【法林岳之の非同期通信レポート】

法林岳之の非同期通信レポート 第8回

どうする? 33.6Kbpsモデム

TEXT:法林岳之


●33.6Kbpsプロトコルって何?

●接続性はどうか?

●モデムの心臓部はモデムチップセットやDSP

●既存製品からのアップグレード条件

●どうする? 33.6Kbpsモデム


●33.6Kbpsプロトコルって何?

 インターネットへの接続などに欠かせないものと言えば、やはりモデムだ。ISDNの普及により、やや注目度が落ちているという声もあるが、パソコン通信サービスやプライベートBBSへの接続など、まだまだ需要は多い。

 現在、国内で販売されているモデムの主流は、'94年10月にITU-Tで勧告されたV.34というプロトコルに準拠した製品だ。このV.34というプロトコルは、最大28.8Kbpsでデータ通信が可能だ。ただし、28.8Kbpsでの接続を保証するものではなく、回線の状態に応じて、16.8/19.2/21.6/24.0/26.4/28.8Kbpsで接続するという特徴を持っている。

 このV.34に準拠した28.8Kbpsモデムが登場してから約1年半ほどになるが、ここに来て、さらに高速な通信を可能にする製品が登場してきた。これらの製品で採用されているプロトコルは、現在のV.34を拡張したもので、最大33.6Kbpsでの接続を可能にする。接続速度は従来の16.8/19.2/21.6/24.0/26.4/28.8Kbpsに、31.2/33.6Kbpsが加わることになる。14.4Kbpsから28.8Kbpsへ移行したときに比べ、上昇する幅が小さいが、これはアナログ回線での接続速度が限界に達しつつあるためだ。

 新プロトコルについてもう少し説明しておこう。この新プロトコルは、現在、ITU-Tで審議されているもので、正式には10月にジュネーブで開催される会議で正式に採択される予定となっている。勧告名は噂されていたV.34bisではなく、現在のV.34に包含される形になるだろうという説が有力だ。ちなみに、ここでは新旧V.34を区別するため、V.34/33.6KbpsV.34/28.8Kbpsと表記する。

 V.34/33.6Kbpsプロトコルは、V.34/28.8Kbpsプロトコルで使われているシンボリックレートが増えただけで、技術的に新しいものではない。すでに、アメリカでは昨年あたりからU.S.RoboticsMotorolaPenrilなどがV.34+(plus)V.34bisといった名称で製品化しており、次期標準規格と目されていた。この独自規格がITU-Tで本格的に審議され、勧告間近となったため、国内にも製品が登場し始めたというわけだ。


●接続性はどうか?

 V.34/33.6Kbpsプロトコルは最大33.6Kbpsでのデータ通信を可能にするが、33.6Kbpsでの接続を保証するものではない。V.34/28.8Kbpsプロトコル同様、回線の状態に応じて、接続速度は変化する。実際、V.34/33.6Kbps対応モデムを試用したところ、比較的回線状態のいい環境でもなかなか33.6Kbpsで接続することはできなかった。製品間の相性なども含め、さまざまな条件が整わなければ、33.6Kbpsでの接続は難しいだろう。

 一方、気になるのはインターネットプロバイダやパソコン通信サービスの対応だ。これについては別ページに取材した結果がまとめてあるのでご覧いただきたい。

 せっかくV.34/33.6Kbps対応モデムを購入しても、接続先がなければ意味はない……と言いたいところだが、実はかなり意味がある。その理由としては、以下の2つが挙げられる。

  • V.34/28.8Kbpsのときより、接続時に使うシンボリックレートの種類が増えたため、より幅広い回線状態に対応できる。
  • モデムの制御を行なうファームウェアが新しくなり、安定度が高められている。
 つまり、相互接続性安定度という点を考えると、V.34/33.6Kbps対応モデムを検討する価値は十分あるというわけだ。価格的にも現行のV.34/28.8Kbps対応製品とほぼ変わらないので購入しやすいので、現在使っているV.34/28.8Kbpsに不満があるなら、これを機に買い換えるのもいいだろう。


●モデムの心臓部はモデムチップセットやDSP

 ビデオカードの心臓部にビデオチップがあるように、モデムも心臓部に各プロトコルを実現するためのモデムチップセットDSPを搭載している。現在、世界中で販売されているV.34/28.8Kbpsモデムは、次のようなチップを採用している。

◆モデムチップセット

  • Rockwell
    モデムチップセットのシェアは全世界で60%以上を占め、国内メーカーもRockwell製チップを採用しているところが圧倒的に多い。
  • AT&T
    海外ではU.S.Roboticsなどとともにいち早くV.34/33.6Kbpsプロトコルに対応していた。AT&T ParadyneMultitechなどのモデムに採用されており、国内ではマイクロ総合研究所が一部の製品に採用している。

◆DSP
  • Texas Instruments
    U.S.Roboticsのモデムなどに採用されている。V.34/33.6Kbpsプロトコルには最も早くから対応していた。
  • IBM Mwave
    AptivaやThinkPadシリーズなどに採用されている。アメリカではこのDSPを使ったサウンド&モデムカードなども販売されている。
  • Motorola Semiconductor Products
    国内には販売されていないが、同社のモデムに採用されている。すでに、V.34/33.6Kbps対応製品を発売している。

 これらの内、モデムチップセットは、各プロトコルを実現するための回路がチップ内に組み込まれているため、他のプロトコルを実現するためにはモデムチップセットそのものを交換しなければならない。逆に、DSPについては汎用的なチップなので、ソフトウェアをバージョンアップすることにより、他のプロトコルを実現することができる。つまり、DSPを使ったモデムなら、容易にV.34/33.6Kbpsプロトコルに対応させられるが、モデムチップセットを使ったモデムは製品を買い換えなければならないということになる。


●既存製品からのアップグレード条件

 V.34/33.6Kbpsモデムを使うには、今使っているV.34/28.8Kbpsモデムを捨て、新たに製品を買わなければならないかというとそうでもない。実は、国内で販売されているV.34/28.8Kbpsモデムには、ファームウェアを変更するだけでV.34/33.6Kbpsモデムになるものもあるのだ。

 V.34/33.6KbpsプロトコルはV.34/28.8Kbpsプロトコルを拡張したものだが、ITU-Tで勧告が出た当時から「いずれは33.6Kbpsになるだろう」と言われていた。そのため、モデムチップセットメーカーは28.8Kbps対応モデムチップセットとして出荷しながら、特定のロットからは内部的にV.34/33.6Kbpsプロトコルに対応させていたというわけだ。

 ただ、モデムチップセットを採用したモデムでもすべてのものがV.34/33.6Kbpsプロトコルに対応できるわけではない。最も普及しているRockwell製モデムチップセットを採用した製品を例に説明しよう。

RC288CPi  Rockwellのモデムチップセットは、RC288DPiというデータポンプとL39xx/Uというコントローラチップによって構成されている。この内、RC288DPiのチップ上には左の写真のようなプリントがしてある。

 このプリントの内、2行目のハイフン以降の数字はデータポンプのRevision番号を表わしている(左の写真はRevision26を表わしている)。このRevision番号が24以降のものには、V.34/33.6Kbpsプロトコルが含まれている。つまり、Revision24以降のデータポンプを搭載した製品なら、ファームウェアをアップグレードするだけでV.34/33.6Kbpsプロトコルに対応できるわけだ。

 Revision番号が24よりも古いときは、データポンプの交換が必須となる。通常、データポンプは左の写真のように、PLCCソケットと呼ばれるものに装着されている。しかし、一部の製品ではコストダウンのため、データポンプを基板に直接ハンダ付けしている。こうした製品はデータポンプの交換ができないため、V.34/33.6Kbpsプロトコル対応へのアップグレードは諦めるしかない。

 モデムがRevision 24以降のデータポンプを採用していてもアップグレードできないこともある。たとえば、ファームウェアを納めたROMが基板に直接ハンダ付けされているときだ。通常、ファームウェアはEPROMやフラッシュメモリに納められているため、ROMの交換やフラッシュメモリの書き換えのみでアップグレードすることができる。しかし、ROMそのものが基板に直付けされているものは、ROM交換が難しいため、アップグレードすることができない。

 そして、最大の難関がメーカーの対応だ。V.34/28.8Kbps対応モデムをV.34/33.6Kbps対応モデムにアップグレードするか否かは、メーカーの判断に委ねられる。主要メーカーに新製品の発売とV.34/33.6Kbps対応製品へのアップグレードについて取材をしたところ、以下のような回答が得られた。

メーカー名 V.34/33.6Kbps対応
製品の発売
既存製品からV.34/33.6Kbps
対応製品へのアップグレード
アイ・オー・データ機器 検討中 予定していない
アイワ PV-BW2881(外付けタイプ)及びPV-CAF2881(ISAカード)を発売中 予定していない
インテグラン
U.S.Robotics/Megahertz
Courierシリーズは対応済。V.34/33.6Kbps対応のSportster Viを9月に発売 SportsterシリーズのアップグレードをITU-T正式勧告後に予定
NTTインテリジェントテクノロジ ThunderCard 336LANを9月末より出荷予定 未定
オムロン ME3314B III(外付けタイプ)とME3314C(PCカード)を発売中 ME2814B IIIME2814Cについてはアップグレードを受け付ける。その他の機種については予定していない。
サン電子 現行のMS288AF/DF/EFをV.34/33.6Kbps対応にして発売中 既存製品からのアップグレードサービスを行なう。ファームウェアのROM交換は4120円で受け付ける。MS288AFの初期製品については10300円で部品交換(データポンプとファームウェアROMの交換)を行なうが、新品(MS288AFpro)の優待販売も行なう。
ソフトウェア・ジャパン 発売を予定している 予定していない
TDK DF3314EXを発売中 未定
ヒューコム 発売を予定している HUCOM-EXSimple288V.34ES Card SJについてはアップグレードサービスを行なう予定
マイクロコム DeskPorte 33.6Sを9月より出荷。9月後半にはV.34/33.6Kbps対応のDSVDモデムの発売も予定している TravelCardEP288についてはフラッシュメモリを搭載しているので、アップグレード可能。その他に機種については検討中。
マイクロ総合研究所
(マイクロコア)
現行機種にはアップグレード申込書を添付して出荷。9月中に新製品の発売を予定している MC288XL II/XR/XRi/PC/LANについては1000円でアップグレードプログラムとJATE認定シールを送付。MC288XLについては部品交換が必要なため、8000円でアップグレードを受け付ける。MC288XE,Xiについてはアップグレード対象外
松下電子応用機器 TO-BXF336(外付けタイプ)とTO-CAF336(PCカード)を発売中 予定していない
緑電子
(Midori-Hayes)
検討中 未定
メガソフト 検討中だが、発売はITU-T勧告後になる予定 PCカードタイプについては検討中。外付けタイプは未定
メルコ 技術的にはクリアしているが、ユーザーの恩恵が小さいので、製品投入は見合わせている 新製品投入時に、既存ユーザーに有償でアップグレードを受け付ける

 市場で販売されてきた大半の製品がアップグレード条件を満たしていることを考えると、ほとんどのメーカーがアップグレードサービスを実施しそうなものだが、実際にはコスト的な面が折り合わず、見送るメーカーも多い。しかし、サン電子やマイクロ総合研究所のように、自社で販売したほとんどの製品についてアップグレードサービスを行なうメーカーもある。アップグレードサービスを行なうか否かは、メーカーのサポートの良し悪しを判断するバロメータと見方もできる。


●どうする? 33.6Kbpsモデム

 では、最終的にV.34/33.6Kbpsモデムはどうすればいいのだろうか。いくつかのケースに分けて考えてみよう。

 まず、14.4Kbpsモデムなどを使っているユーザーだが、これは当然V.34/33.6Kbps対応モデムを購入すべきだろう。インターネットの何を使うのかにもよるが、ホームページを見るのであれば、今さら14.4Kbpsモデムでアクセスするのはナンセンスだ。

 次に、現在V.34/28.8Kbpsモデムを使っているユーザーは、アップグレードサービスが行なわれるか否かで判断が分かれる。アップグレードサービスが行なわれる製品を持っているユーザーは、せっかくサービスが受けられるのだから利用したいところだ。インターネットプロバイダなどの対応状況を見る限り、あまり急ぐ必要性はなさそうだが、メーカーによっては期間が限定されていることもあるので注意した方がいいだろう。

 一方、アップグレードサービスが行なわれない製品を持っているユーザーだが、現在使っている製品に不満がないのなら、無理に買い換える必要はない。最も効率よくデータが転送できたとしても10~20%程度しか差がないので、モデム購入資金はISDN回線への移行費用などに使った方が賢明かもしれない。

 最も判断が難しいのは、現在使っているV.34/28.8Kbpsモデムに不満があり、アップグレードサービスが提供されないユーザーだ。V.34/33.6Kbpsモデムに買い換えるとなると、2万円前後の出費は避けられないが、それに見合うだけの利用があるのなら、買い換えた方がいいだろう。あまりモデムは使わないというのであれば、ITU-Tの正式な勧告が出る10月以降に再検討してみるのも手だ。

 最後に、どのV.34/33.6Kbpsモデムを購入すべきかという問題だが、これは非常に判断が難しい。製品間の価格差もそれほど大きくなく、主要メーカーなら性能的な差もあまりないためだ。ただ、製品の品質とサポート体制に、過去の経験に基づく個人的な好みを加味すると、アイワインテグラン(U.S.Robotics)オムロンサン電子マイクロ総合研究所の5社から選ぶのが最も確実そうだ。

[Reported by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp