AMUAMUの「アキバの楽屋から」第1回

秋葉原

新連載(月1回更新):ショップの側から見た秋葉原事情

AMUAMUの「アキバの楽屋から」 第1回

'96年 年末商戦の秋葉原事情

TEXT:AMUAMU

 新連載、「アキバの楽屋から」は、秋葉原のパソコンショップ店員である「AMUAMU」が、ショップの側から見た秋葉原事情を、月1回お送りするコーナーです。更新は毎月月末を予定していますので、お楽しみに。(編集部)


●年末商戦は盛り上がったのか?

 一昨年となる'95年の年末12月は熱かった。'95年11月23日にマイクロソフトから発売されたWindows 95のおかげで、年末商戦の結果は秋葉原をはじめとした多くのパソコンショップは大きな売り上げアップとなった。

 さて昨年の1996年、秋葉原の年末商戦はどうだったのか? どのショップも'95年の年末商戦のような大幅な売り上げアップと忙しさを予想していたと思うのだが、実際には予想していた伸びはあまりなく、おおむね'95年と同じぐらいにとどまったようだ。恒例の秋葉原電気まつりのくじ(*1)は'95年並みの伸び率を予想してたくさん作ったのは良いが、結構余ったという話もあるし……。

 秋葉原にお客となる人が来なかったわけではないと思う。秋葉原周辺は'95年以上に人が多かったように思えた。狭い秋葉原駅の改札への階段はいつも以上に通るのに時間がかかった気がするし、歩道も人だらけでまっすぐ前に進むことは出来ない。駅前駐車場には駐車待ちの車が行列を作る。パソコンユーザーの数は1996年中にも飛躍的に伸びているのだから、訪れる人は確実に増えているのだと思う。人の数が増えたのに比例して、どこのお店も混雑していたように思えた。
 じゃ、なぜ売り上げが伸びないのだろうか?

*1 秋葉原電気街振興会に入っている大きなお店で商品を買うと一定額ごとにもらえる。景品はけっこう豪華。筆者も秋葉原のLAOXで本をかなり買っているため、数枚もらっていた。でも外れた。


牽引役がいなくて目玉商品も少なかった

95発売日
'95年11月23日、秋葉原がいちばん熱かった夜。夜中の0時から販売されるWin95をいち早く買おうと、ユーザーが詰めかけた。

 一昨年は牽引役となり、日本のパソコン業界に転換をもたらしたともいえる商品が年末商戦直前に登場した。最初に述べたWindows 95である。Windows 95による購買意識の上昇は異常とも言えるほどだったと思う。
 そんな一昨年に比べると昨年の年末商戦は寂しかった。牽引役となるかと少しは思えたWindows NT 4.0も、やはりビジネスユースと上級者にしか受け入れられず、主力は一年以上前(*2)に発売したWindows 95(*3)のままである。ちょっと牽引役としては弱かった気がしないでもない。
 そうなると魅力度が高く目玉商品になる新製品に期待するのがショップ側である。売り上げの主となる富士通やIBMなどの大手メーカー製パソコンも年末商戦向けに新製品を送りだしてきたが、それほどインパクトのある商品も無く、'96年の春や夏の商戦に比べるとあまり売れなかった。

 '96年の春や夏の商戦ではデジタルカメラが注目されたが、年末に向けて出た新製品は少なかったり、マイナーチェンジしただけの商品も多く、特に「よく売れた」という気はしない。28日にPC Watchに掲載された「デジタルカメラ売れ筋ランキング」を見ればわかるが、人気機種ベスト10の半分以上が昨年の夏前に発売をしていて、年末商戦前にはすでにある程度売れている商品ばかりである。ここら辺の機種を持っている人が新たに買い換えることは、現在のラインナップでは少ないのではないか。

 つまり売り上げが思うように伸びないのは、購買意識を煽ったり、買い換え需要を呼ぶような注目できる新製品や高額商品が少なかったのが主な原因ではないかと思われる。

*2 昔は1年間以上OSがバージョンアップしなくても、何にも不自然に思わなかったけど、近年はハードウェアの進歩のスピードが速いから気になってしまいます。
*3 実際にはOSR2(OEM Service Release 2)というものに変わっているのだが、これはそれほど気にする必要はないと思う。大幅に変わったわけじゃなくて、細かいところが少し変わっただけ。気にしたのは上級者と、メーカーやショップの開発やサポートセンターの人だけ。OSR2については近いうちに書きたいですね。


年末商戦の売れ筋商品

PM-700C
年末の大ヒット商品となった、エプソンのPM-700C

 そんな'96年の年末商戦でも、目立つ売れ筋の商品がいくつかあった。
 年末はいつものことなのだが、年賀状をパソコンで作りたいと思う人が多く、プリンターが良く売れる。この年末の年賀状向けプリンターで圧勝したのはエプソンの新製品「PM-700C」だろう。非常に高い画質を持ちながら、安い価格となっており、非常に意欲的な製品と感じた(*4)。これは、本当にめちゃくちゃ売れた。昔のMJ-700V2Cを思い出す(*5)。とにかく年末が押し迫るにつれて、「PM-700Cありますか?」と聞く人の多いこと多いこと。

 在庫があればあるだけ、一日二日で売れてしまうような状況である。人気が高すぎてエプソンの生産が追いつかず、年末は品薄の状況が続いた。貼り紙で「PM-700C在庫在ります!」や「年内納品可能!」と表示しているショップもあったほどだ。その貼り紙も数日後見るともう無いのが当たり前。久しぶりに大ヒット商品という感じがする唯一の商品だった。そのぶん、他のメーカーのプリンターがあまり売れなかったのも事実だ。

 買い換え需要が無いということはつまり、パーツ等を追加・交換するだけの簡単なアップグレードを行なう人の方が多いということだ。パーツ類の売り上げはかなり伸びたと言えるだろう。特にメモリは値下げ合戦が激しく、毎週、確実に値下がりしていることもあってよく売れた(*6)。メモリは現在、72pin SIMM EDO-DRAM 32MBを2枚単位で購入するのが主流になってきている。しかし、パーツ類は単価が低いため、売り上げの大幅アップの要因としては力不足なのだ。

 ノートパソコンはIBMのThinkPad 535とPanasonicのLet'sNoteが値ごろ感も強く、結構売れた。とはいえ、発売してからちょっと時間が経っている事もあり、「東芝のPentium搭載Libretto発売間近」という噂の影響もあって、爆発的な売り上げまでは行かなかった。ノートパソコンで目立ったのは価格競争が激しかったことだ。

*4 筆者個人としては内田有紀のCMが一番良かったと思う(笑)。
*5 EPSON MJ-700V2CはPM-700Cの直系の祖先にあたり、当時としては一般ユーザーには信じられなかった720dpiという画質を低価格で初めて提供した機種である。非常に人気が高かったのを覚えている。EPSONがまだPC-98互換機をメインで売っていた頃の話ですね。
*6 1997年1月30日時点ではPC Watchでも報じられていたように、メモリ価格の値上がりが始まっているようだ。今後どうなるのかさっぱり先が読めない。大幅な円安状況なのでそのほかの輸入品も値上がるかもしれない。


本当に熱い商戦になるのは2月から3月末にかけてか

 年度末となる2月の末から3月にかけては、各メーカーも新製品をどんどん出荷してくるだろう。というのは、購買意識を煽る大きな牽引役があるからだ。消費税が4月から5%に引き上げられるので、この時期は「消費税率アップ直前」となる。たった2%の違いだが、高価な物が多いパソコン関連商品では大きな違いになる(と思って購買意識も上がるだろう、という計算だ)。
 各メーカーも1月から新製品の発表・出荷が続いているので、今年度末の3月は秋葉原を始めとした全国のパソコンショップでかなり熱い商戦が繰り広げられるだろう。

 そうそう、年度末だと決算前の在庫整理で思わぬ商品が激安で売られることが多いので、ふだんよりまめにチェックを入れることをお勧めします。

[Text by AMUAMU]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp