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ニュースサイトの報道に見るApple-Nextの経緯

ニュースサイトの報道に見るApple-Nextの経緯

 米Apple Computer社経営陣が、次期OS戦略を大幅に見直したのは、おそらく今年(96年夏)のことだ。アメリオ会長兼CEOの懐刀と言われ、エレン・ハンコック氏がCTOとしてアップル再建に加わったあとだろう。それ以前は、アメリオ氏は経営戦略や財政面の建て直しに手一杯で、OSのアーキテクチャまで細かく立ち入ってチェック、経営判断を下すことができなかったのではと思われる。その証拠に、OSの戦略に関しては、次世代OS「Copland」で行くという路線の変更は、どんな形でも漏れてこなかった。

 しかし、「鉄の女」とも評される辣腕ハンコック氏が7月に加わってから、アップルのOS戦略は大きく方向転換を始める。まず、8月に入ると開発者の間でCoplandの開発が遅れており、なんらかの見直しに入っているというウワサが流れ始める。「Apple Acquires Next」(Computer Reseller News,12/21)によると、この頃に開発中止を決定したらしい。

 次に、ハンコック氏が開発者に宛てた手紙が流出、10月にニュースサイトなどで取り上げられる。そこでハンコック氏が次期OSを根本から見直していることや、その結果、システム7との互換性が保たれない可能性があると指摘していることが報道された。このニュースに、Macintoshのコミュニティは蜂の巣をつついたような大騒ぎになる。

 ところが、本来ならここでMacOSの未来について大論争となるところが、議論は全く別な方向へと向かうことになる。それは、Coplandのバッドニュースの露出と軌を一にして、Appleが元Appleのアーキテクト、ジャン・ルイ・ガセー氏率いる米Be社を買収、同社が開発したBeOSを、次期OSの中核として採用しようと検討、Beと交渉に入ったというウワサが流れ始めたからだ。この交渉が実際に行われたことは、今では、明らかになっている。Appleは真剣に検討したと見られているが、しかし、これがCopland問題から目を逸らさせる役に立ったのも確かだ。

 そうこうしているうちに、10月末に、今度は、アメリオ氏自身が、98年にCoplandではなく新しいOSを出すと発言したという報道が登場する。これに対して、Appleは記事が誤解に基づいているとして打ち消しに回った。しかし、これ以降、マスコミではもはやCoplandはオリジナルの計画のままではない--つまり、実質的に失敗したか、根本的なやり直しに入っているものとして扱われるようになった。そして、Beとの話がますますクローズアップされ始める。面白いのは、Be関係のニュースの多くが、関係者からのリーク情報を元にしていたことだ。つまり、意図的に流されていた可能性もあるというわけだ。ともあれ、リーク情報をもとに、Apple-Be交渉は金額面で折り合いがつかず、難航しているということも含めて、詳細が報道されるようになる。 そんな中、11月下旬にはAppleからOS開発の直接責任者であるIssaacNassi上級副社長らが辞任するという事件が起こる。そして、その裏には、OS開発部隊の大幅な再編成があるというニュースが登場、ますますCopland失敗の信憑性が高まって行く。そうした混沌とした状況で12月に突入したわけだ。

 さて、この時までにAppleは97年1月7日のMacWorldで次期OS戦略を明確にすると約束をしたいたが、その期限がじょじょに近づき始めていた。Coplandの技術を一部取り入れたHarmonyはこの時発表されると言われているが、問題はHarmonyの次の戦略を発表できるかどうかという点にあるのは明らかだった。12月に入っても、依然としてBeと交渉が続いているというリークが続いていたが、進展は報道されなかった。それが、先週、急に風向きが変わった。月曜日あたりからニュースサイトに、「AppleTalks With Steve Jobs About New Operating Systems」(The Wall StreetJournal,12/16 http://interactive2.wsj.com/edition/resources/documents/search.htmで検索)や「Apple reportedly in licensing negotiations with Next andSun」(InfoWorld,12/16)など、Appleが米Sun Microsystems社や米NeXT Software社とOS技術買収について交渉を行っているという記事が登場。あとは、週末直前ぎりぎりの金曜夕方の発表まで、一気に緊迫するわけだ。

 なぜ、こんな急展開になったのか。まず、米国ではクリスマスから1月1日まではホリデイ期間に入る。となると、1月7日のサプライズにしないとすれば、選択肢はあまりない。クリスマス前にというのが妥当なラインと考えると、先週金曜日というのはかなりぎりぎりだったわけだ。

 もっとも、「Participants tell story behind the marriage」(San Jose MercuryNews,12/22)を見ると、実際の交渉は11月下旬から始まっていたらしい(この記事は、唯一、交渉の経緯を関係者の証言をもとにまとめていて、なかなか面白い)。とすると、その後のBeとの交渉のリークやSunとの交渉話は、NeXTとのプロジェクトを隠すための煙幕だった可能性もある。つまり、水面下では、それ以前からかなり話は進展していたが、隠し通していたというわけだ。なお、「Unlikely Apple Exec Behind Jobs' Return」(L.A.TIMES,12/23)によると、そのきっかけを作ったのは、ハンコック氏だったという。

 しかし、それでも、わずか1ヶ月あまりで話をまとめてしまったことになる。それだけ劇的な展開になったのは、アメリオ氏がジョブズ氏と意気投合して、強力に推進したからだと「Next Step at Apple: Gambling On Mr. Jobs's SoftwareAgain」(Wall Street Journal,12/23)などでは報じている。つまり、ジョブズ氏がアメリオ氏を口説き落としたというのが真相らしい。いかにも、ジョブズ氏らしい話だ。

□参考記事
【12/21】米Apple、4億ドルで米NeXT Softwareを買収、ジョブズ氏も古巣に復帰
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/961221/apple.htm
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('96/12/24)

[Reported by 後藤 弘茂]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp