SunがMicrosoftからJavaライセンスを引き上げる!?
先週いちばんの話題は、やはりMicrosoftの「Internet Explorer 4.0」の正式デビュー。ともかくニュースの量は多かった。「IE 4: One Million Downloads On Day 1」(TechWire,10/3)によると、最初の24時間だけでダウンロードは100万件を超えたそうだ。なんと、6秒間に1本の割合だとか。しかし、「New Explorer finally here」(CNET NEWS.COM,10/1)によると、MicrosoftのスポークスマンはWebサイトのダウンロード能力は6.1TBで、1日当たり45万本だと言っている。一体、どうなってるのだろう。
IE 4.0の発表会自体のニュースは、それほど面白いものがなかったのだが、ひとつだけ目を引くネタがあった。「Sony to put Web browsing in planes」(CNET NEWS.COM,10/1)によると、ソニーが発表会のパーティで変なデバイスを披露したという。これは、「Sony Passport」というWebブラウジングデバイスで、飛行機のシートに設置するものだそうだ。IE 4.0を搭載して、飛行機に積んだサーバーからインフォメーションや映画などを取り出して見ることができるのだそうだ。また、クレジットカード用のスロットもついていてギャンブルもできるとか。すでに採用する飛行機会社も決まっているそうだ。
さて、IE 4.0の報道合戦で面白いのは、批判的な記事が米国メディアにぐっと多くなったこと。もっとも、これはいつものことで、正式発表になると批判的な記事が一斉に登場する。別に、正式発表に合わせていじわるをしようというのではなく、正式に評価できるものが出ないと批判するようなクリティカルな記事が書きにくいからだ。
たとえば、「The problem of push」(CNET NEWS.COM,9/30)では、IE 4.0の目玉機能であるPUSHテクノロジは「現実よりもずっと誇大宣伝(hype)」だというアナリストのコメントを紹介している。Microsoft自身の調査でも、企業βユーザーでPUSHテクノロジに興味があると答えたのは40%程度だったとか。かと思うと「It's out: Microsoft unveils Internet Explorer 4.0」(CNN,9/30)は、「あんなの(IE 4.0)は、60MBの毛玉だ」と評するNetscape Communicationsのマーク・アンドリーセン氏のコメントを掲載している。アンドリーセン氏は「あれをインストールしたら、システムをおしゃかにするいい機会に恵まれたということさ」とまで言っている。しかし、βテスターにとって、このセリフはけっこう真実味があるかも知れない。
そんなわけで、Microsoft対Netscapeの対立は、ますます激化している。「Microsoft Pulls Prank Company takes browser war to Netscape's lawn」(San Francisco Chronicle,10/2)によると、IE 4.0発表の日の夜中にはMicrosoftのIE開発チームのエンジニアたちが、IE 4.0の「e」の字の巨大ロゴ(自動車サイズ)を運んできて、Netscapeの社屋の正面玄関前の芝生に据えたそうだ。もちろんジョークなわけだが、Netscapeのスポークスマンの方は、「これが世界最大のソフトウェア会社のやることだなんて考えられない」とあきれてコメント。ごもっとも。もっとも、そのあとでNetscapeの社員たちも、そのロゴの上に巨大Mozillaの人形を据えたそうだ。
しかし、Microsoftもうかれてばかりはいられない。IE 4.0の出荷によってやっかいな問題も抱え込んだからだ。たとえば、ある消費者団体は、Microsoftのマーケティングの方法が、公平な競争を阻害すると、司法省に訴える手紙を出した。IEを無料で配布して、さらに他社ができないような方法でOSにインテグレートするというのは、Navigatorなどを市場から閉め出すためで、許されるべきではないというわけ。これで司法省が動くかどうかはもちろんわからないが、Microsoftにとってはあまり穏やかではない動きには違いない。「Antitrust questions dog Microsoft」(CNET NEWS.COM,9/30)
だが、そんな騒動は、Microsoftが米Sun Microsystems社との間で直面しているトラブルに比べれば、ずっと小さい。すでに広く報道されているが、現在Microsoftは、SunとJavaのライセンスを巡って深刻な事態に突入している。これは、MicrosoftがIE 4.0に搭載したJavaバーチャルマシンで、Sunのユーザーインターフェイス回りのクラスライブラリであるJFC(Java Foundation Classes)などを採用せず、Microsoft独自のクラスライブラリAFC(Application Foundation Classes)だけを採用したことや、Java標準化で横やりを入れていることが原因となっている。報道では、Sun側は、これがライセンス契約に違反していると主張し、Microsoftはそうではないと突っぱねるカタチで対立が激化。先々週には、SunがIE 4.0のJavaが、ライセンス合意に適しているかどうかをテストしていると発言する状態になった。
「Possible squabble over Java name brewing from Sun, Microsoft」(InfoWorld,9/29)によると、もしSunが強硬に出ればMicrosoftはJavaという名前を使えなくなる可能性もあるという。それどころか、法廷にまで持ち込まれるかも知れない。「Microsoft Braces for Sun Lawsuit」(Washington Post,10/3)は、もし、この問題が法廷に行くことになれば、テクノロジ業界最大の法廷闘争になるだろうと報じている。それには、だれがJavaの将来をコントロールするかがかかっているというわけだ。
しかし、「Showdown for Sun」(San Jose Mercury News,10/3)によると、ことはそれほど単純ではなさそうだ。Sunは、Javaを幅広く受け入れさせて、Microsoftの市場支配にくさびを打ち込もうとしている。しかし、幅広く受け入れさせるためには、Microsoftの協力が必要だという矛盾を抱えている。一方、Microsoftは、開発者のJavaへの支持が厚いため、取り残されないためにJavaの世界の一角を占め続ける必要がある。しかし、開発言語としてのJavaは受け入れることはできても、Javaが今のOSに代わるソフトウェアプラットフォームとなるのは、受け入れることができないというわけだ。そこで、両社のきわどい綱引きが行われているわけだが、この記事に登場するアナリストがうまいコメントをしている。「まるで、非常に高度なチェスの試合を見ているようだ」「状況は政治のディベートによく似ている」
激しい応酬も、ようは政治的な駆け引きということらしい。決着がどうなるか、注目。
先週のもうひとつのMicrosoft関連の話題はWindows CE 2.0の発表。この新OSは、米カリフォルニア州サンノゼで開催された組み込みシステム向けショウ「Embedded Systems West」でされた。しかし、いい評価ばかりでもなかったらしい。「Windows CE Leaving Chip Vendors In The Dark」(Electronic Buyers' News,10/2)によると、MicrosoftはWindows CE 2.0搭載デバイスの詳細を明かさなかったので、チップメーカーから不評を買ったらしい。この記事によると、Microsoftは「Mercury」(次世代ハンドヘルドPC)、「Gryphon」(ポケットサイズPC)、「Apollo」(車載PC)の3つのプロジェクトを、現在Windows CE 2.0で進めているが、おのおののスペックなどが明確にされなかったという。
また、このショウでは、Javaの組み込み用APIセット「EmbeddedJava」とWeb機器用APIセット「Personal Java」も注目を浴びた。これらのAPIは、リアルタイムOSメーカーから支持を集めているので、それなりに立場は強い。しかし、「Java drills further into embedded OS arena」(InfoWorld,9/30)によると、こちらも、やはり批判に会っているらしい。記事では、家電では絶対的な安定性などが要求されるが、Javaはまだそこまで行っていないというアナリストの言葉を紹介、電子レンジやトースターに入るにはまだかなりの年数がかかるとしている。
ところで、半導体業界では、この1年ほど「IP(Intellectual-Property)流通」というのが重要なキーワードになっていた。これは、MPUやメモリ、その他各種機能などを提供する半導体のブロックを標準化し、IPとして流通させようという動きだ。現状では、メーカーごとにコアの互換性はないが、そのフォーマットや言語を標準化しようというわけで、日米欧の半導体メーカーとEDAメーカーが「Virtual Socket Interface (VSI) alliance」という団体を作った。そして、IPをあたかも電子部品のように簡単に組み合わせることができるバーチャルソケットを決めようと協議を重ねていた。これがうまくゆけば、各IPメーカーのブロックを自由に組み合わせて、ワンチップに集積することができるはずだった。ところが、「VSI abandons plans for common IP bus」(Electronic Engineering Times)によると、この動きが、大きくつまずいたらしい。結局、内部バスの標準化案に関して、各参加メーカーがそれぞれ自社の有利な案を主張、合意を得ることができなかったという。そのため、VSI allianceでは、今後はより議論の少ないコモンインターフェイスづくりに作業を絞り込んでいくと報じられている。
最後の話題は、米Intel社に対する連邦取引委員会(FTC) による反トラスト法に関する調査。この調査の内容は、FTCは明かしていないが、「INTEL: THE FEDS ARE LOADED FOR BEAR」(Businessweek)は、フォーカスされているのは、Intelがライバルを不当に競争から排除していないかどうかにあるというインサイダーの説明を紹介している。PCメーカーがライバルメーカーから製品を購入するのを、Pentiumの割り当てを減らすことなどのおどしで抑止していないかなどが調査されるという。Intelも、反トラスト法調査というMicrosoftと同じ悩みを抱えることになったわけだ。
('97/10/6)
[Reported by 後藤 弘茂]