第132回:128Kbpsレディの定額PHSサービス「b-mobile」



 取材用に使っているデジタルカメラを久々に買い換えた。これまでは携帯性を重視してIXY Digital、FinePix 40iなどの軽量コンパクト機を持ち、必要に応じてEOS D30を持ち出すといった具合だった。中でもFinePix 40iはノイジーな画質にファジーな輪郭で、今ひとつシャキッとしない画質ながら実効感度が高く、暗い取材会場でも扱いやすいのが魅力だった。

 そんな今までのモノ選びからは少々違う方向ではあるが、PowerShot S30を気に入って現在使っている。少々大きめで、その割には持続性がイマイチなバッテリ。操作ボタンの押しにくさや弱いマクロ機能、ワイド端の開放で周辺像が流れてしまうレンズに今ひとつ納得できないAF速度など、不満を言いだしたらキリがない。

 しかし、今のデジタルカメラはどこかしら不満があるものだ。S30はS/N比に優れ増感特性に優れているところが僕の仕事向きだし、連写性能も良く、画質的にも不満はない。レンズ性能を別にすれば、昨年話題になったEOS D30よりも画像処理はずいぶん進化した。同じモノを撮影しても、D30では出ない色がS30では出るし、全体の雰囲気もよくまとまっている。

ニコン COOLPIX5000
 実は前評判の良さとコンパクトさが魅力でニコンのCOOLPIX5000にも注目していたのだが、こちらは発売延期の関係で我慢しきれず、出荷を待たずしてS30導入に至った。この連載を見てデジタルカメラ購入の参考にしようなどとは誰も思わないかも知れないが、COOLPIX5000を検討している人は1つだけ購入前に確認しておく方がいい事がある。

 この機種はグリップとストロボの間に調光センサーを配置し、ストロボの反射光を読みとってストロボ発光時の露出を制御している。ところが、グリップを握る中指がちょっとでも上にズレたりすると、とたんに露出アンダーになってしまう。自分の指にストロボの光が反射して調光センサーに入るため、ストロボ発光が弱くなってしまうのだ。

 色々と試してみたが、きちんと撮影できているように見える時でも、指の位置によっては微妙に露出が変化してしまう。COOLPIX5000を色々いじくり回している場にいた知り合いが「ファインダーの横にセンサーがあればいいのにね」と話していたが、なぜ、今までこうした指摘が行なわれず、製品化されてしまったのだろう。

 握り方のクセによっては、無意識に使っていると毎回、内蔵ストロボ撮影で露出アンダーになってしまう人もいれば、全く大丈夫という人もいる。ともかく、購入を検討している人は、そのあたりの事を意識しながら店頭で具合を確かめてみてほしい。調光センサーの位置は、ファームウェアの変更では直らないのだから。



●プリペイドのPHS定額データ通信サービス

 さて、先週お伝えしたように、日本通信( http://www.j-com.co.jp/ )が開始したコンシューマ向けの「b-mobileプリペイドサービス」を紹介する。日本通信は、企業向けに携帯電話の分計サービスや通信系ソフトウェアソリューションなどを提供するベンチャー企業。b-mobileは、日本通信がMVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)としてメニューに持っている、PHSを利用したデータ通信サービス事業である。

 通常、こうした移動体通信事業を行なえば、インフラを提供するために非常に多くの資金が必要になるが、MVNOは自社で回線を所有せず、インフラを所有している業者から回線を帯域単位で購入し、それに付加価値を付けて再販することにより事業を行なう。このため、ベンチャー企業でもアイディア次第で参入できる。

 b-mobileでは、この考えの元、DDIポケットからPHSパケット通信の帯域を購入して再販しているサービスの名称である。元々は企業向けだが、DDIポケットの128kbps対応が今秋から来春に延期されたため、予定していた回線が大きく空くことになってしまった。そこで2002年中に開始予定だった個人向けの接続サービスを、年末に開始したというのが背景だ。

b-mobileプリペイドサービスで提供される通信カード
 コンシューマ向けのb-mobileは、オープン価格の年間サービスを、通信カード付きで販売するというもの。売り切り商品であるため、サービス開始後の返品はできない。今のところ76,000円が最低価格のようだ。販売代理店は同社Webサイトに掲載されている。なお、年内(といってもあと僅かだが)の契約者向けには3カ月の延長サービスが提供されるため、15カ月間利用可能となる。なお、サービス期間が終了した後は、通信カードのコストを差し引いた、その時点での年額を追加することで継続してサービスを受けることができる。

 提供される通信カードは本多エレクトロン製の128kbpsパケット通信カードで、DDIポケットが秋にサービス開始する時、用意していたPCカードと全く同じものだ。ファームウェアもすでに128kbps対応のものが入っているため、128kbpsパケット通信サービスが開始されれば、そのまま現在の32kbpsパケット通信から移行できる。その場合も、売り切りのサービスであるため追加料金なしに128kbpsへと移行できるのが魅力だ。さらに来年には32kbps限定ながらCF型の通信カードを使ったパッケージも用意される。

 b-mobileにまつわる話を、日本通信上席執行役員兼CTOの中井純氏と、マーケティング本部マーケティングコミュニケーションズ部部長の赤澤隆氏に伺ってみた。


●128K化の遅れがコンシューマ向けサービスの開始を早めた

 中井氏は開口一番「我々はキャリアと競合しようとしているわけではないんです。帯域を購入し、付加価値を付けて再販する。キャリアから購入したものを、そのまま転売しても競争には勝てない。その代わりに、より品質の高いサービスを提供することでキャリアとは異なる客層にアピールしようということ」と、同社のMVNOとしてのスタンスを話した。

 帯域を購入している日本通信側でも、正式な128kbpsサービス開始時期は掴んでいないということだが、中井氏によると3月末にはサービスインする可能性が非常に高いという。また128kbps化が行なわれた際には現行のAirH"よりも料金が高くなり、8,000円程度の月額料金になるのでは? という説が有力だ。いずれにしろ、現行の32kbpsよりは高額になってしまう。

 これに対してb-mobileでは追加料金が不要なため、月あたり約5,066円(15カ月契約の場合)もしくは約6,333円で利用できる。この価格にはインターネット接続サービス料も含まれていることを考えれば、十分に買い得感がある。

 特に128kbpsパケットの利用を予定している人にはお得なサービスだ。前記の月あたりの料金は利用月数で単純に割ったものだが、128kbps対応のカードが現時点で入手できることを考慮に入れれば(つまり将来的に乗り換えるためのコストを考えれば)、純粋な通信料金はもっと低くなるからである。また、128kbps化に際して、どのプロバイダが対応するかがまだ見えていない。b-mobileであれば、接続先の心配ももちろん不要だ。

 中井氏は「128kbps化が行なわれると、AirH"の半額でサービスが利用できる感覚になると思う。128kbps対応端末の購入価格も安くはない。4月から始まれば、間違いなくお買い得な価格設定だ」と自信たっぷりだ。ただし、実際に128kbpsのサービスが開始された後は、b-mobileのプリペイド料金自体が変更される(高くなる)可能性がある。

 「我々は会社を設立して5年のベンチャー。DDIポケットからの仕入れは8Mbpsで月額3,000万円だ。現在の価格は、先行して我々のサービスを購入してくれるお客さんに対するインセンティブでもある。さらに年内購入なら15カ月というキャンペーンを行なったのは、ほぼ間違いないと思われるが、まだ確定ではない来春からの128kbpsパケット通信サービスを期待する顧客へのリスク負担料だと思っている」と中井氏は言う。

 とはいえ、同社自身も認めるようにDDIポケットの128kbpsサービスの遅れが、急いでコンシューマ向けサービスをメニュー化しなければならなくなった主たる原因であることは間違いない。手元で簡単な試算を行なってみたが、b-mobileのプリペイドサービスをコンシューマ向けだけでペイラインに乗せようと思えば、最低でも8,000~10,000人の利用者を集めなければならない。売り切りでこれだけのコンシューマを捕まえるのは、かなり難しい。

 元々、企業向けとしてビジネスプランを立てていたことは間違いないが、現在のところ企業顧客の接続ユーザーも数百アカウント程度だとか。本来はもっと多くの利用者が出るはずだったが、ほとんどの企業はモバイル向けの社内アプリケーションをISDNの64kbpsを基準に設計しているため、128kbps化の延期とともに導入が延期になってしまったという背景がある。

 日本通信にしてみれば痛い延期だったはずだが、元々コンシューマ向けへの販売を考えていたこともあり、我々エンドユーザーにとってみればお得なパッケージが予定より早く登場したわけだ。中井氏は「C@rd H"の利用パターンを見ても、昼間に外出先で利用している個人ユーザーは非常に少ない。多くのユーザーは夜間、自宅で利用している。コンシューマ向けへの販売を行なうという発想は、トラフィックの平準化が狙いだった」と話す。



●b-mobileの目玉サービスのアクセラレータサーバの実力

 さて、実際に使ってみたい人にとって気になるのは、どの程度のパフォーマンスが出るかだろう。基本的に現時点では32kbpsのAirHと同じパフォーマンスだ。しかし、同社はb-mobileでアクセラレータサーバによる高速化サービスを提供している。このサービスはデータを圧縮転送するWebプロクシサーバを経由してアクセスすることで、見かけ上の通信速度を上げようというものだ。

 まずHTTPで利用可能なgzipによる圧縮転送を行なう。HTTPの圧縮転送機能はアパッチやIISなど一般的なWebサーバはすべて対応しているが、互換性問題や負荷などの理由で無効になっていることが多い。すでに圧縮転送が設定されているWebサーバの場合は高速化されないが、多くのサーバでは効果があるだろう。

 また画像を再圧縮することでサイズを小さくする機能もある。JPEG画像は圧縮率を上げることで約1/2までサイズを削減。その分だけ画質が落ちるが、速度アップの効果は大きい。またGIFファイルは減色処理が行なわれる。この減色処理は誤差拡散を用いず、Adobe Photoshopの「ポスタリゼーション」に似た手法で画像を単純化するため、圧縮効率が向上しサイズが減少する。

 こうした効果により、32kbps接続時で50kbps相当、128kbps接続時で200kbps相当の速度が出ると日本通信はアナウンスしているが、実際、この機能の効果はかなり大きい。転送されるデータ量を調べてみると、文字中心の情報サイトで約80%、画像が多いサイトでは半分~1/3程度までトラフィックが減少する。すなわち、最大で2~3倍の見かけ速度で、文字中心のサイトでも20%増しだ。

 この機能はエンドユーザーのメリットであると共に、日本通信側にも大きなベネフィットをもたらす。DDIポケットから購入する高価な回線の利用効率が上がるからだ。平均で50%速度アップすれば、8Mbpsの帯域は12Mbpsの価値を持つようになる。

 この機能を利用すると画質が落ちるという欠点はあるが、モバイル用途と回線速度のバランスを考えれば、なかなか魅力的な機能と言えそうだ。



●Q&A

 実際のインタビューでは今後の話など、興味深いテーマについて多数伺うことができたのだが、記事スペースの関係で割愛させていただく。機会があれば、またそれらの話をコラムの中に織り交ぜていくことにしよう。その代わり、最後に前回のコラムで約束していた日本通信への読者からの質問と回答を列記しておこう。

「これだ!と思って購入しようと思いました。しかし、提供される128kbpsのPCカードは消費電力がとても大きい。5V動作の200mAですから、ちょうど1W。たとえばJornada 720の平均消費電力は約1Wなので、バッテリの持続時間が半分になってしまいます。CF型はどれぐらいの消費電力になるのでしょうか」

 日本通信によると、200mAの消費電流は128kbps時の平均消費電力。32kbps時には“最大で”120mAとのことだ。なお、32kbps時平均消費電流は製造元に問い合わせている段階で、現在のところ回答が来ていないという。また、CF型カードの機種はまだ決定していないとのこと。その場合、32kbpsのみのサービスとなる。

 なお、個人的には128kbps化が行なわれた後、自分で利用する基地局数を選択できるかどうかが気になっていたので、同じように聞いてみた。128kbps時は4つの基地局を使うが、その分だけ消費電力が大きくなる。また、地方などで基地局の密度が低く、2チャネルしか見つからない場合に、残りの2チャネルが基地局を常に探している状態になってしまうと、こちらも無駄な電力を消費してしまう。この点については、現在のところ様々な方法を考えていて、制御方法をどのようにするかは決定していないとのこと。

 また、128kbps対応のCF型通信カードの登場は、来年の秋以降になると言われているが、ハッキリとした予定は立っていない(言うまでもなく、これは日本通信ではなく通信カードを開発しているベンダー次第)。

「1時間で接続が切れると書いてあるのですが、Windows Updateなどを行なっている際にも切れてしまうのですか? 大きいサイズのファイルはダウンロード不可能なのでしょうか?」

 記事中にも8Mbpsで月間3,000万円という回線コスト(しかもこれは原価でしかない)がかかることを紹介したが、電波を使った公共サービスは非常に高価なものだ。したがって、将来的にやむなく切断する可能性があることを示唆しているのが、1時間で切断すると書かれている理由とのこと。たとえばストリーミングで外出先の映像を流し続けたり、といったことを行なうことを防ぐため、切断する可能性があるというわけだ。なお、現在のところこうした措置はまだ取られていない。

 これは僕の補足だが、Windows Updateにはレジューム機能がある。またレジューム対応のダウンロードツールを利用することで、大きいサイズのファイルもダウンロードできるだろう(ただし、相手サーバがレジュームに対応している必要はある)。モバイル用途では大きな欠点ではないと思うが、自宅で利用したいユーザーには少々厳しい条件かも知れない。

「PCカード型のサービスを購入した後、CF型カードに移行することが可能でしょうか?」

 通信カードとのセット販売であるため機種変更は行なえない。「売り切り」という形態にすることでコストダウンを図っているため、途中で事務手続きが発生する端末機種の変更をコスト的に許容できないためとのこと。オークションなどで残存サービス期間とカードを売るなどの手法でしか、乗り換えはできそうにない。

「グローバルIPアドレスへの移行はいつでしょうか?」

 現在、b-mobileはプライベートIPでサービスを行なっており、一部のアプリケーションは動作しない。ネットワークアドレス変換に弱いビデオや音声のコミュニケーションはもちろん、ICQやWindows Messengerといったインスタントメッセージクライアントも動作しない。

 日本通信側は今のところ未定としているが、JPNICからIPアドレスの割り当てがあり次第、対応を予定しているとのこと。申請はすでに行なっており、ISP事業者として認知されればすぐに割り当てられる。来年の前半にはグローバルIPになるだろうとのこと。

「サン電子製(SUNTAC)のSlipper UでデスクトップPCとUSBで接続できますか?」

 Slipper Uでは動作しないが12月20日発売予定のSlipper Xでは動作するそうだ。

サン電子 Slipper X

「b-mobileユーザーが認証無しに使えるSMTPサーバが欲しい。会社や学校などのSMTPが塞がれ、メールを読めるのに送信ができないため、POP認証を行なってから送信する必要があるが、それができないモバイル端末もある」

 ニーズを研究した上で対応を検討しますという返答を頂いた。


□日本通信のホームページ
http://www.j-com.co.jp/
□関連記事
【11月28日】日本通信、コンシューマ向けのデータ通信サービス開始(ケータイ)
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(2001年12月18日)

[Text by 本田雅一]


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