【リレー連載 物欲道修行記】


リレー連載 物欲道修行記

第36講 気絶派 師範:スタパ齋藤

 第36講では、スタパ師範が気絶派の真髄をかいま見せてくれます。スタパ師範の著作物を読むと、スタパ師範がこのような買い物をなさっているだろうな、ということは察しがつくのですが……。編集部でも思わず絶句の今回は、気絶派をめざすみなさん必見です。
 なお、35講で告知しました金銀マウスプレゼントの結果は、連休明けに当選者ご本人にメールにてお知らせいたしますので、もうしばらくお待ちください。
(修行がぜんぜん足りない編集担当)


物欲連鎖反応炸裂! ―それはICレコーダーから始まった―

物欲の連鎖反応

 皆さんも経験がおありだと思うが、物欲というものは連鎖する。
 友人のカッコいいプライベート名刺をもらった→マネして名刺を作った→名刺入れが欲しくなって買った→新しい財布も買った→どうせだから新しいセカンドバッグも買った→ついでにビジネスバッグも新調した→それにちょうど入るくらいのサブノートも買った→やはりモバイル時代なのでPHSも買った→いまひとつつながらないので携帯電話も買った、というふうに、些細なトリガーで物欲に火がつき、アッと言う間に物欲が大爆発を起こし、気がついたらずいぶんお金をつかってしまったなあ、と。
 私も、去年から今年に入って、かなり物欲が炸裂したので、今回はそのことをまとめて書いてみたい。


おっカッコイイ!! ソニーのICレコーダーICD-50

ソニーのICレコーダーICD-50
標準価格15,000円

 俺はリクルートのB-ingという就職情報誌でグッズ紹介の記事を書いているのだが、その担当編集者がけっこうテクノでサイバーなモノが好きなのだ。で、その記事で扱うグッズの中に、ソニー製のICレコーダーICD-50(声を電子録音する小さなデバイスでボイスメモ専用装置)があった。リリースを読んで記事を書くのだが、そのリリース、読めば読むほど俺の物欲が過熱してくる。で、とどめに編集者から製品写真が送られてきた。それも、ヤケにカッコよく撮ってあるやつだ。

 それを見てしまった俺は、速攻で家電店に行き、そのICレコーダーをゲット。使用法は簡単で、録音ボタンを押して声を吹き込むだけ。最大録音時間は16分で、録音した声が番号で整理される。ビジネスマンがちょっとした音声メモを残すために使う装置だが、俺の場合、思い付いたアイデアやおもしろい言葉などを録音・記録し、原稿執筆時にそのアイデアを生かそうという、かなり無理やり&後付け的な購入理由を構築して、その衝動買いをよしとし、いじくり始めた。

 久々におもしろくてカッコいいオモチャを手に入れた感じで、声を録音したり再生したりして遊んだ。すると、昔やった趣味の事を思い出した。
 学生時代のことだ。当時は、電子楽器が流行り始めた頃で、ポストYMO時代、ヒップホップミュージック開始という感じ。その頃、どうしてもヒップホップをやりたくて、友人とバンドを結成し、気合とバイトを融合させてすんげえ高級な電子楽器を買った。AKAIのS612というサンプラーと、YAMAHAのRX11というリズムマシン、いくつかのエフェクター、シンセサイザー、MTRなどなど。男の60回払いのローンを組んでも、1回2万円近い支払となった。それらの機材を使って作った曲の音質は、音楽というには余りにヘボく、なんかラジオっぽいミキシング結果となってしまったものだ。ソニーのICレコーダーICD-50の再生音を聞いた俺は、そのヘボい音質を思い出したのだった。

 そこで俺は、久々に楽器関連雑誌(リットーミュージックのだヨ!!)を購入し、最新のMIDI関連電子楽器の世界を鳥瞰してみることにした。



時代が違います、時代が

64ボイス音源モジュール、RolandのJV-2080

 ふっ昔は俺もよく電子楽器使ったもんだゼ、とやや高飛車&古参な態度で楽器系雑誌を開いた俺だったが、数十分後には、俺の電子楽器知識が古くて古くてしょうがねえという事実を知って愕然とした。
 なななななにーッ!? 今時のサンプラーは楽勝で32ボイスなのか~ッ!? そしてMTRと言えばハードディスクレコーダーで録音ってのは44.1KHzのデジタル録音のことなのか~ッ!? しかも音源ときたら当たり前で256種類音が入ってたりするのかッ!? そしてこれら全部買っても50万円程度!! お、俺の男の60回払いのおよそ100万円の機材の性能を1とすれば、現在100万円払ったら4096とかの性能の電子楽器が買える!! ぐはッ!! ズシャァアァアァ!!

 と叫びながら雑誌を読みまくっていたら、なんかとてつもなく凄いMIDI規格対応音源を発見した。RolandのJV-2080だ。説明を読むと、なんか未来の世界のことを読んでいるみたいで信じ難かった(古い人間ですみません)ので、さっそく楽器屋に行ってその音を聴いてみた。
 10年ぶりくらいに鍵盤を押してみたら、スピーカーから生楽器の音が。あ、なんかサンプラーの音が出ているらしい。「あの~、サンプラーじゃなくて、こっちのJV-2080という音源の音を聴きたいんですけど」と店員に言うと「えっ、ですから今鳴ってるのソレの音ですけど」。

 うぉおぉぉ~ッ!! 凄い!! 凄過ぎる!! これが現代の音源というものか!! 欲しい!! 欲し過ぎる!! ていうか買った。



すっスゲエ!! RolandのJV-2080!!

 未来世界の音源を手に入れた俺は、古くて古くてしょうがねえキーボードをそれにつないで音を出しまくった。ともかくスゴい。驚異的だ。どーしてこんな音出るようになっちゃったんですか~みたいな。例えば、ギターの音を出すと、音階が変わるときの、指でキュッと弦をこすっちゃうノイズまで再現される。ウッドベースとかもリアル過ぎるほどいい音だ。他に、尺八、三味線、和太鼓、ドラム、エレキギター、グランドピアノにアップライトピアノなど、思い付くような楽器の音はほとんど入っている。しかも、JV-2080の空きスロットに音源カードを1枚追加すると、新たな音が100~200程度増える。JV-2080には8つの空きスロットがあるので、全部にカード挿せば2000音色とかになる!! 2000!! あーもうだめだ……。なお、音源カードは、ジャンル別(ピアノセットとかキーボードセットとかドラムセットとか)に10種類程売られている。

 昔は(まだ言ってるよ>俺)、単にちょっとリアルな金属音が出るとか、ピアノに近い音が出るとか、同時に32音出せる(32音ポリフォニック)とか、その程度で"すげえ音源"ということになっていたのだが、未来世界の未来の人が作ったらしい未来からやってきた音源であるところのJV-2080は、64音同時発音(64音ポリフォニック)で16パートマルチティンバー(16種類の違った音色を自在に出せる)で、あらかじめプログラムされている音色は640種類とかあるのだ。当然GM規格にも対応している。信じられん。やはりこれはタイムマシンで未来から持ってきた音源であろう(くどい>俺)。

 ともかく、俺はコレ1台あるだけで何でもできそうな気がしてきた。こうなったら昔の機材引っ張り出してきて再びDTM野郎と化すゼ!!



機材の高性能化で大混乱

パッチベイを購入

 最近の電子楽器はとても高度でフレキシブルだ。昔の機材はとても単純だったので、配線も楽だった。だいたい融通が効かなかったので、配線のパターンも限られた。ところがそこに1台の最新モジュール(昔のモジュール10台分のパワーで20台分の複雑さ)が加わると、もうこれはどうやって配線していいかわからなくなる。エフェクターなどを柔軟に使おうとすると、いつも配線を変えられるようにしておくのが好ましい。で、俺はパッチベイを買ってきた。
 パッチベイというのは、簡単に言えば、各機材の信号の流れを自在にコントロールするための機材だ。音源とミキサーの間にエフェクターを割り込ませたりするような操作が簡単に行なえる。具体的には、パッチケーブルと呼ばれる短いフォンジャックのケーブルで繋ぎ変えて、信号の流れを変えてやる。

 パッチベイで複数の機材をフレキシブルに接続したら、今度はミキサーのチャンネル数が足りなくなってきた。それからリミッターも必要だ。あとコンプレッサーも要る。ついでにエフェクターがもう1系統あるといい。などということになり、俺はまた楽器系雑誌を開いた。

 欲しいモノ全部揃えたらすっげえ金かかるだろうなー、と思って計算してみたら、案外安い。5~6万円で買える!! ワンランク上の機材を買っても10万円で収まる!! 安い!! 激安!! と思ったのは、きっと俺がいつもパソコンなどを衝動買いしており、ハードウェア購入時の金銭感覚が失われているからであろう。ふつーは“楽器を補佐するための装置”に10万円出さないのだろう。
 という感じで、もうソニーのICレコーダー以降の衝動買い行為を考えたくもないほど衝動買いしてしまった俺の前にあったのは、人間の手では弾ききれない電子楽器だった。



全部コントロールするには!?

パッチベイの次には、ラックを導入

 この、どう考えても演奏しきれやしない数の楽器を演奏するためには、コンピュータしかない!! と考えた俺は、その足でDTM絡みの雑誌(リットミュージックのだヨ!!)を買いに行って速攻で読んで、そのまま盛り上がってパソコンショップに行ってしまって後先考えずにMacintosh PowerBook 1400cを大購入して帰宅してMac雑誌読んだらAppleがPowerBook3400シリーズを発表したとの記事があって、大変悲しくなった。

 このように勇み過ぎて衝動買いをすると、たいてい失敗というか苦い思いというか、パソコンライターにあるまじき買い物をするというか、残念な結果になるのであるが、まあそれはよくある悲劇ということで置いといて、PowerBook1400cは(旧機種になったことを悔やまなければ)、かなりイカシたノートパソコンだ。
 俺は以前、PowerBookの5300シリーズを買って、そのヤケクソな不安定さに四苦八苦して速攻で売り払ってしまった。でも今回買った1400cは、液晶もイイし、漢字Talkも新バージョン(と言っても7.5.3)だし、とりあえず今のところ不調はない。DTM用にだけ使うにはちょっとゴージャスだが、まあとにかく、コレを使っていろいろとやっている。

 で、結局、四苦八苦して俺の最強に強まったサウンドシステムをコンピュータによって管理できるようになったのだが、今度は、なんか、外見上いまひとつスッキリしない。モジュールは積み重なってるし、机の上に音源だのサンプラーだのを置いておくのはヒッジョーに邪魔である。ということで、俺は速攻でそれらを収めるためのラックを買った。


ラックマウントは快適

テレビショッピングしたパワードライバー

音源とかエフェクターとかサンプラーなどの多くは、一定の規格に沿ったサイズで作られている。横幅は同じ。左右にあるネジ穴も同じ位置。厚さは1Uと呼ばれる基準の厚さの整数倍、という感じだ。なので、市販の専用ラックにスッキリ収めることができる。このラックの規格はEIA規格で、産業用コンピューターなどの規格と同じだ。で、各種モジュールをEIAラックに収めるとどうなるかというと、スッキリさわやかに整理整頓できて混乱しないのだ。

ところで、モジュールをラックに取り付けたことのある人ならご存じと思うが、この、“モジュールをラックに取り付ける”という作業はけっこう大変だ。ひとつのモジュールを取り付けるのに最低4箇所はネジ止めしなければならないし、サポート役がいないとかなりしんどい。しかも俺のように凝り性だと、モジュールの位置が気に食わなくなって、取り付けと取り外しを何度も繰り返したりすることになる。
で、ラックへのモジュール取り付けに辟易してテレビを見ていたら、画面にいつものアイツが登場した。「これさえあればあらゆるネジを信じられないほどスピーディーに回せるんだ。アメリカでは日常茶飯事のナンバープレートの交換作業だって一瞬。面倒だと思う暇さえないんだ」とか言っている。それだ!! そのパワードライバーってやつだ!! 俺は一瞬の閃きでパワードライバーを買った。

パワードライバーは、手動のドリル型のドライバーで、手を握ったり開いたりするだけでネジを締めたり緩めたりできる。テレビでその広告を見る限りでは、けっこう胡散臭いのだが、使ってみたら実によかった。非常に快適だ。このキットには各種ビット(ドライバー先端部分)がついている。プラス、マイナス、星型、四角型、六角など、たいていのネジに合致するビットがあるので、これが1キットあれば、パソコンから家具からバイクまでをバラバラに分解できるって分解してどうする>俺。ともあれ、久々に“当たり”のテレビショッピングをした。コレを使ってのラックマウント作業はかなり快適だった。



というわけで

ふと我に返ったら、ソニーのICレコーダーを衝動買いしたつもりが、なんだかMIDI規格対応音源からミキサーからラックからパッチベイからPowerBookからパワードライバーまで、やたらイロイロと買っていた。我ながら俺って何考えてんだよという感じである。でもまあ、ハードウェアは壊れない限り使い続けられるからいい。でもやっぱり、こーゆーふーに物欲が連鎖するのは非常に危険なので、皆さんは絶対に真似しないでいただきたいっていうか頼まれても真似しねえよ>わし。

ちなみにその後、俺は友人とバンドを結成し、地道かつふざけつつ、音楽活動をやったりやらなかったりしようという心意気である。


[Text by スタパ齋藤]


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