第131回:鬼が笑う来年のお話



 今週から1週間、日本通信が提供しているDDIポケットのPHSパケット通信を足回りに利用した「bモバイル」サービスを試用する機会を得た。PHSパケット通信は下り32kbpsで実効値となるとさらに遅いが、同サービスはHTML内の余分な改行削除や画像ファイルの再圧縮などをプロキシサーバーで行なうことで、Webブラウズ時の体感速度をアップさせる機能がある。

 実際、使っているとAirH"よりも快適で、64kbpsモードと同等とまでは行かないものの、効果的に転送データ量を減らしてくれる。画像の画質などは落ちるが、今のところはなかなか快適に利用できている。将来、128kbpsサービス開始時にはそのまま128kbpsサービスにステップアップできるのも魅力。

 価格はオープンで、1年分の接続料を一括で収めることになる(通信カードは付属する)。実勢価格は7万円台からと、トータルコストはAirH"の方が安いものの、128kbpsへの移行を端末カードの買い換えなど無しに行なえるのは魅力だ。

 今週の木曜日に、日本通信へ取材を行なう予定なので、使い心地や仕組み、今後の戦略などを来週には詳しくお伝えできると思う(取材は木曜日の午後3時を予定しているので、それまでにメールを頂ければ、日本通信側にもその質問を伝えようと思っている)。

 さて、今回は来年のモバイルPCの動向を、ここ数カ月の取材を元にお伝えしたい。いずれも情報源は明かせないが、複数の情報源から得たもの。現段階では不確定(実際に市場に出るかどうかはわからない)なものもある。推測をまじえる部分は、その旨を記しておくことにしよう。



●“もう一勝負”を仕掛けるベンダーとそうではないベンダー

 今年の夏以降、すなわち業績悪化が明らかになってからというもの、日本のPCベンダーはいくつかのグループに分かれるようになってきた。あるベンダーは積極的に新技術や新しいコンセプトを投入することで市場の再活性化を狙い、もう一方のベンダーは自社での製造や新技術の投入、開発予算を縮小し、事業全体をコンパクトにしようとしている。現在のPCベンダーは、この2つにキレイに分かれてきている。

 これは僕だけがそう感じているのだと思っていたが、各ベンダーの外注先や関係者、経済誌の記者などとも意見が一致している。また、取材をしてベンダーの担当者と話をしていると“意気込み”が全く違うのだ。その上、縮小傾向にあるベンダーは、それまで現場のキーマンとなっていた人物が他の部署に転出してしまうケースが多い、そうしたベンダーに突っ込んでみても、のれんに腕押し。明確に「こうしたい」という意志は見えてこない(もちろん、そうした話はハッキリとコメントが取れるわけではないので、通常記事にはできない)。

 中でもソニーはかなり積極的だ。ソニーはCEOの出井氏、社長兼COOの安藤氏を筆頭に、製造や設計の現場への回帰を図り、今一度、ハードウェア製造業者としての足下を固めようとしているという。COMDEX/Fallで安藤氏に話を伺った時も、同氏は「我々はサービスやコンテンツで勝負できる会社ではない。オープンな環境の中で、ハードウェアの差別化を行なえる環境を作り出したい」と話していた。

 ワイヤレスネットワークが整備され、様々なデジタルデバイスを、使われる場所やスタイルごとに使い分ける時代になれば、各種モバイルデバイスでソニーとしての価値を出すことが可能だ、とソニーは踏んでいるわけだ。

 PCはこれまで、プロセッサの速度やOSなどが付加価値を決定づけ、製品ごとの特徴はオマケのようなものでしかなかった。たとえば、1GHzクラスのプロセッサを搭載するWindows XP搭載パソコンであれば、どんな製品でもパソコンとしての用は足りてしまう。しかし、Windows XPでコンシューマ向けPCのプラットフォームが安定し、プロセッサに対する要求もある程度落ち着きつつある現在、それ以外の付加価値が差別化の要因になり得る状況になってきている。

 バイオシリーズはまさにそれを(彼らの得意なフィールドで)実践しているわけだが、これを見てAV系ベンダーの何社かは、ソニーの後を追う形でPC業界に参入しようと考えているようだ。PCの本質とは別のところで差別化を図ろうというわけだ(もっとも、バイオの本質はGigaPocketのフロントエンドソフトにも見られるように、自社開発のソフトウェアによってWindows上に独自の機能を組み込む事だから、後追いでどこまでできるかはわからないが)。

 そのソニーは後を追おうと計画しているベンダーの先を行くため、ワイヤレスネットワークを利用して小型のPCとデスクトップPCを連携させ、新しい使い方を提案する新製品を来年の夏を目処に投入するという情報もある。似たようなコンセプトで高速のワイヤレス接続を応用した製品は、松下電器も検討を重ねているようだ。

 もちろん、PC本来の機能性やパッケージを工夫することで、今一度自社のブランド力を引き上げようと考えているベンダーもいる。最近、読者からメールで「東芝のDynabook SSシリーズや松下のLet's NOTEシリーズはどうなったのか?」という質問を異なるメールアドレスから3つももらった。

 正直言って、松下のLet's NOTEシリーズに関する動向は全く把握していない。同社のA2シリーズ、L2シリーズはまだメジャーなモデルチェンジを終えて間がなく、急激に変わることはないだろう。しかし、東芝には動きが見られる。

 まず年末商戦向けの製品として、東芝はDynabook SSシリーズに2スピンドルの製品しか投入しなかった。これはオカシイ。そう思って東芝関係者にアクセスしてみたところ、1スピンドルのDynabook SSは2スピンドルモデルとは別に用意されているという。それがどの程度のサイズなのか、薄型を狙ったものなのか、小型を狙ったものなのか、それともバッテリ駆動時間と重量のバランスを取ることを狙ったものなのかはわからない。

 しかし同社はすでに18ミリキーピッチのキーボードを搭載する小型PCとして、筐体の奥行きを詰めたLibretto Lシリーズを持っている。あくまで推測だが、以前話題をさらった薄型B5ファイル機を今一度、最新技術で作り直しているのではないだろうか。東芝は2000年11月のCOMDEX/Fallで、容量対重量比に優れる次世代のリチウムポリマーバッテリを展示していたが、そうした新しいバッテリ技術と共に来年の前半に投入されるというのが、僕の予測だ(来年前半に製品化という話は、関係者から聞いているわけではなく、あくまで予測にしか過ぎない)。

LOOX T8/80W
 また同様に、まだ目の光を失っていないのが富士通である。新型LOOXも少量ながら出荷が開始されているようだが、Sシリーズ、Tシリーズともに前モデルよりも質感が増し、キーボードも改善され、軽量化あるいは構成変更の柔軟性などの面で改良されている。Sシリーズは非常に残念なことに、Windows XPを快適に動かすにはメモリの最大容量が少ない(128MB固定)という欠点があるが、900gを切る筐体はそれまでPCを持ち歩かなかった人も、持ち歩く気にさせる魅力があると思う。

 全く新しいOSを動かすためだけに、これだけの魅力を持った製品の評価を下げなければならないのはバカバカしいが、現在のメモリ市況からすれば512MbitDRAMを搭載した256MBモデルも将来的に登場を期待できると思う。富士通関係者の話を聞いても、この分野に関して全く希望を失っていないようだ。富士通は一般コンシューマ向けのコストや機能を優先させたPCと、LOOXのような、特定の市場をリードするユーザーに向けて富士通のブランド力をリードするPCでキッチリと切り分け、ある面では守り、ある面では攻めるというやり方をしている。

 ノートPCユーザーに変わらぬ評価を得ているIBMのThinkPadシリーズは、来年の前半から中旬にかけて定例のフルモデルチェンジを迎える(ThinkPadシリーズのモデルサイクルは2年)。Aシリーズ後継やTシリーズ後継は来年の早い時期に開発を終了するようだ。その後、生産に向けての準備を進め、おそらく夏までには発表するのではないだろうか。両シリーズのトップモデルはモバイルPentium 4になる。

 おそらく多くの読者が気になっているのが、Xシリーズ後継モデルだと思う。Xシリーズ後継モデルはコードネームで「Tokyo」と呼ばれており、チップセットやプロセッサなどの構成は現行のX22に準ずるものの、モバイルユーザー向けの新しいアイデアが盛り込まれているという。発表の時期は他シリーズよりも若干遅くなる見込みである。

 なお、Sシリーズは年末商戦向けに登場すると言われたマイナーチェンジモデルが、なぜかスキップになった。何か大きな変更が加えられているのかもしれないが、あの筐体にi830系チップセットを載せる計画でも持っているのだろうか?ソニーの新VAIOノートSRのようにi815を採用するという裏技は画策していないようなのだが、Sシリーズに関しては途中から情報をロストしてしまったため、現在のステータスはわからない。



●来年の後半がキツイ、インテルのモバイルプロセッサ

 さて、話をノートPC向けのプロセッサに向けよう。

 インテルのモバイルPentium III-Mは、来年いっぱいは主流製品として留まる見込みだ。来年後半には各社からモバイルPentium 4が搭載したノートPCが出荷されるが、インテルもPCベンダーもこれがすぐに主流になるとは考えていない。

 ただ、来年前半はモバイルPentium III-Mのクロック周波数を上げていくことができるが、後半は新製品の投入が難しくなってくる。アーキテクチャ上、クロック周波数の上限に近付いて来ているからだ。これは低電圧版、超低電圧版も事情は同じである。

 そこでPCベンダーが目を向けているのが、モバイルAthlonだ。AMDは「顧客次第」との前置きを付けながら、来年はTDP(熱設計電力)が16Wを切る小型ノートPC(と言っても、12.1インチ液晶パネルを搭載するB5ファイルサイズクラスがターゲット)向けのモバイルAthlonも提供できるとしている。

 来年の後半、モバイルPentium IIIとモバイルPentium 4の中間を埋める製品として、B5ファイルサイズクラスの1スピンドル機にモバイルAthlonの採用を検討しているPCベンダーは実際にある。来年の後半からBaniasが登場するまでの間だけをスポットで考えれば、パフォーマンス面ではその方が有利であり、他社との差別化にもなるからだ。

 これに対してインテルは、TDPの測定基準変更を(あるいは別にTDPに準ずるスペックを追加)する可能性がある。あるPCベンダーの設計者は「インテルの示すTDPはめちゃくちゃに高い。マージンを考えてもかなり余る。実際にWindows上で高負荷をかけてプロセッサを回しても、TDPよりはるかに低い発熱しかない。これがどうにかならないのか?と散々インテルにも話してきた」と話す。

 この問題はインテル自身も感じているようで、従来のTDPと平均消費電力に加えてもう1つ、基準を緩くした数字を追加する可能性があるとか。この基準緩和がどのようなプロセス、動作保証条件で行なわれるかはわからないが、来年後半にもモバイルPentium III-Mのクロックアップを多少はサポートすることになるかもしれない。

 来年後半と言えば、トランスメタが256bitのCrusoeアーキテクチャを採用したコアを出荷すると約束している時期でもある。256bit化で大きな性能向上が図れ、かつ消費電力の上昇は僅かでしかないとトランスメタは主張するが、それを搭載する製品は来年後半には間に合うかどうかはわからない。だが、トランスメタは是が非でも次世代Crusoeを来年後半に量産出荷しなければならない。

 というのも、インテルの省電力プロセッサBaniasが、2003年の前半には出荷されそうな雰囲気だからだ。その特性を活かした製品となるとさらに後になる可能性はあるが、Banias自身はかなり早めの登場となる。

 Baniasの細かいアーキテクチャは一切公開されていないが、関係者によると「ちょっと説明を受けただけで、IPC(クロックあたりに実行可能な命令数)が大きく上がることがわかるはず。クロックはあまり上がらないが、速度はかなり出るだろう。コロンブスの卵的な発想で性能を上げている」とのこと。

 クロック周波数を必要以上に上げず、IPCの向上で性能を上げることで、消費電力の上昇を抑えながら性能を出す。そして製造プロセス面でも低消費電力化を図り(先日、インテルは独自のSOI技術を発表している)、プロセッサ内部をモジュールごとに細かく電源を落とせる構造とするなど、ごく当たり前の省電力化が徹底して行なわれる見込みだ。モジュールごとに細かく電源制御する方法など、x86プロセッサでは何年も前にサイリックスがCx486SLCで実践していたことだが、どうやらモバイルPentium IIIはそのような構造になっていないらしい。

 なお、コードネーム「Banias」はプロセッサコアのアーキテクチャを示すもので、製品ブランドを表しているわけではない。つまり、BaniasがPentiumブランドなのか、Celeronブランドなのか、あるいは新しく別のブランドを与えるのかは、まだ未定のようだ。また、BaniasにもモバイルPentium IIIと同じように、低電圧版や超低電圧版などのバリエーションが存在し、それらとフルスピードの製品を別ブランドとして扱う可能性もある。


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(2001年12月11日)

[Text by 本田雅一]


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