【周辺】

スタイリッシュだが決め手に欠ける“おともだち”カメラ

プロカメラマン山田久美夫が見た


「シャープ VE-LC1」レポート




VE-LC1  3機種立て続けに発売したシャープ。その中でもっとも新しいモデルであり、以前実写データを紹介した「VE-LC1」についてレポートしよう。

 このモデルは、同じシャープの製品でも、MDデータを記録媒体として採用した「MD-PS1」がオーディオ関係の事業部の開発であるのに対して、このモデルは「液晶ビューハンター」のニックネームからもわかるように、現在の液晶つきデジタルカメラのスタンダードを作ったカシオ QVシリーズの原型(?)である大ヒット作「液晶ビューカム」などを担当しているビデオ関係事業部の開発という。つまり、同じメーカーでも、事業部が異なるため、製品コンセプトはもちろんのこと、基本性能や写りなども異なっている。つまり、一足先に発売されたMDカメラ「MD-PS1」の“内蔵メモリー+IrDA版”ではなく、独立したモデルといえる。



●Cybershot風のなかなかスタイリッシュなデザイン

洋館


 本機のベースとなっているのは、昨年暮れに突如発表・発売された3倍ズーム付きモデル「VE-LS5」だ。しかし、デザインなどは大幅に変わっている。まず、なんといってもCybershot風のスタイリッシュなものとなっており、こちらは流面形を大胆に採用した優雅な雰囲気を備えたものになっている。また、比較的質感が高めなので、それなりに高級感もある(まあ、COOLSHOT2ほどの質感はないけどね……)。

 “見た目の”デザインはなかなかスマートでいいが、実際にカメラを手にしてみると、妙に手に汗をかく点が気になる。これは明確なグリップ部がないため、常にカメラをある程度の力で保持しておく必要がある点と、流面形ボディーのため、手のひらに接する面積が多いことに起因するものと思われる。そのため、見た目はいいが、ホールドした感じがいまひとつシックリこないのが残念だ(もっとも、Cybershotのように、どこを持っても 操作部に手が触れてしまうようなデザインを決していいとは思わないけれど……)。

 また、サイズは写真で見ると小さくみえるが、実はCybershotよりもかなり大きく、DS-8よりもさらに一回り大きい。もっとも、サイズの割に厚みが薄いので、携帯性がさほど悪いわけではないが、やはり胸ポケットなどには到底入らないレベルであることには変わりない。



●クルリと回転するレンズ部

花


 本機のデザイン上の特徴にもなっているのが、回転式のレンズ部分だ。この部分は必要に応じてレンズの方向を回転させることができるばかりでなく、撮影モードから再生モードへの切り替えも兼ねている。しかもレンズを真下に回すことで、再生モードになると同時に、携帯時にはレンズの保護ができるように考えられている。

 しかし、実際に使ってみると、メインスイッチが別にあることもあって、レンズを真下にしたままONにすると、当然再生モードになってしまい、レンズを回転させて撮影モードに切り替えても、即座にモードが切り替わらないのはやや不便。このあたりはもう一工夫ほしい気がする。

 また、本機はレンズの回転機能を利用することで、自分自身を撮影することもできる。しかも、本体内に画面分割機能(プリクラ風に一枚の中に同じ画面を何枚もレイアウトするもの)を備えているため、簡単にプリクラ風シールの作ることができるので、このような目的に利用したい人には便利だ。

 だが、この回転部分には角度の指標がいっさいなく、90度ごとのクリックすらないため、ごく普通に撮影する場合でもレンズを正確に真正面に向けることが困難なため、やや不便な面もあった。できれば真正面にレンズが向く位置でクリックを設けて欲しいところだ。



●大きめの2.5インチTFT液晶表示

花


 ファインダーは液晶式のみ。しかし、“液晶のシャープ”だけに、2.5インチのTFT式のものが採用されており、なかなか見やすい。やはり1.8インチと2.5インチでは、見た目の解像度も見やすさも断然違うなあ~とあらためて痛感してしまった。

 また、晴天の屋外のように周囲が明るい場合には、マニュアル設定だがバックライトを明るくする機能を備えている。だが、そろそろ周囲の明るさに応じて自動的にバックライトの明るさを調節する機能くらいあってもよさそうなものだが……(もっとも最近はサンヨーの低温ポリシリコンTFT搭載の「DSC-V1」に慣れたせいもあって、普通のTFTは見にくいなあ~という感じが先に立ってしまって困っているけど……)。

 ファインダーの液晶表示画像のレスポンスは比較的早めで、フレーミングも容易だ。シャッターボタンの感触はやや切れ味が不足ぎみだが、位置やストロークは適度だ。

 画像の記録速度はスタンダードモードで4~5秒と標準的なもの。しかし、最近はメガピクセルクラスでもより高速なものが多く、35万画素クラスではやはりもう少し高速化を図りたいところだ。

 一方、気になるのが再生時の表示時間で、コマを指定しても即座には表示されず、一度砂時計のアイコンが表れてから、数秒かかって画面が徐々に表示されるのがじれったい。これは先代の3倍ズーム機でもそうだったが、このあたりの速度向上は軽快感につながる重要な要素だけに、もう少し改良するべきだろう。

 同社はこれまでに発売した2機種がいずれも専用の充電式バッテリーを採用しているのに対して、本機は入手が容易な単3型電池4本という仕様になっているのは、やはり安心感がある。また、電池の持ち時間は正確に測定したわけではないが、通常は60枚以上は楽に撮影できた。



●やはり面倒な「内蔵メモリー」+「IrDA」

バス


 本機は現在では数少なくなくなりつつある内蔵メモリー専用機だ。もちろん、容量は4MBあるため、撮影枚数はモードにより30、60、120枚と、実用的な枚数を確保している。そのため、一般的な用途では撮影枚数で困ることは少ないだろう。

 むしろ、内蔵式ならではの不便さを切実に感じるのは、パソコンへの画像転送時といえる。本機の場合、画像転送はシリアルケーブル経由と、IrDAを利用する2つの方法がある。まず前者はごく一般的な方法で安定しており、スペック上、速度も115.2kbpsを実現しているので、さほど遅さを感じることはないはずだ。しかし、実際には本機の転送ソフトで転送してみると、画像転送後、一度カラー調整をソフト側で施す仕様になっている。そのため、単純な転送を行うだけのモデルに比べると処理時間がかかる。

 また、IrDA転送は、まだVer.1.0! 通信速度は115.2kbpsでシリアルケーブル経由と同じだが、半二重通信のためシリアルケーブル経由と比べ転送の遅さを感じる。同社はみずから現在のVer.1.0より約40倍近く高速というIrDAのVer.1.1の4Mbit仕様を提唱しているのに、それを採用していないのは不思議だ。

 もちろん、今後はメモリーカード式モデルや、内蔵式でもIrDA Ver.1.1やIEEE1394やUSBなどの高速転送タイプが主流になると思われる。しかし、いずれにしろ、このクラスのモデルもメモリーカード式を採用していないと、今秋から始まるカメラ店でのプリントサービスが受けにくくなることを考えると、次期モデルではぜひともカードタイプを採用して欲しいところだ。



●写りは標準レベル

庭園


 さて、気になる写りだが、現時点の35万画素モデルとしては標準的なレベル。先代(といっても現行モデルだけど)の3倍ズーム付きモデル(VE-LS5)も、写りに関してはまずまずだったが、ハイライトが白く飛びやすかった点と屋内でストロボなしで撮影するとすぐに露出アンダーになるという欠点があった。

 そして、今回のモデルもまだハイライトの白飛び傾向はまだ見られるものの、暗めの屋内などでも露出アンダーになる点はそれなりに改善されている。

 しかし、2世代目となれば、もう少し絵作りにバランス感覚と個性が欲しい。本機の場合、原色系の彩度が強調され過ぎる傾向があり、やや不自然さを感じる。どちらかというとビデオ的な絵作りといえるが、静止画には静止画の絵作りがあると思うのだが……。

 また、本機はピントが固定焦点式となっており、1.5~2m前後のピントはまずまずだが、3m以遠はやはりフォーカスが甘く見える。このあたりは、CCD側の解像度不足もあるが、レンズやフォーカス方式に起因するところもあるだろう。とくに本機は暗いシーンを撮影したときの、画面周辺部の画質低下が気になる(これは先のMD-PS1にもいえることだが……)。おそらく、絞りが開いて開放近くになったことによる画質低下だと思われるが、かなり像ににじみが見られる。どうもレンズ性能にあまりこだわっていないようだが、今後の高画素時代にはこのレベルの光学性能では許されないだろう。




●スタイリッシュだけど、決め手に欠ける“おともだち”カメラ

窓と花


 なかなかカッコイイし、いい人なんだけど、なぜか独り者……。たとえは悪いが、この「VE-LC1」はそんな雰囲気を持ったカメラだ。デザインもいいし、基本性能も充実しているけど、明確な個性やポリシーが感じられず、購入を決めるときのインパクト(勢い?)に欠ける。そんな“決め手のなさ”が本機の弱点といえる。もちろん、実際に使ってみると、決定的な欠点があるわけでもなく、それなりに満足できるけれど、“特別な関係”(カメラを購入するってことね)になるのはちょっと……という感じがする。  「あなた、いい人なんだけど……。でも……、ごめんね。これからも、いいお友だちでいましょうね……」といわれちゃうタイプなんですね、「VE-LC1」って。(でも、ほんとにいい人なんですよ! あまり取り柄がないだけで……)。



□シャープ株式会社のホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□「VE-LC1」のニュースリリース
http://www.sharp.co.jp/sc/gaiyou/news/970310.htm

□参考記事
【4/7】 プロカメラマン山田久美夫が撮った シャープ「VE-LC1」サンプル画像
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970407/velc1.htm
【3/10】シャープ、小型でIrDA転送できるデジタルスチルカメラを発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970310/sharp.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm

■注意■

('97/4/22)

[Reported by 山田 久美夫 ]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp