いまやメモリーカード採用機が主流だが、デスクトップパソコンに気軽にデータ転送できるわけではなく、カードドライブや専用ソフトによるシリアルケーブル転送、IrDAなど、いずれも決定打とはなっていない。
そこで登場したのが、もっとも普及している3.5インチフロッピーディスク(2HD 1.44MB)を採用することで、パソコンへのデータ転送の容易さと記録媒体のランニングコスト低減の両方を一挙に解決し、「カードドライブを買うのも、専用ソフトやケーブル転送もイヤ!」という、幅広いユーザーをターゲットにしたのが、本機の最大の特徴だ。
【編集部注】
●意外に便利なフロッピーカメラ
「いまさら、なんで3.5インチフロッピーなわけ!」と本機を見て思う人も多いことだろう。とくに「メモリーカード+カードドライブ」による簡単で超高速な画像転送を愛用している人にとっては、結構不可解なモデルといえるかもしれない。だが、PC Watch読者のようにインターネットは当たり前!というパソコンユーザーもいれば、「できればパソコンなんて触りたくない!」というビジネスユーザーも数多い。
そこで本機は、記録媒体に汎用性の高い3.5インチフロッピーを採用することで、撮った画像をフロッピードライブで読んで入力できるようにしたところがミソ。なにしろ、3.5インチのフロッピードライブなら、サブノートを除けば、ぼほ標準装備されているのだから、これほど便利な媒体はないわけだ。しかも、画像フォーマットはJPEG準拠なので、インターネットブラウザなど汎用ソフトで表示することができ、特別な専用ソフトをインストールする必要もないし、ケーブル接続のような面倒な操作も一切必要ないのが大きな特徴といえる。
もちろん、いまやフロッピーなど1枚数十円程度と安価だし、コンビニでも入手できるので安心(カメラでのフォーマットも可能)。しかも、(結構圧縮率は高めだが)ファインモードで約20枚前後、ノーマルモードなら30~40枚程度の撮影ができることもあって、通常はフロッピー数枚を持っていれば、高価なメモリーカードを何枚も購入して持ち歩く必要もない。
実際に使ってみると、なんだか悔しいほど便利で、外出先でノートPCに転送する必要がなければ、これで十分。しかも、フロッピーなら5枚くらい持ち歩いてもかさばらないし、どこでも手に入るし、未撮影なら、壊れても、なくしてもいいや!という気安さがうれしい。
さて、フロッピーで気になるのが、アクセス速度。これは確かにPCカードに比べると実にのんびりしているが、一度ハードディスクにコピーしてしまえば軽快。しかも、単なるファイルコピーなので、画像をシリアル転送するよりよほど早く、実用的だ。
とまあ、フロッピーに関する話はそれくらいにしておき、これからは“カメラ”としての本機についてレポートしよう。
まず、ボディー全体の雰囲気はなかなか独特なものがあり、妙に“カメラ”っぽい。しかも、普通の35mmカメラというよりも、より本格的な中型カメラに近い雰囲気があり、ちょっと物欲をそそられる世界がある。もっとも、この点では8月に発売が予定されている10倍ズームの「MVC-FD7」のほうが、よりマニアックで物欲系のノリがあるが、本機もその流れを汲むものとなっている(「MVC-FD7」のレポートも近日掲載予定)。このあたりの、物作りの上手さは、いかにもソニーらしい。
具体的に見てゆくと、まず、なんといってもサイズがデカイ。なにしろ、3.5インチフロッピーがドライブごと内蔵されているわけだから、これは当然。デザイン的には「松下 CardShot」風だが、ひとまわり、いや、ふた周りくらいは大きい感じだ。
だが、手にしてみると、それほど巨大な感じはなく、グリップ部も適度なサイズで、意外に持ちやすい。しかも、自然と左手でボディーを押さえる格好になるので、ホールディング時の安定感もあり、ブレにくいのが好ましい。
操作性も良好。なにしろ、誰にでき気軽に撮影できるよう、基本的にはメインスイッチを入れてシャッターを押すだけの、実にイージーな操作を実現している。
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まず、スイッチを入れると「STAMINA Digital Mavica」という文字が液晶に表示される。そう、本機はソニー自慢の“スタミナ”シリーズなのだ。電源はビデオでお馴染みの、大容量の充電式インフォ・リチウム電池(1250mAh)を採用。このタイプは電池の残量をカメラ側で知ることができるため、それをもとに現時点の消費電力から算出した残り使用時間が液晶に表示される。フル充電では140分以上という途方も無い時間を表示するため、最初は「本当にそんなに持つのかぁ~」と思っていたが、フロッピー10枚くらい(200コマ以上)を普通に撮影しても、まだ100分前後の残量表示なのにはビックリ。これならメーカー公称の「1.5時間・500コマ」は十分信頼できるレベルといえそうで、「スタミナ」という愛称にも十分にうなづける(そう考えると「Cybershot」の電池の持ちって、いったい……)。
操作部もなかなかよく整理されている。とくに、TVゲームのジョイスティック風というか、「サンヨー マルチーズ」のような、モード設定用の操作部はなかなか使いやすい(もっとも、最初はちょっと慣れが必要だが)。
ファインダーは液晶のみ。本機はベースがビデオカメラのようなものなので、液晶表示も秒間60フレームとビデオと同じ、実にスムーズな画像表示を実現している。また、液晶のサイズも2.5インチと大きく、TFT型のため、表示品質もなかなか良好だ。
だが、本機はシャッターを切っても、通常のデジタルカメラのような静止画表示はにならず、表示は動画のままで、記録中の文字が表示されるだけ。そのため、撮った画像を直後に確認することができないのは、実に残念だ。また、画像の記録時間はフロッピーへの書き込み時間まで含めて約10秒と遅めで、連写など到底できない。このあたりはCybershotと大きく異なる点といえる。しかも、書き込み中には、常にフロッピードライブが駆動するときの、独特な振動が伝わってくる。最初は結構違和感があったが、そのおかげで、書き込み終了が掌でも感じられるという、意外なメリットもある。 試しに意地悪く、書き込み中にカメラを揺らしたりしてみたが、とくに書き込みエラーを起こす気配はなかった(もちろん、絶対にお勧めしないが……)。
もともと本機は、ビデオカメラの撮像系を利用したモデル。そのため、CCDも41万画素の補色系長方画素。しかも、画像データの読みだしも、現在主流の一括読み出しではなく、ビデオと同じく、走査線一本おきに読み出す方式を採用している。そのため、通常は奇数、もしくは偶数列の走査線情報だけを使って、画像を生成する「フィールド画像」となっている。もちろん、そのままでは走査線一本おきの画像になってしまうため、実際にはその間をソフト的に補完して画像を生成しているわけだ。
【高速物を撮影】 |
また、本機には奇数、偶数両方の走査線情報を使って画像を生成する「フレーム画像」で記録するモードも備えている。だが、本機は特別なシャッター機構を備えていないため、奇数と偶数の走査線間で、読みだし時の時間差が生ずる。そのため、高速に移動しているシーンを、フレームモードで撮影すると、画像のズレを生じるが、もちろん画像自体はフィールド画像よりも細部の密度が高くなるのがメリットといえる。もちろん、リコーDC-1、DC-2シリーズのように、別に機械式シャッターを装備して、一括露光したあと、フレーム画像を読み出す方式を採用すれば、この時間差によるズレの問題はなくなるが、本機ではコストの関係で採用されていない。また、同社のビデオカメラには、その画像のズレを感知して画像処理をするクリアフレーム処理という機能もあるが、こちらも採用されていない。このあたりは、上級機ではぜひ採用して欲しいところだ。
【フィールドモード】 |
【フレームモード】 |
さて、本機の画質だが、全体になかなか良好だ。もちろん、フィールドとフレームで、画像の密度が異なるわけだが、今回は主に標準モードといえるフィールドモードで実写してみた結果を見ても、下手なデジタルカメラよりもバランスのいい画像が得られたカットが多い。
感心するのは色再現性で、補色系CCDのため、彩度はあまり高くはないが、比較的コクのある、純度の高い色再現性となっている。とくに、自然光(太陽光)下での再現性はなかなか自然で好ましく、肌色の再現性はなかなか良好だ。
だが、撮像系がビデオと共用のためか、ソニーのビデオカメラに共通した特徴である、人工光下での色ヌケの悪さという点も、本機は受け継いでいる。これは好みの問題とも関係するので、その善し悪しは一概にはいえないが、少なくとも、ビデオのような動画では許容範囲の色調でも、本機のように静止画として見ると、やや不満を感じるケースがあることだけは確かだ。また、屋内などで比較的光線がよく回っている、フラットな条件下ではコントラストが不足気味で、メリハリが足りない感じがするシーンも見られた。
いずれも、Photoshopの自動レベル補正などを使ったり、必要な処理を施せば、十分実用になるため、ベテランには十分に使いこなせるレベルといえる。だが、基本的に画像処理に対する知識があまりない人をターゲットとしたモデルとしては、若干物足りなさを感じる部分もあるわけだ。
解像力はやはりフィールドモードではやや物足りなさを感じるケースもある。また、画像の輪郭部分にはフィールド画像らしいジャギっぽさが見られることもある。だが、ホームページ用など小さめに使う用途には必要十分なレベルともいえそうだ。フレームモードでは補色系CCDらしい解像度の高さが感じられ、レンズ側の解像度不足が明確に感じられる。これはおそらく、ビデオ用レンズの流用(静止画用レンズよりも解像力が低い)と思われるが、コストの関係で仕方のない部分と割り切って使う方が賢明だろう。
また、ピントあわせは通常はクリックが入る位置で使用する事実上の固定式(パンフォーカス)だが、近接撮影時にはマニュアルフォーカスでのピント合わせができ、かなりの接写までもカバーできる。とくに、接写時の描写には目を見張るものがあり、ほれぼれするほどきれいに写ってビックリすることもあった。だが、TFT式液晶でもなかなかピントの山がつかみにくく、ピント合わせが難しいのが難点(これなら、色はイマイチでも、解像度の高いMIM型液晶の方が見やすいかも)。このあたりは結構慣れが必要だ。
【ストロボ撮影】 |
これで、ビデオ出力機能が付いていれば、家庭のテレビでも楽しめるし、プレゼン用ツールとしても楽しめるのだが、パソコン入力専用機という割り切りから、今回のモデルには採用されていない。機能的には簡単なものだし、さほどコスト高にならないと思われるため、次期モデルでは、撮影後の画像確認機能とともに、その採用を希望したい。
手にするまでは、「なんで今さら……」と思ってしまうが、実際に手にして、使ってみると、その実用性の高さに感心してしまう。本機はそんなモデルだ。そして、デジタルカメラを道具として利用する人にとって、本機は面白味はないが、実に使いやすい実用機といえそうだ。実際、最新技術はなにもないが、実用本位のコンセプトとビデオで培った基本技術をうまく組み合わせた、妙に完成度の高いモデルといえる。本機を手にしてみると、「ああ、これでいいんだなあ~」と思う人も、意外なほど多いかもしれないし、価格もこなれており、誰でも気軽に撮影し、取り込めるため、ビジネスの現場ではそれこそ「一課に一台」というモデルになるかもしれない。
もっとも、個人的には同時発表の10倍ズームモデル「MVC-FD7」に、妙に心を奪われており、実用性はもちろんのこと、ちょっとマニアックにいろいろな撮影を楽しみたい人や、無骨でもカメラっぽい感触のモデルを!というユーザーには、8月発売で多少高価でも、こちらのモデルの方を強くオススメしたい。
しかしまあ、ソニーという会社は、いったい、いくつの引き出しを持っているのだろう?と感心すると同時に、このような実用本位なモデルでも、単なる実用機以上に、妙にマニア心をくすぐるところを持ち合わせているところが、何とも憎い!
このあたりは、近々掲載予定の「MVC-FD7」でレポートしよう!
□ソニー株式会社のホームページ
http://www.sony.co.jp/SonyDrive-j.html/
□ニュースリリース
http://www.sony.co.jp/CorporateCruise/News/9706/97CI-057.html
□参考記事
【6/11】ソニーが記憶媒体にフロッピーディスクを使ったデジタルカメラを発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970611/sony.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm
■注意■
('97/7/10)
[Reported by 山田 久美夫 ]