後藤弘茂のWeekly海外ニュース
【特別編】

Microsoft Professional Developers Conference(PDC)レポート
第3回

■Microsoftが次世代Visual Studio戦略を発表

Tools Division担当の副社長ポール・グロス氏 Tools Division担当の副社長ポール・グロス氏 Tools Division担当の副社長ポール・グロス氏

 MicrosoftのTools Division担当の副社長ポール・グロス氏は、先週サンディエゴで同社が開催した開発者向けカンファレンスPDC(Professional Developers Conference)で、同社の開発ツール戦略を明らかにした。それによると、Microsoftの開発環境「Visual Studio」は、2つのチームが平行して次世代製品を開発しており、コード名「Aspen」と「Rainier」と呼ばれる2つのリリースが、'98年から'99年にかけて相次いで登場するという。

 Aspenでは、まずInternet Explorer(IE) 4.0とIE 4の目玉であるDynamic HTML(DHTML)のサポートが加わる。例えば、Aspenの中ではVisual C++でもVisual BasicでもVisual J++でもDHTMLを容易に扱うことができるようになる。キーノートスピーチで行われたデモのひとつでは、クラスライブラリに統合されたDHTML機能を使い、DHTMLを利用したアプリケーションを作るデモを見せた。このほか、AspenではWindows NT 5.0の各種サービスや、同社のオブジェクト指向データベースアクセスインターフェイスADO(Active Data Object) 1.5もサポートされる。グロス氏によると、Aspenでは、一部の製品やSDKが、サービスパックなどの形で先行して提供されるという。最終的にそれらが統合され、市販製品として出荷されるのは'98年の前半の予定。

 さらに、Aspenに続くRainierでは、同社の新しいオブジェクトモデル「COM+」がサポートされる。ただし、当初はSDKとしてCOM+の一部の技術をサポートしたものが'98年の前半に提供され、最終的にRainierで完全なサポートがされる予定という。このほか、RainierではWindows NT 5.0のサポートがより拡大され、RAD (Rapid Application Development)機能を高めて使いやすくする。また、次期SQL Server「Sphinx」(コード名)のサポートも加わる予定。

 今回のキーノートスピーチで、グロス氏はVisual Studioのロードマップに加え、もうひとつ観客をあっと言わせる仕掛けを用意した。米Borland International社のR&D担当副社長兼CTOのRick LeFaivre氏を壇上に迎え、Microsoft系開発者達の前でBorlandの製品戦略を語る機会を与えたのだ。Borlandと言えば、グロス氏を始めとする重要メンバーが次々にMicrosoftに移籍したことで、Microsoftを相手に訴訟を起こし先々週まで争っていた間柄。それが当のグロス氏のスピーチに登場して、COMとWindows DNAのサポートを表明するという急展開となった。今後、BorlandはMicrosoftの戦略を支持しながら、独自性を打ち出す道を探って行くことになる。


■ゲイツ氏がナチュラルインターフェイスを披露

Microsoft会長兼CEO ビル・ゲイツ氏 Microsoft会長兼CEO ビル・ゲイツ氏
Microsoft会長兼CEO ビル・ゲイツ氏 Microsoft会長兼CEO ビル・ゲイツ氏

 「キーボードもマウスもいらなくなる」
 Microsoftが先週開催した開発者向けカンファレンスPDC(Professional Developers Conference)で、最終日に登場したビル・ゲイツ氏(Microsoft会長兼CEO)は、同社の未来技術をこんな切り口から紹介した。ゲイツ氏がキーノートスピーチで紹介したのは、同社のなかで基礎的な研究開発を行うMicrosoft Researchで開発された技術群。例えば、「Whistler」と呼ばれる発声技術では、人間とほとんど聞き分けのつかない自然なトーンでテキストを読み上げるデモを披露。PCに歌を歌わせ、20年前の映画「2001年宇宙の旅」に登場したコンピュータHAL9000のぎこちない歌声と比較するというデモも行った。また、そのほか人間のジェスチャーを認識する技術や、自然言語によるデータベース検索などの技術もデモ。いずれの技術も、通常のPCの上で行っていることをゲイツ氏は強調した。

 ゲイツ氏のヴィジョンでは、こうしたナチュラルインターフェイスを備えた"よりインテリジェントなコンピュータシステム"が一般的になることで、人間が自然にコンピュータを利用できるようになるという。そのため、PC上にこうした技術を搭載してゆくことをゲイツ氏は明らかにした。

 このように未来志向技術で、意表を突いたゲイツ氏のスピーチだったが、実際にはデモの内容は他の先進的な研究所でも前から研究している内容であり、開発者向けとしては新味が少なかった。また、現実にはナチュラルインターフェイスの実現には、まだ技術的な問題が多いこともゲイツ氏は認めている。例えば、カギとなる音声認識技術では、自然会話ではまだコンピュータは35%もの認識エラーを出す(人間は4%)という。そのため、ヴィジョンの具体性でも、まだアピールできる要素はそれほど多くはない。むしろビジネス一辺倒で夢がないと見られがちなMicrosoftが、イメージの変換を図ったと見た方がよさそうだ。

 このほかゲイツ氏は、PDCのテーマを総括、コンピュータネットワークにより企業のなかのあらゆる情報に簡単にアクセスできるようになる「digital nervous system」のビジョンを説いた。また、ゲイツ氏からもあらためてMicrosoftがWindows NT 5.0に注力しており、Windows NTの技術をコンシューマ市場にもたらすというロードマップが明確にされた。このほか、'98年にR&Dに260億ドルをつぎ込むことなども語られた。

('97/9/28)

[Reported by 後藤 弘茂]


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