中心のComputex/Taipeiに対し、COMDEX/Fallは日本市場にも参入しているメーカーが数多く参加しているため、メドが立てば、すぐにでも市場に投入されそうな製品が多いはず。個人的には非常に期待を持って、ラスベガスに入った。


56kbpsの次は67kbpsと112kbpsだ!

 昨年のCOMDEX/Fall'96では、56kbpsモデムが注目を集めたが、わずか1年でさまざまなメーカーから対応製品が販売されることになった。規格はRockwell Internationalなどが提唱する『K56flex』と、3com(旧U.S.Robotics)などが提唱する『x2 Technology』に割れてしまったが、今回のCOMDEX/Fall'97でも両陣営の製品を数多く見ることができた。しかし、高速化の道が56kbpsで止まったわけではない。今度は『67kbpsモデム』と『112kbpsモデム』の登場だ。

Transend 67
Transend 67
Diamond Multimedia Supra Sonic II
Diamond Multimedia Supra Sonic II

 まず、Transendが展示していたのが『Transend67』という製品だ。その名の通り、最大67.2kbpsでのデータ転送をアップストリームとダウンストリームの両方向で実現する。ただ、67.2kbpsという速度のタネ明かしをしてしまうと、要するに最大33.6kbpsでのデータ転送が可能なV.34モデムを2台、アナログ回線を2本用意し、それを束ねて転送している。同社ではクライアント用だけでなく、プロバイダ側で利用するアクセスサーバもラインアップしており、プロバイダ側にもセールスしていくそうだ。ちなみに、同社はブラジルに本拠を置くDigitelという企業の子会社だ。

 一方、ビデオカードなどでもおなじみのDiamond Multimediaが発表したのが『Supra Sonic II』という製品だ。『SHOT GUN』という独自の技術を用いることにより、ダウンストリームで最大112kbpsというデータ転送速度を実現している。アナログモデムでオーバー100kbpsとは驚きだが、こちらもアナログ回線を2本使う。計算の早い人なら、もうおわかりだろうが、K56flex方式による56kbpsモデムを2台利用しているわけだ。

 ともに、アナログ回線を2本束ねるという発想から実現された製品だが、ローカルコールが毎月定額で利用できる地域が多いアメリカの通信インフラストラクチャ事情を反映した製品と言えるだろう。日本ではアナログ回線をもう1本用意するくらいなら、ISDNに乗り換える方がはるかに快適であることは言うまでもない。これらの製品が日本市場で販売される可能性は、まずないと考えた方が良さそうだ。


ラインアップ豊富なMultiTech Systems

MultiTech 56kbpsモデム
MultiTech 56kbpsモデム
MultiTech PCカード製品
MultiTech PCカード製品

 今回のCOMDEX/Fall'97を取材して驚いたのは、まずモデムメーカーがいきなり少なくなっているという点だ。以前ならば、U.S.Robotics(現在の3com)、Hayes Microcomputer Products、Supra、ZOOM TelephonicsMicrocomBOCA Researchといったメーカーがいくつも出展していたのだが、ここ1~2年ほどの間で、買収や事業縮小・撤退などの策をとったメーカーがあったためか、台湾勢のコストパフォーマンスに押されたのか、モデムなどの通信機器をフルラインアップで揃える企業はほとんど見かけなくなってしまった。

MultiTech RouteFinder
MultiTech RouteFinder

 そんな中、コンシューマ向けモデムからアクセスサーバ、ラックマウントモデムまでフルラインアップで製品を揃えていたのがMultiTech Systemsだ。同社は日本ではあまりなじみがないが、幅広いネットワーク機器を揃えるメーカーとして海外では評価が高い。

 コンシューマ向けではK56flex方式を採用した56kbpsモデム(外付けタイプ)をはじめ、PCカード製品などがラインアップされているが、意外に充実しているのがISDN関連製品だ。主にヨーロッパ市場に出荷しているようなので、日本向けにも比較的簡単にローカライズできるかもしれない。

 また、ダイヤルアップルータではISDN回線や専用線向けだけでなく、アナログ回線向けの『RouteFinder』が展示されていた。この製品は56kbpsモデムを内蔵したモデルと内蔵していないモデルが用意されている。シリアルポートが高速ならば、ISDN TAを接続してISDNダイヤルアップルータとして利用できそうなのだが……。



U.S.Roboticsから3comへ

 合併により、総合ネットワーク機器メーカーへと脱皮したのが3com(旧U.S.Robotics)だ。合併前の3comは企業向けのネットワーク機器メーカーという印象が強かったが、U.S.Roboticsと合併したことにより、個人から企業まで幅広いユーザー層をターゲットにすることになり、今回もコンシューマ向けのモデムやPalmPilotから、企業向けのネットワーク機器まで幅広い製品を展示していた。

3com U.S.Robotics Voice Modem
3com U.S.Robotics Voice Modem
3com ISDN関連製品
3com ISDN関連製品

 まず目についたのは、新しいデザインを採用した56kbps対応Voice Modemだ。旧U.S.Roboticsからも56kbps対応Voice Modemが販売されていたが、今回の製品はスピーカー部を強調したデザインになっている。ちょうど会期中の11月20日に正式発表されているが、パソコンとの接続にUSBポートを設けているのが特徴だ。おそらく国内にも来年早々に登場することになるだろう。

 一方、ISDN関連製品は3comが開発したものと、旧U.S.Roboticsが開発したものが混在する状況が続いている。右の写真の棚の上に載っているのは、3comのImpactIQというISDNターミナルアダプタだが、棚の下には旧U.S.RoboticsのCourier I-modemSportster ISDN 128Kが展示されている。ターゲットは微妙に異なるのだが、このあたりのラインアップをどのように整理してくるのかが気になるところだ。個人的には、ImpactIQシリーズを日本市場に投入して欲しいのだが……。

 この他に、3comは業界標準規格を採用したケーブルモデム(撮影拒否)、ISDNダイヤルアップルータのOfficeConnect Remote5x1などを展示していた。Office Connect Remote5x1シリーズの方は最も安い製品が795ドルなので、もう少し価格を下げられれば、日本市場でMN128-SOHORT80iなどのいいライバルになるかもしれない。

 ただ、正直なところを言わせてもらうと、3comブース内で最も盛り上がっていたのはPalm Pilotの展示スペースだった。総合ネットワーク機器メーカーに脱皮しながら、最もウケたのがPDAというのは何とも皮肉な話だ。なお、Palm Pilotについては、あらためて別のレポートで紹介しよう。



コネクタ部に工夫をこらしたPCMCIA LAN&モデムカード

Viking TypeIII LAN&Modemカード
Viking TypeIII LAN&Modemカード
Xircom CREDITCARD Ethernet10/100+Modem 56
Xircom CREDITCARD
Ethernet10/100+Modem 56

 世界的にノートパソコンが好調な影響もあってか、いずれの通信機器も外付けタイプよりもPCカードタイプが数多く出展されていた。ただ、基本的には従来と同じものが多く、56kbps対応モデムのバリエーションが増えたに過ぎないというのが正直な感想だ。そんな中から2つほど製品をピックアップしてみた。

 上の写真のPCカードモデムは、アメリカでメモリなどを販売する周辺機器メーカーとして知られるVikingの製品だ。一見、何の変哲もないようなPCカードだが、実はPCMCIA Type IIIのLAN&モデムカードで、アナログ回線のモジュラーコネクタと10BASE-TのコネクタがPCカードに直接挿せる形状になっている。つまり、余分にケーブルを必要としないというわけだ。まだ、モックアップしかないため、詳しいスペックは教えてもらえなかったが、56kbpsモデム部はITU-T勧告時にアップグレードすることが可能とのことだった。ただ、現実的に考えると、Type IIのカードでケーブルが出ている方がPCカードスロットもムダにならないような気がするのだが……(笑)。

 一方、下の写真は日本でも製品が販売されているXircomのPCMCIA LAN&モデムカード『CREDITCARD Ethernet10/100+Modem 56』だ。この製品ではケーブルのコネクタ部分をMiniDockと呼ばれる外付けのボックスにまとめている。Type II×2のPCカードスロットで利用するときは、上のスロットに入れれば、もう一方のスロットとの物理的な干渉はある程度防ぐことができるようだ。ノートパソコンに装着したときもケーブルが背面側に出るため、美しくまとめることができる。ちなみに、MiniDockを添付していないパッケージも用意している。

 ノートパソコンもいろいろな周辺機器が接続できるようになり、PCカードも多機能化(マルチファンクション化)が当たり前になってきたが、こうしたケーブル類の取り回しをどうまとめるかもメーカーの腕の見せ所。より一層の工夫を期待したいところだ。



普及モデルを充実させるAscend Communications

Ascend Communications Pipelineシリーズ
Ascend Communications Pipelineシリーズ
(上から順に、Pipeline15/130/85)

 Ascend Communicationsと言えば、アクセスサーバなどのネットワーク機器メーカーだ。国内ではプロバイダで数多く採用されていることで知られている。今回は会場内の個室で製品を展示していた。

 まず、写真の最上段にある『Pipeline 15』はISDNターミナルアダプタだ。デジタルポートは64/128kbps接続に対応し、MPやMP+、BACPといったプロトコルもサポート。アナログポートも2つ備えており、フレックスホンに相当する機能も搭載している。セットアップはWindows上で動作するウィザード形式のものが添付されており、15分以内にセットアップできるとしている。

 企業向けのアクセスサーバなどで高い評価を受けている同社がコンシューマ向けのISDNターミナルアダプタを販売するのは不思議な気もするが、裏を返せば、それだけアメリカでもISDNが認識され始めてきたということなのだろう。

Ascend Communications Pipelineシリーズ
Ascend Communications
Pipelineシリーズの背面
(上から順に、Pipeline15/130/85)

 次に、写真の最下段にあるのがISDNダイヤルアップルータの『Pipeline85』だ。同社は昨年、SOHO向けにPipeline25という製品を販売していたが、Pipeline85はSOHO向けの最新モデルだ。MPやMP+、BACPといったプロトコルに対応し、オプションでSTAC圧縮も搭載できる。もちろん、NATやDHCPサーバ機能も搭載し、アナログポートを2つ、4ポートハブも備えている。実売価格はおよそ700~800ドルを想定しているそうだ。これだけのスペックと価格ならば、MN128-SOHOやRT80iなどのライバルになりそうだ。

 気になるセットアップ部分だが、Ascend Communications独自のJava-Based Pipeline Configurator(JBPC)を搭載することにより、GUI環境でのセットアップを可能にしている。従来のVT-100ターミナルモードのセットアップに較べると、大きな進歩と言えるだろう。ちなみに、このJBPCは同社のPipeline 25-Fx/25-Px/50/75などにも対応しており、同社のFTPサイトからダウンロードすることが可能だ。

 両製品の日本市場投入はまだ正式に発表されていないが、Pipeline 85については日本法人のページで「日本での販売が決定次第、掲載します」アナウンスされているので期待できそうだ。逆に、Pipeline15については、競争が激しい日本のISDN市場を考えると、やや望み薄かもしれない。いずれにせよ、日本市場でも活発にコンシューマ向け製品を展開して欲しいところだ。


Part.2へ続く

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp