【周辺】

スペックは標準レベル。だが……。

プロカメラマン山田久美夫が見た


「三洋電機 DSC-V1」ファーストインプレッション




 家電メーカーの参入が相次ぐなか、いよいよ“影の大物”である三洋電機が自社ブランドのデジタルカメラを発表した。同社はすでに海外では自社ブランドのデジタルカメラを発売しているほか、オリンパスやエプソンなどのモデルも共同開発という形でたずさわっており、すでにかなりの実績があるメーカーだ。

 今回発売したモデルである「DSC-V1」は昨年秋のエレクトロニクスショーで参考出品されたモデルをベースに開発されたもので、機能の充実やピントのAF化、そして、同ショーで発表された高画質な「低温ポリシリコンTFT液晶モニター」を採用するなど、かなり改良されて製品化された。



●スペックは標準レベル。だが……。

看板


 スペック的に見ると、35万画素の原色系正方画素CCDモデルであり、ファインダーも光学式と液晶式の併用型。また、内蔵メモリはいまや少数派となりつつある内蔵専用タイプ(4MB)という、ごくありふれたモデルだ。とくにメモリに関しては、新製品の多くがカード式なのに比べると、他社よりも遅れていると思える部分すらある。

 しかし、実際に使ってみると、これが実に気持ちのいいモデルに仕上がっているから驚きだ。ともすると、スペック的な見どころが少ないだけに、軽視しがちなポジションのモデルだが、一度使ってみると、ガラリとイメージが変わる人も多いだろう。

 少し乱暴にいえば、これまでのデジタルカメラに一番欠けていた“気持ちよさ”という感覚的な部分を充実させたモデルであり、意外なほどマニアックな要素を備えたモデルといえる。



●美しい液晶モニター

アーケード

 本機の気持ちよさは、実にいろいろな面に感じられるので、それを簡単に紹介してゆこう。

 まず、もっとも気持ちよさを感じるのが、液晶表示。とにかく解像度が高く、明るい上に、色や階調も明快でクリア。しかも、一覧表示をしたときにも、ほとんど一瞬で一覧表される。この表示の速さはおそらく現行モデルでトップだろう。また、モニターの解像度が高いので、一覧表示が12画面(他社は9画面)でも十分に画像が確認できる点も特徴といえる。最近多くなったMIM式はおろか、ふつうのTFT液晶とも比べモノにならないほどだ。

 液晶をファインダーとして使ったときも見え味も、他社のモデルよりワンランク上のクォリティーだ。まず、斜め方向から見たときの翳りが少ない上、日中の炎天下でも液晶画像がちゃんと確認できる点は特筆に値する。しかも、液晶にプラスチックのカバーがかけられているため汚れがつくこともなく、反射を防ぐためにカバーの表面が緩やかな球面になっている点もよく考えられている。

 表示画像もコマ送りではなく、フルモーションの動画として表示されるので、とても気持ちがいい。現行機種では、ソニー Cybershotの1.8インチTFTモニターがもっとも気持ちよかったが、本機はそれを上回るレベルだ。この液晶の魅力だけでも本機を選ぶ価値はある。

 また、光学式ファインダーの見え味もクリアで周辺までよくみえるので、通常は液晶ナシでも十分。また、撮影モード時の液晶モニターのON&OFFは、シャッターボタンの先にあるスイッチで簡単に切り替えられるので、必要なときだけONにして使えば、バッテリの負荷も軽くなり、かなりの枚数撮影できる。



●気持ちよさが本機の魅力

テーブルと花

 操作性も良好だ。とくに、再生時には液晶右にあるファミコンのコントローラーのような4方向の操作ができる円形の操作部の操作性が抜群に良く、本当に指一本だけで、画像の一覧表示や画像消去、表示するコマ選びなどが簡単に行える。これまでにも、カシオQVシリーズなど操作性のいいモデルはあったが、それを上回るほど簡単で的確な操作性を実現した、数少ないモデルといえそうだ。

 画質は見て分かるように、35万画素クラスでトップレベル。とくに原色CCD採用機らしい、明るくてクリアな色再現と、素直で幅広い階調再現性は大きな魅力だ。また、4MBの内蔵メモリで撮影枚数が60枚と、比較的圧縮率が高めの設定にも関わらず、画像の解像度もなかなかいい。これはピント合わせがオートフォーカス式である点も大きく関与している。とくに、AF測距が威力を発揮する近距離やマクロモード撮影での写りは良好だ。




●メモリは内蔵メモリ4MBのみ

ビルと樹木
子どもその2
【1/4VGAのサンプル】
 撮影枚数は、内蔵メモリ4MBのみで、VGA(640×480ピクセル)モードで60枚、1/4VGAモードでは120枚。もちろん、メモリカード型のように、一杯になったらメディアを交換することはできないので、撮影枚数に限りがあるわけだ。しかし、本機は性格上、デジタルカメラを取材や仕事でバリバリ使いこなすといった感じよりも、ビジュアルメモやちょっとした記録や記念写真程度に使うことがメインのモデル。そう考えれば、この撮影枚数はギリギリ許容範囲といった感じだ。

 電池の持ちもなかなかよい。今回は、本機と同時に発表された単三型のニッケル水素の1,300mAhの大容量バッテリを使っていたため、高画質モードで液晶を常時使いながらでも、内蔵メモリいっぱいの60枚の撮影は余裕でOK。撮影だけをバッテリーで行ない、画像の転送はACアダプターを使った場合には、楽に百枚以上の撮影ができるのには感心した。また、2.5時間でフル充電になる点も便利だ。

 画像のパソコンへの転送は別売キットによるシリアル転送。4MBもシリアルで送るとなると、それなりの時間はかかるが、家に帰って、食事をしている間などを利用すれば、何とか実用になる感じだ。もちろん、最近はメモリカード式のカメラを使う機会が多いので、最初はじれったかったし、さすがに仕事で使うにはキツイ感じもある。しかし、我が家に本機が届いてから約3週間近く、日常的なメモ用カメラとして、腰にぶら下げて持ち歩いてみたが、さほど撮影枚数が多くないこともあって、最近は転送時間もあまり気にならなくなった。

 ちょっと気になるのは、JPEG形式の画像データのほかに、一覧表示を高速化するためのサムネール画像データと、アルバムなどを作製するためのデータファイルがいっしょに転送されてしまうことだ。1枚の画像につき、3つのファイルが転送されることになり、フォルダーのなかがゴチャゴチャになるのはいただけない。できれば、JPEデータのみを転送できるオプションが欲しい。

 なお、本機には録音機能もあり、一枚につき5秒間の録音ができるが、このファイル形式が専用形式のため、汎用性がないのが残念。使用頻度は人によるだろうが、やはり一般的な形式に変換できるようにするべきだろう。
編集部注:ベータ版による評価のため、録音機能についてこのような記述となっていますが、製品版では、録音時間6秒、データ形式は.WAV形式に変更されました。



●通のデジタルカメラ

 外観デザインもカメラっぽく、普通の人でもコンパクトカメラと同じ感覚で撮影できる点は、やはり好感が持てる。カメラメーカーであるオリンパスのCAMEDIAシリーズよりも洗練されている部分もある。また、カメラの前面にアルミが使われているため、手にしたときにヒンヤリとした感触が楽しめる点も、なかなかマニアックだ。

 もちろん、内蔵メモリ専用である点や、価格が8万円とこのクラスのなかでも高めな点は結構気になる。また、個人的には“マルチーズ”というニックネームもちょっと気恥ずかしい。とはいえ、カメラとして完成度は高く、なによりもデジタルカメラとしては珍しく、“気持ちよさ”を感じるカメラである点はとても好感が持てる。まあ、あまりスペックにこだわらず、ちょっと肩の力を抜いて気軽に使う、“通のデジタルカメラ”という感じだ。これでメモリカードが使えて、しかも80万画素クラスのCCDを搭載してくれれば、相当に魅力的なモデルになると思われるので、スペックアップした手頃な価格の次機種の登場にも、大いに期待したい。




【サンプル画像】

煉瓦壁 マンホール
Licre 子どもその1


□三洋電機株式会社のホームページ
http://www.sanyo.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/9702news-j/0218dsc.html

□参考記事
三洋、16分割マルチ撮影可能な普及型デジタルカメラ「DSC-V1」を発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970218/dscv1.htm
デジタルカメラ関連記事インデックス
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/digicame/dindex.htm

■注意■

('96/3/27)

[Reported by 山田 久美夫 ]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp