JavaカンファレンスでJava指輪が登場
米国ニューヨークで、先週開催されたJava Internet Business Expo (JIBE)は、かなりの盛況だったらしい。このコーナーで先週紹介した軽量クライアント(Thin-client)のリファレンスプラットフォーム「JavaEngine 1」が、大方の予想通り発表された。「Sun Platform Lights Fire Under Tepid NC」(TechWire,8/29)によると、最初のJavaEngineではRISC系MPU「Microsparc-IIep」を採用しているが、Javaチップも来年にはライセンスされるという。
また、ちょっと変わった技術も公開された。「McNealy Shows Off Java Ring 」(TechWire,8/30)によると、マクネリ氏がJava指輪というのを披露したそうだ。これは、チップを埋め込んだ指輪で、クルマのドアを指輪を近づけるだけで、ドアを(持ち主と認証して)開けることなどができるようになるという。Javaの展開の中で、スマートカードなどリソースが限られたデバイスへの組み込みは、Microsoftの進出が現状では難しいJavaの独壇場。それを、見せつけたカタチだ。
組み込みでは、Java電話の話も挙がっていた。「Newest PC Device Is a PhoneThat Surfs Web」(San Francisco Chronicle,8/26)によると、加Northern Telecom社など3社がJava電話開発を表明したらしい。Northern Telecomはかなり前からJava電話を開発すると言っていたが、Java API群の組み込み向けサブセット「PersonalJava」が確定するまでは製品化できなかったというわけだ。ちなみに、Java電話とういのは、WebアクセスやEメール送受信などをサポートするシロモノで、企業のエグゼクティブのデスクから、ビジネス客に力を入れるホテルの部屋電話、ホームバンキング端末などの用途が予想できるという。MicrosoftもWindows CE電話を構想しているので、それと真っ向からぶつかるわけだが、さてどうなるか。
先週開かれたもうひとつの大きなカンファレンスは、MPU関連の「HotChips IX」。今回は、それほど目立つ発表は行われなかったようだが、業界のアーキテクトたちが米Intel社の次世代64ビットMPU「Merced」をもしデザインするとしたらというディスカッションなど、それなりに面白いセッションが多かったようだ。このディスカッションの一部は、「Industry experts cast doubt on Merced」(InfoWorld,8/28)が伝えているが、アナリストがIA-32(従来のx86系)からIA-64(Merced系)への移行は、すくなくとも2002年以降まで起こらないとシビアに見ているところが面白い。Intelも、そのための保険としてIA-32系MPUを平行開発しているわけで、MercedがIntelにとってもかなりのチャレンジであることが改めて確認された。このほか、HotChipsではMPUのアーキテクチャの違いを隠蔽するバーチャルマシン(Java VMのような)へのアプローチが花盛りだったと報じる記事「Fast virtual machines hide the CPU fromthe user」(InfoWorld,8/27)もあった。
ところで、Microsoftも今月大きなイベントを開催する。9月22日からサンディエゴで開催される開発者向けカンファレンス「Professional Developers Conference(PDC)」だ。すでにこのPDCで、Windows NT 5.0のβ版を発表することをMicrosoftは明らかにしているが、Java開発ツールに関しても新しい発表があるらしい。
「Microsoft Java tool upgrade approaches」(8/28,InfoWorld)によると、コード名「Vegas」と呼ばれるウワサのツールのβ版がPDCかその直後に配布されるそうだ。VegasはRAD (Rapid Application Development)ツールと言われていたが、製品としてはRAD機能を付加した「Visual J++」として登場するらしい。ちなみに、このVegasには、Visual Basicとよく似た統合開発環境と、MicrosoftがJavaコミュニティでひんしゅくを買う原因のひとつとなっているJ/Direct技術が搭載されるという。こういうアプローチだと、またまた波乱を呼びそうだ。
また、Microsoftは、DVDのサポートにもかなり力を注いでいるらしい。「Microsoft 'Bobs and Weaves' to living room」(Electronic Engineering Times,8/30)は、MicrosoftがDVDからデコードしたビデオ映像を、PCのディスプレイに美しく表示するための1組のアルゴリズムを開発していると報じている。これは、「Bob」と「Weave」と呼ばれるアルゴリズムで、インタレースで24フレーム/秒のMPEG2ビデオを、ノンインタレースで60Hz以上のPCのディスプレイにきれいに表示できるようになるという。ただし、このアルゴリズムをインプリメンテーションするには、グラフィックスチップ側の改造も必要だとか。エンターテイメントPC 98用の技術だそうだが、また、これの完成が遅れて、ゴタゴタしなければいいけど。
最近になり、メーカーの支持が揺らいでいるという報道が相次ぐWintelの低TCOクライアントNetPC。「IBM Joins Vendors in Voicing Doubts over NetPC's Future」(PC World,8/25)によると、今度は、IBMが腰を引き始めたらしい。この記事の妙訳は8月16日付けのPC Watchメールですでに伝えられているのでポイントだけ説明すると、IBMは今年10月の予定だったNetPCの出荷を来年に延期したという。以前、このコーナーで、NetPCの中核サポーターだったHPやCompaqの幹部が、NetPCよりもWindowsターミナルや通常のPCを重視すると発言したというニュースを紹介したが、IBMからも同じような話が聞こえてきたことで、NetPCへの疑問はますます膨らんでいる。もちろん、これらはすべて報道なので、実際にどうかはわからない。しかし、こうした話がポロポロ出てくるあたりに、NetPCへの足並みが揃っていないことが見えている。Windows NT 5.0が出てこないとNetPCを活かすはずの「Zero Administrationinitiative for Windows (ZAW)」も完全にならないことがすでに明らかになっているだけに、メーカーとしても力が入らないのも当然かも知れない。
NetPCに疑問符がつくのと入れ替わりに、Microsoftの新しい対NC (NetworkComputer)戦略として浮上してきたWindows-Basedターミナル。しかし、こちらにも疑問点があるらしい。「Hydra promised on NT 4.0」(InfoWorld,8/29)によると、MicrosoftのWindowsターミナル用サーバーモジュールHydraは、第4四半期にβ版が登場するそうだ。しかし、ターミナル側に必要なWindows CEとプロトコルT-Shareのライセンス料がまだ不明らしい。それによっては、ターミナルメーカーの支持を得られない可能性があるようだ。
最後はIntelネタ。Intelが、11月にPentium IIの価格を下げると「Intel To CutPentium II Prices」(Computer Reseller News,8/27)が報じている。もともとIntelは11月にMPU価格を引き下げる予定で、この記事は業界筋から入手した最新の価格情報を伝えるもの。それによると、Pentium II 233MHzは現状の530ドルから470ドルに引き下げられるという。同ニュースによると、400ドルはマーケットで成功するためのマジックプライスで、これによりPentium IIがいよいよ本格的にデスクトップ市場に入ると予測している。ちなみに、同時期に、MMX Pentium 166MHzは120ドルへ、Pentium 200MHzは99ドルに下がるそうだ。これで、MMX Pentiumも、米国では年内にサブ1,000ドルPCに搭載されることが明確になったと言えるだろう。もっとも、Pentiumはこれで完全に打ち止めで、あとは組み込み用途にしか使われなくなるという。
('97/9/1)
[Reported by 後藤 弘茂]