もちろん、本機の最大の特徴は、記録媒体に3.5インチフロッピーディスクを採用していることだ。そのため、以前レポートしたように、パソコン側にフロッピードライブさえあれば、簡単に画像を転送できるし、高価なメモリーカードを購入する必要もない。さらに、画像フォーマットも標準的なJPEGを採用しているため、Webブラウザなど汎用ソフトで開くことができることもあって、とくにデジタルカメラに関する特別な知識がなくても気軽に利用できるモデルといえる。このあたりは、以前お届けした「ソニー Digital Mavica「MVC-FD5」 ファーストインプレッション」に詳しいのでそちらを参照いただきたい。
【編集部注】
●パーソナル機初の10倍ズーム搭載!
ワイドコンバーター使用 | ズームのワイド端 |
ズームの望遠端 | テレコンバータ使用 |
なんといっても本機の最大の魅力は、ビデオカメラのような高倍率ズームを搭載している点だ。ソニーは従来から12倍ズーム搭載の業務用モデルDKC-D5 PRO(198,000円)を発売しているが、本機はそれに匹敵するほどの高倍率を実現しているわけだ。
もっとも、本機の光学系や撮像系がビデオカメラベースであること考えれば、別に驚くほどのことではない。ビデオの世界ではオートフォーカスの10倍ズームなど当たり前なのだ。
もちろん、ビデオの場合、ベースが動画ということもあって、静止画用のデジタルスチルカメラに比べて、レンズの解像度や画面中心と周辺部の画質格差、歪曲収差(直線が曲がって写ること)などには、やや寛大な設計がなされている部分がある。だからこそ、あのサイズとコストでこのような高倍率ズームを搭載できているわけだが、本機ではあえてそれを流用することで、購入圏内の価格帯でこのようなモデルを成立させたわけだ。
また、かさばる光学系を組み込むため、レンズの直前にプリズムをおいて光路を90度曲げることで、FD5よりもやや厚手なだけのボディーに10倍ズームを納めることに成功している。
手にすると、プロ/セミプロ用の中判の銀塩カメラに近い存在感がある。単焦点レンズ付きの「MVC-FD5」より1クラス上の雰囲気だ。とくに、レンズ部分の大きさがインパクトを与える。
操作部は先に発売されたFD5とほぼ同様で、一度慣れてしまえば、なかなか使いやすい。これについては前回のレポートにくわしい。もっとも、メディアがフロッピーのため、とにかくアクセス速度が遅く、画像の書き込みには約10秒、画像の読み出しも約5秒もかかるため、結構焦れったい。New Cybershotの1秒という高速さとは対照的だ。
だが、このペースに慣れてくると、人物などのスナップを撮らなければ、ギリギリ許せる範囲に思えてくるから不思議。これはたぶん、記録中にもファインダー画像はレンズがとらえた画像を表示し続けるスルーのままで、撮影画像の静止表示はない。記録している間に、次のカットのフレーミングを決めたり、ズーミングしたりといった作業ができるからなのだろう。
最初は、撮影後に画像が即座に確認できない点がとても気になったが、最近では次の体制を整える時間として使うようにすればいいと思うようになった。しかし、画像確認ができるモードも設定できるようになってほしい。
FD5のレポートでも紹介したとおり、本機はビデオ用の大容量インフォ・リチウム電池を採用することで、従来のデジタルカメラに比べ、驚異的ともいえるほどの電池の持ち時間を実現している。それはこのFD7も同様で、フル充電でフロッピー15枚程度は朝飯前という感じ。今回もフル充電後に、フロッピー5枚(ファインモードで撮影しているため、1枚あたり約20コマ強)程度の撮影を2回行ったあとに、今回メインで撮影した神戸へ。現地でフロッピー8枚撮影したあとでも、まだ電池の残量を見ると約60分と出るほど。これなら500枚という表示は十分信頼できるし、私自身、予備電池も充電器も持たずに泊まり掛けの撮影にでてしまうほど(ちょっと無謀だけど)。2.5インチ液晶ファインダーでフロッピーへのアクセスを繰り返してもこれだけ持つのは驚異だ。
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通常撮影 | ポートレートモード |
また、望遠ならではの世界として、背景のボケを生かして被写体を浮かび上がらせるというテクニックが使えるのも大きな魅力だ。とくに本機には意識的に絞りを開いて(絞りを開くとピントの合う範囲が狭くなる)背景をぼかして撮影できるポートレートモードを装備しており、併用することで、これまでのデジタルカメラとはひと味もふた味も違った作品作りが楽しめる。
標準ズームのワイド端 | ワイドアダプタ使用 | テレコンバータ使用 |
さらに、本機のアクセサリーとして用意されている。ワイドコンバーター(0.6倍)とテレコンバーター(2倍)を併用すると、35mmカメラ換算でワイド側は約24mm、望遠側になるとなんと800mm相当までという、もの凄い範囲がカバーできる。
ワイドコンバータを使えば屋内撮影も楽にこなせるし、テレコンバーターを併用すれば肉眼ではほとんど点にしか見えないような世界をグンと引き寄せてアップで撮れるわけだ。今回も、ワイドでの屋内撮影はもちろん、テレコンバーターでは自宅(横浜市緑区)の窓から数十キロ離れた横浜港の花火を撮って楽しめる。もちろん、いずれも、ピントは甘くなり、コントラストも低下するうえ、ワイドコンバーターでは直線の歪みもかなり目立つが、実用性や楽しさという点を考えれば、十分にメリットがある。
また、とにかく便利なのが、ワイドマクロと呼ばれる機能で、ズームを一番ワイド側にセットしておくと、マクロ切り替えなしに、レンズ前1cmまでの超接写がリニアにできる点だ。そのため、名刺の接写はもちろん、小さな花のクローズアップも楽々。ベースがビデオカメラだと思うと当たり前だが、使ってみると、従来からのデジタルカメラよりも遥かに便利なことを思い知らせれる感じだ。
また、本機では必要に応じてマニュアルフォーカスもできる(操作性はよくない)。そのため、オートフォーカスが間に合わないような動きの速いシーン(たとえば運動会のかけっこでのゴールとか)を撮るときには必要な機能だ。
実用本位な単焦点タイプの「MVC-FD5」と違い、本機には遊び心のある画像のエフェクトも搭載されている。これには明暗反転(ネガアート)やパステルといった特殊効果のほか、モノクロやセピアも内蔵されている。とくに個人的に気に入ってしまったのがセピア。今回はそれに最適な被写体に恵まれたこともあって、クラシカルで雰囲気のあるカットを撮ることができた。
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通常撮影 | セピアモード |
●実用十分な画質、もう一段のリファインを
だが、実際に撮影してみると、半分の走査線情報しかないフィールドモードでも、実用レベルの画像となり、動きの少ないシーンなら両方の走査線情報を利用できるフレームモードで撮影すれば、結構キレイな画像が得られる。
もっとも、前にも述べたようにビデオ用の光学系がベースなので、レンズ自体には光学的な解像度は不満を感じる部分もあるし、画面の中心と周辺部の画質格差もある。また、ソニーのパーソナルビデオに共通の、屋内撮影時のやや眠い感じの描写も残っている。とくに、ストロボ撮影時に2~4m付近でないと適正露出にならない点は、ぜひとも改良して欲しい。
このほかにも、ホワイトバランスやコントラスト、露出制御などの関係で、静止画としてみると、やや不自然な色再現をするシーンも若干見受けられ、このあたりのリファインを希望したいところだ。もっとも、大半は一度画像処理ソフト上で調整すれば簡単に直るケースが多いので、手間をいとわなければ、実用範囲ではあるのだが、やはり本来はカメラ内部で処理すべきことだろう。
正直にいうと、本機を使っていて「な~んだ、これでいいのか!?」という、なんとも悔しい感じを持った。なにしろ、高画素化、小型軽量化、メモリーカードの搭載といった、さまざまな課題を解決しつつ、デジタルカメラは進化を続けているのだが、本機を見ると、既存の技術やパーツをうまく組み合わせて、実に実用的で魅力的なモデルを成立させている。ビジネス用途にポイントを絞って、とことん実用性を重視したモデルとして登場した本機は、結果として、サイズと画質を問わなければ、これほど便利で楽しいモデルができることを実証して見せた。「Cybershot」が“こだわりの塊”だとすると、「デジタルマビカ MVC-FD7」は“割り切りの塊”といった感じだ。
本機はビジネス用途での便利さもさることながら、これまでのパーソナル向けデジタルカメラにはない、高倍率のズームレンズの効果を堪能できる異色のモデルとして、魅力を感じられるユーザーにオススメしたいモデルだ。
□参考記事
【7/10】ソニー Digital Mavica「MVC-FD5」ファーストインプレッション
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970710/sony.htm
【6/11】ソニーが記憶媒体にフロッピーディスクを使ったデジタルカメラを発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970611/sony.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm
■注意■
('97/7/30)
[Reported by 山田 久美夫 ]