後藤弘茂のWeekly海外ニュース


10GHz動作のMPUを2011年に実現するIntel

今度の敵はテレビだ!!

INTEL CEO MMX
講演後記者会見を行なうグローブ氏 「MMX対応のP55Cを搭載したIBM ThinkPad

COMDEX取材特別リポート

●テレビとパソコンとの戦いに

 これからは「the war for eyeballs (目を捉える戦争)」になる。

 米Intel社の社長兼CEO、アンドリュー・グローブはキーノートスピーチでこう宣言した。eyeballsとここで言っているのは消費者の目のこと。現在、消費者の目を捉えているのはテレビだが、グローブ氏は、今後は、パソコンをその位置につかせるために、戦うと言っているわけだ。この図式をもう少し明快にすると、リビングの主役を、TV(およびTVベースの非Intelアーキテクチャ製品群)とパソコンのどちらが取るか、という戦いのまっただ中にIntelがいるということを宣言したわけだ。

 コンシューマ向けのコミュニケーションデバイスやエンターテイメント機器としてのニーズが、今後のパソコンのカギを握る。こういった認識は、これまでにもかなり広まっていた。しかし、Intelが改めてこれを宣言したことは意味がある。今後は、ホーム市場へのパソコンの進出を、プロセッサメーカーも主導してひっぱるというわけだ。そして、これは、TVだけでなく、同じ市場を狙うデジタルセットトップボックスやインターネット端末といったコンペティタとの戦いが始まったということでもある。

●2011年には10GHz、10万MIPSのMPUが登場、x86との互換も

 グローブ氏は、さらに、今から15年後の2011年には、10GHzで動作する10万MIPSのパフォーマンスのMPUが実現されるという予測を示した。10万MIPSというと、Pentiumのざっと400倍以上。それでも、MPUのこれまでの急発達の歴史を考えれば、それほど不可能とも思えない。ただ、この未来MPUの製造プロセスは0.07ミクロンとなる予定で、これを実現するには、現状の製造技術の延長では限界とよく言われる0.1ミクロンの壁を突破する必要があるだろう。

 ただし、こうした目立つポイントはいくつかあるものの、グローブ氏の基調講演は全体としては地味なスピーチであった。10GHzという構想もぶちあげたというより、未来を示したという表現の方がしっくりくる。現在の路線の延長線に位置するという考え方で、講演後の記者会見で、x86との互換性に関する質問が出たときも、10GHz MPUでもx86との互換性を守る(!)と確約していた。

 それから、「the war for eyeballs」といっても、その回答の部分は、「interactive lifelike adventures and experiences」であり、中身はMMX技術をベースにしたDVDコンテンツ再生やビデオフォン/カンファレンスなど。ここも、べつにIntelの従来の戦略を変えたわけではない。

●MMXを搭載したP55CでソフトDVD再生を実現

 そもそも、講演自体、Intelの技術でなにができるかをきれいにまとめ上げたもので、未来をポジティブに示したけれど、製品を強く押し出すアグレッシブな感じはあまりなかった。このあたりは、いかにもIntelらしい。

 もっとも、それはあくまでもIntelの講演の話で、Intelの製品自体は、COMDEXの会場でそれなりに目立っていた。とくに、今回は予想されていた通り、MMX版Pentium「P55C」を搭載したMMXパソコンや、対応ソフト技術が出展された。

 そのなかでもインパクトが大きいのは、MMXデスクトップを使ったソフトDVD再生だ。つまりMMX命令を使うことで、MPEG2とAC3オーディオのデコーディングをソフトによって実現させてしまおうというわけだ。さすがに30フレーム/秒とは行かないが、それでも30フレームにかなり近い再生が可能になるという。さらに、グラフィックスアクセラレータチップ側に、MMXでのMPEG2再生を支援する機能を加えれば、MPEG2デコード専用のハードウェアを備えなくても、AC-3オーディオ再生も含めたDVD再生が高品質に実現できるそうだ。

 DVDのソフト再生は、グローブ氏のスピーチの中でもIntelの重要な戦略として示された。これまで、MMXでは、DVDのソフト再生ができるかどうかがひとつのポイントだと言われていた。今回は、DVD再生も、ある程度のレベルなら、Klamath (97年中盤に登場すると言われるMMX版Pentium Pro)ではなく、P55Cでもクリアできることが示されたわけだ。

 それから、P55Cではデスクトップと同時にノートパソコンも立ち上がるようだ。MMX版のThinkPadを展示するIBMでは、「インテルがMPUを発表したあとにすぐに発売する」と言っていた。これは、P55Cが低消費電力のCMOSプロセスで製造されるから(PentiumはBiCMOS)だ。

 ともかく、このCOMDEXで、MMXは事実上解禁になり、本番への秒読み体制に入ったと言えるだろう。問題は、これまでの延長線の技術とコンセプトで、はたしてリビングの主役の座をIntelパソコンが握ることができるかどうかだ。本気で家電を目指すなら、キーは価格。この部分での戦略が次のポイントとなるに違いない。

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('96/11/20)

[Reported by 後藤 弘茂]


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