後藤弘茂のWeekly海外ニュース


Microsoftが4月のWinHECで「PC 98」を発表へ

Memphis時代のWindowsパソコンガイドラインの提案か

●1年おきにハードウェアガイドラインをアップデイト

 NEC幹部のにやつく顔が目に浮かぶようだ。というのは、この春のパソコン業界の重要キーワードのひとつは「PC 98」になりそうだからだ。いやいや、PC 98と言っても、NECの「キュッパチ」のことではない。米Microsoft社が提唱する98年のWindowsパソコンの仕様「PC 98 Hardware Design Guidelines」のことだ。

 いつものことだが、米Microsoft社という会社は本当に気が早い。97年になったばかりだというのに、もう98年のことを言い出した。同社は、つい最近、4月8日から開催するハードウェア開発者向けカンファレンス「Windows Hardware Engineering Conference and Exhibition (WinHEC)」のプログラムを公開したのだが、そのなかに、もうPC 98という言葉が踊っているのだ。

 振り返れば、MicrosoftがWindows 95の投入に合わせ、Windows 95プリインストールパソコンの要求仕様「PC 95」を発表してからもう2年以上たつ。PC 95では、「Windows 95を載せたいならこのガイドラインに合わせてくれ」という、Windows 95を盾に取った戦略で、ソフトメーカーであるMicrosoftがハードウェアの世界を引っ張ることに成功した。そして、その後、PC 96、PC 97と毎春WinHECを開催するたびに、Microsoftはじょじょにハードルを高めてきた。つまり、標準が不在だったAT互換機の世界にスタンダードをもたらし、その基準を高めることで、パソコンの機能を高めようとしてきたわけだ。悪く言えば、Microsoftがハードにまで口を出し始めたというわけだが、それによって、パソコンの進化が加速され始めたのも確かだ。

 だが、現状はPC 96が満たされ、USBなどの搭載が必須とされるPC 97の基本ガイドラインがようやく一般化し始めた段階。PC 97には発展規格としてWorkstation PC 97とEntertainment PC 97があるが、そのうち、IEEE 1394インターフェイスの搭載が求められISAバス搭載は不可となっているEntertainment PC 97は、まだとっかかりすらつかめない状況だ。その段階で提案されるPC 98というのは、一体どんなガイドラインなのだろう。

●まだ見えないPC 98の概要

 実際のところ、今の段階ではプログラムにPC 98についてはほとんど記述がないため、概要はわからない。コミュニケーション機能やパソコンのアップグレードのための拡張性がポイントだと記されているだけだ。ただし、拡張性に関しては少しヒントはある。PC 98はPC 97の延長線にあるのは明らかで、そうすると、昨年のWinHECの際に、PC 97の先に位置づけられた家電パソコン構想「Simply Interactive PC (SIPC)」の一部として紹介されたデバイスベイがPC 98のガイドラインに入ってくる可能性がある。実際、そう報道しているニュースもある。

 デバイスベイというのは、エンドユーザーがパソコンの匡体を開けずに抜き差しできる拡張ベイだ。たとえば、ハードディスクなどのドライブ類を、さし込むだけでパソコン本体に装着できるようになる。こうした拡張ベイは、これまでも一部のパソコンでは採用されたが、標準化されたものではなかったため互換性がなく、定着しなかった。しかし、こうしたベイが標準化され、どのメーカーのパソコンでも使えるとなれば、普及する可能性はある。もちろん、これは勝手な想像で、実際のPC 98ガイドラインになにが入ってくるかは、まだわからない。

●Microsoftはホーム向けパソコンをプッシュ

 さて、PC 98以外に、WinHECのプログラムで目立つのは、Entertainment PCというカテゴリがPC 98とは分離された別立てのセッションになっていることだ。Entertainment PCのセッションでは、大型ディスプレイを使い、離れた場所からリモコンなどを使って利用するホーム向けパソコンの構想について説明されることになっている。また、こうした家庭向けパソコンでホームオートメーションを管理したり、他の家電機器と連携したりすることも考えられているという。たとえば、パソコンがビデオデッキと連携していれば、ビデオデッキの内蔵時計をいちいちセッティングする必要がないわけだ。面白いのは、このように家庭向けパソコン構想をわざわざフィーチャするというWinHECでのMicrosoftの方向性だ。家庭向けパソコンは、従来のパソコンとは別な方向に進化させた家電パソコンを据えるという意志が感じられる。

 一方、Microsoftの推進する次世代の企業向けパソコンNetPCと、それを支える技術Zero Administration Windowsについても、セッションが行われる模様だ。NetPCは、Microsoft-Intel版のNCとも言うべき規格だが、今はまだ最初の仕様しか公開されていない。正式な拡張スペックは3月に公開されるという報道もあったが、少なくともWinHECまでには明らかになりそうだ。

 このほか、WinHECでは、マルチメディアAPI「DirectX」の今後のプランやMicrosoftの提案するグラフィックスハードウェアアーキテクチャ「Talisman」に関する何らかの発表も行われるようだ。また、デジタルカメラやスキャナなどのデバイスのサポート、OnNowやACPIなどの省電力機構などもプログラムに入っている。

●WDMドライバ開発のためのカンファレンスも

 だが、今回のキモと言うべき部分は、どうやらWinHECに続けて開催される「WDM Device Driver Conference」にありそうだ。MicrosoftはWindows 95系とWindows NT系のデバイスドライバを統合する新しいドライバモデルとして「WDM (Win32 Driver Model)」を推進している。USBやIEEE 1394、DVDなど新インターフェイスや新デバイスのドライバは、WDMになる予定だ。そのため、ハードウェアベンダーは、メーカー同士がMicrosoftと協力して共通部分をクラスドライバとして定義、そして、クラスドライバに含まれない部分をMiniドライバとして各個が書かなければならない。新しいアーキテクチャに基づくドライバ、これが、ハードウェア開発にとってハードルになることは明らかだ。というわけで、Microsoftは「DDK (Device Driver Kit)」の配布を含めWDMに関して、今回はかなり手厚い解説とサポートを用意している。

 MicrosoftがWDMに力を注ぐのには理由がある。それはWDMが、新インターフェイスや新デバイスを視野に入れた次世代パソコン仕様の必須項目であるだけでなく、Windows 95/NT統合への重要なステップでもあるからだ。Memphisの出荷時に、主要なクラスドライバを揃え、各メーカーのMiniドライバが揃うようにしようとするなら、今、拍車をかける必要があるというわけだ。

 というわけで、今年もなかなか話題が多そうなWinHEC。これなら、4月頃にはPC 98とかEntertainment PCとかが、またキーワードになりそうだ。でも、そうすると「PC 98時代はPC 98で」なんて、NECが言い出しそうだ。

□参考記事
http://www.microsoft.com/hwdev/winhec.htm
Windows Hardware Engineering Conference and Exhibition

バックナンバー

('97/2/10)

[Reported by 後藤 弘茂]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp