エレクトロニクスショーの大半を占める電子デバイス系。実際にホール1~9がすべてこの手の展示であり、製品系は小さめの別会場となっていることを見ても、そのスケールが想像できるだろう。
もちろん、こちらは電子デバイス、つまりは”部品”なので、それが即座に製品として登場してくるわけではない。しかし、昨年はサンヨーが本イベントで初めて「低温ポリシリコンTFT液晶」をデバイス部門に出品してから、多くのメーカーに採用されたように、来年のデジタルカメラの動向を占ううえで、とても大きな興味深い展示といえるわけだ。
そして今年も、今後のデジタルカメラに採用されそうな電子デバイスが数多く出品されていた。といっても、私自身は電子デバイスの専門家ではないので、その概要だけをお伝えしよう。
デジタルカメラはダイナミックレンジ(ラチチュード)が狭い!といわれるが、それを解決し、フィルムを越えるようなダイナミックレンジを確保できるデバイスが登場した。それが「ハイパーD CCD」と呼ばれるものだ。基本的には全画素読みだし式のプログレッシブスキャンCCDなのだが、このCCDは標準のシャッター速度で撮影したものと、高速(1/1000秒程度)なシャッター速度で撮影した画像を一度に読み出し、外部回路で信号処理をすることで、従来タイプの20倍!ものダイナミックレンジを実現するというもの。
説明によると、ダイナミックレンジは標準光量の64倍とあるので、銀塩フィルムに匹敵するか、それを越えるレベル。もちろん、フィルムからプリントした場合にはもっと再現域は狭くなるので、このCCDで撮影してデジタルプリントした方が遥かに有利というわけだ。
現時点では、1/3インチの41万画素(NTSC用)と48万画素(PAL用)があり、メーカー側では明暗比が高いシーンで使われる監視用や車載用に有効と説明しているが、デジタルカメラへの応用も十分可能。
この「ハイパーD」を使えば、炎天下に逆光でストロボなしで記念写真を撮っても、ちゃんと背景と顔がきれいに写ってる・・・なんて世界も実現できそう。解像度の点でようやく実用レベルになってきたデジタルカメラの次なるステップである階調表現を考えたときに、かなり有効なデバイスといえそうだ。
さらに、インターライン式(走査線一本おきに読み出すタイプ)ではあるが、正方画素の、1/3インチの100万画素CCD(補色系・原色系両方あり)も出品。こちらはプログレッシブタイプではないので、基本的にはビデオ系の高画質モデル用だと思われる。もちろん、デジタルスチルカメラに採用する場合には別途機械式シャッターが必要になるわけだが、正方画素タイプなので後処理は容易なので、採用する機種があるかもしれない。
こうなると、高画素でしかも、「ハイパー D」の「3CCD」ユニット搭載モデルが登場すれば、現在解像度、階調性、色再現性ともに優れたモデルができるわけで、今後の展開が、ますます楽しみになってくる。
このほか同社は、1/4インチ・27万画素CCDでレンズはもちろん、ホワイトバランスや電子絞り機能まで内蔵した「ワンチップカラーCCDカメラモジュール」も出品。サイズも32×32×13.5mmと薄く小さいため、ノートPCはPDAへの組込用などに便利そう。こんなユニットがでてくると、周辺回路をちょっと装着しただけで利用できるので、いよいよデジタルカメラ内蔵PDAやノートPCが実用化されそうだ。
昨年は130万画素CCDを出品したソニーだが、今年はCCDの細かな製品展示やデモはナシ。そのかわり、同社はデジタルスチルカメラ用CCDに対して「Wfine CCD」という新商標を発表した。これは「全画素読みだし」「原色フィルター」「正方画素」という3つの要素を満たすCCDに対して命名するもので、デジタルカメラ用CCDへの力の入れようがうかがわれる。ちなみに、Wfineの"W"はカタログによると「垂直(V)方向に2倍の解像度がある(VV)ので2倍の価値がある」という意味で、fineは「きめ細かい、美しい、優秀な」という意味という。
具体的な製品としては、「1/3インチ85万画素 Wfine CCD」が紹介されていたが、既存のCCDでも先の要素に該当すればWfineと呼ぶそうだ。
シャープの目玉は、なんといっても既報の通り、反射型カラー液晶。なにしろ、ブースの一番目立つ場所に展示されているのだが、表示品質は標準的なバックライト内蔵の透過式と見分けが付かないほど。上方の蛍光灯を手で翳らせて見ないと、反射式であるとは信じられないレベルの仕上がりを見せている。
もちろん、反射式なので周囲が明るければ、実にきれいに見えるので、見やすいといわれる低温ポリシリコンTFTでも日中にはやや見にくくなるのに対して、こちらは日中の明るい場所ほど見やすくなるのだから、これはデジタルカメラにとって、かなり大きなメリット。また、手で影を作ってみると明らかに暗くなるものの、普通の屋内なら十分実用になるレベルだった。斜め方向からの視認性もよく、描画の追従性も十分だ。
しかも、バックライトがないため、超薄型でスペース効率も抜群。消費電力にいたっては従来のバックライト付きのものに比べて、1/5~1/10に抑えられるというから、電力の面でもかなり期待できそう。また、コスト面では量産さえ始まれば、バックライト付きよりも構造がシンプルな分、さほど高くなることもなさそうだ。
もちろん、反射式ということは、周囲の光線によって、色再現性が変化する可能性があるので、正確な色表示が出きるかどうか心配な面もあるし、表示画像の明るさが周囲の明るさで変わってしまうので、露出の確認という面も心配だが、視野確認や簡易再生用の液晶モニターとしてはかなり有望なデバイスとなりそうだ。
実際の量産化は来年頭ということなので、もしかすると、製品組み込みの第一号は来年春には登場しそう。この液晶の採用でこれまで不可能だった薄型化やロングライフ化ができる可能性が高く、デジタルカメラに大きな影響を与えるデバイスとして、その展開が大いに期待される。
エプソンは「デジタルスチルカメラ用」と銘打った「D-TFD式2.0インチ」液晶モジュールを発表。この「D-TFD」は「Digital Thin Film Diode」の略で、デジタルインターフェース対応で、低消費電力、高精度。しかも、業界一の小型軽量化をはたしたものという。表示品質もなかなかよく、反射式ほどではないが、外観もなかなかコンパクト。実際にデジタルカメラの薄型化を図るときに、液晶の占めるスペースはかなり大きいため、このようなタイプの液晶が続々登場すれば、バックライト付きの薄型カメラの設計も容易になることが予想される。また、同社は同じタイプの反射式も出品していた。
('97/10/8)
[Reported by 山田 久美夫]