【周辺】

プロカメラマン山田久美夫の

リコー「DC-3」レポート


「ちょっとオシャレで好バランスの実用機」


早い時期からデジタルカメラに積極的に取り組んでいるリコー。そのベーシックモデルといえる低価格で液晶付きの内蔵メモリー専用機「DC-3」が発売された。このモデルは同社初の内蔵メモリー専用機であり、同じく同社で始めてCCDに35万画素1/4インチの正方画素・原色系のプログレッシブタイプを採用した、同社の新世代モデルといえる。

 リコーはこれまでの歴代モデルがすべてメモリーカード採用機で、しかもオートフォーカスモデルだったが、本機はコストダウンを図るため、あえて内蔵式メモリーでマニュアルフォーカス式を採用している。これは従来機のユーザーの意外に多くがシリアルケーブルによるデータ転送を利用しているため、必要十分な撮影枚数が確保できれば、内蔵式(4MB)でも十分実用になるといった実状と、一般的なスナップなら固定焦点式でも実用十分という判断の結果といえる。

 むしろ、本機は49,800円という価格の中で、光学ファインダーとオートフォーカスを省く一方、ストロボを装備することで、コストを抑えながらもデジタルカメラならではの楽しさをアピールしようという狙いが読みとれるモデルだ。

 なお、電源は単三型4本で、消費電力も比較的少なめで、液晶ファインダー専用機としては電池の持ちはいい方だ。

【編集部注】



●オシャレだが、やや大きめのボディー

左がDC3 上がDC3

 デザインはDC-2Lの流れを汲む、横型のもので、ボディーの色合いや質感も統一されている。もちろん、サイズ的に見ると、DC-2Lに比べ、ゆうに一回りは小さくなっている。これは光学ファインダーを省き、最初から液晶を一体型として設計したことによるものだが、他社の内蔵メモリー専用機に比べるとまだやや大きい感じ。「もしかすると、最初はメモリーカード式モデルだったのかも」と勘ぐりたくもなる。

 しかし、凹凸が少ない、スッキリとしたデザインのため、収納性はなかなかいい。今回はなかば無理矢理に胸ポケットに入れて持ち歩いたが、レンズ部が出っ張っているので、この部分がやや引っかかるのが気になった。レンズ保護やデザイン的にレンズ部がこのようなデザインになっているが、DC-2Lのような面一タイプにしたほうがスッキリしたのではないかと思った。

 もちろん、外装はプラスチックだが、意外に高級感がある。また、DC-2Lの弱点で強度が不足していた液晶モニターの付け根部分などの作りがシッカリしている点は好感が持てる。



●スピーディーな操作感

液晶をたたんだ状態 操作パネル
 使ってみて感心するのは、その使い勝手のよさ。とにかく、メインスイッチがなく、液晶パネルを開くだけで、撮影準備OK。あとはシャッターを押すだけというスピード感がいい。もっとも、開いてから約3秒後に液晶が点灯するため、ほんのわずかな待ち時間はあるが、それでも起動は速い方だ。

 また、記録速度も約3秒強と、なかなか素早く、動きの早いシーンでもさほど苛つくことがない点がいい。さらに、画像の再生はかなり高速で、コマ送りボタンを押しっぱなしにしていると、1コマあたり1秒弱の間隔で連続的に表示することができるほど。本機には多くのモデルのような4コマや9コマの一覧表示機能はないが、これだけ高速に連続再生できれば、その機能もほとんど必要ないだろう。

 リコーは元々カメラメーカーであり、GR-1のような高級コンパクト機も手がけていることもあって、コンパクトカメラ感覚のスピーディーな操作感を重視した設計をしており、ベーシックなモデルである本機でもそのポリシーを貫いている点は立派だ。

 また、細かな操作部はDC-2Lなどで採用したレイアウトを踏襲しており、機能的にもよく整理されており、シンプルで、しかも分かりやすいものとなっている。また、後記のホワイトバランスのマニュアル設定機能や省エネ設定機能といった、使用頻度の比較的低い機能は2つのボタンを同時に押すことで呼び出せるようになっており、初心者にとってミスが少なく、上級者にも使いやすい操作性を実現している。


●実用的には十分とはいえ、やはり物足りない内蔵メモリー

個人的に一番気に掛かったのは、やはり内蔵メモリー専用機という点だ。容量は4MBと多めだが、やはり撮影枚数に制約がある点と、転送の面倒さの点ではカード式に及ばないからだ。

実際に、VGAサイズで圧縮率をひかえたファインモードの25枚ではさすがに物足りない。しかし、ノーマルモードで50枚撮れれば、画質的にもJPEG圧縮による画質低下も許せる範囲だし、通常の撮影なら困ることはないレベルといえる。もちろん、メモ用と割りきってしまえばエコノミーモードで100枚も撮れるし、必要に応じてモードを使い分ければ、十分な枚数ともいえる。だが、カード式のような撮影枚数への”精神的な余裕”がないことに変わりはない。

また、画像の転送時には、メモリーカードによる画像転送(コピー)に慣れた人には、やっぱり面倒。画像転送はWindows系なら115,200bpsの転送ができ、ノーマルモードで1コマあたり約8秒と比較的高速なので、実際にはさほど不便な感じはないのだが。

 それよりも気になるのが、別売の転送ソフト。「Photo Studio」のリコーバージョンで、メインメニューのなかにDC-3用のメニューがあるのは分かりやすいし、画像の一括保存はできるものの、サムネール画像の一覧機能がなく、特定のコマだけをダウンロードするときには、カメラ側のモニターを見ながらコマを指定する必要があるのは不便だ。 とはいっても、このボディーサイズなら、十分にカードが入ることは想像できるし、多少高価になってもカード付きモデルが欲しい!と思う。とくに、今回は記録フォ-マットが従来の“j6i”ではなく、富士写真フイルムが推奨しているJPEG準拠の“EXIF”を採用しているため、汎用ソフトで開けるし、カード式なら、富士が今秋から開始するラボでのプリントサービスにも対応できるわけだ。ただし、富士のサービスでは、カードメディアはスマートメディアかPCMCIAのType1、Type2にしか対応していない。


●気になる液晶の見え味とマニュアルフォーカス機能

マクロ撮影1 マクロ撮影2
 使っていて気になったのが、液晶モニターの見え味。同社は以前からずっとTFT式液晶を採用しているのだが、DC-2Lなどに比べて、DC-3は液晶表示の品質が若干低下しているように感じられる。とくに、実際に写った画像データに比べると、シャドーの締まりがなく、液晶表示の方がクリアさに欠けるのが気になる。

 もっとも、TFT液晶の画素数(液晶にも画素数がある)は結構多く、表示画像がシャープなので、マニュアルフォーカス時のピント合わせは、比較的容易だ。もちろん、通常は60cm以遠なら、フォーカスする必要はないが、マクロ時にはマニュアルでのフォーカシングは必須だ。

 もともと、リコーのデジタルカメラは歴代、接写に強いことで知られており、本機もレンズ前約1cmという強烈な接写能力を備えている。これは他機種ではちょっと体験できない、肉眼を越えたような超クローズアップの世界であり、この魅力だけで本機を購入してもいいと思わせるだけの魅力がある。

 接写時のフォーカスはレンズ上にある小さなリングで行うが、操作性は今一つで、微調整はややしにくいのが残念。そのため、大まかな位置にあらかじめフォーカスしておき、カメラを微妙に前後に動かして調整した方が現実的だろう。なお、マニュアルフォーカス用リングは、液晶を閉じて電源をOFFにすると、自動的に元のパンフォーカスの位置に戻るようになっており、これはなかなか親切な設計だ。


●暗さに弱いが、素直できれいな画質

 同社初の原色系CCD採用モデルだけに、従来からの補色系CCD採用機とはかなり趣が違う、明るくてクリアな再現性となっている。とくにDC-2Lに比べて色再現性が大幅に向上しており、階調再現性も従来よりかなり幅広くなっている。しかし、先代モデル自体の基本設計が古いこともあって、このモデルで大幅に向上して当然というべきだろう。

 もっとも、解像力に関しては従来の補色系モデルの方がやや優れていた。また、従来モデルでは構造上スミアがでにくかったが、本機では強い光源があるとスミアが発生する。量的には多い方ではないが、何らかの対策を施して欲しいところだ。

 もちろん、従来モデルに見られたようなノイズっぽさが大幅に減っており、原色系CCDならではの、クリアな絵作りになっている点に好感が持てた。好条件下で撮影したカットを見ると、35万画素クラスでトップレベルといってもいいほどの画質といえる。

 もっとも、多くの35万画素モデルがそうであるように、遠景の写りはあまり芳しくはないものの、3m以内のシーン、とくに近距離撮影では、かなり好結果が得られた(もちろん、至近距離ではピント合わせが不可欠だが)。

 また、ストロボ撮影時の露出調整も的確で、近距離から3m付近までの幅広い範囲で、満足のゆく写りが得られた(もっとも、マクロ時は自動的にOFFになる)。さらに、日中の補助光としてストロボを使ったときの調光レベルも良好だった。


●気になるホワイトバランス


通常撮影

マニュアル修正後

オート

デーライト固定
 一方、気になったのが、オートホワイトバランスの設定で、曇天下でもシーンによっては、明確な色かぶり(青味が強い)が見られた。また、タングステン光下での色再現もややクセがあり、ヌケの悪い色調になることもあった。この場合には、本機の隠しモードとして搭載されているマニュアル式の色温度設定機能(「送りボタン」+「ストロボボタン」)を積極的に利用した方が良好な結果が得られるが、操作はやや面倒だ。

 私自身、同社の歴代モデルを使ってきて、いずれもオートホワイトバランスに独特のクセがあり、本機もその流れを汲んだものだと感じた。個人的にはオートホワイトバランスのアルゴリズムを見直して欲しいと思っている。


●暗い場所や夜景は苦手に

 さらに、リコーの歴代モデルが得意とした、暗いシーンでのノンストロボ撮影。だが、本機は残念ながら、暗いシーンがかなり苦手だ。とくにDC-2Lなどでは容易に撮影できた暗めの屋内や夜景などでも、露出アンダーになるケースが多かった点のは残念だ。


●バランスのいい実用重視の真面目モデル

 本機はリコーの最新モデルであり、同社の新ラインナップのベースを固めるために登場してきた、新世代モデルといえる。実際に使ってみると、CCDを一新したこともあって、従来よりもワンランク上の素直な絵作りとなっており、機能や操作性に関してもよく考えられており、かなりの実力派であることが体感できる。

 しかし、高機能・高画質・超小型軽量機などがこれだけ続々登場している現在、本機のようなベーシックなモデルは、なかなか脚光を浴びる機会が少ない。実際、これほどメモリーカード式モデルが多くなると、本機のような内蔵メモリー専用機は、メモリーが内蔵式というだけ検討リストから外れてしまいがちだ。

 そして、本機もメモリーが内蔵式という点が引っかかる人も多いことだろう。実際に、リコーの歴代モデルを取材用に長い間愛用していた私にとっては、メモリーカードとオートフォーカスのない本機は、いくら画質がよくても、”主力機”にはなり得ないモデルであることに変わりはない。

 だが、さほど撮影枚数も必要なく、シリアル転送の手間を問わない人にとって、標準小売価格で4,9800円、実販でも接続キット込みで4万円台で入手できる本機は、使いやすく、画質も良好な、なかなかのオススメモデルといえる。これまでデジタルカメラに馴染みのなかった人や、とにかく安くて手軽で楽しめるデジタルカメラを……という人には十分に検討の価値がある、魅力的なモデルといえる。

 また、価格もこなれているので、気軽なサブ機として購入を検討するのもいいだろう。個人的にはビジネスショーなどで参考出品した、ファッショナブルで個性的なカラーバリエーションモデル(とくにメタリックブルーあたり……)を早期にラインナップに加えてほしい。


□株式会社リコーのホームページ
http://www.ricoh.co.jp/
□製品情報
http://www.ricoh.co.jp/dc/dc-3/index.html

□参考記事
【5/9】リコー、デジタルカメラDCシリーズの最廉価モデル「DC-3」などを発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970509/ricoh.htm

デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm

■注意■

('97/7/31)

[Reported by 山田 久美夫 ]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp