後藤弘茂のWeekly海外ニュース


MicrosoftとNetscapeが泥沼抗争

NetscapeはNC用Navigatorの開発発表へ?

 今月、Webブラウザをほぼ同時にバージョンアップした米Microsoft社と米Netscape Communications社が、ますます戦争をエスカレートさせている。それも、開発やマーケティングでの争いから、非難合戦に発展。さらに、米司法省まで巻き込んだ戦いになろうとしているようだ。

 先週のニュースサイトは、Microsoft対Netscapeの対立の記事でもちきりだった。それによると、ことは、まず、Netscapeが自社のWebサーバーソフトをWindows NT Workstationと組み合わせることで低コストなサーバー立ち上げが可能になるとうたったことで始まった。それについて、Microsoftがネットワークアクセスに制限を設けているWindows NT Workstationにサーバーソフトを組み合わせることは、Windows NTのライセンス違反になる可能性があると抗議。それならばと、Netscapeは、司法省に対して、Windows NTのライセンス自体が反トラスト方の疑いがあると書簡を送ったという。

 だが、ことはそれだけで終わらない。次にNetscapeは、Webブラウザに関しても司法省に書簡を送ったそうだ。こちらは、Microsoftがパソコンメーカーに対して、Internet Explorerだけをインストールした場合はWindows 95を割引きするなどしてNavigatorの排斥を図っているとして、司法省に調査を要請したという。

 今の段階では、これらの件が今後どう発展するのか、真偽はどうなのか、なんとも言えない。ただ、ここで重要なのは、Netscapeが引っぱり出してきたのが司法省だという点だ。今、Microsoftにとっていちばんいやな相手は司法省だ。司法省は、現在もMicrosoftに対して反トラスト法の疑いでの調査を終了したとは宣言していない。これがMicrosoftを牽制する重要な要素となっている。これは、Netscapeも承知のことで、司法省のこの圧力を利用して、Microsoftに対抗しようというわけだろう。

 Netscapeがこんなにやっきになって反撃するのは、それだけMicrosoftの攻勢が強いからだ。とくに、今回重要なのは、Microsoftが、Internet Explorer(IE)3.0がNetscape Navigator 3.0に追いついたというイメージ作りに成功しかけていることだ。この場合、本当に追いついたかどうかよりも、そうしたイメージをユーザーに持たせることができるかどうかが重要だ。ユーザーがNetscapeの将来に不安を感じてくれればしめたもので、そこにつけ入ることができる。そこで、MicrosoftはActiveXやWindowsシェルと融合するActiveDesktopなど、次々にIEがらみの話題を提供、マスコミをあおっているわけだ。

 ただ、実際には、Netscapeも、司法省に訴えるだけではなく、Microsoft対策で具体的な手を打ったり、構想を明らかにしたりしている。たとえば、Netscape ONE(Open Network Environment)では分散アプリケーション構築を体系的にまとめた。また、Navigatorをモジュール化して他のアプリケーションに組み込めるようにする構想や、NavigatorでIE4.0同様にローカルのリソースも扱えるようにするといったアイデアも、つぎつぎにインタビューの中などで明かしている。

 ところが、こうしたポイントも、Microsoftの話題作りの前には、影が薄い。Netscapeはハデにぶち上げることが苦手というのがあるようで、どうしても地味なイメージになってしまう。このあたりが、ケンカ慣れしているMicrosoftとの違いだろうか。しかし、これが続くと、「攻めるMicrosoft、守勢のNetscape」というイメージが本当に固定してしまいかねない。それはかなり危険なことだ。

 一部のサイトの報道によると、Netscapeはどうやらネットワークコンピュータ(NC)やインターネット家電向けのNavigatorの開発を、今週(おそらく月曜)に、発表するらしい。Mこれが本当だとしたら、NetscapeがここでNCを使ってうまくイメージづくりをできるかどうかが重要になるだろう。

 現在、NetscapeがMicrosoftに対していちばん有利なのは、Windowsのような守らなくてはならないプラットフォームがない点だ。Netscapeは、OSに縛られず、クロスプラットフォーム戦略を大々的に展開できる。そして、Webブラウザが標準的なOSのインタフェース層になるNCやインターネット端末では「Webブラウザ=実質的なOS」と位置づけることができる。たとえば、ここで、NetscapeがNavigatorをOSだと宣言して、パソコンだけでない、あらゆるインターネットアクセスデバイスの標準にするとぶちあげたりしたら、NCの成否はともかく、Netscapeのイメージは全然違ってくるだろう。

('96/8/26)

[Reported by 後藤 弘茂]


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