後藤弘茂のWeekly海外ニュース


Microsoftに新たな反トラスト法捜査の手が

テキサス州がMicrosoftに資料提出などを要請か

●テキサス州からの1通の手紙

 2月上旬のその日、テキサスからの1通の手紙を受け取った米Microsoft社の司法関係担当者の頭には、不吉な予感がよぎったに違いない。手紙の差出人は、テキサス州の検事総長局。そして、その中身は、Microsoftに対して情報の提出を求める召喚状だったのだ。

 先週、各ニュースサイトが一斉に報じたところによると、テキサス州の検事総長はMicrosoftの商習慣に反トラスト法の疑いがあるとして捜査を開始したという。Microsoftやテキサス州から公式の発表は行われていないが、各サイトは関係者の証言をもとに、今回の捜査のポイントは、インターネットソフトウェア市場での独占や取引制限行為の疑いについてだと報じている。なかでもテキサス州がフォーカスしているのは、オンラインでの旅行予約やバンキングなどで、そのほか、ソフトの無料配布を含むディスカウント戦略についても関心を持っているという。

 後者のソフトの無料配布/バンドルは、Internet Explorerの例を考えればわかる通りだが、前者のオンラインビジネスについては少し説明が必要かも知れない。Microsoftは、この分野に早くから関心を示し、昨年末にオンライン旅行予約システム「Expedia」を立ち上げ、オンラインでの地域情報や小口広告にも進出しようとしている。また、オンラインバンキングに関しては、95年に個人会計ソフト最大手米Intuit社の買収を試み、また、最近ではそのIntuitなどと提携し、オンライン財務取引のスタンダード策定を発表している。Microsoftのこうした動きが、OSでの独占的な立場を利用した、Eコマースなどのインフラ支配へと向かうものだと受け止められたわけだ。

●反トラスト捜査の先行きは不鮮明

 この事件をいち早く取り上げたInformationWeekは、マサチューセッツ州もテキサス州に同調する動きがあると伝えている。しかし、連邦政府の動きを含めて、今後どんな展開になるかはまだわからない。

 だが、現状では、反トラスト法違反で追求するのは、ちょっと難しいだろう。というのは、一般に、反トラスト法が適用されるのは、その企業が実際にその行為によって市場で優位に立った場合だからだ。しかし、これまでのところ、インターネット分野でのMicrosoftの存在はまだ圧倒的ではない。また、Eコマースやバンキングの分野では、市場の展開も見えないために判断が難しい。

 だが、それは、Microsoftがインターネット市場でのシェアを拡大したり、Eコマース/バンキングで他社より先導しはじめたら、反トラスト法で糾弾される可能性が高まるということを意味している。つまり、Microsoftはインターネット市場で成功すればするほど、身動きが取りにくくなるという皮肉な現象に直面しているわけだ。事実、これまでMicrosoftは何回か反トラスト法違反の疑いで捜査を受けてきたが、インターネット分野でのケースはなかった。テキサス州の捜査は、まだ小さなボヤかも知れないが、将来、大火事に発展する可能性がないわけではない。

●IEをWindowsに統合することで追求を逃れる

 こうした状況にあるMicrosoftにとって嬉しいと同時にやっかいなことに、インターネット市場でのMicrosoftのシェアは急速に拡大しつつある。調査会社の米Jupiter Communications社が先週発表したWebブラウザ市場の調査結果を見ると、これまで圧倒的シェアを持っていたNetscape Navigatorが59%にまで落ち、その一方で、IEのシェアが31%にまで拡大している。しかも、同社は97年末にはNavigatorのシェアが38%にまで落ち込むという見通しを示した。つまり、今年中には、NavigatorとIEのシェアがいよいよ逆転する可能性が高いというわけだ。

 これまでIEは無料配布、Navigatorは一部をのぞき有料だった。膨大な開発費をかけたWebブラウザをMicrosoftが無料配布することの問題は、これまでも何度も指摘されてきたが、致命的な問題にはならなかった。それは、IEが市場を支配していなかったからだ。だが、IEがNavigator以上のシェアを取るようになると、無料配布は不当ディスカウントとして問題になる可能性がある。

 そこで、Microsoftはうまい手段を考えついた。それは、次期Windows 9x「Memphis(コード名)」やWindows NT 5.0で、IE 4.0をOSのシェルとして統合してしまうことだ。IE 4.0のActiveDesktop技術では、WebのブラウジングはOSの機能の一部として取り込まれてしまう。Webブラウザという単体のソフトでなく、OSにとって欠かせない機能となってしまえば、もうOSにバンドルしたって誰も文句が言えなくなるという寸法だ。そして、Webブラウザを制すれば、サーバーソフトやグループウェア、開発ツールなどのシェアも自動的に転がり込んでくるというのが戦略だろう。

●オンラインビジネス分野では、

 インターネット関連ソフトはとりあえずそれでいいとして、オンラインビジネス市場での展開はどうだろう。

 ここでは、すでにMicrosoftは痛い経験をしている。先ほど述べたMicrosoftとIntuitの合併話は,話が表面化したとたん、ソフト業界だけでなく金融業界にもパニックを引き起こした。そもそも、金融業界もオンライン取引が将来中心になるというビジョンは持っていた。だから、Microsoftがそのクライアントソフトとなる財務ソフトとオンラインサービスを握ってしまったら大変なことになると慌てたわけだ。それは、銀行とユーザーの間にMicrosoftが入って手数料を取ることが可能になるからだ。ATMマシンがすべてMicrosoftのものという状況を想像してみればいいだろう。そのため、この計画は業界の猛反発を食い、連邦政府が独占禁止法の疑いで調査に乗り出したりして、Microsoftは買収断念に追いやられた。

 この苦い経験から、Microsoftはオンラインビジネス戦略については、ある程度は慎重になっている。現在準備中のローカル情報サービス「Sidewalk(コード名Cityscape)」に関しては、地元新聞などと提携を結ぶなどの予防線を張っていると言われるし、バンキングに関しては、IntuitやCheckFreeと組んで展開を図ろうとしている。うまく立ち回らなくては、州政府ではなく、連邦政府の注意をひきつけてしまう可能性があるから、慎重にならざるを得ない。今回は、この部分が問題にされているらしいという点が、かなり注目される。どういう展開になるのか興味深いが、まだビジネスとして立ち上がっていない状態で、OSの優位を利用して不当に有利な競争を行おうとしているという明確な根拠を見つけるのは、おそらく難しいだろう。だが、こうした動きがMicrosoftに対するけん制になる可能性はある。

 さて、Microsoftはデスクトップソフト市場はあらかた制して、そのために逆に身動きがとれなくなってしまった。Microsoftのちょっとした動きにも、司法省などが神経を尖らせて監視している。その点、インターネット市場というのは、同社にとって脅威であると同時にチャンスだった。自分たちがマイナーな存在であるインターネット市場では、Microsoftはかなり大胆な戦略を取ることができたのだ。それが、Microsoftのこの1年の急進撃の理由でもあった。

 だが、これからはそうはいかない。Microsoft最大の仇敵、反トラスト法がまた、ここ、インターネット市場でも立ちふさがる可能性がある。


□参考記事

□Jupiter CommunicationsによるWebブラウザ市場調査
http://www.jup.com/jupiter/release/feb97/netscape.shtml
「JUPITER ESTIMATES NETSCAPE CURRENT MARKET SHARE AT 59%-TO DROP TO 38% BY END OF」(Jupiter Communications,2/10)

□Expedia
http://www.expedia.com/

□sidewalk
http://www.microsoft.com/sidewalk/

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('97/2/17)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp