後藤弘茂のWeekly海外ニュース


IBM版NCがいよいよ登場

IBMのNCはダム端末の置き換えか?

 米IBM社のガースナー会長は、95年のある時点――おそらく中盤で、パソコン市場で正面切って戦うという前任者から引き継いだ戦略を捨て、新しい市場で決戦を挑むという決定を下したに違いない。新しい市場というのは、ネットワーク時代の新しい端末を含むインターネット/イントラネット市場だ。それが、PowerPCパソコン+OS/2路線の切り捨てとなり、11月のCOMDEX FALLの基調講演での「Network-Centric Era (ネットワーク中心時代)」が来たというスピーチになったに違いない。そして、いよいよその戦略のかなめとなるIBM版ネットワークコンピュータ(NC)の第一弾が姿を見せ始めた。

 今回発表された「IBM Network Station」というのは、IBMによると一連のNCの最初の製品だという。どうやら、IBMでは複数の部門でそれぞれ仕様や形態の異なるNCを開発しているらしいので、これ1タイプじゃないというわけだ。実際に、先週のWorld PC EXPOで、米IBMのボブ・スティーブンソン上級副社長は、Pentiumベースの一体型を開発していることも明らかにしている。そのなかにはホーム向けもあると見られているが、今回発表されたNetwork Stationは、ガチガチの企業向けだ。

 ハードウェアの構成を見てみよう。CPUはPowerPC(報道を信じるならIBM版の組み込み向けPowerPCの403)、8 MBメモリ、EthernetとToken Ring(将来はtwinaxとcoaxも)、シリアル、パラレル、VGA/SVGA出力。もちろんハードディスクはなし。ハードウェア的には、IBMらしいネットワークのサポートを除けば、それほどNCとしては突飛ではない。しかし、そこから先が面白い。

 Network Stationは、起動すると、設定されたサーバーにまずアクセスして小型の専用OSをダウンロードするしくみになっている。その場合のブート用サーバーにはなんと、S/390、AS/400、RS/6000、Windows NTかOS/2 Warp Serverを載せたPCサーバーが使える。つまり、IBMのホスト/オフコン/サーバーならなんでもOK!というわけだ。そして、3270、5250、X-Windowsのターミナル機能を備え、Citrix's WinFramを使うことで、Windows NTサーバー上で動作するアプリケーションをリモートで使うこともできる。つまり、ホストやAS/400、AIXのアプリケーションからWindows NT用のアプリケーションまでなんでもみんな使えると言うわけだ。さらにJavaVMを載せるのでJavaアプリケーションも使えて、Notesにもアクセスできる。もちろんWebブラウザも使える。

 さて、こうしたNetwork Stationのフィーチャから見えるのは、これが「ふつーのNC」ではないということだ。3270/5250のターミナルエミュレーションはまだわかるとしても、S/390やAS/400にぶら下げられるというのは、IBMならではの発想だ。そもそも、このマシンを最初に5月20日にデモしたのが、IBMのAS/400部隊の幹部だったことからも、Network Stationの出自がわかる。

 IBMがNetwork Stationのリリースのなかで目立つのは、"ダム端末"の管理しやすさや低価格に、パソコンの使いやすいGUIやインテリジェンスを融合させたというような表現。このあたりからも、このマシンがIBMのホストやAS/400のダム端末の置き換えを狙ったことがわかる。これまでダム端末の置き換えではパソコンでエミュレータを使うという方法があったわけだが、IBMはNetwork Stationの方が700ドルとパソコンより低価格で、管理コストもパソコンの25~50%だとうたう。つまり、基本的にIBMユーザーがダム端末の置き換えを考えた時に、パソコンよりも低コストなソリューションを提供するというのがベースの戦略に見える。もっとも、IBM自身は、Network Stationはダム端末の置き換えだけでなく、応用範囲はもっと広いと言っているのだが、ダム端末との比較が目立つところを見ると、戦略のプライマリはどうしてもダム端末の置き換えにあるような気がしてしまう。IBMの試算ではダム端末だけでも世界に3500万台あるというから、これだけでも凄い数になるが、そこからどれだけビジネスを拡大する気なのか、またできるのかは、まだわからない。

 今回、もうひとつ面白いのは、IBMがパートナー企業とその技術に頼った点だ。WebブラウザはNetscapeの事実上の子会社である米Navio Communications社がカスタマイズするNavigator 3.0。そして、NCで使う新規のカスタムアプリケーションの主軸はJava。そして、製造はPowerPC 402/403ベースのNCをすでに発表しているNetwork Computing Devices(NCD)とのジョイントだ。Javaは、他に代えようがないテクノロジだからわかるとしても、NetscapeとNCDの手を借りるのはなぜだろう。

 IBMがアウトソーシングするのは、初めてのパソコンのOSをMicrosoftに発注した場合のように、社内でそのプロジェクトが小規模で、さらに迅速に立ち上げなければならない場合が多い。IBMのNCに対する本気さがどの程度かは、まだ様子を見る必要がありそうだ。

◎IBMのニュースリリース「First Network Computer Announced by IBM」
http://www1.ibmlink.ibm.com/cgi-bin/master?xh=R90HKArfK9vzr10USenGn???&request=pressreleases&parms=P%5f96090501&xhi=pressreleases%5e

('96/9/9)

[Reported by 後藤 弘茂]


【PC Watchホームページ】


ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp