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Pentium 4の普及のカギを握るグラフィックス統合チップセット


●PCベンダーが欲しいグラフィックス統合チップセット

 来年にはDDRメモリチップセットでフルラインを揃えようと動くIntel。しかし現状では、PCベンダーはチップセットの選択肢不足で困っている。この秋冬モデルはなんとかなるが、次の来春モデルをどうするか、PCベンダーは悩んでいる。なぜならPentium 4のプライストレンドに、チップセットがマッチしないからだ。

 IntelはPentium 4のプライスを急激にダウンさせ、Pentium IIIの供給を絞った。その結果、Pentium 4は、CPU価格としては800~1,000ドルレンジのPC(日本では10万円台前半)のレンジにまで持ってこれるレベル(130ドル程度)に降りてきた。しかし、PCメーカーはここで困った事態に直面している。それは、Pentium 4の価格が下がったものの、システムコストの方は十分に下げ切れていないからだ。

 通常なら、800~1,000ドルレンジのPCならチップセットはグラフィックス統合チップセットを使いたい。そうしないと、システム売価に見合う製造コストにならないからだ。この秋冬モデルは、まだPentium 4がメインストリームの下まで降りてきた最初のシーズンなので、グラフィックスを外付けにする845チップセットでも仕方がない。しかし、次の来年春モデルでは「グラフィックス統合チップセットは必須」だとPCベンダーやマザーボードベンダーは口を揃える。

 ところが、IntelのBrookdale-Gは来年中盤のリリース予定。今のスケジュールのままなら、基本的に秋冬商戦向けだ。つまり、春モデルと夏モデルは、タマがない。サードパーティのチップセットはというと、春モデルの時点で使えることがわかっているのはVIA Technologiesの「P4M266」とSiSの「SiS650」。これは、PCベンダーにとって究極の選択状況なのだという。


●VIAとSiSの選択になる来春モデル

 何が困ったことか。まず、VIAのP4M266は、例のIntelとVIAの泥沼リーガルバトルの中にあって、PCベンダーにとって禁じ手になってしまっている。Intelは、VIAの「P4X266」チップセットが同社の知的所有権(IP)を侵害しているとして提訴している。もっとも、VIAはSONICblue(旧S3)の合弁会社S3 Graphicsのグラフィックスコアが含まれるP4M266はOKと、OEMには説明しているらしい。これは、IntelとS3がクロスライセンスを結んでいたことが根拠のひとつとなっている。

 しかし、PCベンダーはP4M266もノーと見ているところが多いようだ。マザーボードベンダー側は「OEMベンダーが求めるなら提供する」(GIGA-BYTE TECHNOLOGY)と言うが、現実問題、大手システムメーカーの方はIntelの顔色を見るとリスクは侵せない状況のようだ。

 この手の訴訟合戦は、双方の言い分を聞かないとわからないが、今回はかなり本気の全面対決だ。ネゴシエーションのカードとしての提訴、という雰囲気ではない。VIAは、IntelのIPそのものについて疑問をつきつけている。一方、IntelはVIAを本気でつぶそうとしているかのような態度で望んでいると、ある関係者は伝える。OEMベンダーがびびるのも当然だという気はする。

 じゃあ、他のチップセットはというと、Intelからライセンスを受けたSiS650になる。SiSは、650を10月末までに量産開始するとしており、来春モデルには間に合う。VIAが身動きできない今、絶好のポジションにつけており、SiS自身もこのチップセットにはかなり期待をしている。VIA対Intelのおかげで、SiS650については日本のPCベンダーからも問い合わせが殺到しているとSiSはいう。

 だが、業界関係者は、SiS650にも問題があるという。それは、チップセット自体ではなく、供給面だ。SiSは、これまでに契約を取ったのに供給が十分できない(遅れた)という“前科”がある。SiSは、自社Fabが順調に稼働し始めたから供給はもう大丈夫だというが、PCベンダーは、それが実証されるまでは採用しにくいという。逆を言えば、今回うまく供給できる実績を作れば、SiSは躍進できるかもしれない。SiSにとっては、最大のチャンスというわけだ。


●VIAの隠し球はCentaur Technologyか

 もっとも、VIAの方もパテント問題をうまく突破できる可能性はある。それは、VIAの隠し球が効くかもしれないからだ。VIAは、Pentium 4が同社の特許を侵しているとして提訴したが、その根拠となっている、VIA傘下のCentaur Technologyの持つ「U.S. Patent Number 6,253,311」がそれなりに強力だからだ。

 このパテントは、“整数レジスタと浮動小数点レジスタの間で双方向にデータをコンバートする命令”に関するもの。そう、これはSSE/SSE2のコンバージョン命令が、該当してしまうのだ。とりあえず、特許の内容を読む限りは、広汎に整数←→浮動小数点のデータコンバートをカバーしている。特許は素人なので判断は難しいが、Intelにとってやっかいな特許のように見える。

 この特許は6月に成立したのだが、出願は'97年で、IntelがSSE/SSE2を実装した頃は、サブマリン状態(特許申請中だが成立していないので内容がわからない状態)にあったのだと思われる。なんでそれまで誰もこんな特許を申請してなかったの、と思うような内容だ。この特許などがうまく効けば、VIAはIntelを交渉に引っ張り出し、法的な苦境を突破できるかもしれない。

 テクノロジ企業の多くは、一般的に、特許が取れそうなモノは貪欲に出願する。それは、万が一、自社の製品がどこかの企業の特許を侵害するようなことが起きたとしても、その企業とクロスライセンスを結ぶことができるからだ。今回のVIAのケースのように、他の企業から特許侵害だと提訴で攻撃された場合にも、相手企業が侵害している自社の持つ特許を見つけ、穏便にクロスライセンスに持ち込むことができる。つまり、特許はそれ自体が特許訴訟に対する抑止力になるわけだ。

 そして、この戦術は、対Intel戦術としては非常にポピュラーだ。実際に、以前、Cyrixが健在だった頃に、同社の人にIntelに対抗するカギは、特許だと聞いたことがある。つまり、Intelから提訴された時に、交換材料にできるものを持っておくということだ。冷静に考えれば、Centaurが、こんな特許で独自の命令セット拡張を真剣に考えていたとは思えない。Centaurが独自のコンバート命令を作っても誰も対応しないだろうからだ。もちろん、単純に思いついただけかもしれない。しかし、出願当時IDT傘下だったCentaurが、防衛的な目的も考えて特許を出願したのかもしれない。それがVIAを助けるとしたら、CentaurはVIAにとっていい買い物だったことになる。


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(2001年9月28日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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