大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

リサイクル法で「個人向けパソコン」からの撤退が相次ぐ?


 個人向けパソコンのリサイクル費用の徴収方法が、販売時点となることで話し合いがすすめられることになった。

 前回のこのコラムでは、第1報として、家庭向けパソコンのリサイクル費用の徴収方法を取り巻く動きを紹介したが、その後の取材で、この仕組みがユーザーにとって、かなりの負担を強いる可能性があること、そしてパソコンメーカーにとっても、最悪の場合、リサイクル費用を巡って、新製品の製品企画や、事業方針の変更といった影響がおよぶ可能性が出ていることがわかった。

 前回のコラムでは、産業構造審議会において、今年11月の時点で、販売時徴収で意見をとりまとめる方向性を示し、今年12月の会合では、廃棄時徴収を訴えていたパソコンメーカー側から、販売時徴収ですすめる際にどんな対応が必要かといった意見をもとめ、今後は、それをベースに議論がすすめられることになる点に触れた。

 この動きを見る限り、制度が簡単な廃棄時徴収を訴えるパソコンメーカー側を、「廃棄時徴収では、不法投棄の温床になる可能性が強い」として、環境省、販売店団体などが退けた格好だ。

 産業構造審議会では、現段階では、最終決定ではないことから、正式なコメントは避けているが、事実上、販売時徴収という方向で決定したのは間違いないといえる。

 だが、本当に販売時徴収でいいのか。

●ユーザーに余計な負担を強いる販売時徴収

 販売時徴収は、事前にリサイクル費用を支払うため、パソコンが不要になったときに、リサイクル費用を支払うことなく引き取ってもらうことが可能になる。 

 それに対して、廃棄時にリサイクル費用を負担するとなれば、不法にパソコンを投棄するという問題も出てくることになる。これを未然に防ぐという意味で、環境省などは販売時徴収を強力に訴えていたわけだ。

 だが、販売時徴収によって、ユーザーは余計な負担を強いられるという問題も出てきているのだ。

 販売時徴収制度では、ユーザーが事前に支払ったリサイクル費用を、メーカー各社がそれぞれに管理するという仕組みになっている。

 一部には、これを取りまとめて管理する外部資金管理法人を設立するという話も出ていたが、政府において、特殊法人の見直しが進むなか、この動きは逆行するとの見方もあり、現段階では、各社ごとに管理するという方向で議論がすすめられている。

 いずれにしろ、ここで積み立てられている資金は、各社ごとの管理にしろ、特殊法人による管理にしろ、「利益の内部留保」という形に位置づけられることから、法人税として、一律40%が課税されることになる。

 もちろん、パソコンメーカー側は、これを自腹を切って支払うなどという考え方はないから、この40%はそのままリサイクル費用としてユーザー側の負担という形に跳ね返ることになる。リサイクル費用に多額の税金分を上乗せしたものを支払うことになるというのだ。

 さらに、ユーザー負担を増幅させるような問題も出ようとしている。

 販売時徴収が実施に移された場合、問題となるのが、徴収が実施に移される前のパソコンに関してはどうするかといった点だ。業界側では、現行のパソコンに関しては、廃棄時点での徴収方法を打ち出し、当面は新しいパソコンは販売時徴収、古いパソコンは廃棄時徴収の2種類の仕組みをとるといった方法を提案した。

 だが、これに対して、環境省などは「リサイクル費用を徴収していない既存のパソコンに関しては、メーカー側が無料で回収し、リサイクルを行ってはどうか」といった提案を行っている。一見、ユーザーにメリットがある合理的な案に見えるが、実際には、この費用をメーカーが、自腹を切るわけもなく、この費用をどこからか捻出してこなくてはならない。その捻出箇所は、当然のことながら、新品販売時の徴収費用に上乗せということになる。

 つまり、新規にパソコンを購入する人は、他人の古いパソコンのリサイクルのために、余計な費用を支払わなければならない、ということになるのだ。

 現在、死蔵しているものも含めて国内には2,400万台の個人向けパソコンがインストールされているといわれる。しかも、これまでの出荷比率を見ると、ノートパソコンが増えたのはここ数年のことであり、その多くが、リサイクル費用が高いデスクトップパソコンというのがわかる。いずれにしろ、この2,400万台分のリサイクル費用が、上乗せされるというだけでも、費用がかなり上昇するのは明白だ。

 ある関係者の試算によると、デスクトップパソコンでは3,000~4,000円、ノートパソコンでは、1,000~1,500円程度がリサイクル費用の実費になるとするが、40%の法人税、従来パソコンのリサイクル費用の上乗せ、積立金の管理費用などを含めると、デスクトップパソコンでは最大9,000円程度まで跳ね上がる可能性があるという。これでは、販売時の負担があまりにも大きいとはいえないだろうか。

●家庭向けパソコンが無くなる可能性も?

 実は、業界内ではこんな問題が指摘されている。

 今後、個人向けパソコンにおいて、パソコンとTVの融合がすすんでいくのは明らかだといえる。ソニーやNECの動きを見ても、それは明白だ。そして、その境界線が崩れていくのは時間の問題ともいえる。

 だが、個人向けパソコンは販売時徴収、TVは廃棄時徴収となっている現状は、いびつな環境を生み出す可能性がある。

 例えば、ほぼ同じ機能を持ったパソコンTV(あるいはTVパソコン)を製品化した場合、パソコンメーカーが投入したものは、パソコンと見なされ販売時徴収が適用され、家電メーカーが投入した製品は、TVであることから、廃棄時徴収ということになる。同じ機能を持ちながら、販売時点でリサイクル費用の関係で、最大9,000円の価格差がつくことになるのだ。これは明らかにパソコンメーカーには不利な条件だ。同じ機能の製品が店頭に並んでいたら、その場では、安い製品を買うのが人間の心理である。しかも、9,000円という金額は、低価格のプリンタならば買えてしまうほどのものだ。家電メーカーが、パソコン分野に乗り出すには絶好の機会ともいえるが、パソコンメーカーはたまったものではない。

 あるパソコンメーカーの関係者は、「関連子会社から家電として販売させるという手法をとるか、あるいは別の事業部を通じてパソコン機能を搭載したTVとして発売することも検討材料になる可能性もある」と冗談まじりに話す。9,000円高いパソコンを売るよりは、TVとしてパソコンを売る方が得策というわけだ。

 また、こんな話もある。

 ノートパソコンに関しては、1kgを切るものに関しては、リサイクル費用の徴収の対象外になるという方向で議論されている。これはPDAなどをどうするのかといった話の延長線上で示された方向性だ。

 だが、これを逆手に取れば、パソコンの機能を持っていても、1kg以下であればリサイクル費用の販売時徴収の対象外ということになる。

 別のメーカー関係者は、「もし、バッテリやディスク装置などをすべてオプションとすれば、1kg以下のノートパソコンは簡単に作れる。オプションばかりが増加するというデメリットはあるが、それでもユーザーの購入に結びつけることができる」と話す。

 もちろん、これらの議論が、「リサイクル」という本来の目的を忘れた議論であることは、関係者は百も承知で話している。欧米では、リサイクルを含めた考え方がメーカー責任の範囲という意識があり、国内のメーカーにもそれは浸透しつつある。

 だが、メーカーのもともとの目的が、「物を生産し、それを売り、利益をあげる」という点であれば、「たくさん売るためにどうするか」といったことを前提にした、こうした考え方が出てくるのも当然のことであろう。しかも、TVか、パソコンの違いで、同じものが違う仕組みの上で徴収されるとなればなおさらだ。

 パソコンメーカー側は、販売時徴収には徹底的に反対してきた。それにも関わらず、販売時徴収の制度を実行に移すには、あとはメーカー側がどう納得して、これを受け入れるか、という点が焦点になる。実際に費用を支払うユーザーの納得も得なくてならないだろう。ユーザー負担を極力減らすという点にも力をさいてもらいたい。

 だが、これが実現されなければ、数年後には、「個人向けパソコン」といったカテゴリーの製品がなくなり、それがすべて「TV」に統合され、ユーザーもリサイクル費用の負担が少ない、「TV」を買うことになるのではないだろうか。もちろん、これではリサイクル法の意味はなくなってしまう。

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【大河原】来年4月以降は、PC購入時に数千円のリサイクル費用が上乗せ!?
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011217/gyokai17.htm

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(2001年12月25日)

[Reported by 大河原 克行]


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