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プロカメラマン山田久美夫の

ペンタックス「EI-C90」レポート


EI-C90  一眼レフのパイオニアとして有名なカメラメーカー「旭光学」が、初のパーソナル向けデジタルカメラ「EI-C90」を発売した。こだわりのある製品を作り続ける同社初のモデルとして、大いに注目される存在だ。今回は本機の製品版を入手できたので、早速レポートしよう。



【編集部注】


●低温ポリシリコンTFT液晶分離型のコンパクトボディー

EI-C90 ボディー単体
【ボディー単体】
EI-C90 液晶ユニット装着
【液晶ユニット装着】
 もともと本機のベースとなるモデルは、昨年春にアメリカで開催されたPMAで、その姿を現した。その後、昨秋ドイツで開催されたフォトキナ、今春東京で開催されたフォトフェスタと、イベントの度に参考出品され、今回ようやく発売されることになったもの。デザインは別だが、基本スペックを見る限り、昨年春に公開されたものにかなり近く、1年半かけて熟成された感じだ。

 ボディーデザインは実に個性的。基本スタイルはリコーDCシリーズ風の水平型スタイルだ。標準装備の液晶ユニットを装着した状態では、かなりの面積があり、結構大きく感じる。しかし、ボディー全体が薄型に仕上がっており、携帯時には液晶自体も一面になり凹凸がなくなるので、収納性は外観から想像するよりもいい。

 さらに本機は、カメラ本体と液晶ユニットが分離できるため、液晶モニターが必要ない場合にはユニットごと取り外して、ボディー単体で撮影することもできる。もちろん、本体には光学ファインダーもストロボもあり、電源も別々なので、通常の撮影にはなんら支障はない。そのため、携帯性を重視したい人は単体でという明確なコンセプトとなっており、同社の明快な主張が感じられる。

 実際に本体のみならば、実にコンパクト。しかも、実像式光学ファインダーが備わっており、その見え味はきわめて良好。明るくクリアで、周辺部までキッチリとした像を結んでおり、眼鏡をかけていても全視野が見渡せる点は立派。このあたりは、カメラメーカーの意地を感じさせる部分であり、他社もぜひ見習って欲しいところだ。

 また、液晶ユニットが別とはいえ、このサイズのボディーに、光学ファインダーはもちろん、小型ストロボとPCMCIAのType 2カードスロットを内蔵している点も特筆に値する。そのぶん、電池はポピュラーな単3型ではなく、コンパクトカメラに多い小型リチウム電池を採用しているわけだが、液晶は別電源なので、この電池でも十分な撮影枚数を実現している。

 液晶ユニットは、最初から一体化されることを前提としているため、装着時の強度も十分にあり、往年の「リコー DC-1」や「エプソン CP-200」のような、ぐらつき感がない点に好感が持てる。もちろん、デザイン的にもよくまとまっている。

 液晶は、最近では一種のブランド化しつつある「低温ポリシリコンTFT」を採用している。また、液晶はチルトでき、見やすい角度に変えられるのが便利だ。見え味も明るくシャープで好ましい。だが、屋外での撮影では角度の関係もあって、空の映り込みが気になることも多く、カメラ背面に装備された同タイプの液晶採用機に比べると、ややその恩恵を受けにくいこともあった。



●感心しない操作性

猫の美術館  操作性は、あまり感心しない。レンズ横にあり、レンズカバーを兼ねたメインスイッチはよくできているが、記録再生モードを切り替えるスイッチの操作性が悪すぎる。これはストロークがきわめて短い、スライド式スイッチになっており、撮影(非圧縮のTIFFと、汎用のJPEG)、再生、消去といった動作モードを切り替えるもの。だが、各モード間のスイッチのスライド量はわずか2~3mm程度しかなく、クリック感も弱めのため、必要なモードにセットするだけで大変だ。しかも、両端が使用頻度の低い非圧縮のTIFFと消去で、その中間がJPEGと再生というレイアウトになっており、一見便利そうだが、実際には日常的にショートストロークのスライドスイッチに泣かされることになる。なんらかの技術的な理由があるのかもしれないが、私にはなんとも理解に苦しむ、不可解な操作性としか思えなかった。



椅子と机  また、液晶をファインダーとして使う場合には、一度シャッターを半押しして、機械式のシャッターを開いてから行う必要があるのが面倒だ。さらに気になったのが、再生時の操作性。これが実に独特で、ボディー側を再生モードにしても、即座に画像は再生されず、ここでもいちいちシャッターを半押しする必要がある。また、再生速度ものんびりしており、画像の一覧表示にいたっては、サムネール画像を備えていないために、各コマを普通に再生するのと同じくらいの時間がかかる。とくに最近のモデルはこれらの点がかなり改善されていることもあって、結構苛つくこともあった。



●いまや少数派のビデオ用41万画素CCD採用

ワーゲンワゴン  本機は最近では珍しく、ビデオ用の41万画素CCDを機械式シャッターと組み合わせた撮像系を採用している。ちょうど、「リコー DC-2」シリーズと同じような機構といえる。このタイプのメリットは、安価なビデオ用CCDを流用できる点だったが、その半面、動きのあるシーンですべての走査線情報を利用するためには、機械式シャッターを併用する必要があった(もっとも、デジタルマビカのように割り切ってしまう手もあるが……)。また、補色系CCDになるため、解像感は高めだが、原色系に比べてきちんとした色再現性を得るための設計や調整が難しいというハンデもある。



レンガ壁  だが、いまやデジタルカメラ用のプログレッシブスキャン(全画素一括読みだし)の原色系CCDが数多く登場し、価格もこなれていることから、最近では採用するメーカーが減り、リコーもDC-3ではこのタイプのCCDへと移行したという経緯がある。

 もっとも、本機は参考出品当初からこのタイプの撮像系だったわけで、それを踏襲しているともいえる。だが、多くのメーカーが、ある意味で見切りをつけた方式をあえて採用していることもあって、このあたりをどのように使いこなしているかが、本機のひとつの見どころといえる。



●レンズはマニュアルフォーカスの単焦点式

花アップ  レンズやフォーカス系は実にシンプル。レンズは単焦点式のもので、35mmカメラ換算で50mm相当と、最近の他社モデルに比べると、若干狭めで、屋内撮影などではやや狭さを感じる。

 ピント合わせは、マニュアル式。とはいっても、通常の撮影ではピント合わせをする必要はなく、実質的にはパンフォーカス式と同じ感覚で扱える。また、最短2cmというかなり強力なマクロ撮影もできる。もちろん、この場合には液晶モニターを併用して、慎重にピントを合わせる必要があるが、これは結構大きな魅力といえる。もっとも、ピントの合う範囲はかなり狭いので、撮影にはやや慣れが必要だが……。



●シャープだが、冴えない色再現

橋  ペンタックス初のデジタルカメラということもあって、その絵作りは大いに気になるところ。だが、結果から先にいえば、ベースとなる撮像系の関係もあるのだろうが、あまり冴えない結果をなった。これは掲載した画像を見れば、その雰囲気が理解できると思う。なお、今回の画像はすべてJPEG記録モードで撮影している。

 もちろん、最新の41万画素・補色系CCD採用機だけに、解像度はなかなか高い。また、レンズもなかなか優秀で、十分にシャープな画像となっている。

 だが、色と階調の再現性に関しては、現在主流になっている35万画素クラスの原色系モデルはもちろん、同じ補色系のモデルと比較しても、やや見劣りすることが多かった。とはいっても、以前の「カシオ QV-100」のように感度不足やスミアが原因というわけではなく、画像自体は比較的シッカリしているので、ある程度、意識して作られた画像といえそうだ(実際にこれらの画像を同社に送り、チェックしてもらったところ、許容範囲内であるという)。


曇天時肌色 ビルと青空  とくに、気になったのが、曇天時の肌色の再現性と、空の部分などに見られる走査線状のノイズ。いくつかのカットは、以前お届けした「リコー DC-3」のレポートと同時に撮影しているので、そちらを参照いただければ、その傾向が理解できるだろう。もちろん、色に関しては好みの世界が多少はあるにせよ、リコーDC-3のカットと比較すると、かなり厳しいものがある。もっとも、メーカーによっては、派手めの色再現を嫌うケースもあり、同社もそのようだが、現実離れしたレベルではなく、明快さを感じさせるレベルならば、むしろ一般に好まれると思うのだが……。


洋館遠景  また、ビデオ用CCDを流用したモデルでときおり見られる、走査線状のノイズも本機ではかなり多めで、気になるレベルとなっている。このあたりは、絵作りとは別の次元であり、ぜひとも早期の改良を期待したい。

 なお、今回はデータ量の関係で掲載しなかったが、非圧縮のTIFF記録時の絵作りも基本的に同じ傾向があるが、もちろんこちらには、JPEG圧縮によるブロック状のノイズなどは見られず、グラデーションはややスッキリとした感じだ。



●ポリシーは明快なれど、操作性や絵作りに難あり

子供  本機は同社初のパーソナル機だけに、かなり力の入った、明確なポリシーを感じさせるモデルといえる。とくに充実した基本機能と小型化、ファインダーや液晶表示には、いかにもカメラメーカーらしいこだわりを感じさせる。また、63,000円という価格設定も良心的だ。

 だが、操作性や絵作りに関しては、疑問を感じる部分が多く、ややアンバランスな感じのモデルといえる。もっとも、半年ペースで常識が変わってゆくこの世界だけに、もし仮に本機が1年半前の参考出品モデルをベースにリファインしたものだとすれば、やはり撮像系の基本設計の古さは拭いきれないだろう。

 個人的に、ボディー自体のコンセプトには大いに賛成できる部分が多いので、このボディーをベースに発展させた、原色系のメガピクセルモデルの登場を期待したい!




□旭光学工業株式会社のホームページ
http://www.pentax.co.jp/japan/index.html
□ニュースリリース
http://www.pentax.co.jp/japan/news2/1997/16.html

□参考記事
【7/3】旭光学、着脱式LCDユニット、41万画素CCD採用のデジタルカメラ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970703/pentax.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm

■注意■

('97/8/7)

[Reported by 山田 久美夫 ]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp