PDA以上ノートパソコン未満が魅力のsigmarionII



 NTTドコモが発売しているモバイル端末がsigmarionIIだ。他社製品に比べて2万円程度安価な価格設定がされていることもあり、発売当初から大きな注目を集めている。本レポートでは、sigmarionIIの細部の魅力に迫ってみよう。


●CPUがスーパースケーラのVR4131に変更され大幅にパワーアップ

 前モデルのsigmarionの最も大きな特徴の1つとして、ゼロハリバートンデザインによるシルバーメタリックの外装があげられる。本誌の読者であればまず説明の必要はないと思うが念のため説明しておくと、ゼロハリバートンとは米国の鞄メーカーで、アルミニウムを利用した丈夫な鞄メーカーとして世界的に有名だ。

 最も有名なエピソードとしては'69年のアポロ11号が月面に着陸した際、月の石を地球に持って帰ってくる際に利用したのがゼロハリバートンのトランクで、現在でも世界中に愛好者は多い(ゼロハリについて詳しく知りたいユーザーは、ゼロハリに関するこのページ( http://www.trunk.co.jp/mania/ )などを参照して欲しい)。

 sigmarionIIでもこのゼロハリのような外装は継承されており、左手前のふくらんだ部分についている「Designed by ZERO HALLIBURTON」のロゴが存在感をアピールしている。

 一見すると、前モデルとさほど変わらないように見える(実際、サイズなどは変わっていない)が、中身は大きく改良されている。初代sigmarionではCPUにNECのVR4121 168MHzが採用されていたが、sigmarionIIではその改良版であるVR4131 200MHzが搭載されているのだ。

 VR4121 168MHzとVR4131 200MHzの違いは表にまとめておいた通りだ。見てわかるようにクロックが上がっただけでなく、スーパースケーラになっていることが大きな特徴と言える。

VR4131VR4121
クロック200MHz168MHz
MIPS値340MIPS193MIPS
スーパースケーラ対応スーパースケーラシングルスケーラ
命令キャッシュ16KB16KB
データキャッシュ16KB8KB
拡張バスPCIバスサブセットISAバスサブセット
プロセスルール0.13μm CMOSプロセス
アルミ4層
0.25μm CMOSプロセス
アルミ3層
駆動電圧1.5V(コア)/3.3V(I/O)2.3~2.7V(コア)/3.0~3.6V(I/O)
【お詫びと訂正】初出時にVR4121の拡張バスにつき「PCIバス」と記載されておりましたが、「ISAバスサブセット」の誤りです。おわびして訂正いたします。

 VR4121 168MHzのようなシングルスケーラのCPUでは、命令を処理するパイプラインを1つしか持っていないのに対して、スーパースケーラのVR4131 200MHzでは2つのパイプラインを持っており、2命令を同時実行することができるようになっている。

 このほか、データキャッシュも16KB(VR4121では8KB)、となっているほか、既に述べたようにクロック自体も200MHzと上がっている。このような改良により、NECの公表しているデータによれば、CPU性能を示すMIPS値はVR4121 168MHzが193MIPSであるのに対して、VR4131 200MHzは340MIPSと大きく向上しているのだ。

 残念ながら筆者は初代sigmarionを所有していないため、どの程度パフォーマンスが改善しているかはわからないが、MIPS値から想像するに相当の性能改善が図られていると考えていいだろう。以前のH/PCは変換でもたつく感などがあったが、sigmarionIIではそうした感じは全くなくストレスなく入力することができた。

 なお、VR4131はこのほかにも、製造プロセスルールは0.13μm、内部コア電圧は1.5Vと低消費電力であり、高いパフォーマンスを持つ割には省電力であるという特徴を備えていることも付け加えておきたい。


●16MBのフラッシュROMが追加されている

 ストレージ構成は、標準で32MBの内蔵RAMと、16MBのフラッシュROMという組み合わせになっている。つまり、標準で外せないCFカードが16MB分内蔵されていると考えるといいだろう(ユーザーが利用できる領域は14MB)。

 内蔵の32MBの方はバックアップバッテリも含めて、バッテリが切れた場合にはデータが消えてしまうが、フラッシュROMの方はバッテリがなくなった場合でもデータは保持される不揮発メモリとなっているので安心だ。ただ、標準で12MBがプリインストールアプリケーションなどにより使用済みとなっており、データを格納したい場合にはこれらのアプリケーションを削除する必要がある。

 液晶ディスプレイは初代sigmarionでは6.2インチ、65,536色STN液晶となっていたのだが、sigmarionIIではサイズこそ同じ6.2インチだが、65,536色のカラーHPA液晶となっている。

sigmarionIIのデスクトップ

 このため、視認性が高まっており、STNのように残像が残ることも少なくなっている。初代sigmarionと同じようにPC接続端子、携帯電話/PHS接続コネクタ、Type2 CFスロット×1、赤外線通信ポートが装備されているほか、FOMA端末端子も追加されている。

シリアルポート(左)と携帯電話用ポート(右) 前面にはFOMA端子も追加された CF Type2スロットは右側面に備える

 現時点ではFOMAは試験サービスのため試験サービスに参加しているユーザー以外は利用できないが、今後FOMAのサービスが開始されたらオプションのケーブルを接続してFOMA対応端末で通信することができるようになる。


●完成度の高いMPエディタとMPメール

 ところで、このsigmarionIIは、底面を見ればわかるようにNECにより製造されており、基本的にはNECのモバイルギアシリーズの兄弟機と考えられるだろう。このため、モバイルギアシリーズの特徴の1つといえるMPメール、MPエディタも搭載されている(モバイルギアシリーズではMGメール、MGエディタとなっているが、同等のものだと考えてよい)。いずれもDOS版モバイルギアシリーズより人気のあるメールクライアント、文書エディタで、使い勝手には定評がある。

sigmarionIIに付属するMPエディタ。モバイルギアシリーズに付属するMGエディタと同等

 例えば、MPエディタでは検索/置換といった当たり前の機能、文書整形の機能、キー設定などエディタに必要とされる機能が一通り揃っている。Windows環境においても、文章入力はエディタで行ない、最後の整形だけWordやExcelで処理するという使い方をしているユーザーも少なくはないだろう。

 そんなユーザーにとって、エディタの使い勝手は非常に重要な要素といえ、MPエディタはそうしたユーザーが必要とする機能を一通り備えている。日本語変換ソフトとしては、ATOK Pocketがプリインストールされており、ストレスのない日本語入力が可能だ。

 また、MGメールも、Windows CE標準のPocket Outlookに比べて、メールの自動振り分け機能がついているなど使い勝手がよい点は評価できる。通信可能な場所に移動したら自動で接続してメールを送信してくれるWake On Radioの機能にも対応している。

 初代sigmarionでは、OSのバージョンがWindows CE 2.11であったのに対して、sigmarionIIはWindows for Handheld PC 2000(Windows CE 3.0)に変更されている。これに伴い、付属のソフトもバージョンアップされているが、最も大きな変更はWindows Media Playerが標準で搭載されていることだろう。

sigmarionIIに付属するWindows Media Player for Handheld PC Version 1.2

※画面キャプチャには伊藤栄一郎氏のCaptCEを利用させていただいた

 このため、PCでCFカードにコピーしたMP3ファイルをそのままsigmarionIIで再生することが可能だ。シリコンオーディオプレーヤーだけでも1万円~2万円程度はするわけで、この点は魅力的な改善点であると考えていいだろう。


●PDAやポケットボードには満足できないユーザーにお薦め

ファンクションキーのかわりに、「め、む、け、る」などのキーが配置されたキーボード
 さて、以上のようなsigmarionIIだが、若干改善して欲しい点もある。それがキーボードだ。見てわかるように、本来であればファンクションキーが来るはずの位置に、「め」、「む」、「け」、「る」などのキーが配置されている。

 確かに、筆者も当初はこの配列にかなりとまどい、誤入力をしていたが、入力しているうちにさほど問題ではないと思うようになった。というのも、おそらくsigmarionIIを使うユーザーは親指で入力する形になると思う(もしかしたら普通の入力もできるのかもしれないが、少なくとも筆者には無理だった)が、その方法ではキーが若干変な場所にあっても、普段のPCでのキー入力方法とはそもそも異なっているので、すぐ慣れることができたのだ。

 ただ、このあたりには人それぞれ感想も違うと思うので、まずは店頭でキーボードを触ってみることをお薦めする。それで問題がないことを確認したら購入するかどうかを決めた方がいいだろう。

 さて、既にあちこちで話題となっているが、sigmarionIIではDDIポケットのPHSカードを利用することができない。実は筆者もDDIポケットのPHSカードのユーザーで、試してみたが全く利用できなかった。

 わざと使えないようにしてあるわけだが、これについては「せこい」とか「よくない」とか否定的な意見もあるようだ。しかし、本製品はNTTドコモというキャリアが自社の回線を使って貰うために出した製品だ。

 実際、同クラスの他社製品に比べて2万円程度は安価な価格設定がされている。こうした製品では基本的な部材にはそう大差がないため、おそらくその2万円ほど安いという価格設定は携帯電話のインセンティブと同じような意味合いの戦略的な価格設定なのだろう。

 つまり、ドコモとしてはこのsigmarionIIのユーザーがドコモの回線を利用してくれれば、その2万円分も回収できると考えて設定した価格ということなのだろう。

 そうした意味では、ドコモにとっては当然の処置であると考えることができる。ドコモ以外のユーザーにとっては残念な措置ではあるが、本来ユーザーが負担すべきものが回線料金により回収されるという携帯電話のビジネスモデルと同じであるのだから、携帯電話がよくて、こうしたモバイル機器は駄目だというのもどうかと思うので、ここは素直に製品を企画したドコモの企画力を誉めるべきなのだろう。

 さて、以上sigmarionIIを見てきたが、最後に本製品を買うべきユーザー像について触れておきたい。本製品にはPCと接続するケーブルは標準で付属しておらずオプションとなっている。

 このことからもわかるように、本製品のメインターゲットは、PCのコンパニオンとして使うユーザーではない。どちらかといえば、これを単体で使いこなすユーザーだろう。そうした意味では、ポケットボードはそろそろ卒業し、より高機能なポケットボードのようなPDAが欲しいというユーザーには、本製品はまさにぴったりだろう。

 また、筆者はこのsigmarionIIを電車の中で使ってみたが、親指による入力は意外と快適だった。例えば、Webに日記を公開する人が多いが、日々そうしたコンテンツを更新するにはちょっとした空き時間にコンテンツを作成するのが大事だと思う。

 そうしたユーザーにとって、ちょっとした移動時間に入力できる装置として本製品は非常にお薦めだ。価格も5万円台半ばと非常に手頃といえ、既存のPDAなどでは満足できないユーザーや外出先で文書入力の機会が多いユーザーなどで、ドコモの回線を既に利用中または今後利用する予定があるのであれば魅力的な製品であるといっていいだろう。

□関連記事
【8月21日】ドコモ、Windows for Handheld PC 2000搭載の「sigmarionII」
--ゼロハリデザインは踏襲、ボディカラーはサテンシルバーに
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010821/docomo.htm

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(2001年9月21日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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