後藤弘茂のWeekly海外ニュース


反トラスト法違反の疑いで司法省がMicrosoftの調査を再開

米司法省がMicrosoftをターゲットに

 米Microsoft社の天敵は?
 米IBM社? 米Netscape Communications社? 米Sun Microsystems社...。
 正解は米司法省だ。

 Microsoftは、19日に、司法省から(反トラスト法違反の疑いで)情報の提供を要求されたことを発表した。Microsoftは、この6年間、再三にわたって米国政府機関から調査を受けている。司法省からは、昨年のWindows 95発売直前まで調査を受け、Windows 95の発売が危ぶまれたりもした。その際に、司法省はMicrosoftに対して今回は結論を出さないが、調査を継続するという異例のステートメント(捨てぜりふ?)さえ出している。

 今回、再燃したのは、Microsoftがプレスリリースのなかで「これは、競争相手からの訴えで促された要求なのは明白」と指摘している通り、目下のMicrosoftのライバルNetscapeが司法省に手紙を送ったためだ。その手紙の内容は、MicrosoftがPCメーカーに対して、対立するWebブラウザをインストールしなければ、プリインストールするWindows 95の価格を3ドルディスカウントすると申し入れているというものだ。つまり、NetscapeはMicrosoftが、OSの圧倒的シェアを武器に、Netscape Navigatorを排除、Internet Explorer(IE)の地位を確立しようとしていると主張したわけだ。

 これに対して、Microsoftは8月22日に「Microsoft Responds to Netscape Letter to Justice Department」というリリースを出して、Netscapeの主張にちくいち反証。また、Netscapeに送ったEメールも公開。さらに、PCメーカーから届いたIE支持のFAXまでWebサイトにアップするという、オーバーリアクションを行った。

 第3者から見ると、過剰と思えるようなMicrosoftの反応は、なぜなのか。それは、Microsoftが、この問題が大きくなると大変なことになると感じているからだろう。そこまできっぱりと潔白だと主張しないと、司法省にまた突っ込まれる可能性がある。つまり、Microsoftにとって、それだけ司法省は鬼門だということだ。

 もっとも、万が一、申し立てが本当だとしても、この事実だけでは、それほど明確な反トラスト法違反にならないという見方もあるようだ。しかし、Microsoftが94年に司法省と結んだ合意では、MicrosoftがOSでの独占的な位置をソフトウェアマーケットで他のライバルに対する優位性として使わないと約束している。今回は、この合意を反故にしたとしてクロと判断される可能性がある。そうなると、OSの独占的シェアという、おおもとの問題にまで飛び火するかも知れない。Microsoftが、火を消そうと躍起になっているのは、そのためだろう。

 実際のところ、Netscapeの申し立てが本当かどうか、またもし本当だとしてもMicrosoftの戦略として行われているのかどうかは、まだわからない。だが、本当の問題は、そうした訴えが次々に起こる「Microsoft嫌い症候群」の方にある。たとえば、今回のような事件が起こると、米国のニュースではここぞとばかりに、匿名のPCメーカーやソフトメーカー幹部の「司法省の介入を歓迎する」とか「これで公平な競争ができる」といったコメントを引っ張り出す。ともかく、"出る杭"Microsoftに対する反発は、強い。Microsoftの商売相手も、必ずしもMicrosoftを快く思っていない。その敵だらけ状態がMicrosoftを強くしているのは確かだが、ひとつ悪い方向へ転げ始めると、敵が一丸となってMicrosoftを叩くという現象を招きかねない危うさがある。

 敵の多さと司法省の介入の恐れ、このふたつはMicrosoftのソフト戦略にとって、将来大きな壁になるかも知れない。司法省に手足を縛られ、思うような製品や技術の展開ができないということになる可能性があるわけだ。たとえば、もしWindows 95にIEをバンドルしてOEMすることが不当という判断が下されれば、IE 4.0でWebブラウザをWindows 95のGUIに置き換えるという計画に支障が生じることになりかねない。

 もっとも、だからといって、今回の件でNetscapeの株が上がったかというとそうでもない。確かに、司法省の調査開始で株価は上昇したが、ニュースサイトを見ていると、マスコミやアナリストの論調はどちらかと言うとNetscapeがそこまで追い込まれたという見方が一般的で、Netscapeに対しては必ずしもプラスに働いていないように見える。Microsoft対Netscapeの仁義無き戦いは、司法省という第三者を巻き込んで、どこへ行き着くのか、ますます見えにくくなってきた。

◎マイクロソフトのニュースリリース「Microsoft Comment on DOJ Request For Information」(英文)
http://www.microsoft.com/corpinfo/doj/doj.htm

◎マイクロソフトのニュースリリース「Microsoft Responds to Netscape Letter to Justice Department」(英文)
http://www.microsoft.com/corpinfo/doj/doj1.htm

('96/9/23)

[Reported by 後藤 弘茂]


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