【リレー連載 物欲道修行記】


リレー連載 物欲道修行記

第24講 特別講義 デジカメの伝道師:山田久美夫

 今回は、ゲストとして、デジタルカメラのレビューやランキングでお馴染みの山田久美夫氏をお招きしました。山田久美夫師は、本業のカメラ以外でも、クルマ、AV、天文(望遠鏡)などかなり物欲の守備範囲が広く、パソコンもそのひとつ。ノートパソコンやPDAなどは、2~3ヶ月にいちどは購入されておられます。
 そんなわけで、今回は山田久美夫師を特別講師としてお招きし、最近購入された富士通のBIBLO NC/Sを中心に、これまでのノート遍歴なども語っていただきました。(編集部)

重いノートなんて、ノートじゃない! ―富士通ビブロNC/S―

 そもそも、ノートパソコンとデスクトップ機の最大の違いは、発展性であ~る。ノートはいくらジタバタしても、最新、最先端の環境を構築することはできないわけで、結局は与えられた環境に妥協できるかどうかという選択肢以外、ほとんど残されていない。しかも、デスクトップはもともと足し算でできているわけで、必要ならばどんどん拡張できるが、ノートはもともとが引き算。つまり、不必要なものをいかに削除すると、どのレベルの作業までカバーできるのかを、小型軽量化とのバランスの中での折衷案として提示する世界。つまりは、ノートという存在自体が妥協なくして成立しない世界なのであ~る。


 さてさて、今回話題となるのは、ご存じ、富士通のビブロシリーズ初の超軽量マシン「NC/S」です。
 もちろん、これまでにも小型軽量なノートは結構あったわけですし、大体、CPUの世代が変わると必ずこの手のマシンが登場するというジンクス(?)があるんですね。まあ、このタイプの突出したマシンは、技術的な限界もありますし、正直なところ、関心は高いものの、実際の商品としての需要は意外に少ないという、なかなか難しいポジションにあるわけです。ですから、総じて、割高で短命で、スペック的にもいろいろな制約が多いというのがおきまりのパターンなんですね。
 私も、これまで、なんだかんだと、いろいろなノートを買ってきたわけです。まあ、デジタルフォトがいまほど手軽になる以前、この分野は完全なデスクトップ機の世界でしたから、こちらはハイエンドマシン以外は全然興味なし!という状態でした。

 でも、普段原稿を書くときには、やっぱり小型軽量の携帯用マシンが欲しくなるんですね(カメラ誌に書き始めてから、もう14年になるんですよ、ご存じないと思うけど……)。それで、別ページにあるように、これまで10台近いノートを遍歴してきたわけです。簡単にいえば、ワープロ専用機→98ノート→PowerBook→PC/AT互換機となるわけですが……。

 そして、具体的に現在使っているノート系マシンとしては、「IBM ThinkPad 701」「IBM ThinkPad 230」と、初代の「NEC モバイルギア」で、それに今回、「富士通 FM/V BIBLO NC/S」が加わったわけですね。


ノートは妥協が大切だ!

 やっぱりノートは、“旬のマシン”が一番です。今年はきっと、1kg前半の超軽量マシンが続々と登場するんでしょうけど、そのはしりとして登場したのが、この「BIBLO NC/S」なんですね。

 なにしろ、日頃周囲から「なんでこんなに重いカバン下げてるの!」といわれるほど、いろいろな機材を持ち歩く私。具体的にいま現在持ち歩いている常用機材でいうと、まず「BIBLO NC/S」。そして初代の「モバイルギア」、買ったばかりの「シャープ ザウルス PI-8000」(ザウルスも3台目なんですよね)と、デジタルカメラの「オリンパス C-800L」か「富士写真フイルム DS-8」。さらに高画質コンパクトカメラの「リコー GR-1」となるわけで、これでも結構な重さですよね。

 もちろん、ビブロの前は「東芝 Libretto 20」だったわけです。ほんの一時期ですけどね(だって、まともに打つと指がつるキーボードや、耐久性のない初代のポインティングデバイスって、どう考えても……ね!)。その前は「ThinkPad 701」で、いずれも「モバイルギア」のペアで使っていたわけですね。さらにそれ以前は「ThinkPad 230」とか「PowerBook Duo 250」+「OASYS Pocket3」だったりしたわけです。

 なぜこんなに持ち歩くのかというと、結局、どこに行っても原稿に追われているという哀しい状況であり、空いてる時間があれば、どこでも仕事ができないとイヤなんですね(するかどうかは、別ですよ!)。さらに、できるだけ楽な機材で仕事がしたいけど、キーボードや動作時間などの関係で、一台ですべてをまかなうのは無理と判断しているわけです。

 では、「ビブロNC」はどうかというと、これもやっぱり、一台ですべてを満足できるレベルではないのは確かですね。結局、ノートというのは、どこまでいっても妥協の産物なんですから……。


なぜ「NC/S」なのか?

 さて、我が「NC」はいまや完全な常時携帯マシンとなっており、結構面倒な作業もこれだけでこなしてしまうまでになっています。まあ、基本的にはメモリを最大の48MBまで増設しただけで、HDDもCPUもノーマルです。しかも、注文済みの増設用バッテリーすら届いていない状況なんですね(どうなっているんだ富士通さん!)。もっとも、本機はすでに予定生産量に達した生産完了品。そのため、発売以来一ヶ月で市場在庫のみという、“チャンドラ”以上の希少価値ノートとなった、幻の超軽量ノートとなったわけです。

 では、なぜ「NC」かというと、ほかに選択肢がなかったというのが正直なところ。なにしろ、チャンドラに猛烈な魅力を感じながらも、年始のMACWORLD Expo/S.F.取材に間に合わないので、今回はパス。また、今回候補に挙がったなかでは、「松下・プロノートミニ」は早くて表示範囲も広いけど、重さが中途半端で、キーボードの感触や配列が気に入らない! 「ThinkPad 535」もいいけど、常時携帯用にはちょっと重いし、もう少し早くなりそうだし、次機種が出たら結構値崩れしそうだし……。「ThinkPad 560」はキーボードと強度は魅力的だけど、A4という面積は持ち歩きに不便だし、まだ高価だし、それならもう少し「ThinkPad 701」を使っていてもいいし……と、いろいろ考えた結果なんですね。

 まあ、所詮、三ヶ月ですからね、ノートの“春”なんて……。あとは余生ですよね、持っていても、誰も振り向いてくれないわけだし……(でもね、本当に大切なのはその余生なんですね。なぜって? 余生まで付き合おうと思うってことは、そのノートの人格(?!)を認めているわけですから……)。


重いノートなんて、ノートじゃない!!

 さて、なぜ、そんなに携帯性を気にするのか?というと、やはりそれが一番、本来の“ノートらしい”点ですものね。重くて大きくてやたら多機能なノートって、結局は省スペース化したデスクトップマシンなわけで、そんなもの、ノートの風上にもおけないヤツですよね。可搬性のあるデスクトップと考えるか、突如ACコードが抜けてもOKの無停電電源内蔵マシンでしかないわけです。

 しかも、私の性格上、必ずサブ機を持つという習慣が付いているので、携帯性の点で中途半端な妥協すると、結果的に結構な負担になって帰ってくる可能性があるわけです。

 私の場合、このところ二ヶ月に一度くらいのペースで海外にショーの取材でゆくわけですけど(もちろん、自費ですよ!)、カメラ機材も一緒ですし、結構荷物の制限もあるので、機材には気を使うわけです。しかも、現地から画像を送るわけですから、パソコンは不可欠。もちろん仕事ですから、機材のトラブルで送れない!とはいえないわけですから、ノートも最低2台は必要ですよね。

 まあ、原稿だけなら、モバイルギアや、最悪はザウルスでもなんとでもなるんですけどね(実際に一度、国内ですけど、ザウルスで1,000文字近いコラムを書いて送ったことがあります。単に、締切を忘れていただけんですけど……)。

 それで「NC」なんですが、もしこのマシンが1.2キロという重さだけのマシンなら、きっと購入しようとは思わなかったと思います。つまり、普通の486や586マシンだったり、ハードディスクが最初から800MBクラスじゃなかったり、メモリが最大で40MB以下だったら、きっと見向きもしなかったでしょうね。しかも、個人的に超小型キーボードでは、OASYS Pocketのものが最高だと思っていますから、それを作った富士通の製品でなかったら、きっと期待などしなかったでしょうね。でも、今回は好材料が集まったんですよね、DSTN液晶やVGA表示という欠点に目をつぶるだけの……。


1.2キロの携帯用Photoshopマシン!?

 さてさて、私がこのマシンに求めたものは、原稿書き用機材と屋外でのインターネット端末としての用途はもちろんですけど、実をいうと、無謀にも、“世界最小・最軽量の携帯用Photoshopマシン”だったんですね。しかも、Photoshop 4.0が軽快に作動することが条件。

 ですから、CPUは最低限Pentium、メモリ容量も40MB以上ですし、最低でもハイカラー(65,536色)以上の表示色が必要だったわけです。また、HDDの容量も800MBは必要だと……。でも、そう考えると、「NC」の場合には、DSTN液晶やVGA表示が大きな欠点になるわけです。けれど、Photoshopを使うときは、液晶モニターの色なんてあんまり信用していませんし、ガンマ(コントラスト)なんて補正しきれないくらい無茶苦茶ですよね、現在の液晶なんてどれもこれも。結局、色はRGBの数値で判断することにすれば問題はないわけです。さらに狭いVGA表示でも、Photoshop 4.0のアクションという機能を利用して、バッチ処理で使う場合には問題ないし、4.0からは表示倍率を無段階に変えられる機能が追加されましたから、さほど不便じゃないわけです、はい。


小さいけど押しやすいキーボード

モバイルギアVSビブロ リブレット20VSビブロ オアシス・ポケットVSビブロ

 とはいっても、普段はエディターでの原稿書きが相当多いわけです(カメラ誌とパソコン誌などで、毎月何ページ書いているのか、想像がつかないし、総ページ数を知ったら、仕事する気がなくなると思いますから。締切のない日のほうが珍しいし……)。本業はカメラマンですし、毎年作品展を開催しているんですけど、なんだか物書きが多いんですね。もっともパソコン誌でもデジタルイメージング関係の仕事ばかりですけど……。

 なので、やっぱり、キーボードというのは相当気になります。そのため、いまでも海外取材の時には「ThinkPad701」(例のバタフライですね)を原稿書き用のメインとして愛用しているわけです。けれど、使ってみるとこの「NC」も意外なほどキータッチが良いんですね。キー自体は小さめですけど、リブレットほど無謀な小ささではなく、十分にブラインドタッチができるレベル(私はブラインドタッチって、意識するとできないんですが)。

 またストロークはやや浅めですけど、元OASYS Pocket愛用者としては、あのタッチがたまらなく好きなんですね。さすがにもの凄く打ちやすいとは思いませんけど、妥協の産物としては、かなりハイレベルなんじゃないかと思うんですよ(なにしろ、オアシス・ポケットだって、より上級のノート型オアシスよりもタッチが良好ですしね)。


不満をバネにつぎの目標へLet`s Go!

 では「NC」に不満がないのかというと、決して、間違っても、そんなことはありません!! むしろ、不満点の方が断然多いんですね。まず、内蔵バッテリーでの動作時間が、1時間あまりと一時のPowerBook並みに短い! しかも、本当に内蔵専用で交換できないんですね。しかも、大容量の外部バッテリーが、本体が生産完了した今でも、まだ手に入らない!何を考えているんでしょうね、富士通は。無責任も甚だしい! それに、そもそもチャンドラだって、Librettoだってバッテリーが交換できるのに、内蔵専用設計なのは、どう考えても納得できない部分がありますね。バッテリーが疲労したら、どうするんでしょうね。高い工賃払って、値引きなしのパーツ扱いで内蔵バッテリーを交換してもらうわけですものね。それまで使っていれば……ですけど。

勝手に動くし、細かい作業が苦手なNCのポインティングデバイス キーボード奥の小さなサスペンドボタン
PCカードはType2までで、Type3には対応していない 裏面にはフェルトが貼ってある。膝の上に置いたとき滑らないので、これは気に入っている
 そして、勝手に動くし、細かい作業が猛烈に苦手なポインティングデバイス。これも納得できませんね。それに、このカバーが汚れたら、そう簡単に交換できませんよね。私は結構、このあたりが気になるほうなんで、これ以上汚れてきたらどうしよう……と本気で思ってしまっているんですね。キーボードに比べると、この出来は月とスッポンという感じですね。

 そして、液晶を閉じるだけでスリープ(サスペンド)するモードがないんですね、液晶が消えるだけで。ですから、いちいち、キーボード上方のほんとにちっちゃなボタンを押さなきゃいけない。これは納得できませんね。ノートにとって、これって、相当な欠点だと思いますよ。まあ、Libretto 20みたいに、ハイバネーションから完全に復帰するのに45秒~90秒かかるのも、困ったものですけど……

  あとは、普通の人にはあまり関係ないかもしれないけど、PCカードがType2までしか対応していないんですよね。もちろん、Type3はアダプターをかまして……という割り切りなんでしょうけど、本格的なプロ用デジタルカメラとか、日立のMPEGカメラなどを使うときには、やっぱり不便ですよね。

 そして、好みもありますけど、なんとも中途半端なボディーカラー。なぜ、黒じゃいけないのかという理由が見あたらないんですね。まあ、新機種が出るたびに変な外装になってゆくオアシス・ポケットを作っているメーカーですからね……。

 ああ、こうやって欠点をあげてゆくと、だんだん使う気がしなくなってきますよね。でも、しょうがないですね、いまは。それに、私がいくらギャアギャア文句いっても、それが反映されることなんて、ほとんどあり得ないし……。

 でも、いいんです。所詮、ノートは妥協の産物。あまり手を入れられないノート機っていうのはね、“旬”の一番美味しいところだけを味わって、下手に後を追わないのが、ほんとうの“通”というのものです(おいおい、誰が“通”だって?)。ですから、次なる目標を早く見つけて、どんどん泥沼に入り込んでゆく。それが真のノート道というものです。次なる目標は本命のチャンドラか、それとも……。

[Text by 山田久美夫]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp