小高輝真の「いまどきの98」第2回
98のポイントはこれで完璧把握
小高輝真の「いまどきの98」 第2回
98をアップグレードする~MMX Pentium編
98だってアップグレードできる
アップグレードといえばAT互換機の世界の独擅場というイメージがある。98の世界でのアップグレードとは、サードパーティ製の完成品を接続することを意味する、と言っても過言ではないだろう。もちろん、98のサードパーティ製品ならば、そのメーカが98への接続を保証してくれるわけで、接続性の面でも、品質面でも安全・確実なアップグレードができる。この点が、98本体の信頼性とあいまって、98という環境の安心感に繋がっていると言える。読者のなかでも、個人ではAT互換機を使っていても、会社に導入するときや、初心者の友人に勧めるのは98、という人は少なくないのではないだろうか。
反対に、AT互換機の魅力は、秋葉原のショップなどで売られている、安くて魅力的な(ヘンテコな:-) )「部品」をプラモデル感覚で組み合わせて、自分なりのアップグレードができる点だ。安定志向の98では、このような芸当はできない。
というのが「世間の常識」ではないだろうか。
しかし、「世間の常識」ほどアテにならないものはない。ほんとうは、知識さえあれば、98もAT互換機はだしのアップグレードは可能なのだ。
この連載では、それを実証するために、筆者が行っている98アップグレード法のいくつかを順次紹介していきたいと思う。
ちなみに、筆者の会社では、購入当時は「PC-9821Xa7」という型番のPentium 75MHzマシンであったものが、いまはPentium 166MHzを搭載した状態で使用されていたりもする(当然200MHzモードにも設定可能なように改造してあるが、Pentium 200MHzはまだコストパフォーマンスが悪いので購入していない)。
P54C搭載98にMMX Pentiumは搭載できるか?
アップグレードマニアたちのあいだで、いまいちばんホットな話題と言えば、MMXテクノロジ対応Pentium(以下、MMX Pentium)への換装だ:-)。そこで今回は、MMX Pentiumの98への搭載実験を行うことにした。
MMX Pentiumはピンコンパチだが電源電圧が違う
MMX Pentiumは、外見上は従来のP54C(非MMX Pentium、以下同)と変わらない。200MHz品はプラスチックパッケージ、166MHz品はセラミックパッケージとプラスチックパッケージの2種類が出回っているようだが、これもP54Cと同じだ。基本的にはピンコンパチブルなのだが、MMX PentiumではCPUコアに供給する電源電圧が3.3Vから2.8Vに下がっている。つまり、従来のP54Cのかわりに単純に差し替えるだけ、というわけにはいかない。AT互換機のマザーボードでも、MMX Pentium対応のものはCPUコアに供給する電源電圧を切り替えられるようになっている。
98にMMX Pentiumを搭載する場合も、当然、この条件を満たす必要がある。しかし、筆者の知る限り、ジャンパスイッチなどをいじって簡単に電圧を変更できるようになっているマザーボードはないようだ。
VRM対応機種ならば換装可能
PC-9821Xa16/Wに搭載されているVRM。5Vから3.3Vに降圧する。スイッチングレギュレータタイプなので、大きな放熱器はない。 |
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(表面) |
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(裏面) |
電源電圧が違うということで思い出されるのは、3倍速の486であるDX4。これも、486DX2などの電源電圧が5Vだったのに対し、3.3Vを必要とした。これを従来のマザーボードに搭載するために、5V→3.3V変換ゲタというのが売られていた。
同様のものがMMX Pentium用にもあれば、これを使った換装実験が可能なのだが、残念ながらいまのところ、そのようなものは市販されていないようだ。
ところが、Socket 7搭載機の一部に、VRM(Voltage Regulator Module)と呼ばれる電源電圧変換モジュールを搭載している機種がある。この場合、CPUの電源はVRMを経由して供給される。
PC-9800シリーズでは、'96年7月に発表されたPC-9821Xa16/WがVRMを搭載していることを確認した。ほぼ同一のハードウェア構成のPC-9821Xa13/W、Xa20/W、Xv13/W、Xv20/Wも同様と考えられる(ただし未確認)。
ちょうど、メルコからMMX Pentium用のVRMが発表された。これは、同社のマザーボード向けということになっているが、VRMはIntelによって規格化されている部品なので、これを98に使うこともできるはずだ。
対応可能な機種は限られてしまうが、とりあえず今回はこれを使ってMMX Pentiumへの換装実験を行った。将来、ゲタ式の電圧変換ソケットが出回ったときには、それを使った実験を再度行ってみたいと思う。
注意:/WのつかないPC-9821Xa16(やXa13、Xv13など)はVRMを搭載していない。前面パネルの表記からは/W付きかどうかわからないので、背面パネルを見て、機種名をよく確認していただきたい。
注意:今回のMMX Pentium搭載実験は、あくまでも実験であり、その結果について、筆者およびインプレスPC Watch編集部はなんらの保証もいたしません。また、なんらかの原因により本体等を壊してしまった場合には、メーカの保証は受けられなくなります。この記事に基づいて実験を行う場合は、自己の責任において行なってください。
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PC-9821Xa16/WをMMX Pentiumに換装する
それでは、PC-9821Xa16/WをMMX Pentiumに換装する方法について具体的に説明してみよう。
新たに用意するもの
- MMX Pentium(200MHzまたは166MHz)
- P55C用VRM(メルコ製「MVR-MX」)
- 冷却ファンまたは伝熱性ゴムシート
MMX Pentiumは、200MHzでも166MHzでも良いが、筆者は200MHz品で実験した。VRMは、現在のところメルコ製のものがもっとも入手が楽だろう。
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| メルコ製のVRM。5Vから2.8Vに降圧する。シリーズレギュレータを採用しているため、表側に大型のヒートシンクがついている。裏側についているのはLinear Technology社製3端子レギュレータ。 |
(表面) | (裏面) |
冷却ファンもたいていの場合、新たに購入する必要がある。元のP54Cと、換装するMMX Pentiumとでパッケージの形状が違う場合、同じ冷却ファンが利用できないからだ。
Pentiumのパッケージには2種類あり、200MHzはPPGAパッケージのみで、166MHzはPPGA、SPGAパッケージ混在で、150MHz以下はSPGAパッケージのみで供給されている。
SPGAパッケージ採用品種 (Staggered Pin Grid Array) |
P54C 75MHz、90MHz、100MHz、120MHz、133MHz、150MHz、166MHz MMX Pentium 166MHz |
PPGAパッケージ採用品種 (Plastic Pin Grid Array) |
P54C 166MHz、200MHz MMX Pentium 166MHz、200MHz |
* ノートパソコン用にTCP(Tape Carrier Package)で供給されているMobile Pentiumは除く
今回の実験で使ったPC-9821Xa16/Wには、SPGAパッケージのP54Cが実装されていた。また、換装したMMX Pentiumの200MHz品はPPGAパッケージである。SPGAよりPPGAのほうがパッケージが薄く、ソケットに実装したあとの高さが低いため、元の冷却ファンではヒートシンクがCPUパッケージに密着せず、冷却能力が低くなってしまう。
MMX Pentiumを購入するとき、元のP54Cと違うパッケージだったときには、それに合った冷却ファンも同時に購入する必要がある。あるいは、電子部品店などでちょうど良い伝熱性ゴムシートが入手できるようであれば、それをCPUの上面とヒートシンクの間に挟み込んで高さを調整するという手もあるだろう。
作業の手順
作業1. 元のCPU、VRMをはずす
CPUの外し方はPC-98本体のマニュアルに説明されているので、それに従って取り外す。
VRMは、マザーボード側のコネクタにフックがついているので、それを押さえながら垂直に引き抜く。斜め方向に抜いて、コネクタのピンを曲げないように注意する。
作業2. 新しいCPU、VRMを取り付ける
CPUは向きに注意してセットする。間違った向きには刺せないが、方向が合っているのにうまくソケットに入らないときには、曲がっているピンがないかどうかよく確認する。もし、曲がっているピンがあったら、ピンセットなどで慎重に修正する。
VRMは、向きに注意して上からしっかり差し込めば装着は完了する。軽く引っ張ってみて抜けないことを確認する。
作業3. CPUにファンを取り付ける
冷却ファンは、互換機ショップ等で新規に購入したものならば、ハードディスク用の電源コネクタから電源が取れるはずなので、そこに電源を接続する。
伝熱性ゴムシートを購入した場合は、CPUとヒートシンクの間にゴムシートを挟んで、ヒートシンクを元通りに取り付ける。
作業4. 200MHzにするときには、ジャンパの設定を変更する
PC-9821Xa16/Wに200MHzのMMX Pentiumを取り付けたような場合は、そのままではCPUコアのクロックは166MHzのままである。これを200MHzにするには、マザーボード上にあるクロック倍率切換用のジャンパスイッチの設定を変更する。
ジャンパスイッチは、Cバススロットの下側にある。PC-9821Xa16/Wでは、すべてのCバスボードとPCM音源ボードを取り外すと見えるようになる。14996-003という刻印のあるカスタムLSIの右上に位置している、3本×2列のジャンパスイッチ(部品位置7E1、7E2)がそれだ。以下の写真のように、両方のジャンパポストをカスタムLSI側にセットすると200MHzになる。
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166MHz用のジャンパ設定 | 200MHz用のジャンパ設定 |
以上でMMX Pentiumへの交換作業は終わりである。このような作業に慣れていれば、ものの5分とかからないだろう。
動作確認
蓋を閉める前にもう一度、VRMが正しく装着されているか、CPUに冷却ファンをきちんと取り付けているか、PCMボードを元に戻したか、などを確認するほうが良いだろう。
問題なし、という自信があれば、電源を投入してみる。「ピポッ」と言って、メモリカウントが始まれば9割方成功と判断して良いだろう(ちなみに、この「ピポッ」音はMMX Pentiumに置き換えるとテンポ(?)がかなり速くなってしまうようだ)。また、CPUの冷却ファンが回転していることも確認しておく。
ここまで正常であれば、蓋を閉めて、通常の使用状態で試験を続ける。数時間使ってみて特に問題ないようであれば、換装成功と判断して良いだろう。
CPUアップグレードに関する情報をお寄せください
PC-9821Xa16/W以外のP54C搭載機にも、一部VRMが使用されているようです。そのような機種をお持ちの方、機種名を教えてください。
今回の実験を再現してみた方は、ぜひ実験結果をお知らせください。
次回の「いまどきの98」でご紹介させていただきたいと考えています。
また、「こんな改造は可能か?」などのご質問も大歓迎です(ただし、個別のご質問にはお答えすることができませんので、あらかじめご了承ください)。
このページに関するご意見・ご感想は、筆者までお願いします。
[Text by 小高輝真(ウェブテクノロジ)]
ウォッチ編集部内PC Watch担当
pc-watch-info@impress.co.jp