小高輝真の「いまどきの98」第1回

98のポイントはこれで完璧把握

小高輝真の「いまどきの98」 第1回

今度の98はここが違う!

TEXT:小高輝真 (ウェブテクノロジ)


C200/V model S2

今回の注目ポイント

 ●MMX Pentium搭載
 ●USBポート搭載
 ●SD-RAM対応
 ●PC 97を意識したスペック

 先週火曜日(1/21)から今週月曜日(1/27)にかけて、PC-9800シリーズの新製品が文字通り「続々と」発表された。本体スペックで分類しても14機種、モデル別で数えると30種類にものぼる。
 また、昨年から各社が模索している、家電パソコンともいうべきジャンルの「セレブ(CEREB、写真右)」という新系列も登場した。
 ここでは、主にハードウェア寄りの視点から、今回発表された98について解説してみたい。


こんなにあるぞ今度の98(主要スペック一覧)

 今回発表されたのは、98MATE Xが4機種、ValueStar 3機種、CanBe 1機種、CEREB 2機種、98NOTE Lavie 2機種、98NOTE Aile 2機種である。とシリーズ名を列記しても、多くの読者はそれぞれどのような特徴を持っているのかわからないのではないだろうか。そこでまずは、各シリーズの位置づけを整理してみよう。
 シリーズの位置づけは、時代とともに少しずつ変化している。現在は次のようにまとめられるだろう。

98MATE Xビジネスユーザ向け
ValueStar個人ユーザ向け
98MULTi CanBe子供のいる家庭向け
CEREBリビングルーム向け
98NOTE Lavieフルスペック型ノート
98NOTE Aile軽量薄型ノート

 98MATE Xは、100BASE-TXのLAN I/Fを標準で内蔵しているなど、完全にビジネス指向のマシンだ(最廉価機のPC-9821Xb10/F―標準価格118,000円―を除く)。3Dアクセラレータやサウンドなどマルチメディア系の機能強化もされていない。
ValueStar V200/S7
 ValueStarは、登場当初はオールインワン型の廉価モデル的存在だったが、今回、MMX Pentiumの搭載をはじめ、サウンドやグラフィック(Matrox社Mystique相当品を内蔵)の機能が大幅に強化されて、個人ユーザ向けの性格が非常に強くなった。CRTなしのモデルも今回から加わった。
ValueStar V200/S7
 98MULTi CanBeは、ディズニーキャラクタのCD-ROMソフトを添付するなど、最近は子供のいる家庭向けという色が濃くなっている。
C200/V model S2
 CEREBは今回初登場のAV機器型98である。ハードウェア的にはCanBeをベースに、リビングルーム向けにアレンジしたものと考えて良い。28インチワイドディスプレイTV付属モデルが用意されるなど、いわゆる「黒いパソコン」系統のものだ。なお、CEREB(セレブ)は、スペイン語で「頭脳」を意味する「cerebro」からとった造語だという。
 98NOTE LavieはA4ファイルサイズのフルスペック型ノート、98NOTE AileはA4サイズの軽量薄型ノートである。ちなみに、「Aile(エール)」「Lavie(ラヴィ)」はフランス語で、それぞれ「翼」「生活(仏語として正しくはla vie)」を意味する(が、やはりValueStarやCanBeに比べて愛称の浸透度がいまひとつという感はある)。


●MMX Pentium搭載

MMX Pentium(P55C)搭載機ValueStar(PC-9821V200,V166),
CEREB(PC-9821C200),
98NOTE Lavie(PC-9821Nr166,Nr150),
98NOTE Aile(PC-9821Ls150)
非MMX Pentium(P54C)搭載機98MATE X(PC-9821Xa20,Xc16,Xc13,Xb10),
98MULTi CanBe(PC-9821Cu13T),
98NOTE Aile(PC-9821Ls12)
* P55C搭載機は型番のCPUクロック表記が3桁、P54C搭載機は2桁

 MMXテクノロジ対応Pentium(以下、MMX PentiumまたはP55Cと表記。従来のPentiumはP54Cと表記)について、ここで改めて説明する必要はないだろう。
 今回発表された機種の全てがMMX Pentium搭載ではない。インテルは、デスクトップ製品向けのP55Cは200MHzと166MHz、ノート製品向けは166MHzと150MHzしか出荷していないので、それより低いクロックのCPUを採用している機種(低価格機)は、自動的にP54Cが選択されている。
 ところが、ビジネス向けの98MATE Xでは、全くP55Cが採用されていない。MMXアーキテクチャはもともとマルチメディア系の処理をCPUで高速に処理するためのものだが、P55CはMMXのサポート以外にも、1次キャッシュ容量の倍増(32KB)、分岐予測機能の改善などもされているので、マルチメディア用途以外でも多少性能が向上する(インテルの公表値では10~20%)。今回98MATE XにP55Cが採用されなかった理由には、部材確保の問題など非技術的な側面もあるのかも知れない。


USBポート搭載

USBポート搭載機98MATE X(PC-9821Xc16、Xc13)
ValueStar(PC-9821V200、V166)
USBポート非搭載機98MATE X(PC-9821Xa20、Xb10)
98MULTi CanBe(PC-9821Cu13T)
CEREB(PC-9821C200)
98NOTE Lavie(PC-9821Nr166、Nr150)
98NOTE Aile(PC-9821Ls150、PC-9821Ls12)

 98にUSBポートが搭載されるのも今回が初めてだ。搭載機はリアパネルに2ポート装備している。USBポートを備えたAT互換機と同様、キーボードとマウスは従来のインターフェースを使っている。また、現時点では、NECからUSBポートに接続する周辺機器は発売されていない。
 USBポートは、新規設計のマザーボードを使用しているPC-9821XcとValueStarに搭載されており、既存のマザーボードを流用したと思われるPC-9821Xa20、Xb10、Cu13Tには搭載されていない。98NOTEに搭載されなかったのは、現状ではUSBは必須の外部インターフェースとなっていないためだろう。
 CEREBは、新規に設計された製品なのにUSBポートを搭載していない。次に述べるSDRAMにも対応していないことなどから考えると、マザーボードの設計はかなり以前に終了しており、発売時期を見計らって出荷を始めたのではないかと思われる。

 なお、USBのコントローラにはNEC製を使用している。USBポート搭載機が採用しているチップセット(Intel 430VX PCIset=Triton2)にはUSBインターフェースが内蔵されているはずなのになぜ?という疑問を持つかも知れないが、次のような理由による。
 Intel 430VX PCIsetは、82437VXシステムコントローラ(TVX)と82438VXデータパスユニット(TDX)、および82371SB(PIIX3)という3種類のチップから成る。このうち、USBコントローラの機能を集積しているのはPIIX3である。しかし、PIIX3はATアーキテクチャ用に構成されたペリフェラル(PCI-ISAブリッジ、 IDE I/F、 タイマ、 割り込みコントローラ、 DMAコントローラ等を含む)を集積したチップであるため、98アーキテクチャではそのまま使用することができない。98では、PIIX3の代わりに、自社開発の98アーキテクチャ用ペリフェラルLSIを使用している。このため、USBのコントローラもNEC製となったのだろう。


●SDRAM対応

SDRAM+EDO/FP DRAM対応機種98MATE X(PC-9821Xc16、Xc13)
ValueStar(PC-9821V200、V166)
EDO-ECC DRAM対応機種98MATE X(PC-9821Xa20)
EDO/FP DRAM対応機種98MULTi CanBe(PC-9821Cu13T)
CEREB(PC-9821C200)
98MATE X(PC-9821Xb10)
* PC-9821Xb10にEDO DRAMを使用した場合のアクセス速度はFP DRAM相当

 SDRAM(Synchronous DRAM)の採用も、98では今回が初めてだ。USBポートと同様、新規設計のマザーボードを使用している機種で採用されている。CEREBで採用されなかったのは、USBと同様の理由と考えられる。
 SDRAMというとサーバ機などのハイスペックマシン用というイメージが強かったが、現在のチップ価格はEDOタイプなどにかなり接近しており、今年中にはほぼ同程度の価格になると予想されている。
 SDRAM対応機種は、SDRAM用のDIMMソケットのほかに、EDO(Extended Data Out)/FP(Fast Page Mode) DRAM用のSIMMソケットも備えているので、手持ちの、あるいは安く入手可能なSIMM(ノンパリ)でメモリ増設することもできる。
 ただし、当然のことながら、EDO/FP DRAMを使用すると、SDRAMに比べてパフォーマンスが低くなることは覚悟しておく必要がある。転送開始の2サイクル目以降の速度(瞬間最大風速にあたる)を比べると、SDRAMでは66MHzのシステムクロックと同期してノーウェイトで転送可能なのに対し、EDO DRAMでは1ウェイト(転送速度1/2)、FP DRAMでは2ウェイト(同1/3)入ることになる(設計によってはそれ以上ウェイトが入る場合もある)。

機種名DIMMソケット数SIMMソケット数
PC-9821Xc16/M722
PC-9821Xc13/S512
PC-9821V200/M722
PC-9821V200/S7
/SZ
12
PC-9821V166/S7
/S5
12
* DIMMは1本単位、SIMMは2本単位で増設
* DIMMソケットが2個あるのはミニタワー型の機種
* DIMMソケットが2個ある機種では、DIMMソケット2とSIMMソケットは排他
 (DIMMを2枚実装するとSIMMは実装できない)



PC 97を意識したスペック

 新製品の詳細なスペックを眺めていると、Microsoft社が定義したPC 97をある程度意識していることが感じられる。ただし、完全に準拠しているいうわけではない。PC 97のスペック自体に多少先走り感がある(例えばOnNowやIEEE1394に関する定義など)からだろう。逆に、PC 97の定義に関わらず、メモリ容量などのように時代の流れで充分なスペックになっている部分もある。

― 新製品とPC97仕様の比較 ―
CPUPC-9821Xc13はWorkstation PC97に合致しない
PC-9821Cu13TはEntertainment PC97に合致しない
 Basic PC97=Pentium 120MHz以上
 Workstation PC97、 Entertainmnt PC97=Pentium 166MHz以上
L2 cache全機種256KB搭載
 PC97=256KB以上
メモリ全機種32MB搭載
 Basic PC97、 Entertainment PC97=16MB以上
 Workstation PC97=32MB以上
OnNowPC-9821Xc、 ValueStarがサスペンド・レジュームをサポート
(ただし、OnNowそのものではなさそう)
 PC97=必須
静音設計サポート
 Entertainment PC97=稼働時に静音が必須
 Basic PC97、 Workstation PC97=待機時に静音が推奨
USBポートPC-9821Xc、 ValueStarのみサポート
 PC97=必須
IEEE1394非サポート
 Entertainment PC 97=必須
ISAバスCanBe、 CEREBは(ISAバスに相当する)Cバスなし
 PC97=ISAは推奨しない
ビデオ出力CanBe、 CEREB、 98NOTE Lavieで可能
 Entertainment PC97=必須(大画面がないとき)
* PC-9821Xb10/Fを除く

 このなかで、特に筆者が高く評価したいのは「静音設計」だ。ファンの感温制御や、ハードディスクを制振材を介してマウントするなどの配慮を行って、発生する騒音を約30dB(図書館程度)まで落としたという(ディスク起動音・シーク音などがない状態で)。
 家庭のように静かな環境でパソコンを使うときに発生する騒音は、非常に耳障りだと筆者は常々思っていたので、このような流れは大歓迎だ。低価格化競争のなかでは、このような部分にまで気を配った設計は困難だったと思われるが、このところの価格競争の沈静化で、メーカにもしっかりした製品設計をする余裕が出てきたということだろうか。

 もうひとつ、気になる機能にデスクトップ機のサスペンド・レジュームサポートがある。
 ノート型ではあたりまえの機能だが、デスクトップ機でこれをやるには困難が伴う。一番の問題は拡張ボードで、ハードウェアやドライバがサスペンド・レジュームを考慮していないため、電源を切ってしまうとハードウェアを元の状態に戻せなくなってしまう。このため、今回採用されたのは、拡張ボードなどには電源を供給したまま、CPUをHALT状態にして消費電力を極力落とす、というどちらかというと消極的な(しかし実際的な)方法だ。
 将来的には、PCIカードやドライバが対応することで、デスクトップ機でのハイバネーションも可能になるが、それまでのつなぎとして、今回の機能もそれなりに評価できるのではないだろうか。


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[Text by 小高輝真(ウェブテクノロジ)]

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